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021

 りいん、と涼やかな音がする。


 りいん。

 りいん。


 どこかの料亭の、日本庭園で見たことがある、あれだ。地中に作られた小さな空洞に水滴が落ちると、反響して澄んだ音が鳴る装置。あれによく似ている。何と言ったか──そうだ、水琴窟だ。


 目を開ける。

 水色の空間だった。

 一瞬、水の底にいるのかと思った。

 ずうっと底に、横たわっているのかと。


 見上げると天井は高く、三階ほど上にアーチ状に見える。

 青を基調にしたガラスがはまった楕円形の窓が並び、水色の光が差し込んでいる。

 光が揺らぎ、水底のような空間を作り出しているのか。


 沢山の白い柱は、規則正しく奥まで並んでいる。

 鏡のように磨かれた床も白い。ただ残念なことに、随分と長い間手入れされていないからか、所々割れ、凍り、そこかしこに雪溜まりができてしまっていた。

 奥は三段ほど床が高くなっており、そこには横長の台座がある。供物を神に捧げる台なのだろうか。

 その奥には天井近くもある大きな、学者然とした神の像が立っている。

 片手に羽ペン、片手に本。

 体力は捨ててるだろう細い身体。移動手段だと思われる大きな鷲に乗っている。鷲はランプをくわえさせられている。その背には本の山。

 ……動きたくないから移動は最小限に、という意思がはっきりと見て取れる神様だ。


 ただ──その首はなかった。



 どこかで見たことがある光景だった。

 どこで見たっけ──


 俺は慌てて飛び起きた。


 ここは……!



「《忘れ去られた祭壇》じゃないか!」



 俺は周囲を見回した。

 誰もいなかった。気配もない。

 しん、と静まり返っている。凍てついた空気が、肌を刺す。まさか。


「俺だけ……?」


 そうだ、ジェイスは!

 落ち着け、俺。俺が生きてるってことは、身代わりの術は発動していない。ということは、ジェイスは死んでないってことだ。

 まだ、生きてる。

 でも。


 あの姿。

 あの後、どうなったんだ……?


 そうだ。

 皆も、あれからどうなったのだろう。

 俺は、18枚羽の銀竜に捕まえられて。

 不甲斐なくも気を失って──


「連れて来られた、のか?」

 何故。

 俺は思い出した。

 そういえば。


 神殿には、コクトーがいるんじゃなかったか?

 

 俺1人で、戦えるだろうか。

 いや、その前に、やっぱりあの谷に戻ろう。ジェイスが気になる。レフとライも。ロッソ達も。






「──宵月! 無事か!?」


 後ろの両開きの大きな扉から、茶色い毛皮の防寒具を着込んだロッソが駆け込んでくるのが見えた。一瞬、熊に見えて焦った。モンスターかと思ったじゃないか。

「ロッソ! 無事だったのか!」

「おうよ」

「よかった。皆は──ジェイスは──?」


 息を切らせたロッソはフードを外し、目を閉じて、首を横に振った。


「……わからん。いきなり灰色の訳の解らん化け物が暴れて、銀竜が消えた後、お前を追おうとしたが、どこに行ったかもわからなかった。闇雲には探せん。すまんが、あれではジェイスの生死も確認できない状況だった。だからひとまず《忘れ去られた祭壇》に向かうことにしたんだ。だが……途中で猛吹雪に遭い、皆バラバラになっちまって……」


「そんな……」

 ロッソが俺の背中を強く叩いた。元気づけるように。


「心配だが、今の俺たちにはどうにもできん。あいつらを信じようぜ。あいつらは全員精鋭だ。迷ったら《忘れ去られた祭壇》を目指すことになってる。だから待とう。大丈夫さ。待ってりゃそのうち来るって!」


