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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第四章 引き裂かれる絆

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魔族と妖精の対峙

第四章、開始です。
 護衛依頼初日、今日は前衛の男J君達も後衛の僕らも魔獣に遭遇する事は無かった。
 グランディール王国に行く為の道は元々森を通らないらしく、荷馬車は森を迂回して進んだ。レイラちゃんが森に入ったのは多分彼女の持つ方向音痴属性が働いたんだと思う。またミニエラが近くにあるということもあり、魔獣がそう多く出てこなかった訳だ。
 とはいえ、本格的にミニエラから離れた今、魔獣に襲われる危険は何時如何なる時も忘れてはいけない。警戒し続けるのは疲れるけれど、無警戒なのは駄目だからね。

 というわけで今は夜だ。奴隷商の人達が荷馬車の中で眠っている間、僕達は寝ずの警戒をして彼らを護衛しなければならない。その為の僕達だからね。
 現在、前衛の彼らは変わらず馬車を挟んだ前方を、僕達は馬車を挟んで後方を警戒している。また、今回の荷馬車の数は二つ。故に僕達と彼らの間にはおおよそ10m程の距離が空いている。
 それだけの距離だから、横から攻められたらという考えも当然生まれる。故に女冒険者Aが進行方向右側を、リーシェちゃんが進行方向左側を警戒してくれることになった。

 木々を集め、フィニアちゃんの魔法で火を付けて貰う。獣は火に怯える、っていうのは前の世界での知識だけど、こっちの世界でも火は上手く扱えば便利、でも扱いを間違えれば全ての物に牙を向く。
 しかも夜であっても外にいるわけだから、焚き火があれば暖も取れる。そういった2つの意味もあって焚き火はこういった状況下でも最適な行動だろう。

 まぁ、そのせいで魔獣達に場所がバレる危険性も孕んでいるが、それを含めてなお余りあるメリットがあるから良いと思う。

「……さて、遂にこの時がやってきてしまいました」
「きつねさん?」
「どうされたんですか?」

 そんな中、焚き火の前で深刻なトーンで話す僕がいた。フィニアちゃんやルルちゃんが首を傾げて僕の方を見る。
 僕が警戒しているのは、魔獣からの襲撃。それがこの仕事故に当然なのだが、それ以上に僕は別の存在に警戒していた。そう、『赤い夜(レイラちゃん)』だ。夜を迎えた今、彼女は前衛で発情していることだろう。欲望解放症状は毎晩訪れるのだからこれは確実だ。

 僕が考えているのは、彼女が男冒険者J君と女冒険者Bを食べていないかということ。発情した彼女の目の前にいる人間は、例に漏れず彼女にとっては餌となる。そして僕は彼女にフィニアちゃん達を襲うことは禁止したが、彼らを殺すことを禁止した覚えはない。した所で命令を聞くような子ではないけど。
 つまり、彼らは今この時もレイラちゃんに襲われている可能性がある。たった10m先の場所で、だ。

「レイラちゃんが襲い掛かってくる可能性がある」

 でもまぁそんなことはどうでもいいのだ。彼らが喰われていようと僕にとっては何ら関係無い。
 問題なのは、そうやって彼らを喰い終えた彼女が次に襲い掛かってくるのは誰なのかという話だ。そんなのは決まっている、僕しかいないじゃないか。僕を食べないように約束を取り付けてはいるけれど、彼女は僕を食べたくなくなったわけではない。寧ろ食べても良いと僕が言えば容赦なく、嬉々として食べてくるだろう。
 想像して、どこからか叫び声が聞こえてきたような気がした。一回目玉を喰われたからだろうか、ぐちゃぐちゃと肉を食いちぎる音も幻聴で聞こえる。

 まぁそれは気のせいとして、そんな彼女が今夜襲ってくる可能性がある。そうなれば最悪、僕は一晩中彼女の相手をしなくてはならないだろう。主に身体を舐めさせる点で。
 あ、そういえば今日キスしてない、やっべ、それもやらないと駄目かなぁ……でも約束したしなぁ……いやだなぁ。

「というかきつねさん、あの子を放っておいていいの?」
「面倒だもん、近くに置いておかないと何時襲い掛かってくるか分からないからね……騎士に突き出したとしてもあの強さだ、取り押さえるなんて無理だろうし、それなら僕の近くに置いておいてしっかり見張っておいた方が断然良いんだよ」
「……素晴らしく最悪なものを呼び込んできたね! きつねさんって嫌なものに好かれる才能でもあるのかな?」

