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44:嫌疑

「それは、監視を始めてからずっと思っていた事だ。どう見てもクロエそのものであるのに、中身だけが知らない誰かと入れ替わってしまったのではないかと……まさか!?」


 今までの不可解さが、一瞬で腑に落ちる。別人、そう考えた方がしっくりくるのだ。

 クロエがあんなにも素直で、謙虚で、誠実で……己の罪を認め、聖女として相応しい振る舞いをする人間のはずがない。では、あれは誰だと言うのだ。本物のクロエは、どうなってしまったのだ。


「信じたくはないのですが……クロエ様の御体を乗っ取り、なりすましているのは恐らく――魔女」

「バカな! 封印されたはずの(いにしえ)の存在が、どうやって妹に乗り移ると!?」


 疎んじていた妹であっても、得体の知れない何かになってしまっていると聞いて、ダークは激しく動揺していた。だが突拍子もないと思えないのは、これまでの監視において見てきた、クロエの聞き分けの良さだ。散々、あれは演技だ猫を被っているんだと、自分たちも言い聞かせてきたではないか。


「強い想いと言うものは惹き合うものです。特に同質の、暗い情念は…ね」


 そう締めくくり、モモはパタンと禁書を閉じた。しん、と静寂が訪れる。驚愕のあまり、声にならないのだ。

 そんな中、少し離れた場所で見守っていたイエラオは、もたれかかっていた本棚から背を起こした。


「それが本当なら、王家としても放置できないんだけど……兄上は、これからどうする?」

「決まっている。クロエが魔女である事が確定すれば、奴を倒す。それしかないだろう」

「それを確認するには、直接出向いて神力の質を見る必要があると思うけど……モモ嬢がイーリス山まで行くの? あそこはダンジョン周辺に出没する魔物もかなり強いよ。モモ嬢は確か、まだ中級者向けダンジョンまでしか攻略できてないよね」


 今までは、そんな危険な場所にモモを行かせるなど許さなかった。だが聖女の役割は、この国の瘴気の浄化だ。その権化たる魔女と対峙するとなれば、モモも安全な場所で一人ぬくぬくと護られている訳にはいかない。


「神官長に頼んで、ダンジョン攻略を再開したいと思います。まずは中級者向けダンジョンから…」

「よし、俺もついて行って説得してやる」

「頑張ってね~」


 セイやダークも後に続こうとする中、イエラオだけは彼等を見送る。王太子に決まった彼には、これからやらなくてはならない事が山積みなのだ。だが呑気そうにしているが、聖女と共に王子が魔女を倒したとなれば、その武勇伝がもたらす国民からの支持は計り知れない。その時は再び、王位継承権争いが浮上するだろう。今は精々、高みの見物をしていればいい。


 胸中で弟にそう毒づきつつ、レッドリオたちは書庫を後にした。



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