殺人
殺人、普通の人間の社会では、忌避される行為であり、殺した側にも、精神的なダメージを与えるものだが。
それは、人が作り出した、まやかしにすぎない。
国というものが存在しない地では、殺人は忌避される行為ではない。
考えてみて欲しい、例え、国というシステムが出来上がっていて、殺人は、犯してはならない罪だと教え込まれていたとして、戦争は、何故無くならないのかを。
戦争は、れっきとした殺人行為であるのに。
国無き地には、野盗と呼ばれる屑が存在する。人を殺し、あるいは女を売り、子供も売る。
そんな彼らにとって、女の一人旅は、格好の獲物でしかない。
6人組の野盗が、一人の少女に目を付けていた。
「しかし、大丈夫か?魔術師だろう、アレは?」
「あんなに若いんだ、大した魔法は使えやしないさ。」
「だな、6人でたっぷり楽しんだ後に、奴隷として売ればいい。」
「ふっ、今日はついてるな。」
6人は、相手が一人で若い女ということで、油断してしまった。
相手を囲むことなく、真正面から6人揃って、少女の前へと出てしまった。
「お嬢ちゃん一人旅か?」
「そうよ?」
「俺たちといい事しないか?」
「そっちは何人なの?」
「見ての通り、6人だよ。」
「そう。」
レダはニッコリとほほ笑んだ。
「ウィンドストーム!」
レダの魔法で、野盗6人が、空高く舞い上がる。
人は落下するときに、頭が重い為、どうしても頭から落ちてしまう。
ドサッ。
2、3人は、首の骨が折れて即死した。
「た、助けてくれ・・・。」
重傷をおった野盗が、言った。
「野盗がそれを言う?」
「・・・。」
「ウィンドカッター!」
レダは容赦なく止めを刺した。
国無き地で生まれ育ったレダに殺人に対する忌避は無い。相手は野盗だし、殺して当然だと思っている。
野盗となって、人を襲うということは、自分が殺されても構わないという覚悟が必要だ。
それがない人間がおいそれと野盗になるべきではない。
「ふっ、この2つの魔法は完璧ね!もっと野盗でないかなあ。」
田舎から、チーズの町までは、いくつかの村や町を経由する為、野盗に出会う確率は低かった。
本来であれば、レオースも国無き地で生まれ育っているから、殺人に対して忌避は無いはずではあるのだが、優しい性格の為、未だ抵抗がある。
「野盗には、女性や子供がいる場合もあるから、その時は、私が殺るわ。」
アナスタシアが、レオースに言った。
「い、いえ・・・。」
「レオース、無理はしないで。」
フレイが言った。
「ねえ、フレイ。」
「何?」
「あなた、レオースに対して妙に優しいけど、やめてよね。ややこしくなるから。」
「何の話よ?私は火の精霊よ。火の民に優しくして何が悪いの?」
「私だって火の民でしょ!」
かつて、自身に無理強いを言いまくっていた精霊に苦情を言った。
「あ、あの。」
レオースが二人の言い合いを止めた。
「野盗やモンスターに襲われた場合は、僕が前衛をやります。」
「相手が子供でも?」
「はい。相手に刃を向ける人間は、自分が殺されても構わないという覚悟がある者だけです。」
「そう、レオース、あなたは優しいから、言っておくけど。相手を即殺してあげれば、苦しむ事はないわ。余計な手加減は、相手を苦しめるだけよ。」
「わかりました。」
「相手にだって事情もあるでしょう?」
フレイが聞いた。
「事情があったら、殺されてもいいの?」
「それは・・・。」
「敵であるなら、子供だろうと女性だろうと、そういうことは関係ないのよ。」
アナスタシアの正論に、フレイは何も言えなかった。
チーズの町への経路にある町で、レダは一人夕食をとっていた。
うーん・・・。
チーズの町の酒場のご飯は、美味しかったんだなあと改めて思った。
そんな一人で、堂々と食事をとっているレダに、一人の中年男性が話しかけた。
「魔術師の方ですよね?」
「はい。」
「私は旅の商人なのですが、護衛を探していまして。」
「そうなんですか、でも私は目的地がありますので。」
「どちらまででしょうか?」
「チーズの町です。」
「それはいい。同じ目的地なので、護衛を引き受けて貰えないでしょうか?」
「あ、あのう・・・、ここからチーズの町へ行くのに護衛は必要ないと思いますが?」
「チーズの町への経路に野盗が増えてるんですよ。」
「は?」
そんな話は聞いたことが無かった。
「復興したチーズを求めて商人たちが、というか私もですが、各地から集まっています。もちろん噂を聞いた人たちが、職を求めて目指したりもしています。そういった人々を野盗が狙っているのが現状です。」
「そ、そうなんですか・・・。」
よく考えたら、野盗に出くわしたのは、初めての経験だった。
「あのう、私は冒険者と言っても、最底辺ですから、お役に立てないと思います。」