 嫌な奴に好かれる体質ってこと? 『不気味体質』もあるし全然否定出来ないのが辛いな。

「あの……きつね様、レイラ様のこと……以前から知っていたような口ぶりですけど……?」
「ああ、ルルちゃんは知らなかったね……うーん、説明が難しいんだけど……まぁ簡単に言えば彼女は僕のことを食べたいんだって、物理的に」
「え?」
「つまり、彼女は人間じゃないってことだよ……そして、僕の命を狙ってる。今は約束して命を取らないようにしてるけど、その条件として彼女は僕の身体を好きな時に舐める権利を持っているんだ」

 説明すると、ルルちゃんは凄く困惑した様子だったけど、彼女が人間じゃなく、僕の命を狙っていることを知って訝しげな顔を浮かべた。

「……あの人は敵なんですか?」
「敵だよ。アレは僕らの敵で、世界の敵だ」

 ルルちゃんが珍しく真剣な表情で聞いてきたから、僕はそう返した。すると、ルルちゃんは僕のあげた小剣に触れて、少し思案する。何を考えているのか僕には分からないけれど、ルルちゃんの真剣な瞳を見れば邪魔してはいけないだろう。
 だから僕は焚き火に視線を移し、

「ばぁ♡」

 炎とは違う深紅の瞳と眼が合った。

「……レイラちゃん」
「あははっ♪ ひどいなぁきつね君……敵だなんて、興奮しちゃうじゃない……♡」

 噂をすれば影とは良く言った物で、レイラちゃんがそこにいた。
 白髪赤眼が焚き火の光で煌めいて、瞳の中にハートマークが浮かんでいるのが分かる。どういう構造なのかは分からないけどとにかく浮かんでいるのが分かる。昼間は隠していた瘴気も溢れ出て、彼女の周囲に黒いもやもやしたものが浮かんでいる。この状態の彼女は発情度最高潮だ。

 ちなみに彼女の発情度は、通常時が瞳にハートマークが浮かんでいない時で、少し発情していると瞳にハートマークが浮かび、更に発情するとその状態から頬が紅潮し、更に発情すると呼吸が荒げてくる。
 昼間は最大でもここまでだけど、夜になると更に発情し、瘴気が溢れるようになる。その先があるのかは知らないけど、今のレイラちゃんは僕が知っている中で一番発情している状態だ。

「うふふ、うふふふふ…………きつね君、約束したよね? したもんね? だからほら♡ ちゅー、して? 舐めさせて? いいよね? だって私は貴方が大好きだもん!」

 見事に発情しているレイラちゃんの登場に、僕のテンションもだだ下がりだ。これ毎晩やるんだろうかと思うと、酷く頭が痛くなってくる。下手な虐めよりも効くぞこれ。
 いつのまにか座っている僕の背後に回って抱きしめてくるレイラちゃん。所謂あすなろ抱きって奴だ。背中におっぱいの感触があるけれど、全然嬉しくない、なんでだろう? 逆に凄いよ、美少女でそんな風に思わせるって。

「きつねさん……ちゅーとか舐めるってどういうこと?」
「あ」

 フィニアちゃん達はレイラちゃんの登場に身構えたけど、彼女の言うキスや舐めるという言葉に反応したようだ。少し悲しそうな表情で僕に聞いてくる。
 そういえば条件付けで食べないようにして貰ったとは言ったけど詳しい内容は言って無かったっけ?

 フィニアちゃん達は家族だ。だから……説明は、しないとね。

「……僕を食べない代わりに、彼女は僕の身体を好きな時に舐めさせて欲しいって言って来たんだ」
「そんなっ……」
「きつね様は……それに承諾したんですか?」

 フィニアちゃんもルルちゃんも、僕の方を見て不安げな表情をしている。確かに此処まで聞けば僕がレイラちゃんを受け入れたようにも思えるね。
 でも違う。僕は彼女を受け入れてはいない。だからそんな顔をしなくてもいいんだよ。

「いや、流石に好きな時にはいやだから僕が駄目だと言ったら素直に止めてくれる条件で承諾した……そうしないと僕は喰われるからね、この子に」
「……あはぁ……♪ 本当は食べたいよ? でも、きつね君が好きだから食べないんだよ? 本当は愛して愛して愛しまくって食べてあげたいけど、我慢してるんだよ? でも……んふふ……きつね君の匂い……やっぱり好きぃ……♡」
「でもその代わり、僕は一日1回……彼女にキスしてあげる条件を付けられた」

 あの時は僕が生き延びるために最善にして唯一の策だったからね。仕方がなかったんだよ。
 今も僕の首筋に頭を埋めて匂いを嗅いでいるこの怪物を止める為には、仕方がなかったんだ。


