I'll do anything
翌朝、ぐっすり眠れたリスキーは気分爽快だった。
「泣き疲れて爆睡できたようね?」
アナスタシアに言われた。
「な、泣き疲れてなどいないっ!」
「アナスタシア、こういう時は、そっとしといてあげるのがいいのよ。」
フレイが忠告した。
「そういうものなの?」
「よ、余計な気遣いはするんじゃないっ!余計に恥ずかしいだろがっ!」
「まあ、泣き虫君はほっといて、チーズの町へ急ぐわよ。」
「おいっ!泣き虫君っていうんじゃないっ!」
そうして一行は一路チーズの町を目指した。
「いいかお前ら、絶対に言うんじゃないぞ。」
道中、何度も何度も口留めをするリスキー。
「ねえ男ってこんなに面倒くさいの?」
小さい声で、フレイに話すアナスタシア。
「だから、そっとしておくのよ。こじれると大変なんだから。」
「そ、そうなのね。」
「お、おいっ!聞こえてるぞ。こじれるってなんだ、こじれるって・・・。」
無事、チーズの町へ着くころには、級持ち冒険者リスキーの株は、最安値を通り越し、整理ポストに入るんじゃないかというくらいに大暴落していた。
「いいかお前ら、レオーヌちゃんには、絶対余計なことを言うんじゃないぞ。」
「余計な事って何よ?」
アナスタシアが聞いた。
「泣き虫の事よ。もう忘れたの?」
フレイが答えた。
「ああ、あれか。」
「そのまま忘れてくれ・・・。先に聞いておきたいがレオーヌちゃんはどういう性格なんだ?アナスタシアの友達だから、似たような性格とかいうんじゃないだろうな?」
「素直で優しい子よ。」
「よしっ!俺が最高の剣士に育て上げてやるっ!」
「言ったでしょ?才能も素質もないのよ。」
「まあ、それが無理なら俺の嫁にしてやろう。」
「そ、そう。頑張ってね・・・。」
今更、レオーヌじゃなくレオースで男性なんて言い出せないアナスタシア。
とりあえず、まだバイト中だろうから、二人を酒場へと案内した。
「酒場で待っていてくれる?私は仲間たちを見てくるから。」
「ああ、わかった。」
リスキーとフレイは二人で酒場に入って行った。
「う、嘘だろ・・・。」
酒場の親父が固まる。
「ねえ、酒場の人が固まってるわ。」
フレイが言った。
「まあ仕方ないだろ。何もないような町に俺が来たんだから。」
「リスキーはそんなに有名なの?」
「まあまあだな。」
「アナスタシアと比べたら?」
「比べもんにならん。ブラッディフッドの弟子を現在知らない冒険者は居ないからな。」
「じゃあ、大したことないのね。」
「まあ、俺なんてそこそこだ。」
「な、何言ってるんだ、あんた・・・。」
酒場の親父が復活した。
「冒険者のリスキーさんだよな?」
「ああ、そうだが?」
「S級ランクの冒険者だろ。どこがそこそこなんだよ。」
「S級と言ったって2番だからな、上には上がいる。」
「いやいやいや、あんたは、こんな場所にくるような冒険者じゃないだろ?」
「まあ、野暮用でな。それより、何か食べる物でも頼めるかな?」
「あ、ああ。すまない。ランチでいいかい?」
「ああ、じゃあ2つ頼む。」
「少々お待ちを。」
酒場の親父は、そう言って厨房へと向かっていった。
パンとランチの店に行くと女将さんと旦那さんが、喜び一杯で、アナスタシアを出迎えた。
「きょ、今日は手伝えないから!」
最初にしっかりと宣言するアナスタシア。
「それは残念ねえ。今度はどれくらい、居るの?」
「まだわからないわ。それよりレダは?見当たらないようだけど?」
「レダなら田舎へ帰ったわよ。」
その言葉に、アナスタシアは、ハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けた。
「い、いつ・・・。」
「アナスタシアさんが、旅へ出て直ぐだったよ。」
「そ、そうなんだ・・・。じゃあレオースも・・・。」
