表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/29

005

 本日も快晴です。

 依頼書のコピーを片手に、俺たちはローザウィ商会の面接会場に行ってみた。


「でかっ!」


 赤いバラの垣根が続く通りを、歩く事5分。

 三階建ての大きな白い屋敷が見えた。

 鉄製の壮麗な門の奥には、青い芝生と噴水、そして色とりどりのバラの庭。

 屋敷には、緋色のバラと船をあしらったマークが描かれた、大きな看板が掲げてある。

 その看板には、


【ローザウィ商会 ハスラータ支部】


 と書かれてあった。


「支部」

「ローザウィ商会は、海洋都市リバイアに本部がある。国や大陸を股にかけて貿易を扱う、大きな商社だ。知らなかっ……たんだな」

 ジェイスが諦めたように言い換えた。

 しかたないだろ、西大陸なんて俺は初めてなんだからな!

 しかし、


 あの喧嘩っ早そうな赤毛のお姉さん、結構すごい人だったのか。





 建物の入り口には、既に多くの冒険者で溢れ返っていた。

 長い長い行列は、門の外にまで続いている。

 これ、何人待ちですか。50人以上はいそうなんですけど。


「うわあ。依頼書が張り出されて間もないのに、もうこんなに来てんのか……」

「内容が良いからな」


 そうなのだ。片道10万シェルは、結構な額だ。

 それも討伐依頼ではなく、ただの護衛でこの報酬額は破格。道中何事もなければ、優雅に船旅するだけでなんと10万シェルもの大金が手に入ることになるのだ。復路も入れると20万シェル。超掘り出し物の好物件と言える。





 1時間並び続けて、ようやく面接室に入れた。


 通された部屋は、白を基調とした応接間。

 白い長机にはバラが飾られ、椅子は向かい合って6脚ずつならんでいる。


 向かいの真ん中の2脚には、右側に鼈甲色の縁メガネをかけた、黒茶ボブヘアの女性。

 物凄い早さで書類になにやら書き込んでいる。机の上には次々と仕分けされていく書類の山々。

 プロだ。事務職のプロフェッショナルがいる。


 左側には、ワイルドな赤毛美女社長が、眠たそうに欠伸をしながら、頬杖をついて座っていた。


 眠そうな赤い瞳と目が合う。


 あ。

 やっぱりあの時の人だ。


 入室してきた俺たちを見るなり、椅子を蹴り倒す勢いでマゼンダ社長が立ち上がった。



「はい、採用決定!」



「え、ちょ、まだなにも言ってないんですが」


 ボブヘアの女性が、メガネを押し上げる。

「……社長。まだ自己紹介もして頂いてませんが」


「だって、この子たちなんだもの! 見間違えるわけないわ! 私を助けてくれたの! さっき話したじゃない」

「ですが、規則ですので。では。冒険者協会より事前にあなた方の詳細情報は得ておりますが、再度確認のため、お手数ですがパーティー名と、メンバー名及び、職業、レベルをお願いします」


 ジェイスが前に出る。

「【蒼銀の風】リーダー、ジェイス。重剣士。レベル97」

「レフト! 弓使い! レベル、23!」

「ライト! 弓使い! レベル、23!」 

「宵月。魔導学者。レベルは96」


「はい、採用!」


 ボブヘアの女性のこめかみがひくりと動いた。

「ですから、物には順番と言うものがあるんです。社長なんですから、もう少し落ちついて下さい」

「もう、セオっちは頭硬いなあ」

「社長が適当すぎるんです!」

「だって、実力はもうこの目で確認済みよ。もう1人の格好良いお兄さんは分からないけど、私の勘では、結構な使い手だと思うわ」

「私としましては、幼い子供がいる点と、初めて見る【魔導学者】の職性能が不確かな事、加えてレベルの大きなばらつきが気になりますが……社長はこうと決めたら頑として変更して下さいませんので」


 ボブヘアの女性は諦めたように溜め息をつきつつ、書類に印鑑を捺した。


「では。【蒼銀の風】の皆様は、採用ということになりました。場所は現地集合ですので、遅れないように注意して下さい」


 赤毛美女社長が、親指を立ててウインクした。

「よろしくね!」 


 なんだかよく分からないが、即決したみたいだ。これで100万シェルの旅費を貯めなくても、東大陸に行ける!


「はい! ありがとうございます!」


 赤毛美女はうんうんと腕を組む。

「丁度いいわ。この場を借りて申し訳ないんだけど、お礼を渡させてもらってもいいかしら?」

「お礼?」

「そう。さっき助けてくれたお礼。ちょっと待ってて!」


 赤毛美女社長マゼンダは慌ただしく部屋から出ていくと、数分も経たずに駆け戻ってきた。じっとしていない人だな。


「お待たせ! はい、これ!」

 マゼンダが濃紺色の原石を、俺と双子に一つずつ、差し出した。


 俺は目を見張った。


 野球ボールくらいの大きさの鉱石だった。冬の夜空のように深遠な濃紺の中に、大小の小さな無数の光が瞬き、大きな光を中心にしてゆっくりと渦を巻いている。まるで星雲を切り取って閉じこめたように美しい石。

「これは……!」


 【ネビュラストーン】だ。




 星雲石【ネビュラストーン】

 希少レベル☆☆☆☆☆。

 氷山地帯の山頂で、稀に見つかる珍しい鉱石。夜空に瞬く星々と星雲を閉じこめたような美しい造形は、手にした者の目を奪う。魔力を多分に含む。高レベルな武器や装備品が作れる為、冒険者なら喉から手が出るほどほしい素材である。


〜鉱石リストより〜




 ……何故これほど詳細に覚えているかというと。

 これを揃えるのに、俺は散財したのだ。今着ている最強装備を作るために、どうしても必要な素材だった。


 あの時の苦労が走馬灯のように脳裏をよぎり、俺は目頭を押さえた。


 なんだろう。すごく嬉しいのに、すごくやるせない、この気持ち。


「あら、そんなに感激しちゃうほど嬉しかった? 何にしようか迷ったんだけど、冒険者ならこれのほうがいいかなって」

「きれい! キラキラ、いっぱい見える!」

「きれい! ピカピカ、いっぱい見える!」

 ジェイスが驚いて目を開く。言いたい事は分かる。これは不相応に良すぎる御礼だ。

「こんな高価な物、受け取れないよ」

「いいのよ。懇意にしてる鉱石のバイヤーから、そこそこ纏まった数が手に入ったの。だから、気にしないで」


 そうは言っても、結構な高額品だ。1個でなんと、俺が購入した時の時価で30万シェル。これを50個揃える必要があり、俺は一夜にして大富豪から大貧民に転落した。


「こんな高価な物貰えるほど、大した事はしてない」

「いいのいいの! 私の気持ちよ。受け取って。コレクションするも良し、売るも良し、装備を作るもよし、大事な人に何か作ってあげるもよし。好きに使っちゃって!」

「でも……」

 ジェイスが俺の肩を軽く叩く。

「御礼の品だ。感謝して受け取っておけばいい」

「そうそう! 格好良いお兄さんの言う通りよ」

 マゼンダが腕を組んで頷く。

 そうだな。感謝の品を突き返すほうが失礼か。

 俺はありがたく受け取る事にした。



 でも。

 やっぱり、なんだか微妙に切ないです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