祟り神の乱行 6
対に立つ眷属の石像まで至ったとき、不意に背後で怒鳴り声が聞こえた。
「勝手なことばっかしといて、いまさら戻ってくる気かよ?! お前なんかもう要らねえよっ!」
裕貴の激高は、感情のコントロールを失っているせいか、甲高く掠れていた。
とっさに台座に隠れた晴彦が覗き見ると、抱きつこうとした夢璃を拒絶する彼の姿が目に入る。
「オレがずっと下で待ってたの、知ってただろ?! わかってて早川とこんなことしてたんだろ?! 冗談じゃねえよ。どこまでふざけたら気が済むんだよ?!」
夢璃の細い両肩に手をかけた裕貴は、恐らく渾身の勢いをつけたまま、彼女の体を振り投げた。ごづ、と鈍い音がして、夢璃が頭から地面に激突する。
「お前、自分のこと、愛されキャラとかふざけたこと言ってたよな? お前と付き合ってきたやつら、お前のこと、なんて言ってるのか知ってるか? ヤリ逃げOKの便利キャラって笑ってんだよ。勘違いがイタすぎて笑えるってさ。だから同情してやったってのに、なに裏切ってんだよ?!」
痛みとショックに蹲る夢璃に、さらに罵倒を畳みかける。
のろのろと顔を上げた彼女は、
「…どうして?」
恨めしげな声を返した。側頭部からは、血が滲んでいる。
「急にこんなふうに変わるの…どうして?」
傷口に手をやりながら嗚咽を漏らす。
その態度に、さらに苛ついたのか、裕貴は乱暴に夢璃を蹴りつけた。
「お前なんかいなくなればいいんだよ。誰に断って生きてんだ。ほんっと、くだらねえ奴。さっさとどっか行っちまえよ」
2度、3度。殴打音が響くたびに、哀れな泣き声が重なる。
あまりの光景に気圧されて、思わず傍観を決めこんでいた晴彦は、やっと、事態の異常さに頭が追いついた。
「ま、松原さん…」
止めようと身を乗り出す。が、中途半端な呼びかけでその行為は終わった。
崇志がゆっくりと半身を起こしていくのが目に入る。
「おい」
低くて恫喝するような声が、空気を震わせた。
興奮で目をぎらつかせていた裕貴が、その響きに、ビクッとして顔を向ける。
「あ、お、おう…」
意味不明の呼応をした彼は、慌てて夢璃から離れた。
「い、いろいろとあってさ。別に早川のことはなんとも思ってないからさ」
取り繕う表情に、卑屈な笑みが浮かんでいる。