006
海洋都市リバイアまでは、徒歩3日ほどで問題なく辿り着きました。
海洋都市リバイア。
海洋都市ハスラータと同様に、白い壁を基調にした街並み。
海と空の青とのコントラストが、とても綺麗に映えています。
馬車が20台は並んで通れそうなほど広い大通りには、数えきれない物と人々で溢れ返っています。
門をくぐって最初に目に入るのは、水を見上げるほど幾本も吹き上げている噴水。
噴水の三方には、水を注ぐ三体の女神の彫像。
噴水中央の台座には、半人半魚の海王が、雄々しく槍を掲げています。
そして、大通りの先には、一際目を引く大きな宮殿。
ドーム状の屋根は、青を基調としたモザイクで美しい装飾が施されており、太陽を浴びてきらきらと輝いています。
宮殿の周囲は多数の白い尖塔に囲まれ、宮殿を彩るように赤、青、緑の旗がたくさんはためいています。
そしてやっぱり俺の知らない街です。
* * *
「もんのすごく、大きな街だったんだな……」
「青いお兄さん、あんまりきょろきょろする、迷子なる!」
「迷子なる!」
あやうく人ごみの流れに巻き込まれそうになった俺を、双子がローブの裾を捕んで引き戻してくれた。
……はい、すみません。ダメな大人ですみません。
「ラシラート海洋王国の首都だからな。西大陸で二番目に大きな街だ」
大陸で二番目に大きな街。
なるほど、それじゃあ知らないほうがおかしい。船舶協会のオヤジさんが、たずねた俺に微妙な顔をするはずだ。
* * *
集合日当日。
リバイア港の埠頭には、10隻以上の大型船、20以上の小型貨物船、旅客船、小舟等が、まるで大展示会場のように犇めいていた。
慌ただしく行き交う人波をかきわけて、指定された埠頭へと向かう。
「なんだこれ! すげえ!」
カメラ! 今すぐカメラがほしい!
全長100メートルくらいの白い流線型の船体。
その舳先には、赤いバラと船のマーク。
赤いバラと船のマークは、ローザウィ商会のロゴマークだ。
船体は全体的に丸みを帯びたフォルムをしており、所々金属で補強されている。
大きな水上飛行機のような形をした船だった。
船尾には、大きなスクリューが三つもついている。
これなら、いちいち風や海流を気にしなくても、自力で航海できるだろう。
俺がゲーム内で見ていた帆船とは、全く違う。
もっとずっと先進的な船だ。西大陸の方が、海洋王国というぐらいだから、造船技術がずっと進んでいるのかもしれない。
船に乗り込むタラップの前には、採用された冒険者たちが既に11名集まっていた。
募集人数は全部で15名。
どうも、俺たちが一番最後のようだ。
11名の冒険者が、一斉に振り返った。
そして、どよめきが起こった。
え。何でだ。俺たちなにかおかしい? 別におかしくないよな? 一番遅かったから無言で非難されてるの?
冒険者たちの前には、ホットパンツのウエスタンルックのマゼンダと、ボブヘアのメガネ女性が書類を片手に立っている。セオ、と呼ばれていた人だ。
マゼンダは俺たちに気づくと、両手を上げて手招きした。
「おおーい! 宵っちたち! こっちこっち!」
宵っちたち、って何だ。頼む、恥ずかしいから大声で呼ぶのは止めてほしい。あと、飛び跳ねないでほしい。胸が揺れるので目のやり場に困ります。
「皆さんお静かに! 社長もですよ!」
セオさんが睨みを利かす。なんだか苦労性なオーラが滲み出ている。
「……へ? は、はーい」
「では。全員揃ったようですので、点呼いたします。呼ばれたら代表者の方は返事をして下さい。【海王の鉄槌】リーダー以下2名」
「ウス」
「オス」
金剛力士像が2体前に出た。阿形と吽形。いや、違った。2メートルはありそうな大男が2名。でかい。盛り上がる筋肉が照り返って眩しい。
「【美食の求道者】リーダー以下4名」
「いらっしゃいませ……あ、すみません。よろしくお願いします」
白いシェフ帽らしきものを被った4名が前に出る。長いパン切りナイフを腰に下げた恰幅の良い男性の帽子が一番長いので、リーダーか? あとは痩せ型の男性が1人、女性2人。俺の知らないレシピ持ってるかな。教えて欲しい。ていうか、戦えるのか? 戦うシェフズ?