 俺は唇を噛んだ。

 こんな時、チャットやメール機能があれば、無事を確認することもできるのに。

 ロッソは辺りを注意深く見回していたが、祭壇の方へ足を向けた。

「ロッソ?」


「宵月。祭壇に何か載ってる」


「え?」

 俺もロッソの後を追って、祭壇に近づく。


 白い祭壇の上には、魔導書が2冊置いてあった。


 赤い本と、白い本。


「赤本と白本だ!」


 赤が【炎躯の書】。白が【魂魄の書】。


「なんで、こんな所に──」


「……コクトーが、置いたんじゃないのか?」


 俺はぎくりとした。慌てて辺りを見回した。耳を澄ましてみたが、物音一つしない。俺達以外、誰もいない。


「ロッソはコクトーに会ったか?」


「いいや。あいつ、こんな大事なもん置いて、どこにいったんだろうな。まあ、こっちとしてはラッキーだ。これで2冊手に入った。残るは黒本だけだ」


 黒本【暝闇の書】。

 そうだ、俺が持ってるって、まだ話してなかった。


「なあロッソ」

「あん?」

「話すの遅れてすまん。実は、黒本は俺が──」



「「──いた! 青いお兄さん!」」



 聞きなれた幼い声に、俺は反射的に祭壇を駆け降りた。

 レフとライの声だ。

 どこだ!?


 開いたままの両開き扉から、2匹の大きめな柴犬によく似た犬が駆け込んでくるのが見えた。


 もこもことした毛皮の上に、ちゃんと上下の服を来て、鞄を背中に背負っている。

 ん? 柴犬?


 大きめな柴犬2匹に飛びつかれ、俺は支えきれずに転んだ。


 顔をぺろぺろと舐められる。しっぽがちぎれんばかりに振られている。見覚えのあるしっぽ。まさかと思うが。


「……レフ? ライ?」


「ワン!」

「ワン!」


 礼儀正しく、一声ずつ順番に吠えた。


「……お前ら! よかった無事で! でも、どうして此処が?」

「「匂い、追ってきた!」」

「追ってきた……そうか」

 よしよし、と頭をなでてやる。

 なるほど、犬人族だもんな。たしか獣化できたはずだ。当然、チビ達もできるはずだよな。

 犬並の嗅覚と聴覚があるなら、この視界最悪の雪原も平気だろう。


 俺は立ち上がり、チビ達の身体についた雪を払ってやった。


「……宵月。チビ共、無事だったんだな」


 祭壇に腰掛けたロッソが、頭を掻きながら大きな声で話しかけてきた。

「ああ。俺の匂いを追ってきてくれたみたいだ。なあロッソ。チビ達と一緒に、ちょっとジェイス達探してこよう──」


 俺は前につんのめった。

 危ない。

 見ると、チビ達にコートの裾を噛まれていた。


「何だよ。引っ張るなって」

 チビ達が首を横に振る。


「あれ、違う、匂い」

「あれ、知らない、匂い」

「知らないって……ロッソだろ。なに言ってんだ?」

 チビ達が首を振る。


「知らない、匂い!」


 知らない匂い?


 ──まさか。 


 俺は息を飲んだ。


 アサシンの特殊スキルにあるじゃないか。なんで忘れてたんだ、俺。


 【四ツ目鴉の社】所属のアサシンが覚えることができる上位特殊スキル──【変装】。


 心臓が早鐘を打つ。

 手が震えそうになるのを、気力でどうにか押さえ込んだ。

 俺はできるだけ平静を装いながら、ロッソを見あげた。

 ロッソは祭壇に座ったまま、微笑んでいる。


「……なあ、ロッソ。俺、チビ達もいるし、ちょっと外に行って、皆を探してくるわ」

「まあ、ちょっと待てよ。それよりも先に、黒本をここに並べて、神を呼んでみないか?」

「いや、皆が揃ってからにしよう」

「先に確認しておいたほうがいい。もし呼べなかったら、後が怖いぞ」

「それでも、抜け駆けはダメだ。よくない」

「良い子ぶってたら、いつまでたっても帰れないぜ?」

「良い子ぶってなんかねえよ。常識だ。とにかく、俺たちは、外に行って皆を探してくる」

 俺はチビ達を促して、足早に両開き扉へ向かった。

 

