挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第十三章 魔王の消えた世界で勇者は

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

298/361

幼女は愛でるだけじゃない

2話連投。0時投稿の分を見てない方は、1つ前からどうぞ!
 桔音が倒れた後、勇者達も含めてその場に居た全員が桔音を救うべく即座に動いた。リーシェ達は一度経験していたからか行動が速く、体中から血を噴き出した桔音を止血し、フィニアとシルフィが、桔音の容体が落ちつくまでの数時間、ずっと治癒魔法と回復魔法を掛け続けた。ルルと凪が包帯と止血用の傷薬、そして大量の清潔な布を買いに駆け回り、ジークと神奈はギルドへ行って、回復系の魔法やスキルの使える人材に依頼し桔音の治療人員を増やし、巫女とレイラ、リーシェは交代で桔音の身体に包帯を巻いたり、止血用の布を傷口に当てたり、傷薬を塗ったりしていた。

 そうして桔音が目を覚ましたのは、倒れてから約一週間後。回復後はやはりすぐに動く事は出来ず、身体もかなり重かったけれど、リーシェの作った料理を食べて軽く運動していけばすぐに回復するだろう。スキルが使えない期間は、大体眼が覚めてから一週間ほどなので、桔音もその期間中はしばらく無防備故に、どうしても警戒してしまう。
 これまでこの期間中に何か厄介なことが起こったことはない。しかしそれは偶然。これからもそうとは限らないのだ。

 更に言えば、現在桔音の傍には屍音がいる。桔音を殺す事は、桔音命名『精霊の枷』のおかげで出来ないのだが、それでも厄介事を持ちこんでくる存在には変わりない。
 ちなみに、屍音は既に目を覚ましている。桔音が目覚める前日に目を覚ましたそうだ。『初神(アルカディア)』によって斬られた故に、身体と精神は当時のモノへと戻っている。その為、桔音の記憶も無いし、魔王を殺したことも覚えていない。彼女は自分が何故此処に居るのか、また桔音達が何者なのかを知らないのだ。しかも、眼が覚めればノエルによって身体が動かせない状態。何度やってもその拘束から逃れられなかった故に、今は不機嫌そうなオーラと共に地面に転がっていた。

「それじゃあきつね先輩……俺達はグランディールに戻ります」
「ああうん、おつかれー……魔王討伐の件はちゃんと凪君の手柄にしておいてよ? 間違っても僕の名前を出しちゃダメだからね。もし破ったら今度は覚悟しとけよ」
「わ、分かってますよ……先輩の名前は出さない、魔王討伐の手柄は全部俺達のパーティが引き受ける……それでいいんでしょう?」
「うん、それじゃそういう方向でよろしく」

 そして今、桔音が眼を覚ましたことで凪達がグランディール王国へと帰ろうとしていた。その為、凪達は荷物を整えて、桔音達から初代勇者高柳神奈を預かっている。神奈も凪と同行するのは納得しており、既に自分用に簡単な剣を腰に携えていた。聖剣には劣るものの、それなりの剣だ。
 桔音はベッドに座りながら、凪達を送り出す。スキルも使えず、ステータスもほぼEランク冒険者並に下がっているにも拘らず、その威圧感は健在……桔音の不気味な笑みは、凪達を一歩後退させた。

「そ、それじゃあまた……」
「ばいばいきーくん、ありがとね」
「はいはい、またね」

 まぁ、その為か引き攣った様な笑みのまま凪達は去って行った。
 扉がぱたりと閉まり、部屋には桔音達のパーティだけとなる。まぁそこに屍音を加えているが、人口密度が減ったおかげで、部屋が大分広くなった。

「ふー……ようやく凪君達が消えてくれた。ちょっと寂しいけど神奈ちゃんも都合よく押し付けられたし、とりあえずなんとかなった、と」

 桔音が呟く。部屋に響き、消える。
 部屋が静かだと感じた桔音は、その原因である屍音に視線を向けた。レイラ達も、普段なら桔音の周りに歩み寄って思い思いに騒いだだろうが、今は屍音という存在が彼女達を自制させた。良くも悪くも―――いや、悪い意味で危険としか言いようがないのだ。どうしたものかと思う桔音は、とりあえずこの一週間の間にSランク魔族達が襲って来なかったことを鑑みて、おそらくは屍音があの場で皆殺しにしたか……それとも恐怖で連れて来ていたから助けに来ないのか、どっちかだと考えている。どちらもあり得そうだから判断が付かない。