レダは正直に話した。
「とんでもない、一人でこの辺りを旅してらっしゃるのです。それを最底辺だなんて。」
謙遜していると勘違いされたようだ。
「そちらは何人居らっしゃるんですか?私一人では護衛できないと思います。」
「商人は私を含めて3人です。馬車が2台に護衛は、現在2名居ます。馬車に1台ずつ乗って貰って居ますので、あなたが引き受けてくれると心強いのですが。」
馬車で移動でき、お金まで貰える。
レダには魅力的な依頼だった。
「わかりました。私でよければ、お引き受けします。」
「ありがとうございます。」
次の朝、出発となり、元から護衛を引き受けている二人は、馬車の御者台に乗り、レダは、女性の商人と共に荷台へと乗り込んだ。
「冒険者は凄いのね、女の一人旅が出来るんですもの。」
女商人が言った。
「いや・・・その・・・。チーズの周辺で野盗なんて見た事無かったんですが。」
「そうかあ。復興前は、商人が寄り付く場所じゃあなかったから。」
「あのう・・・、復興って?」
「チーズを知ってる?食べるチーズ。」
「はい。貴族が食べるような高級品ですよね?」
「それがチーズの町で売ってるのよ。」
「は?」
少なくとも、レダが住んでいた時まで、そんなものが町で売られているのを見たことが無かった。
「ここ最近の事だから。というか、それが目的でチーズを目指してるんじゃないの?」
「私は、チーズの町に住んでいたので、帰るところです。」
「そうなんだ。じゃあ、あなたが居ない間に、チーズが復興したのね、きっと。」
1年も2年も居なかったわけではない。
こんな短期間で一体何があったんだとレダは訝しんだ。
暫く馬車が進んだ後、馬車が止まった。
まだ町や村に着いたわけではない。
魔術師は、魔力探知が出来てこそ、魔法が使えるようになる。この魔力探知が出来る魔術師にとって、人やモンスターの気配を探ることは造作もないことで。
レダは、馬車の中に居ながら、周りを囲まれたことに気が付いていた。
馬車が止まり、外へと出るレダ。
「中でじっとしていて。」
そう、女商人に言い残した。
「ファイヤーボール!」
木が生い茂った、小高い場所から魔法が放たれた。ちょうど木々の間から、魔法が撃てる場所を陣取っていた。
「ウィンドストーム!」
レダはウィンドストームで、ファイヤーボールの軌道を天に向かうように変えた。
天高く向かい、ファイヤーボールは消えていった。
ファイヤーボールが撃てる場所に居るなら、ウィンドカッターが撃てるということで、すかさずウィンドカッターを唱えようとしたが。
危険を察知したレダは、横っ飛びした。
ズサっ!
レダが居た場所に矢が突き刺さった。
アーチャーまで居るなんて。
通常、野盗に魔術師やアーチャーが居ることは無い。
まさか冒険者が?
レダに考えている余裕はない。
木々に邪魔されて矢を撃つ隙間しかないが、そんなことは言っていられない。
「ウィンドカッター!」
レダは、木々ごとぶった切るように、魔法を発動した。
アーチャーの胴を二つに切り裂いた代償に、木々が馬車に向かって倒れてきた。
「魔法は使うな。火が燃え移る。」
野盗が、魔術師に叫んだ。
好機と見たレダは、間にある木が関係ない魔法を放つ。
「ウィンドストーム!」
相手の魔術師の足元に、竜巻が発生し、魔術師は空高く舞い上がった。
野盗は8人、レダが魔術師とアーチャーをやったころには、襲い掛かってきた6人も既に息絶えていた。
レダ以外の護衛の剣士も、級は無いとはいえ冒険者だ。野盗が何人来ようが相手ではなかった。
「君が居てくれて助かったよ。」
冒険者の一人がレダに言ってきた。
「教えて欲しいんだけど、相手は野盗だったの?」
「ああ、そうだ。」
「何故、魔術師とアーチャーが?」
「野盗たちが雇ったんだろう。」
「野盗が?」
「もしかして君は、襲ってきたのが冒険者たちではと考えているのかい?」
「まあ・・・。」
「もし、冒険者だったら、俺たちは死んでいるよ。」
そう言って、護衛の一人は、死んでいる野盗たちを示した。どうみても、野盗にしか見えない死骸。
確かに、こいつらが冒険者なら、死んでいたのはレダ達の方だっただろう。
「おそらく、敵の魔術師は、ファイヤーボールしか使えなかったんだろう。そういうのが、野盗に雇われたりするんだ。」
もう一人の護衛が説明してくれた。
「本当に助かったよ。」
商人がレダに礼を言った。
「さて、木々をどかして、出発しよう。」
「ご、ごめんなさい。」
木々を倒したのはレダだったので、謝った。
「気にすることは無い。これのお陰で相手の魔法を封じられたんだし。」
そう護衛の人が言ってくれた。
それからは、特に襲われることは無く、無事チーズの町へと到着した。