 目の前で、扉が崩れた。


 まるで、上から押し潰したように。


 もうもうと舞い上がる土煙の向こうに、銀色の鱗に覆われた爬虫類系の巨大な手が見えた。

 チビ達が耳をねかせ、しっぽをまるめながらも、懸命に吠えている。

 俺はチビ達の鞄の紐を掴んで下がらせながら、冷や汗が吹き出た。

 まさかまさか。



『──黒本を渡せ』



 可聴音域ぎりぎりの、重低音の声が命令した。

 俺はレフとライの外套を掴んで、ゆっくり後ずさりした。


「気が変わったか?」

 後ずさりした先の背後で、楽しそうなロッソの声。


「コクトー。なんで皆と協力して、一緒に帰ろうとしないんだ」

 ロッソ──いや、ロッソに変装したコクトーが、可笑しそうに膝を叩いた。


「ははっ。馬ぁ鹿かお前。なんの為に、あいつが、俺らを分割して連れて来てると思ってるんだよ。一回じゃ無理だからだろ。てことは、一回で仲良く皆で帰ることも無理ってこった」


 規定枠、という言葉が脳裏をよぎるのを、俺はかき消した。


「そんなの、わからないだろ」


「じゃあ、もし帰りの番号札が1枚きりだったらどうする。血みどろの奪い合いになるぜ。そんな凄惨な事になるくらいなら、お先に1人、帰らせて頂く方がずっと気楽でいい。そう思わないか?」


「自分だけ助かって──あとに残された皆の事を、ずっと背負って生きていくのか」

「はあ? なに言ってんだ、お前。なんで、俺が、赤の他人の事まで背負わなきゃならないんだよ。俺が知るかよ。俺は、俺が思う通りにする。他人の事なんざ、知ったことか。お前だってそうだろう?」

「俺は」

「俺はお前の黒い本がほしい。お前は俺の白と赤の本がほしい。話は決裂確定。なら──こうするしかねえよな?」


 コクトーはにやりと笑うと、祭壇から飛び降りた。

 黒光りのする双剣をとり出して、慣れた仕草でくるりと回して構える。


 ヤル気まんまん、ってやつですか。


 俺は戦闘モードに切り替えた。

 手元には、黒本【暝闇の書】。コクトーを相手にするなら、最強装備でいかなければ、危険すぎる。


 コクトーが喜色を浮かべ、声を上げて笑った。


「ほらな! ほれみろよ。あくせく動き回んなくても、こういうもんは、待ってりゃ勝手に集まってくるもんなんだよ。情報さえこっちで把握して、ちょちょいと操作してりゃ、いいんだ」


 向かいの銀竜が、喉の奥で、くつくつと笑った。


「……お前、あの銀竜と協力してたのか」

「利害が一致したんでな」

「利害だと……?」


「銀竜様も、噂の三冊の魔導書を探してたのさ。遠路はるばる、西大陸から東大陸まで来てね。銀竜様も、ロッソの赤本が欲しかった。どう奪うか悩んでるところに、俺が現れた。これはもう協力するっきゃないでしょ。銀竜様はNPCの女を1人、蘇えらせたいそうで」


 壁が一部吹き飛んだ。


『余計な事を言うな。さっさとやれ。我がここを守護しているうちに』


「おおコワ」

「NPCを蘇えらせる……?」

「まったく、神様の所業だよなあ」

「まさか。そんな事が、できるのか」

 それはもう、世界の設定をねじ曲げるような内容だ。


「可能さ。三冊揃えばな。そして、この場所。分からねえ? 分かるだろう。お前には。【名も無き神殿】は、【古き神が身罷られた神殿】とも言われている。お前は【虚空検索】してみたか?」