 とはいえ、屍音という存在は今桔音の手の中にある。生殺与奪も桔音次第だ。今ならば、屍音が元のステータスを取り戻したとしても、桔音を殺す事は出来ない。格下の魔族にしか付けられない枷ではあるが、一度付ければいくら実力的に上に立たれたとしてもその効果を発揮する。これがこの『精霊の枷』の恐ろしいところだろう。

「さて、屍音ちゃん……君は今、生殺与奪権を僕に握られているわけだけど……何か言いたい事でもある?」
「……おにーさん、誰? 此処何処? おとーさんは?」
「順番に答えてあげる。僕の名前はきつね、好きに呼んでくれていいよ……で、此処は人間の大陸で、ルークスハイド王国、君のお父さん――つまりは魔王サマだけど、殺したからもう死んでるよ」

 桔音の答えに、目を丸くする屍音。おそらく、自分が人間に捕まり、人間の大陸にいて、父親が既に死んでいるという状況に付いていけないのだろう。まぁ、いきなりの展開だ、付いて来れないのも無理はないだろう。
 だが、桔音はそんな質問に興味は無い。寧ろ、今の屍音の精神状態がどうなっているのかを知りたかった。そして試した結果、彼女は普通に会話して受け答えが出来る位には正常な人格であるようだということが分かった。

 とはいえ、どうやらこの時期から狂気そのものは秘めている様だ。何故なら――

「ふーん、そっか」

 ――父親が死んだと言われても、それだけの反応で済ませてしまうのだから。
 父親を愛しているけれど、邪魔するなら殺しても仕方がないと言った、以前の屍音と同じだ。父親が死んだとしても、それほど心は痛めないという部分において、彼女はやはり死というものの捉え方が普通とは異なっていた。以前ほどではないが、やはり屍音は屍音……狂った部分は、最初から狂っているようだ。
 桔音もその部分をしっかり感じ取り、屍音をどうするかを考える。

「それで、おにーさんは私をどうしようっていうの? えっちなことでもしたいの? 良いけど、優しくしてね?」
「何この子凄いませてるー」

 すると、屍音は幼女になって大分ませた発言をし始めた。どうやら成長して自分の力が大きくなるにつれ、魔王同様なにかを破壊し蹂躙する事の快感を覚えたのか、自分の力が大きくなる以前の時はそれほど破壊衝動は無いらしい。寧ろ破壊衝動がない故か、普通にえっちなことにも興味があるお年頃の様だ。
 正直、桔音としてはとても健全だと思えた。以前の屍音よりかは、大分マシだ。

 だがまぁなんというか、興味本位でアダルトな世界に飛び込んでいくスタンス……飽くなき好奇心に関しては以前と同じらしい。無鉄砲で、猪突猛進、自分のやりたいことには妥協を許さない感じに面影がある。
 見事に『あの』屍音に育つ要素を大量に兼ね備えた、超気狂い幼女だ。

「ねぇきつね君♪ この子ぶっ殺して良いかな?」
「あれ? 私と同じ魔族だ……おにーさん人間だよね? なんで魔族と一緒にいるの? もしかしてあれ? おとーさんの言ってた性奴隷って奴?」
「君のお父さんの教育方針根本から間違ってんじゃないかな」

 魔王の屍音に対する教育の仕方が少々気になった桔音である。幼女時代から屍音に性奴隷だの優しくしてねと言わせるだけの知識だのを与えている時点で、少々歪んだ教育方針をしていると思うのだが、魔王が後継者として育てていたのなら、正直魔王としての知識として黒々とした部分を与えていたのかもしれない。
 となると、屍音が歪んでいった大きな要因は魔王にあるのかもしれない。色々と黒々とした知識を与え続け、その上で手に負えなくなったら監禁し、その結果ストレスが何十年にも渡って溜まり、結果あんな風に最悪の狂い方をしてしまったのかもしれない。