「【天駆ける白狼】リーダー以下5名」
「うむ」
30代前後の男が前に出た。俺の身長ほどもありそうな盾を背負い、長剣を腰に下げ、銀のプレートアーマーに身を包んだ、頼もしさ溢れる精悍な男だ。この男がリーダー。メンバーは他に、小剣を2本腰に下げた軽装備の優男風青年1人、弓使いの猫耳スレンダー女性1人、黒いフード付きケープの少女魔道士、白い詰め襟のローブに身を包んだ神官の青年1人。
すごくまともなパーティ来た! しかも黄金バランスなパーティが! しかも猫耳要員あり! おまけに魔女っ娘あり!
「完璧だな」
「なにがだ?」
「あのパーティ。ほら、あの人たち魔王城までいけそうじゃね?」
「お前な。何を感心してるのかと思えば……」
「【蒼銀の風】リーダー以下4名」
「ああ」
「「はい!」」
双子が挙手して元気よく返事をする。
「いや、お前らは返事しなくていいから」
そこかしこから笑い声が漏れた。
「──以上。では、航海中の護衛をよろしくお願い致します」
「みんな頼りにしてるわ! 1ヶ月間、よろしくお願いするわね!」
* * *
出港から10日。
航海は順調だ。
仕事も楽だ。
俺たちの仕事はといえば、今のところ順番に4時間ずつ外周内周を見回りをすることぐらいだ。そして4パーティいるので、見回りが回ってくるのは12時間後。
このローテーションで行くと、夜中に順番が回ってくる時もあるわけで。
すっかり深い眠りに入ってしまってるチビ達を、起こさないといけない場合もでてくる。
現在時刻は深夜0時。
俺は二段ベッドの上から降りた。
俺たちにあてがわれたのは、二段ベッドが二つ押し込められた簡素な船室だ。
丸窓の外は、海さえも見えないほどの暗闇が広がっている。
ローブは着たままだ。寝巻きに着替えて休みたいところだが、突然なにかあっても困るので、そのままで寝た。
それに、着たままでも大丈夫。
ジェイスに聴いたところによると、武器・防具などの装備系は自浄の魔法がかかっているらしい。どんなに汗をかこうが泥で汚れようが、すぐに浄化されて綺麗な状態に戻る。なんて便利な新機能。洗濯しなくてもいいなんて。夢のようだ。
ただ、装備毎に【耐久度】が設定されている。これは、いままでの設定と同じ。
ダメージを受ける毎に耐久度が減っていき、0になれば破損する。壊したくなければ、そうなる前に武器防具屋でお金を出して修復しなければならない。
だが、俺の身に付けているこの装備は、なんと自動修復機能付き!
3秒毎に、【耐久度】が1ずつ自然回復するのだ。
大富豪から大貧民になった甲斐はあった。
魔導書【暝闇の書】に至っては、【耐久度】というものがそもそも存在しない。
まったくダメージを受けつけない仕様になっているのだ。
流石、神の叡知の書。神仕様。
俺は下のベッドのカーテンをそっと引いた。
レフとライが仲良く丸くなり、すっかり深い眠りに入っている。
ベッドで丸くなってすやすや眠る双子を、俺は揺り起こした。
可哀想な気はかなりするが、パーティメンバーとして組み込まれている以上、これはチビ達の仕事でもある。
所詮、冒険者などやくざな職業だ。実力さえあれば、子供だろうが人外だろうが誰彼問わずになれるが、年齢制限がないかわりに、子供だからと優遇されることもない。眠らせておく事は、仕事の放棄とみなされてしまう。
チビ達は冒険者として生きる事を選んだ。
幼いなりに、その責任は理解しているようで、起こせば文句も言わずに起きてくれる。お兄さん、ちょっと涙でそうです。
俺にできることは、ぎりぎりまで寝かせてやることぐらいしかできない。ジェイスもそれがわかっているのか、チビ共には時間ぎりぎりまで何も言わない。
「ほら、レフ。ライ。起きろ。見回りのお仕事だぞ」
「あ〜」
「う〜」
目をこする双子を、ベッドから下ろして立たせる。
重剣を担いだジェイスが扉の前に立つ。
「時間だ。行くぞ」
「さあ、行こう」
「あい。レフ、行く」
「あい。ライ、行く」
甲板に上がると、【天駆ける白狼】のメンバーが待っていた。
次の見回り番に、船内等の鍵を渡すためだ。
プレートアーマーのリーダーが、大きな金属の輪にぶら下がった鍵束を、ジェイスに渡した。
「では、後はよろしく頼む」
「ああ」
「……ねえ。【蒼銀の風】の、リーダーさん」
