26)援護
『儂を置いて死に急ぐなぞ、断じて許さぬ!』
御霊府君の手が頭に触れた。
強い口調とは裏腹に、私の肌に触れる指先は慈しむように優しい。
不安で曇っていた胸の内が、研いだばかりの刃物のように澄まされてゆく。
「あ、ありがとうございます……! 無様をお見せして申し訳ありません!」
そうして私と道蓮様が鬼に立ち向かう。しかし、あまりにも数が多い!
『仕方ないのう!』
御霊府君も、その鋭い爪で敵を引き裂いた。
舞い飛ぶ血飛沫の中、三人で駆ける。
しかし祠からは次から次へと鬼が湧き出してくる。
倒しても倒しても鬼が止まらない。
間に合わない!
「燈次郎! もういい! 俺は大丈夫だから、お前は退け!」
道蓮様の声に私は首を振った。
「嫌だ!」
「燈次郎!」
案じる声に私は振り返って真意を告げる。
「嫌だ! 君を置いて逃げるなんて、絶対に嫌だ! 僕は君を死なせたくないんだ!」
不覚にも涙で視界が滲む中、道蓮様は驚いたように名を呼んだ。
「……燈次郎……、お前……」
何かを言いかける道蓮様。
その言葉が続く前に、銃声が響き渡った。
私の周囲の鬼が撃ち抜かれて転がる。
(え……?)
更に黒い影が走ってきて横を通り過ぎていった。
目を凝らして見てみると、視界の先に現れたマキリさんが鬼を蹴飛ばしていた。
後方に視線を向けると、銃を持った鬼壱さんが立っている。
二人が同時に呼びかけてきた。
「どーれん!」
「お兄様!」
次々に打ち倒される鬼を前に、私は驚きの声を漏らしていた。
「ど、どうして、二人が此処に?」
私の呼びかけに、マキリさんは跳びはね、鬼壱さんが排莢しながら告げる。
「おう! 今日はみんなで出かけてたんだけど、どーれんの式神が、早く来いって言ってたからな!」
「お兄様、大丈夫だよ! ぼく達だけじゃなくて、助っ人は他にもいるから!」
二人が示す方向を振り返る。
そこには軍服を身に着けた教官と雨多子様が控えていた。
「教官! 雨多子様まで!」
呼びかけると、教官が頷いて見せた。
「道蓮から頼まれてな。初日の時とは違う。他者の手を借りるべき瞬間が来た時には、助力を乞うと」
道蓮様は、もしもの時に備え、信頼できる相手に援護を頼んでいたのだ。
誰の助けも必要としていなかった道蓮様に――今はこんなにも頼れる存在が出来たのだ。そう思うと、胸が熱くなった。
しかし、そこで御霊府君が鬼を殴り倒しながら言った。
『ふざけるでないわ! てっきり儂は小僧と心中する羽目になるかと……燈次郎だけは逃がすつもりだったが。助っ人が居るなら先に言え!』
怒る御霊府君に道蓮様は言い返した。
「ゾロゾロ来て、爺に勘づかれて逃げられたら意味がないだろう!」
そうしていると、マキリさんが御霊府君に抱きついた。
「すげー! トージロの式神、でっけ~! かっけ~! こんなハデなカオしてたんだな~! しかもシッポ生えてるけど、尻のどっから生えてんだ?」
『黙れ! 勝手に儂の尾をモフるでないわ無礼者! 振り落とすぞ!』
マキリさんは霊府君に尾を振られてもしがみついているくらいに毛皮を気に入ったみたいだ。
その間にも、道蓮様やヲ組のみんなが鬼を倒してゆく。
マキリさんの蹴りが鬼を撃破する。
鬼壱さんは的確に獲物の急所を撃ち抜いた。
教官のサーベルが鬼を斬り裂き、雨多子様の札が鬼を痺れさせた。
しかし、そこで道蓮様が胸元を抑えて苦し気に膝をつく。
「……ッ!」
「道蓮さん?」
私が声をかけると、道蓮様は呻き声を噛み殺す。
そこで爺やが両手を挙げた。
「殺しに殺した鬼の怨念で、ようやっと黒衣のお方と繋がったか!」
勝ち誇ったように告げる老人。
湧き出る鬼がマキリさんに襲い掛かる。
鬼壱さんは弾丸の装填が間に合わず、銃で鬼を殴りだした。
そこで道蓮様は私に凜とした眼差しを向けると、安心させるように口角を上げた。
「大丈夫だ、燈次郎。最早、この刀は俺にとって心強い味方だ」
そのまま道蓮様は天誅殺の切っ先を自身の首にあてた。
(何……を……?)
皆が道蓮様の行動に視線を向ける中、白い喉元に漆黒の刃物が容赦なく食い込む。
(そっ、そんな……!)




