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恐怖

「何の事よ。」

チッ、バレたか。

アナスタシアは内心で舌打ちをした。

「お前、見た目はイマイチって言っていただろう?レオーヌちゃんは可愛いじゃないかっ!自分が美人だからって、他人の評価のハードルを上げるんじゃないっ!」

「そ、そう?あなたが気に入ったんなら、問題ないわ。」

「お、おい、どうなってる、レ、レオーヌ?」

酒場の親父が小さい声でレオースに聞いた?

「すみません、今の僕はレオーヌって事で。」

「おい、ちょっと待て。」

二人の会話が耳に入ったようで、リスキーが会話を止めた。

「今、僕って言ったよな?」

「え、えっと・・・。」

言葉につまるレオーヌ。

「いいね、いいねっ!最近、僕っ子なんて、出会っていなかったからな。新鮮でいいっ!俺が立派な剣士にしてやるから安心しな、レオーヌちゃん。」

「え?リスキーさんが、レ・・・レオーヌに?教えるんですか?」

酒場の親父が聞いた。

「ああ、アナスタシアに頼まれたからな。」

「まじかっ・・・。いいかレオーヌ、落ち着いて聞け。」

「は、はい?」

「お前はイアンと違って、冒険者の世界に疎いようだから知らないと思うが、リスキーさんはなS級冒険者だ。」

「「はっ?」」

レオーヌと共にアナスタシアまで素っ頓狂な声をあげた。

「はって、何だ。悪いか俺がS級で?」

「あんた、フールにビビってたでしょう?」

「だから言っているだろ、フールは別格なんだ。人と同格にしてるんじゃない。」

「ちょ、ちょっと待て。会ったのかフールに?」

酒場の親父が言った。

「会ったわよ。」

面倒くさい奴に知られたなと思いながら返事をするアナスタシア。

「俺がファンなの知ってんだろ?サインは?サイン位もらってくれてるよな?」

「ないわよ、そんなもん。あんなおっさんのサインに価値なんてないでしょうに。」

「な、なんだってんだよ、チクショーっ!」

悔し涙を流す酒場の親父。

「えっと、オヤジは知らないのか?」

「へ?何を?」

「アナスタシアは、フールの弟子でもあるそうだ。」

「なななな、なんだってーーー!!!いや、しかし、それなら納得もいく。アナスタシアが考案したキラーボアの肉パン タルタルソースかけ。今では近隣の村や町から客が来るほどの人気商品になっているからな。」

