17)手紙の行方
もちろん私とも面識があり、子供のころは一緒に遊んだことがある。
道蓮様が大きいこともあって、幸いな事に佐助さんは私に気づいていないらしい。
何か気にかかることがあるようで、道蓮様を見て、わなわなと震えだした。
子供時代、盲目だった道蓮様も、彼の声には聞き覚えがあったらしい。
「その声は、佐助か……? お前、どうして皇都に……」
佐助さんは道蓮様に憎悪のこもった視線を向けると、押し殺した声で告げた。
「皇都で灯子様達の供養があると聞いて来たんだよ! 道蓮……お前は、今まで何してた?」
道蓮様が、ぴくりと肩を揺らした。
佐助さんは道蓮様の様子に気づいていないようで、堰を切ったように怒鳴りだした。
「土御門の皆様が、鬼に虐殺されたの、知ってんだろ! 誰も、灯子様も、骨さえ残らないくらい、喰い尽されて墓も作って差し上げられなかったって! 村の皆が今もずっと泣き暮らしてるってのに! 土御門がもつ土地も権利も、お前が全て奪い取ったって聞いたぞ!」
「……」
道蓮様は何も言わなかった。
どんな表情をされているのかは、私の位置からは彼の背中しか見えないのでわからない。
マキリさんや鬼壱さんは話がわからずに、道蓮様と佐助さんを交互に見つめている。
佐助さんの怒号を聞きつけて、周囲の人が集まる。その中には同じく土御門の供養にやってきたらしい、村の人もいる。
私はいよいよ出ていくことができず、黙って話を聞くことしかできなかった。
村の人たちは道蓮様を見るやいなや、次々に怒りを露わにする。
「……蘆屋、道蓮……」
「旦那様や奥様に助けられた癖に、恩を仇で返しやがって……!」
「テメェがさっさと灯子様を迎えに来ていれば、せめて灯子様だけでも生きてたかもしれねぇってのに!」
その言葉に、これまで傲岸不遜なほど堂々としていた道蓮様が、まるで斬首を控えた罪人のように頭を垂れ、言った。
「……ああ、全くもってその通りだ。俺が灯子を殺した。俺の所為で彼女は死んだんだ」
まるで深い悲しみと後悔が含まれているような悔悟の色。
道蓮様の言葉にみんなは気圧されたようだった。
けれどただ一人、佐助さんがやりきれない様子で言った。
「全部、今更だ。今更そんなこと言ったって……。皇都に行った途端、灯子様に手紙も寄越さねぇ薄情者が!」
その言葉に道蓮様が顔を上げた。
「何だと?」
「灯子様がどれだけ……」
道蓮様は鬼気迫る様子で立ち上がると、佐助さんに詰め寄った。
「嘘だ! 嘘をつくな!」
「嘘じゃねえ! 村のもんはみんな知ってる。灯子様に直接聞いたやつも居る!」
「そんなはずはない! 俺は灯子に毎日のように文を送っていた! 皇都の菓子も、季節の花も、彼女が好きそうな簪も反物も、ずっと、手紙と共に送り続けていた!」
(……え?)
道蓮様の背を見つめる。
その声は締め付けられたように苦し気だった。
「途絶えたのは灯子からの返事の方だ」
道蓮様の台詞に、時間が止まったような気がした。
そんなはずはない。
私はいつも文を送っていた。返事も欠かさず。文が届かなくなってからも何通も。
「灯子の心を取り戻すには立身出世した姿を見せるしかない。彼女に相応しい男になりたいと、そう思っていた」
頭が真っ白になった。
(何が、どうなっているの……?)
道蓮様からの手紙は届かなかった。
お菓子も花も簪も、反物だって貰った事は無い。
でも、道蓮様の言葉に嘘は混じっていないように思えた。
何故なら、こんなに取り乱す道蓮様を今まで見た事がなかったから。再会する前、一緒に暮らしていた頃だってそれは同じだった。
けれど、佐助さんは嘘だと思ったらしい。
腹にすえかねた様子で道蓮様の上着を掴んだ。
「嘘つくな! どうせ受け取ったふりして捨ててたんだろ!」
「ありえない。彼女から貰ったものは全て、ひとつ残らず小さく折って残している」
道蓮様が制服の上着の内ポケットから、小さな巾着を取り出して見せた。
それは以前に道蓮様がの服から落ちた、あの巾着だった。
「だが、そうか……灯子は俺を待っていてくれたのか。なのに俺は……」
絞りだすような彼の言葉を聞きながら、私は何がどうなっているのかわからず、動けなかった。
道蓮様の今の姿は、欠けた半身を失ったかのように痛々しく見える。
何かの歯車がおかしくなっているのはわかるのに、何処で狂ったのかが予想もつかない。
私はわけがわからなくて、村人や道蓮様に話しかけようと近づく。
しかし、その腕を狂火様に掴まれた。
そして耳元で囁かれる。
「止めてくださいよ。こんなつまらないハナシで身バレて終了なんて」
そうだ、私の正体がバレてはいけない。そう躊躇した気持ちを絶叫が掻き消す。
表通りから悲鳴が聞こえた。