リーダーの陰からするりと弓使いの猫耳女性が現れ、ジェイスにするりと腕を絡めた。瞳孔が妖しく光る。まるで獲物を狙う猫のようだ。ふっくらとした胸元でジェイスの腕を挟んでいるのは、ワザとだろうか。うん、ワザとですね。
「気をつけてね。人の眼は、夜が見にくいというから。それとも、あたしがついていってあげようか? 犬人族より、猫人族のほうが、夜目がきくのよ」
双子がむう、と頬を膨らませる。
「鼻、効く。平気!」
「耳、聞く。平気!」
俺は双子の頭をなででやった。
ジェイスは無表情に、猫耳女性の手をするりと外した。
「結構だ」
「くく。残念だな、リリー。彼は、女には困ってないみたいだよ」
リーダーの脇に立った双剣の青年が、セットした髪を手櫛で整えながら、口を歪めて笑った。
「あんた、子連れでよく採用されたね。それとも、顔で採用された? 良い女だよね、あの社長」
「おい!」
リーダーがたしなめる。
「三人とも、あんたの子供?」
……おい。まさかと思うが俺も子連れの中に含まれてんじゃないだろうな。
「あほか! 俺は子供じゃ──げふっ!?」
「行くぞ」
何か言い返してやろうと息を吸い込んだ途中で、ジェイスに襟首を捕まれたため、俺は大きく咳き込むはめになった。
甲板に出ると、外は月明かりすらなく、真っ暗だった。
新月の闇夜。
俺は身を震わせた。
夜の海を渡る潮風が、肌を突き刺すほど冷たい。
真っ黒な海はどこまでも続いていて、何も見えない。
夜空の星座もさっぱりわからないので、どこが北なのかもわからない。
どこに向かっているのかも分からなくなりそうで、少し、怖い。
前を歩くジェイスが顔だけ振り返り、不機嫌全開な俺たちを見て、溜め息をついた。だって、なんか悔しいだろ!
「ああいうのは、放っておけばいい。付き合うだけ時間の無駄だ」
「わかってるさ。そんなの、分かってる。でも、なんか、すげえ悔しいじゃん! なんか、実力で採用されたんじゃないんだろ、どうせズルしたんだろ、みたいな言われ方してさ!」
「「してさ!」」
「しかも俺まで子供扱いしやがって!」
「「がって!」」
「わかった。よく耐えたな。えらいぞ」
ジェイスがレフ、ライ、俺と順番に頭を強くかき混ぜた。おい。ちょっと待て。なんで俺まで含まれてんだ。
双子はそれで浮上したようで、にっこり笑みを浮かべる。
「レフ、えらい?」
「ライ、えらい?」
「ああ」
「「えへへ!」」
君たちはもう完全浮上ですか。そうですか。
「あのな! 俺は頭なでられたくらいで誤魔化されるほど子供じゃないんだか、ら、な……」
我に返った俺はいたたまれなさに、思わず顔を両手で押さえてしゃがみこんだ。
何、ツンデレーション起こしてんの俺。寒い。
「どうした?」
「いや……自分のあまりの痛さにな……凍死しそうになっただけだ……」
「なんだそれは」
どん、と船体が大きく揺れた。
「な、なんだ!?」
激しい揺れが続く中、双子は床の上に爪を立ててしゃがみ、ジェイスと俺は手すりにつかまった。
何か、大きな物にぶつかられたような衝撃。
辺りを見回す。
いつの間にか雲が月と星を覆い、暗すぎて何も視認できない。
目視は不可能だ。
俺は戦闘モードに切り替えた。暝闇の書が手元に現れる。
「 我、アイテールを通し、天の元素へ干渉」
魔道書がぱらぱらと捲れる上に、正12面体が現れ、回る。
「光の粒子を放ち、暗き意思を照らし出さん」
俺の足下に緑色の光の輪が浮かび上がる。
「【500メートル圏内を索敵】」
緑光の輪は猛スピードで拡大し、サーチを始めた。
広範囲の索敵が可能な魔法スキルだ。最長1キロまで。敵対意思のあるものだけを探して、光でマーキングし、尚且つリストに表示してくれる。敵対意思のあるものだけ、というのが、微妙なところといえば微妙なところだけど。
類似するスキルとしては、【温度分布検索】【アイテール反応検索】などがある。要は細かく使い分けろ、ということのようだ。一発で何でもかんでも全部がわかるような便利なものなんて現実にあるはずねえだろ、という内容の説明書きがあったのを鮮烈に覚えている。この【魔導学者】デザインしたやつは、相当に捻くれて神経質な奴に違いない。マジで。
反応があった。
船体のすぐ左に、光の粒子が集まってふわふわと浮いている。
「左だ!」
「「魚の匂い、する!」」
魚?
