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世界を救った淑女と王国を滅ぼした王太子  作者: やみなべ


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1.婚約破棄と追放は自由と崩壊の序章

まずはド定番の流れからw

 今日はナロコサーズ王国の王太子ルドヴィックが主催するパーティーの日。大広間では、きらめくシャンデリアの下で貴族たちの笑い声に満ちていた。

 そんな中、王太子の婚約者である伯爵令嬢ミラノールは独りで会場入りした。この時点では、いつもの事としてそこまで大きな騒ぎにならなかった。


 大きな騒ぎとなったのは王太子ルドヴィックが屈託のない笑顔を浮かべながら公爵令嬢セリーヌの腕を取って会場へと入ってきた時である。

 宮廷内では、王太子と婚約者の不仲や公爵令嬢との親密な関係についての噂がささやかれていた。今まではあくまで噂レベルだったが、今日この瞬間にはっきりとした形で公にされた。場の空気が変わり、奇と訝しみの視線が、三人の間を揺れ動き始める。

 ルドヴィックは、そんなどよめきを楽しむようにしながらも手を一拍して広間の注意を集めた。


「諸君に申し上げなければならないことがある!本日、ミラノール・フォン・ヴァイスハイト伯爵令嬢との婚約を解消する!!そして、新たにセリーヌ・フォン・リヒテン公爵令嬢を婚約者とする!!」


 広間は一瞬、水を打ったように静まり返り、やがて驚きと好奇のざわめきに包まれた。ルドヴィックは隣に立つセリーヌを優しく見つめながら、さらに続ける。


「理由は明白だ。ミラノールはセリーヌが二年かけて研究していた瘴気病の治療理論を盗み、自らの功績として発表しようとした!これは研究者として、人間として許されぬ行為である!!」


 貴族たちの視線が一斉にミラノールに向けられた。軽蔑、非難、憐憫、好奇――様々な感情が交錯する中、ミラノールは全く動揺をみせなかった。彼女は最初からこの茶番を知っていたのだ。




 瘴気病の治療理論はミラノールがこの二年間、王太子の仕事の肩代わりを行いながらも、夜を徹した研究と実験を重ねて完成させたものだった。

 ルドヴィックは当初、彼女の研究を『貴族令嬢の道楽』と嘲笑い、一切の興味を示さなかった。だが、その理論が完成して発表すれば莫大な名声が得られることを知ると、態度を一変。セリーヌと協力してこの茶番を計画したのである。

 ミラノールの成果を奪い、合法的にセリーヌを婚約者とできる、一石二鳥ともいえるこの茶番劇を――


「追放処分も同時に言い渡す。近日中に退去せよ!!」


 ミラノールはその宣言を聞いてにやりっと心の中で笑みを浮かべる。彼女の研究はこの国でずっと軽視されてきたのだ。王家や大半の貴族たちは、彼女の才能を「王太子の仕事を肩代わりさせる便利な道具」としか見ていなかった。

 彼女の才能と情熱を理解していたのは、役立たずな王家に代わって国を支える宰相一派と一部の研究者と両親だけ。そんな彼等はミラノールを支えつつ、密かに国外での活躍の場を探してくれていたのだ。


 今までは王太子の婚約者という立場上、国外に出る事は叶わなかったが、婚約破棄と追放処分を受けた今なら……何の憂いもなく、国外に出れるという算段だ。


「弁明の機会も与えられぬとは、思ってもみませんでした。ですが、異議は申し立てません。婚約破棄と追放処分、確かに承りましょう」


 ミラノールは自分でも驚くほどの穏やかな声で深々と礼をすると、そのまま広間を去った。貴族たちの好奇と軽蔑の視線を背に受けながらも、彼女の足取りは軽やかだった。





―——


 城を出たミラノールは、あらかじめ手配されていた質素な馬車に乗り込み、王都の城門近くにあるひっそりとした一軒家へと向かった。そこでは、宰相と両親が待機していた。

 彼等もミラノールと同様に王太子達の愚かな計画を察し、それを利用した国外脱出の準備を整えてくれたのだ。


「持っていきなさい。中は旅費と偽名の身分証明書とその他の旅に必要なモノが入っているわ」


 両親が差し出した革の鞄を受け取り、ミラノールは中を覗いた。その中には旅費としてはあからさまに多すぎる金貨がきらめいていた。次に宰相が差し出したのは、一枚の封筒だった


「ミラノール嬢。今までご苦労だった。これが君の次の勤め先となる、三ヶ国同盟医療研究所からの招待状だ」


「なっ、三ヶ国同盟医療研究所といえば、世界最高峰の医療の権威とされる最先端の研究施設。そんなところになぜ私が?!」


 驚くミラノールに宰相はにやりと笑いながら告げた。


「そこの所長であるクロード博士に君が研究テーマとしていた瘴気病に関する治療理論の写しを送ったところ、並々ならぬ興味と評価を寄せ、是非とも研究所に迎え入れたいとまで言ってくれたのだ。

 今までは王太子の婚約者という立場もあって所属は叶わなかったが、婚約破棄された今なら所属できるはずだ」


 宰相に続き、両親も娘の背中を押すかのように告げる。


「貴族の義務やら体面なんか一切気にせず、世界最高峰の研究所で好きなだけ研究に打ち込めばいい。なに、後の事は心配しなくてもよい。長年その貴族としての義務で要らぬ苦労をかけさせてしまった娘への、せめてもの詫びと思ってもらってもよい」


「そうよ。後の事は私達に任せなさい」


 両親からの暖かい言葉に、ミラノールの目に初めて涙が浮かんだ。研究を理解されないもどかしさ、婚約者からの冷たい仕打ち――それらすべてが、この瞬間に報われたように感じられた。


「お父様、お母様……」


「行きなさい」


「全てが片付いたら、また会おう」


 両親は娘の手をそっと握った。その手は温かく、ミラノールが子供の頃から知っている安心感に満ちていた。


「護衛は、我が派閥で最も信頼できる者たちを用意した。君を無事に国境まで、そして研究所まで送り届けさせると約束させてある」


 宰相が目配せすると、屋敷の影から数人の護衛が現れ、深々と頭を下げる。各々の顔には、この任務を必ずやり遂げるという強い決意が読み取れた。


 短いながらも両親との別れを終えたミラノールは目立たない服に着替えてから再び馬車に乗り込んだ。








 馬車は街道を進み、王都を後にする。ミラノールは窓から離れつつある王城を何気なく見つめていた。



挿絵(By みてみん)


 周囲は穏やかな夕暮れ時だった。オレンジ色の光が雲の切れ間から差し込み、街道沿いの野原を金色に染めていた。しかし、王城だけはなぜか暗雲に包まれていた。黒い雲が城の上空に垂れ込め、不気味な影を落としている。


 それは、まるで今後の王国の行く末を示しているかのようだった。

どうしてこう、恋愛系のざまぁ話はこう有能な人物を外に追い出そうとするのだろうか……?

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― 新着の感想 ―
新規スタート♪ 先ずは定番の一つ。「婚約破棄からの国外追放」でした。 理由として言うなら、「自分が目立たない」「自分より有能だから」「こんなことが出来る、オレ様最強だろ♪」「カッコイイとこ見せたい」…
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