「レオースならいつもの荷受けの仕事をやってるよ。」
旦那さんが言った。
一瞬、ホッとした後、怒りが込み上げてきた。
あの男は何をやっとんじゃいっ!!と。
急いでレオースの元へと向かった。
「あっ、アナさん!」
アナスタシアを見かけると子犬の様に寄ってきた。
「すみません、まだ仕事があるんで、暫く待っていてもらえます?」
「ええ、わかったわ。」
何だが怒っている風だったが、レオースは気にせず仕事に戻った。
仕事が終わって、アナスタシアの所にレオースがやってきた。
「あんた何やってんの?」
「え?荷受けの仕事ですよ?」
「そんなの見ればわかるわよっ!レダは田舎に帰ったんでしょ?」
「ええ。」
「何で一緒に帰らないのよ!」
「僕には師匠が居ませんし・・・。」
「はあ?」
「レダは、魔法の修行をする為に田舎へ帰ったんですよ。」
「は?今更?」
「アナさんに触発されたんだと思います。さすがに使える魔法が2つじゃあ、魔術師って堂々と名乗れないですし。」
「レダの師匠は、あんた達の田舎に居るの?」
「ええ、僕らの田舎に居ついてます。」
「魔術師が?」
「ええ。」
「田舎で魔術師が何してるのよ?」
「毎日、飲んだくれてます。」
「・・・。」
もっとマシな師匠は居ないの?と突っ込みたかったが、ここでリスキーの事を思い出した。
「ねえ、レオース。あんたに級持ちの剣士を紹介したいんだけど?」
「えっ!本当ですか?」
「まあ、あなたがどんな条件でも飲むという覚悟が必要だけどね。」
「飲みます!剣を教えて貰えるなら、何だってします。」
「よし、よく言ったわね。ちなみに住んでた家はどうなってるの?」
「そのままですよ。殆ど無料みたいな値段で借りてますし。一人でもやっていけるんですよ。」
「そう、じゃあシャワーを浴びてきて。」
「わかりました。」
「身なりに厳しい人だから、その後に洋服を買いに行くわ。」
「はい、じゃあ、さっと家に帰ってきます。」
その後、シャワーから帰ってきたレオースを洋服店に連れていき、何処からどう見ても女性に見えるように身なりを整えた。
「あ、あのう・・・。」
「いいレオーヌ。あんたはさっき何でもするって言ったわよね?」
「ええ・・・そうですが・・・。って、レオーヌ?」
「あなたはしばらくの間、レオーヌと名乗りなさい。」
「い、一体、どういうことなのでしょう?」
「いい級持ちの剣士が素質も才能もない人間に剣を教えてくれると思う?」
「思いません・・・。」
「それを、女性だったら教えてくれるっていうんだから、それ位我慢しなさい。」
「アナさんの級持ちの知り合いの剣士ってカインさんじゃないんですか?」
「そんな死んだ人の名前なんて出すんじゃないわよっ!」
「えっ・・・。」
レオーヌちゃんは考えた。
ここにアナスタシアが居る理由とカインの死について。
「ア、アナさん・・・大変だったんですね。」
「きっとあなたが思ってる事とは、違うと思うけど、まあ大変だったわ。」
「それで級持ちっていう方は、どの位のレベルなんでしょう?」
「さあ?それなりに有名そうだからB級とか?リスキーって名前だけど、知ってる?」
「いえ、僕はあんまり詳しくないんですよ。イアンなら知ってそうだけど。」
「そう言えばイアンは?」
「レダについて行って貰いました。その後は師匠を探してると思います。」
「イアンの師匠って村には居つかなかったの?」
「ええ。」
「そう。」
そうこうしていると酒場に着いた。
二人が酒場に入ると、酒場の親父が走ってきた。
「ア、アナスタシア、どうしたんだ一体、それに・・・。」
隣に居たレオースを見て言葉を失った。
「待たせたわね、こっちがレオーヌよ。」
アナスタシアは、リスキーにレオーヌを紹介した。
「おい、アナスタシア。ふざけるのも大概にしろよっ!」
リスキーは大きな声で抗議した。