ジェイスが手すりから乗り出し、暗い海に目を細める。
その後の反応は速かった。手すりから飛び退き、肩に掛けた剣を片手で軽々と引き抜く。
俺の身長ほどもある、厚さ5センチはありそうな、重量感たっぷりの大剣だ。刀身には、びっしりと文様が刻まれている。
俺は驚いた。
重剣はその重さ故、両手持ち武器だ。威力は驚異的だけどいかんせん重すぎて、一度技を発動しようと構えるとその場から動く事は困難だ。よって重剣使いは大盾、フルプレートが基本装備になる。んだけど。
片手で扱う人、初めてみたよ。
「下がれ! 来るぞ!」
ジェイスの指示と、海の底から大きな塊が飛び出すのは同時だった。船体と同じくらいの大きさの、黒い──
「魚!?」
びっしり生えた鋭利な歯。こちらへ向けて大きく開き、飛んでくる。
ムンクの叫び顔の、巨大魚が。
なんか、どこかで見た覚えがあるぞ!?
どこで見たっけ!?
ジェイスが重剣を横に薙いだ。空を切る音が耳に痛いほど鳴り、剣圧の閃光が弧を描いて飛んでいく。
閃光は巨大魚の顎にあたった。大きな水飛沫を上げて、巨体が再び黒い海に消える。
ムンク顔……御神体……ヒゲオヤジ……肩……
「──あああああ! 思い出した! 船舶協会で会ったヒゲオヤジの入れ墨で見たんだ!」
「は?」
俺は交戦リストを表示してチェックした。
索敵は完了していた。詳細情報を表示する。
嘆きの巨大魚【ムンカーフィッシュ】 ???
検知数 1体
大型船ほどもある巨体、そして世の全ての苦悶を味わったような嘆きの表情は、見る者を絶望の淵にたたき込む。肉食魚。その巨体から繰り出される体当たりは、一撃で船を沈めることもある。鋼のように硬い鱗は、生半可な武器でははじき返される。この恐るべき巨大魚を倒した者は、海の男としての最上の名誉を得ることだろう。
「確かに、魚だな」
ジェイスが自らの交戦リストを確認しながら、言った。
開示された索敵結果やモンスター情報は、パーティ全員に伝達される。そして、パーティの知識は、共有されるのだ。索敵後、パーティ内の誰かが知っていれば、その情報も表示される。どうやらジェイスがこの巨大魚を知っていたらしい。
経験値や報酬やアイテムは分配されて手取りが少なくなるが、このようにパーティを組むメリットはそれを十二分に上回る。まあ、考え方は人ぞれぞれだけど。
「くそ、やっぱりムンクか! ──強化魔法かける!」
俺が全体強化魔法をかけ終えた頃、階段を駆け上がる複数の足音が後方でした。
金剛力士像が2体、じゃなかった、【海王の鉄槌】が真っ先に甲板に到着した。
「どうした! ぬお、嘆きの巨大魚ではないか!」
「敵に不足なし!」
二人が上腕筋を盛り上げ、拳を構えた。うん、予想してた。やっぱり肉弾戦ですか。
ついで、シェフ4人【美食の求道者】。
「おお! すばらしい! 幻の海の珍味だ!」
「なんとか魚肉を! 魚肉を!」
シェフ2名がおのおの包丁を構える。残り2名はお玉と麺棒。
いや、魚肉はいいから先に倒そう。ていうか、どうやって戦うんだ。もうどこから突っ込んでいいのかわからない。
最後に【天掛ける白狼】。
「嘆きの巨大魚か……面倒な相手が襲ってきたものだ。しかも、こいつは……」
船体の右側で水柱が上がった。
「右だ!」
「ぬう!」
「幻の珍味!」
再び巨大魚が飛びかかってきた。
拳に火を宿した金剛力士2名と、熱した包丁を手にしたシェフズ2名が駆けていき、シェフズ2名が魔法を唱え出した。お玉と麺棒は魔法の媒体だったのか。足下の魔方陣の色で、魔法の属性が分かる。二人の足下は赤色。火属性の魔法を発動しようとしている。
一斉攻撃を受け、巨大魚は再びはじき飛ばされ、黒い海に姿を消した。
火属性打撃、火属性斬撃、火属性魔法、全てが効いていない。
「ぬう!?」
「なんで!? 火が効いてない!?」
「火属性が弱点なのか?」
「そのはずなんだが……」
大盾のリーダーがジェイスの横に立つ。
「……【蒼銀の風】の。ムンカーフィッシュは、通常白い体だ。貴殿は黒い体のものの話を、聞いた事があるか?」
「いや、ない」
「そうか……」
皆が戸惑った表情を浮かべている。
舳先から衝撃。
体当たりして、船を止めるつもりだ。
俺は敵情報を再度確認した。
「ん?」
嘆きの巨大魚【ムンカーフィッシュ】 ???
