赤い瞳の狂った思考
前回のレイラちゃん視点。
護衛依頼初日。
話し合いの結果前衛を任されてきつね君達と別れて馬車の前に移動した後、私は御者の席に座って前を見ていた。きつね君がいなくてちょっとつまんない。
隣には馬車を引く馬を操る多分今回の依頼人の人間、そしてその向こう側には女の冒険者が座ってた。きつね君曰く、女冒険者A。
御者台は荷物の入る場所が近く、背もたれにする事が出来て、その中とは窓を開ければ繋がっているような構造になっている。窓は依頼人の後ろに付いていて、内側に引いて開けるタイプみたい。
今はその窓が開いていて、中にいる男の冒険者が顔を出している。御者台にスペースがないから仕方なくこうしているみたい。
「なぁレイラさん、アンタなんであのHランクに付いてんだ?」
で、さっきからずっと私に話しかけてくる。やれ好きなものはなんだとか、やれ今まで誰かと付き合ったことはあるかとか、グランディールにいた男とおんなじ眼をしてる。だからきつね君が好きだとか、付き合ったことはないとか、特に興味もなく正直に答えてあげた。
そしたら、この質問。私がきつね君を好きだって言ったからだろうけど、この人ちょっとしつこい。食べても良いかなぁ……でもそうするときっときつね君に迷惑が掛かるもんね、我慢するよ、私はきつね君が大好きだから!
「なんで?」
「アイツはHランクで、大した事のない雑魚だ……Cランクのアンタが付く理由がないだろ」
「あはっ♪ 見る目がないね、大した事のない雑魚っていうなら貴方もそうだよ?」
「……まぁアンタからしたら俺もそうなんだろうが……アイツが特別何かに秀でているようには見えねぇな」
どうやらこの人間は私ときつね君の仲に嫉妬しているみたいだ。狙ってるのは私かな?
そう思って彼を見てみる。不味そうな肉だなぁ……匂いも汗臭いだけで全然美味しそうじゃない。どこにでもいそうな人間、残念だけど私のお眼鏡には適わなかったみたいだね、興味ないや。やっぱりきつね君が一番好き♡
「分からないなら分からないままで良いよ、きつね君の良い所は私が知ってればそれで良いの♪」
「……妬けるねぇ」
きつね君の良い所は私だけが知っていればそれで良い。彼は私だけのものなんだから。他は私の餌でいい、きつね君に擦り寄る人間も私の餌、全部食べてしまえば皆同じだもんね。きつね君以上に美味しい餌はないだろうけど♪
そしたら私の背後でなんだか思案顔の人間がじろじろと見てくる。確かに私は可愛いし、スタイルだって悪くはないと思うけど、じろじろ見てくるのはあまり好きじゃないなぁ。
「こっち見ないで?」
「む……すまん」
そう指摘したら眉間にしわを寄せて不機嫌そうに顔を窓から引っ込めた。
すると、今度は依頼人の反対に座る女が私を睨んでくる。そんな敵意に満ちた眼で見られたら食べたくなっちゃうじゃない♡ 止めてよ、我慢してるんだから♪
「なぁに?」
「ふん、貴女よりも私の方がジルを好きなんだから……」
「ジルって今の男? へぇ……貴女はあの男が好きなんだねぇ……私には分からないなぁ、あの男の魅力が」
「はっ、Cランクって言ってもその程度ね、人を愛する事も知らないお子様じゃない」
お子様、お子様ねぇ……この女に何を言われようと何も気にならないんだけど、人を愛することも知らないなんて、そんなことはない。私はきつね君が大好きだもん。好きで好きでたまらないんだもん♡
きつね君の言葉なら、どんな暴言だって愛してあげられるよ♡
「うふふ、うふふふふ……♪」
「な、何笑ってんのよ」
「なんでもないよー、うふふふふ……♡」
なんだかきつね君に会いたくなっちゃった♪ きつね君を想うだけでこんなに楽しいなんて、うふふ♪ やっぱり人を愛する気持ちって凄く面白いなぁ、身体がうずうずしてわくわくして、もうたまんない♡
後できつね君の所に行こっ♪ きつね君、きつね君、うふふふ、顔を思い浮かべるだけでお腹の下辺りがじゅんとして、きゅんきゅんしちゃう……♡ 凄い、やっぱり凄いよきつね君……!