「ぶっ・・・、まかない用だったのよ、あれは・・・。」

「ちなみスープをパン屋に提供している代わりにパンを仕入れているから、うちのメニューにも載っている。」

「そ、そうなんだ。」

「待てよ?俺の先生がアナスタシアって事は、先生の師匠がフールか!ふっ、俺も知らないうちにフールの系譜に入ってたって事だな。」

都合のいい解釈をして喜ぶ酒場の親父。


「あ、あのう、リスキーさん、僕に剣を教えてください。」

そう言ってレオーヌは深々と頭を下げた。

「いいだろう、俺はその為にここに来たんだからな。」

田舎の村で生まれ、生きていく為に仕方なく村を出て冒険者になったレオース。

このまま、チーズの町で生きていくことになるんだろうかと不安に思う日々もあった。

そんな自分が、まさかS級冒険者から剣を教えてもらう時が来るなんて、夢にも思っていなかった。


少し広い場所に移って、リスキーはレオーヌに剣を教えた。アナスタシアとフレイは、近くにあった丸太に座って見守っていた。

「いいか、レオーヌちゃん、俺が教えるのは基本だけだ。基本さえ掴んでおけば、後は自分でどうにでもできる。」

「はい、師匠。」

「師匠って・・・、俺が教えるのは基本だけだから、出来ればリスキーさんって呼んでもらえると嬉しいのだが?」

「師匠でお願いします。」

「ま、まあいいだろ。」

子犬の様に純真無垢な瞳にリスキーはやられてしまった。

「俺の足さばきをよく見ておくんだ。」

そう言って基本の動作をリスキーは行った。

「地味だが、重要な動きだからな。毎日繰り返して自分のものにしてくれ。」

「はいっ!」


「ねえ、あの子、男の子でしょ?いいの?」

フレイは小さい声で聞いた。

「いいのよ、別に。本人たちがいいならね。」

「そ、そうなんだ・・・。」

世の中には変わった趣味の人が居るもんだと、改めて人間を不思議に思った。

「この町に1ヵ月は居ようと思うんだけど?」

「いいんじゃない?」

「いいの?火の神殿は?」

「言ったでしょ、急ぎじゃないって。どうせ火の神殿に戻ったら、当分は外に出れないだろうし。」

「当分って、どれくらいよ?」

「さあ?10年か20年か、100年かかるかもしれないわね。」

「私に力なんて使うから・・・。」

「いいのよ、私が納得してやったことだし。それに、お礼も言ってもらったし。」

「言ってないわよ、お礼なんてっ!」

そう言って強がるアナスタシアの耳は真っ赤だった。


「よし、今日はこれ位にしておこうか。いいかレオーヌちゃん。繰り返し体に覚えこませることが大事なので忘れないように。」

「はい、ありがとうございました。」

レオーヌは、深々と礼をした。

「アナスタシア、ちょっといいか?」

そう言って、アナスタシアの方へリスキーは歩いて行った。

「何?」

「男じゃねーかっ!俺を騙すんじゃないっ!」

大声で突っ込むリスキー。

「え、えっと・・・。」

今更、突っ込まれて返答に困るアナスタシア。

「今頃言うの?それ?」

フレイが呆れたように言った。

「最初に言ったよな?俺はアナスタシアに恩が売りたいと。別に男だからと言って、頼まれたのを断るわけがないだろっ!」

「そ、そうなの?」

話しの流れから、才能も素質もない男になんて教える気はないのかと思っていたアナスタシア。

「確かに女性だといいなあくらいは思ってたさ。」

「思ってたんだ・・・。」

フレイがボソッと言った。

「あ、あの師匠。」

申し訳なさそうにレオーヌが言ってきた。

「なんだ?」

「明日からは、この格好じゃなくてもいいですか?」

もう男とバレたからには、スカートを履く必要性はなく。

「駄目だ。」

「えっ・・・。」

「えっとレオーヌ?本名はなんだ?」

「レオースです。」

「いいか、レオース。その格好だと動きにくいだろう?」

「はい、とても。」

「ならいい。動きやすい格好で修行するよりは、動きにくい格好の方が修行になる。いいか、スカートやひらひらが動きの邪魔になると感じるのは、それらを意識してないからだ。身に着けた物全てを感じとり、流れに乗せろ。そうすれば動きにくいとは感じなくなる。」

「えっと・・・。」

「修行してれば、そのうちわかる。」

「は、はいっ!」

「さて、一か月は滞在するとして宿だな。安い宿はあるのか?」

「問題ないわ。レオースの家があるから。」

「なんだレオース、ここが故郷か?」

「いえ、家を借りてますんで。」

「・・・、ぼ、冒険者なんだよな?」

「はい。」

冒険者が家なんて借りるんじゃねえっ!と突っ込みたかったが、リスキーはグッと飲み込んだ。


いつもとは違う4人で、いつもの酒場で夕食をとった。

「しかし、才能も素質もないレオーヌに教えるのも大変でしょう?」

酒場のオヤジが言った。

「おじさん、もうレオースで大丈夫です。」

「そうなのか?」

「はい。」

「俺も小さい頃、師匠に言われていたからな。才能も素質もないって。」

「え?嘘でしょ?だってリスキーさんは、ナンバー2。もし、パーティーを組んでいたらナンバー1でも不思議はない人じゃないですか?」

「オヤジさん、才能や素質は、スタート地点が少し違うだけ。ただそれだけの事でしかない。結局は、本人のやる気次第でどうにでもなる。」

「重い、言葉が重いっ!さすがはリスキーさんだ。」

「いや、別に大したことでは。それよりもここのスープは絶品だ。他の町で、こういったスープは飲んだことがない。」

「この町の自慢のスープですから。といっても考案者はアナスタシアですが。」

「おいおい、伝説の料理人でも目指しているのか?」

リスキーが呆れていった。

「目指すかっ!そんなもん。それよりもおじさん。」

「な、なんだ?なんか料理をまずってたか?」

「前から思ってたんだけど、この町の名前、なんでチーズなの?」

「え?そう言われてもなあ・・・俺もこの町の出身じゃないし・・・。」

「変なことが気になるのね。」

フレイが言った。

「だって、町の名前には何かしらの由来があるものでしょ?」

「まあそうだけど。」


その日の夜、レオースは恐ろしいものを見てしまった。


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