???ってついてるぞ。3文字? 3文字……もしかして。
「変異種、とかか?」
ジェイスが顔だけで後列の俺を振り返る。
「変異種か。そうかもしれん」
「火属性効かない?」
「わからん。初めてみるタイプだ」
「……リーダー」
「なんだ? ノーフェ」
黒ケープの少女魔道士が音もなく進み出てきた。さらさらの黒髪を、腰の辺りまで伸ばしている。長い睫毛と薄紫の澄んだ瞳が印象的な、静かな雰囲気の少女。
「リーダー。各属性を試してみましょうか」
「そうだな。頼めるか?」
少女は頷き、ただ、と目を伏せる。
「敵が攻撃の際に姿を現すのを待って、1属性ずつ試すとなると、最悪合計6回。船体がそれまでもつかどうか……」
火、水、風、土、光、闇。合計6属性か。
また舳先から衝撃。
船体がぎしぎしと軋み出した。
これは、6回の体当たりに耐えられ……ない気がする。
仕方ない。
「ちょっと、そこの、【天駆ける白狼】の魔道士の女の子!」
黒髪の美少女が振り返る。
「君の得意な属性は?」
この場において場違いな質問を、とでも言いたげな目で俺を見た。目で語るタイプですね。心に突き刺さります。
「……闇属性ですが」
「じゃあ、残りの5属性、俺が引き受けるから。てことで、その作戦で行こう、ジェイス。と、【天駆ける白狼】のリーダー」
「何を言ってるんですか。同時に、ですよ? あの巨大魚が飛んでいる間に、同時に5属性の魔法を発動できるわけないじゃないですか」
「同時は無理だけど、極短い時間で発動すれば間に合うよ」
「無理に決まっています。詠唱にどれくらい掛かると思ってるんですか」
「俺、時短技持ってるからいけると思う」
「【詠唱短縮】ですか? 私もマックスレベルで持ってますよ。それでも5属性を唱え終わるのに5分はかかるでしょう。5分もあの巨大魚が滞空していると思いますか?」
「思わない。でも、いけるはず」
「根拠がありません」
俺は腕を組み、唸った。
さて、この気難しそうな美少女に、どこから説明したら分かってくれるだろうか。
ジェイスが側に寄ってきて、上から俺を覗き込んだ。
「宵月。いけるのか?」
「いける」
「分かった」
ジェイスは即断した。信じてくれた、のか。
「【天駆ける白狼】のリーダー。その作戦で行こう」
「だが、本当にできるのか?」
「俺は宵月を信じる。それに、闇雲に攻撃していては埒が明かない。通常の戦法が通用しないんだからな」
「確かに……分かった。やってみよう。いいな? ノーフェ」
「リーダー命令とあれば」
大盾のリーダーは頷き、甲板にいる全員に聞こえる声で宣言した。
「皆聞いてくれ! 奴は通常の嘆きの巨大魚ではない! そこで属性を確認する為の作戦を我々【天駆ける白狼】と【蒼銀の風】で決行する! 次に奴が現れた時に全属性を叩き込む。有効属性の確認がとれ次第、各自武器に属性付与、もしくは属性攻撃で叩いてくれ!」
全員が頷く。
斯くして、作戦は始動した。
俺とノーフェと呼ばれた魔道士少女が甲板の中央に立つ。
その周囲に、残りの冒険者たちが立つ。詠唱の中断を防ぐための、保険だ。
「……ジェイス」
俺の左横に立ったジェイスに小さく声をかける。
「なんだ」
「……信じてくれて、ありがとう」
ジェイスが笑う。
「お互い様だ」