「は? 何言ってんだ、あのスキルは使えないだろ」

 三色の魔導書に付随している、特殊スキル。


【虚空検索】

 虚空データベース内を検索します。

 検索項目、及び内容によって、検索時間は変動します。

 注意/アクセス権限の無い項目は、開示されません。

 注意/検索項目のデータ量によっては、通信環境や、受け取る側のスペック、及び、容量不足等により、ダウンロードに支障をきたす場合があります。万一、受け取る側に故障、破損等何らかの異常が発生した場合、責任は一切負いかねます。御利用は計画的に、且つ、自己責任でお願いします。

 消費HP999/秒

 消費MP999/秒


 いや、これ使えないだろ。

 検索始めた瞬間に、最高でも10秒で全てが終了だろ。

 しかもご利用は計画的にって何だよ。しかも自己責任って。怖い。


「あ。そうか」

 

【白の書】と【赤の書】を持っていれば、可能になるのか!


 白の書には、MP自動回復がついている。

 毎秒1MP回復する。

 【赤の書】は、HP自動回復がついている。 

 毎秒、1HP回復する。


 常時、HPとMPが、1で残り続けるということだ。

 MP0での【昏倒】と、 HP0での死を回避できる。

 

 あとは、全回復アイテムをひたすら浴びるように飲み続けていれば、アイテムがある限りは検索し続けられる。

 ただ、自分の精神と忍耐力と金がものすごい勢いでなくなっていきそうだけど。


「お前、使ってみたのか」 

「ああ。大変だったぜ。全回復アイテムを手に入れるのに金と労力はんぱねえし、検索できねえ項目もあるし、頭は割れるように痛えし、気が狂いそうになるし。でも、収穫はあった。この世界の古き主神は、この地に祭られていた。突如現れた【異空より来る災厄】と戦って死んだ。そして──この世界は一度死んだ」


「世界は、一度死んだ……?」


 そんな設定は初めて聴いたぞ。


 俺が知っているのは、古すぎて名すら忘れ去られてしまった神殿という事だけだ。謎の古代神殿。オーパーツやオーバーテクノロジーの影がちらつく、よくある設定の神秘的な神殿だと。


「【異空より来る災厄】は、この地から現れ、世界を食い荒らしていった。力ある者たちは戦ったが、結局敗れ、世界は壊れた。そして──残ったわずかな世界の残骸を元手に、異界の神が世界を造り直した」


 異界の神? 造り直した?


「そ、そんな話……」

 コクトーが静かに笑った。


「ようするに、ここは世界の弱き綻びであり、また、中心でもある。綻びからは、世界の向こう側──神の領域から──無限に限りなく近い魔力を引き出すことが可能だ。【異界への帰還】みたいな膨大なアイテールを消費する大きな術を使う場としては、此処以上に相応しい場所はない」


「【異界への帰還】? お前、まさか、自力で戻るつもりなのか?」


 だから、コクトーはこの神殿を選んだのか。


「そうだ。当たり前だろ? 訳の分からねえ神様と禅問答なんかする気なんてねえんだよ! 叶えてくれるかどうかも分かりゃしねえってのに! 三冊の魔導書と、この場所なら、俺1人くらいなら帰れる。そして──向こうの世界から、連れて来ることもな」


 コクトーが天井を振り仰いで笑った。

「ようやく。ようやくだ。──」


 なにかつぶやいているが、声が小さすぎて、聞き取れなかった。

 コクトーは、向こうから、連れてきたい人がいるのだろうか?

 いや、いまはそんなこと詮索してる場合じゃない。


 白赤黒の三冊の魔導書。

 コクトーは、自分で帰還の魔法を使うつもりなのか?