「…………きつねさんは、それでいいの? ちゅーなんて、そんなに簡単にしていいものなの……?」


 でも、フィニアちゃんは納得いかないという表情でそう言ってきた。
 彼女は想いの妖精、しおりちゃんが僕に送る好意がそのまま形になった存在。キスや抱擁は、好意を示す最も分かりやすい行為だ。だからこそ、彼女にとってそういう行動は尊く、大切なものの筈なんだ。

 今の僕はきっと、それを最も酷い形で裏切っている。

「……ごめんねフィニアちゃん。確かにキスはそうほいほいして良いようなものじゃないと思うよ……でも、僕は今生きることが一番大事なんだ」

 でも、僕はそれを知った上で受け入れたんだ。ここで、言い訳するつもりは一切無い。でも、僕の考えは知っておいて欲しいな。

「この化け物から生き延びる方法がキスなんだとしたら、僕はそれを受け入れるよ。例えそれでフィニアちゃんに嫌われたとしても、僕は生きてあの子に会いに行く」

 きっと、フィニアちゃんはしおりちゃんと一緒だから、しおりちゃんも僕のことを嫌いになるのかもしれない。それは凄く怖いことだけど、僕はそれでも彼女に会いに行く。会って約束を果たす。

 その為だったら、この怪物に付き纏われるのだって厭わない。

「……今のきつね君……すっごくかっこいいよぉ……♡ ぞくぞくするぅ……うふ、うふふふ……好き好き愛してるぅ……♪」

 レイラちゃんがぶるっと身体を震わせて抱きしめる力を強くした。そのせいで強く密着した身体の感触と、レイラちゃんの凄く速い心臓の鼓動が伝わってくる。身体も熱くなって、遂には首筋を舐め始めた。熱い吐息が首に掛かってくすぐったい。
 すると、目の前のフィニアちゃんがふるふると肩を震わせて、僕を見た。

「きつねさんを嫌いになるなんて……絶対にないよ!」
「……」

 そう言い放った。その表情は怒ってるようで、悲しんでいる様にも見えた。

「きつねさんが決めたんだったら、それでもいい……! でも私がきつねさんを嫌いになるなんて絶対にないんだから!」
「フィニアちゃん……」
「キスするならやれば良いよ! そんなことじゃ、私のきつねさんへの愛は止まらないんだから!!」

 フィニアちゃんは胸を張ってそう言う。その視線はレイラちゃんに向かっており、その言葉には強い気持ちが籠っていた。
 凄いな、フィニアちゃんは。自分の中の正しさを圧し折ってでも自分の気持ちを貫ける人が、一体どれだけいるだろうか。

「……うふっ……うふふふふあははははははは!! 面白い、面白いよ! 虫なんて言ったのは訂正するね……流石はきつね君の連れてる思想種……面白いなぁ……良いよ『フィニア』、私だって負けないよ? だって私はきつね君が大好きだもん!」

 すると、レイラちゃんがさっきまでの発情した様子を引っ込めて笑う。赤い瞳を煌々と煌めかせて、とても楽しそうに笑う。
 その眼はフィニアちゃんを見ていて、彼女はフィニアちゃんの名前を呼んだ。どうやらフィニアちゃんは、彼女の興味を惹いたようだ。思想種だからじゃない、その希少性ではなく、彼女はフィニアちゃんがフィニアちゃんだから興味を抱いたんだ。

「うふふっ……フィニアに免じて今日はこれだけで許してあげる♡」

 そして、彼女はそう言うと僕の前に移動して顔を近づけてきた。頬を両手で押さえられて、動かせないようにされる。

「ん……」

 軽く触れるだけのキス。予想通りの行動だけど、約束は約束だ。
 顔を引いた彼女の表情は、赤く染まっており、口端から涎を垂らしている。瞳の中のハートマークに加えて熱い吐息を吐いている所を見れば、物凄く発情しているのが分かる。けれど彼女はそれ以上に何かしようとはして来なかった。
 それほどまでにフィニアちゃんを認めたってことなんだろう。

「それじゃあ私は前衛に戻るね♡ きつね君大好き♪」

 彼女はそう言って前衛に戻って行った。黒い瘴気を引き連れて、機嫌良さげにるんるんと去っていく後ろ姿は、怪物怪物と言ってきた僕の眼にも、普通の女の子に見えた。

 そして彼女の姿が消えてから数秒経って思い出した。

「…………あの冒険者の人達……死んでないよね?」

 僕のその言葉に答えてくれる人はいなかった。今凄まじい一声を放ったフィニアちゃんですら何とも言えない顔をしている。

「あの……きつね様」
「ん?」
「私も……きつね様のこと、好きですよ」
「……うん……ありがとう、ルルちゃん」

 かろうじてルルちゃんが絞り出してくれた現実逃避気味の、でも心の籠ったその言葉が、少しだけ心に染み入った。

次回、あの冒険者達は今……

お楽しみに!
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