「そろそろ日も落ちてきます、野営の準備をしましょう」
依頼人の人間がそう言って、馬車を止めた。見れば確かに日も落ちて来てる。私は夜目が利くから全然問題ないけど、人間ってやっぱり不便だなぁ。
でも、これできつね君に会いに行けると思えば、気分も高揚してくるから不思議。うふふ、恋愛って楽しいな♪
◇ ◇ ◇
日が沈んで、野営の準備も終わった頃、私は早速きつね君の所へ行こうとした。女冒険者Bの方が火魔法を使えるみたいで、焚き火もすぐに準備出来たし、食事は携帯食料を摘まみながらお腹を膨らませれば良いから、準備にそう時間は掛からないもんね。
そのままその場を離れようとしたら、あの男冒険者が私の手を掴んで止めて来た。触らないで欲しい、そう思って私は手を引いて離れた。
「ちょっと待ってくれレイラさん、明日からのことに付いて話をしておきたいんだ」
「えー、やだよ。私はきつね君の所に行きたい」
明日からの事なんてどうでも良いじゃん。どうせ大したことないのばっかなんだし、そんなに気を張らなくても死なないよ。
そんなどうでもいいことよりも私はきつね君の所へ行きたいの。
「そう言わず、ほらこれでも飲んで」
男が差しだしてきたのは、コップに入ったミルク? 焚き火で温めてあるみたいだけど、そのミルクからは変な匂いがした。多分、薬が入ってる。人間には分からないくらい微かな匂いだけど、病を操る私だからかな? なんとなく分かった。
そのまま視線を男の眼に向けたら、男の眼からは私を舐めまわす様な意思が感じられた。気持ち悪いとかは思わなかったよ? だってそれは私がきつね君に向ける気持ちと同じだもん。
でもごめんね、私は貴方の気持ちには応えられないの。だって私はきつね君が大好きだもん。
「いらなーい、じゃあね♡」
だから私はそう言ってその場を離れようとした。
でも、
「チッ……良いから来いよ!」
「えっ?」
男は私の手を掴んで、引っ張ってきた。急なことに私の身体は引かれるままに体勢を崩して、地面に倒れる。そして間髪入れずに男が私の上に覆いかぶさってきた。私がきつね君にした様な体勢だね。
「……なぁに?」
「ハッ、もう良い。アンタはCランクの冒険者だろうが、結局は女だ……一緒に楽しいことしようぜ? こんな稼業にいるんだ、生きてるうちに好きなことやっときてぇだろ?」
楽しいこと? 何をするつもりなんだろう? きつね君にしてるみたいに私を食べたり舐めたりしたいってこと? えー、それはやだなぁ。
「はっ、見た目よりもでけぇな」
すると、男は私のおっぱいを掴んでそう言った。そういえばきつね君もおっぱいが好きとか言ってたっけ、正直重くて邪魔なだけなんだけど……なんでこんなのが好きなのかな? 人間の考える事はよく分からないなぁ。
でもまぁあまり良い気分じゃない。私の身体は私のもの、好きにしていいのはきつね君だけなんだから。
「邪魔だよ、どいて?」
「澄ました様な顔しやがって、どくわけねぇだろ」
「んむっ……?」
すると、男は私の口に指を突っ込んできた。舌を弄ぶように指を動かしてくる。何が楽しいのかは分からないけど、私の舌が触れている指の感触を感じて、やっぱりそうだと思う。
やっぱり貴方、
「まっずい」
「っがああああ!?」
ブチブチと口に入ってきた指を噛み千切った。うん、血も不味い。
すると叫び声をあげて男は私の上から転がりながらどいた。噛み千切った人差し指と中指を咀嚼しながら、私は上体を起こす。ぐちゃぐちゃになった肉を飲み込むと、いつも通り喉を通る感覚が気持ち良かった。