 三色の魔導書を使って。

 そんなことが可能なのか。


 神の造りし書。


 白は【魂魄の書】。白は天の元素。天は宙。宙は膨大なる情報の虚空。魂の情報。

 赤は【炎躯の書】。赤は火の元素。熱により精製されるもの。肉体。

 黒は【暝闇の書】。黒は闇の元素。全ては最後、闇に帰る。繋がっている。糸。


「うあ」

 俺は激しい耳鳴りと頭痛に、額を押さえた。


「おいおい。あんまり黒本、手に持ってないほうがいいぜ? ここの世界に来て、神様の領域ってヤツに、直に繋がりやすくなってるみたいだ。下手すると膨大な情報が流れ込んでくる。長いこと膨大な情報にさらされてっと、頭、壊れるぜ。俺、経験済み。ほんと、マジで壊れるから。脳沸騰すっからな。耳から血とかドバドバ出てくるから」

 

 うげ。


 だから、祭壇に置いていたのか。


 俺が、黒本で魔法スキルを使うたび倒れていたのは、それが理由だったのか。結構、危ない橋を渡っていたようだ。


 遠くで、大きな爆発音がした。

 建物が揺れる。なんだ? 地震か?


『──奴が来た。急げ』


 奴?


「分かってるって!」

 偽ロッソが立ち上がった。その姿がぶれる。


 霞が晴れるように、黒ずくめの男が立っていた。

 黒い髪、黒いコート、黒い手袋。

 鼻から上を覆う白い鬼面を被っているから、顔はわからない。


 コクトーが、何か投げてきた。俺は咄嗟に腕で顔を庇う。


 金属の鎖は、俺の左腕に何重にも巻き付いた。

 黒本ごと。


「悪いな。黒本は【強奪】させてもらうわ。【盗む】はランダム判定だからな。それにレベルによって制限がかかる。高レベルの相手からお目当てのアイテムを盗むのは、そうとうに難しい。お前みたいに、俺と同等レベルで、やらためったら食材を持ち歩いてる奴を【盗む】なんてしてたら、いくら時間が合っても足りやしねえ。失敗を何度も繰り返した上、ようやく盗めたと思ったら食材だ。やっとられんわ」


 聞き捨てならん。


「なんだと!? お前、俺の食材盗んだのか。どれだけ盗んだ。返せ。戻せ。俺のコレクション!」

「阿呆かてめえ、どんだけ食材コレクションしてんだよ! 盗んでも盗んでも盗んでも盗んでも盗んでも食材で……お前どんだけ食い意地張ってんだ!?」

「通報だ! GMに永久アカウント凍結されろ!」

「ここにはGMなんかいねええよ!」


 そうか、プレイヤーから【盗む】ができている時点で、セキュリティやらプレイヤー保護の規定やらはここには無いっていうことだ。

 なんてことだ。自分が思ってたより、ここはかなりフリーダムになってるんだ。


 コクトーが咳払いした。 

「くそ。そんなことぁもうどうでもいいんだよ。──目当ての武器が欲しけりゃ、手に装備してもらって、こうして【強奪】するほうが断然早い」


 腕が鎖に引っ張られ、俺はたたらを踏んた。


 ごとん、と音がした。


 鎖にからめ捕られていた俺の腕が、本を持ったままの形で、床に落ちた。


「ぐ、あっ」

 アサシンの持っている鎖は片刃になっている。巻き付けて引っ張れば、切り裂くことが可能。


 俺の肘から、大量の血が吹き出てた。

 瞬く間に血だまりができる。


 膝をつくと、見る間にコートの裾が真っ赤に染まっていっていた。

「「青いお兄さん!」」


 痛みで神経が焼き切れそうだ。


 気を失えるものなら失いたい。頼むから、ゲームなら、痛みの機能、消してくれ。くそ、クレームだ。お客様窓口はどこだ。

「く、そ」

 俺はアルグリフィの研究書を取り出し、回復呪文を自分にかけた。出血が止まる。


 祭壇を見ると、鎖をたぐり寄せたコクトーが、俺の腕を投げ捨て、黒本を手に持ったところだった。

「黒、刀!」



 コクトーが、狂ったような笑い声を上げた。




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