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最終話 幼年期の終わり

 あの日、空を覆っていたルスルの大群は突然、姿を消した。跡形もなく。ミサイルを装填した戦車や戦艦が放つ轟音のみが、むなしく空に鳴り響いていた。さっきまでの緊張した空気から一変、奇跡に魅了された人々の歓喜に辺りは包まれた。


 たしか……その時、僕はただ空を見上げていた。雲ひとつない快晴の空。ああ……作戦が成功したんだなぁ、と思っていた。二人のことを考えて、そして嬉しくなったんだ。だけど、二人はいっこうに帰ってこなかった。そう、フラガラッハ三号は帰還しなかったのだ。地球を命がけで守った戦士たち、そう彼らは称されている。


 もう、会えないんだね。そう、思ったさ。何度も何度も繰り返しね。でも、戻ってこないということに気がついたんだ。核の衝撃に押しつぶされたのか、それとも突撃したのか。でも、僕は妙な感覚を覚えた。


 もしかすれば、まだどこかに生きているのではないだろうかと。まだ生きているという感覚が、僕の頭の中から離れようとしなかった。どうしてだろう。まだ、空を見上げれば漆黒の星、アルカディアスが見える気がした。そうして、毎日望遠鏡を覗いていた。二人が帰ってこないということに気がついたのは、ほんの一ヶ月前のような気がする。


 申し遅れたが、僕の名前は森田栄治。一応、父は贖罪計画の提案者だったりする。そして、マキナのパイロットに選ばれた少女の同級生だった。僕はその子のことが好きだった。でも、想いを告げられぬまま、どこかへ消えていってしまった。


 そして今、僕は月にいる。人類の月面移住計画の立案者の一人として、僕はここにいる。月面に居住区を造ることで、人類の増加にも対応できるし、それに……人類は宇宙へ広がっていくことができる。そうすることで、君と少しでも近くなりたかったから。でも、そんなの無駄だと、そう思ってしまう。だから僕は思うんだ。君の守った人類を……今度は僕が守るんだ、と。それが僕が君にできることの、たった一つの冴えたやり方なんだ。


 僕はこの出来事―――彼女たちの戦いを一冊の本にまとめようと思う。フラガラッハ三号の軌跡をたどり、残った資料を集めて。彼女たちの戦いを後世に伝えなければならないと思ったんだ。僕は君に会うことはできない。けれど、君のことを知ることはできる。それで十分だ。


 だから、君にも読んでほしい、僕の書いた……。




―――贖罪のアルカディアス・完―――




「ここは……どこかな、皐月?」


「うん? そうだなぁ……わかんない!」


「じゃあ、もう少し寝るね……」


「ああ、ゆっくり、おやすみ―――」


 そこは時空。時間を越えた空間。二人っきり。でも、寂しくない。


「ずっと一緒だね……弥生」


 少し、笑ってみせた皐月。無言の笑顔で弥生は返した。

【アトガキ】

どうも、わさび豆腐です。今回の作品は一話一話が長かったので、執筆速度が遅かったのがアレでしたけれど、クオリティに関しては前作より自分の中では上です。

とりあえず、次回作も考えてありますので、感想、評価……お待ちしておりますっ!

それではーっ!

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