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47:第二王子の婚約者

 城に戻ると、学生服姿のイエラオが学園から戻ってきていた。後ろに連れている令嬢には見覚えがある……弟の婚約者カナリア=リクームだ。


「お帰り、兄上」

「お久しぶりでございます、レッドリオ第一王子殿下。婚約式以来ですわね」

「……ああ」


 カナリアは隣国コランダム王国の公爵令嬢である。二人は幼い頃に婚約者として引き合わされた時から仲が良く、離れていても手紙のやり取りで絆を深めていた。決められた結婚を何の疑問も持たずに受け入れられるなど理解不能だが、レッドリオの場合は相手がクロエなので、むしろこちらが極端な例なのだろう。


「そしてこちらがモモ嬢。兄上の友人だよ」

「…初めまして、カナリア様。モモ=パレットで…」

「まあ、貴女が()()! わたくし、一度お会いしたかったのよ」


 続いてモモを紹介しようとすると、カナリアは顔を輝かせてモモの手を握った。マイペースな所のあるモモも、これには面食らっている。


「そ、そうなんですか。私ってそんなに有名だったんですね」

「ええ、とても! ねえ、貴女が休学した後の学園の話、聞きたくない? わたくし先程、キース様に案内して頂いたのよ」


 旧知の友に再会したかのような親しげな態度に、レッドリオは却って不審を抱く。一体イエラオはモモの事を、どう説明していたのだろうか。いや、それより。


「おい、リクーム公爵令嬢が何故ここにいる。今の時期にあるのは、精々降臨祭…わざわざ他国の姫を招くほどの規模ではないだろう」

「やだなあ、忘れたの? 僕が王太子に決まったと、国民に発表する式典をやるんだよ」

「えっ!?」


 イエラオの言葉が聞こえていたらしく、モモが仰天してこちらを振り向く。


「イエラオ様が王太子に!? で、ですがまだ仮の決定だと…」

「あれ、モモ嬢もしかして、兄上から聞いてなかったの? 例年になく瘴気が濃いこの年に、兄上が婚約破棄して第一王子派の派閥が割れた事で、国民に不安が広がっている。ここで王家は安泰だと示しておく必要があるんだ」


 降臨祭とは、初代聖女がこの地に降り立ったとされる行事の事だ。この日は毎年、聖教会が認定した聖女が儀式に臨み、各地では催し物が開かれる。学園では授業の代わりにダンスパーティーが行われるのだが、仮の聖女であるクロエが抜けるためにレッドリオの周りには、今日だけはとチャンスを狙う令嬢たちで溢れ返っていた。それらには目もくれず、モモとばかり踊った後はさっさと帰ったと聞いて、クロエはますます嫉妬に狂ったらしい。


「と言う訳でモモ嬢、今年は君が聖女として参加するんだよ」

「ええ…っと」


 レッドリオが王位継承権争いに敗れた事、降臨祭の準備に参加しなければならない事、いっぺんに情報が入ってきて、モモは狼狽えながらレッドリオに何度も視線を送る。助けを求められていると気付き、レッドリオは彼女とイエラオの間に割り込んだ。


「キース、貴様が『仮の』王太子に選ばれたのはさておき。モモは魔女復活を阻止するため、ダンジョン攻略を優先させなければならない。どうせクロエでも務められたのだろう。なら聖女代理を適当に見繕っておけと聖教会に伝えろ」

「またそんな勝手な事を……国民は納得しないよ」

「納得しようがしまいが、このまま瘴気を放置すれば王都も危ないだろう。モモは浄化に慣れてもらうためにも連れて行く。無論、俺やダーク…それにセイもな」


 内心、イエラオを王太子に担ぐような式典など台無しになればいいと思っていたが、もっともらしい理屈で押し切ろうとする。

 と、ここでイエラオは懐から折られた紙の束を取り出す。在学中に見覚えのあるそれは、学園新聞だった。


「まあ兄上たちは好きにすればいいけど、セイは置いていってもらうよ。このままじゃブルーノ公爵家の…いや、カラフレア王国の外交の危機だからね」



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