地母神の棲家 5
「話を戻すけど」
断りを入れて、晴彦は再度『多神教』から『地母神』への話題移行を試みる。
「何にでも神さんがいるって思った古代の日本人は、当然、生活に密着した事柄すべてに神さんを存在させたんだ。漁業や狩猟で生活していた縄文期は海や山の神に祈ったし、稲作が始まってからは水田に田の神さんを置いた。それから、住処とした土地に対しても守護神を祭るようになった。これが地母神」
「道祖神も地母神だったって言ったよね?」
葉月が確認すると、晴彦は頷いた。
「たぶん、信仰の中で一番古い概念だったのが、この地母神だと思う。日本は地震大国やし。古代においても大地のエネルギーを体感する機会が多かったんじゃないかな」
葉月も納得する。
「大きな地震が起こるたびに、神様が怒ってるって思うことはあるよ」
「でしょ。だから神様を怒らせないことが重要だったんだ。その手段が、こんなふうに偶像を作って崇めることだった」
少年と少女は、祠の奥に打ち捨てられた黒い姿に視線を送った。
強大なエネルギーで人々を支配してきた地母神について、晴彦は、さらに細に入った説明に踏みこむ。
「地震を起こして大地そのものを変えるほどの力を持った地母神は、時代が下るにつれて、いろんな神さんに分けて祀られるようになった。旅の神の道祖神もそうだし、田の神さんも地母神と同質にされてる部分がある。他にも、疫神っていって病気をもたらす神さんとも関連がある。大地が穢れることによって伝染病が蔓延すると思われたんやろうな。もともとの地母神の力が強いせいもあって、それらの神さんも、未だに疎かにされずに信仰が続いてるんだ」
「地震を起こすような怖い神様なんて、なくしちゃえばいいのに」
葉月が腑に落ちない表情で愚痴るのを、少年は苦笑で流した。
「神さんがいなくなったら地震は起きなくなるんかな。違うでしょ。古代の人も、それはわかってたんだと思う。でも、なんとか被害から逃れたくて、結局、神さんに責任をなすりつけてきたんや」
天災が起こるたびに、人心が乱れるたびに、それを自然の脅威や人間自身の持つ闇のせいだと認めず、いもしない神の祟りという概念にすがってきた過去の人類。
神の機嫌を取るために、なけなしの食料を削り与え、路傍の石や樹木に頭を下げ、そして、贄として人間自身を葬る祭礼を施してきた。