でも、足りない。こんなんじゃ全然足りない。今までずっと満足してた快感だけど、きつね君の眼球を食べた時の快感はもっと凄かった。動けない位に身体が反応して、あと一歩で私の精神がぶっ壊れちゃうくらいに強い快感だった。
だからね、もう貴方のじゃ満足出来ないの。
「ああああ……!! な、何しやがるぁああ!!」
「うふ、うふふふ……不味い、不味いなぁ……すっかり舌が肥えちゃった……♡ もうきつね君じゃないと満足出来ない身体になっちゃった……♡」
「ああ゛っ!?」
「でもこのままきつね君に会ったらきっと約束破っちゃう……だから大丈夫だよ、不味いけど残さず食べてあげる♪ 嬉しいよね? だって貴方は私が好きなんだもんね? 良いよ、しよう? 楽しいこといっぱい♪」
そう言って、悶え苦しむ男の腕を掴んで肩の部分から引き千切る。血が吹き出て私の身体を濡らすけど、気にならない。千切った腕に噛みついて、肉を引き千切り、骨を噛み砕き、纏めて飲み込む。身体がびくびくと反応するけど、足りない、全然足りないよ……♪
「ぎっ……ああ、あああああ゛あ゛!!」
「ジル!?」
と、そこへ女冒険者Aがやってきた。さっき私のことを睨んでた子だね。もう一人は荷馬車の側面の警備に向かったから居ないようだけど、男が血塗れで倒れているのを見た彼女は、私に向かって怒りの形相で剣を抜いた。
あはっ♪ 貴方も加わりたいんだね? いいよいいよ、一緒に気持ちいいことをしよう? 楽しいことをしよう? 大丈夫、きっと貴方も不味いんだろうけど、ちゃんと残さず食べてあげる♡
そして私はその後、呻き声を上げる彼女と男の首を噛み千切って殺した後、ちゃんと残さず喰らい尽くした。楽しい時間はすぐに過ぎ去るもので、気が付けば食べ終えていたって感覚だった。
全然満足出来ない。でもきつね君に会っても理性を保てる位には欲求が収まったかも。あはっ♪ 良かったね、男冒険者の人、大好きな私の役に立てたよ? 嬉しいよね? 貴方は私が好きなんだもんね? 良かったね良かったね♪
「うふふ、うふふふ……♡ きつね君の所に行こう♪」
私は瘴気で身体に付いた血を落とし、綺麗になった所できつね君に会いに行くべくるんるんと後衛に向かった。
◇ ◇ ◇
そして、その後私はきつね君に抱き着いて舐めたりちゅーしたりしたけれど、それ以上は何もしなかった。きつね君と一緒にいた時間は多分ほんの少しだけだと思う。
私もびっくりするくらいの事実だけど、きつね君と居る時間を1回我慢出来る位面白い物も見つけたし、良いと思う。
思想種の妖精、フィニア。
最初からずっときつね君に擦り寄るだけの虫だと思ってたけれど、存外中々面白い存在だった。
思想種ってだけじゃ興味は湧かない。でもフィニアは違う、彼女はきつね君を好きだ。それも私と同じ位好きだ。そして私以上にきつね君に大切にされてる。
だから妬けちゃう以上に、興味が湧いた。きつね君の回りには面白い物がいっぱい♪ 楽しくて楽しくて仕方ないなぁ♪
「うふふ、うふふふ……♪」
これからもっと楽しい事が待ってる予感がする! やっぱりきつね君、好き、大好き、愛してるよぉ……♡ これからもずっと一緒だからね。
だからねきつね君、これから先ずっとずぅっと……楽しいこと、いっぱいしよう♡
きつねくんとのやりとりは前回と同じなので割愛。
冒険者Jと女冒険者Aが死にました。次回は二日目朝から。