祟り神の乱行 5
突然現れたこの2人は、いままでどこにいたんだろう。
未だ弦の音に苦しむ夢璃と、意識を失くしている様子の崇志に目を止めながら、晴彦は、現実的な疑問にやっと至った。
ほんの数十秒前まではいなかったはずだ。見えていたのなら、考え事をしていた自分はともかく、裕貴が反応しただろうから。
ゆっくりと崇志の上から退いた夢璃は、両手を地面につけ、無様な4つんばいで、こちらを睨みつけた。瞳の色が黄土に染まっている。口元が、動物のそれのように不自然に盛りあがっていた。
裕貴が軽く悲鳴を上げ、2歩ほど後退した。それを咎めるように、夢璃の裂けた頬が大きく開いて威嚇する。
「あたしのこと怖がってるの?」
低い唸り声の合間から漏れる、人間の言葉。
「あたしのこと、受け入れてくれないの?」
人外に化けつつある彼女の声は、心なしか悲しそうだった。
狐憑き…。話でしか聞いたことのなかった現象を目の当たりにして、晴彦は反射的に本殿に目を転じた。あの中に納められている神さんが、これを起こしてるのか。
でも、と、反論も同時に湧く。稲荷神社に祭られているのは、穏やかな性質の農耕の神、ミケツカミのはず。こんな醜悪な行動を人間に強要するとは思えない。
だったら、確かめるしかない。
裕貴のみを視界に入れている様子の夢璃に気を配りつつ、少年は、そっと、本殿に向かって動きはじめた。鳥居を逸れ、ゆっくりと脇を抜ける。
途中、崇志に声をかけるべきか迷ったが、完全にグロッキー状態の彼には無駄な気もして無視をした。何があったんやろ…。自分よりはるかに体力的には優位にある青年がこの様ということは、女性とはいえ、憑依されている夢璃には、決して油断してはならないということだろう。