「……オイ魔王ふざけんなよアイツ」
「?」

 桔音はそのことに頭を抱え、魔王に対して悪態を吐いた。正直考え得る可能性故に、元凶が魔王だとしたら本当にアイツは魔王だと思った桔音だった。死んで尚屍音の様な核爆弾を残して行くのだから手に負えない。
 だが、こうして魔王を親子共々抑え込む事に成功しているのだから、桔音という男も大概なのだが、桔音はそれを故意的に棚上げすることにした。あくまで彼は、自分を普通の人間として押し通すつもりらしい。

「まぁいいや、屍音ちゃん……君は少々危険だから、君のお仲間を拘束次第ぶっ殺すんで、そのつもりで待っててね」
「は? 何言ってるのか分かんないけど、そんなのダメに決まってるじゃない。私だよ?」
「その自尊心の高さは認めるけど、ソレを叩き折らないとほら、面倒だからさ? 何が言いたいかっていうと、つべこべ言うなさっさと死ねってことだね」

 桔音は屍音に対してそう言う。とても悪意満載の満面の笑みで、屍音に笑い掛ける桔音は、リーシェ達から見てとても死神らしく見えたらしい。その証拠に、あのレイラも口端を引き攣らせていた。
 すると、その言葉が本気だと悟ったのか、屍音は力を込めて拘束を解こうとする。歯を食い縛り、暴れようとするも、その身体はピクリとも動かない。

「ふぐぐぐ……! 動けない……!」
『ふひひひっ♪ 無駄だよー、だってホラ……私の拘束だからね! 動いたらダメなんだよ、コレ常識……なんちゃってー!』

 屍音の真似なのか、ノエルは屍音の目の前で心底コケにした様な顔でそう言う。桔音にしか聞こえていないのだが、その表情と声音は中々にウザかった。
 しかしその悪ノリもあったからか、桔音は更なる追い打ちを掛ける。

「じゃあ、どうせ死ぬんだし……最後に何か1つお願いを聞いてあげよう、なにかある?」
「……逃がして欲しい」
「良いよ」
「……本当?」
「うん、聞いてあげたじゃん」
「……」

 お願いを聞いてあげる、その言葉の真意は……お願いを聞くだけであって、実際に逃がしてあげるつもりはないということだ。ソレが分かったのか、屍音はその瞳に殺意を込めた。相当にイラついたらしい。桔音はその殺意を受けて、嘲笑を浮かべた。そんな殺意なんて特に何も感じませんが、何か? とでも言いたげな表情が、更に屍音の苛立ちを誘う。屍音は殺意を更に増し、その上でギリギリと歯を食いしばっていた。
 相手を煽ることに関しては一級品の才能を持った桔音。屍音という感情豊かな子供に対しては、効果抜群の様だ。視線で人が殺せるんじゃないかと思わせる程の視線は、常人なら卒倒してしまうだろう。

「屍音ちゃん、お腹空いてない? 水でも飲む? 僕の奢りだぜ?」
「いらない!」
「そっか、実は僕も奢る気なんてなかったから丁度良かったよ」
「ぐぎぎ……! ムカつく……!」
「ムカついてるの? そっかー、僕は楽しんでるけどね」
「うぎぎぃ…………殺したい……!」

 にやにやと笑う桔音に、歯を食い縛って苛々を募らせる屍音。戦いで色々と困らせられたことと、ドランを殺した事の恨み辛みを此処で発散している様だった。

 フィニア曰く、心の底から楽しそうに笑う桔音は、今までで最高に屑だったとのことだ。

 ちなみにリアはその様子を見て、ケラケラ笑っていた。彼女にはその光景がなんだか面白かった様だ。笑いのツボが分からない所も、何処かずれている妖精だった。
屍音を弄る、これがやりたかった……!!あ、タグにもある通り作者は優しい人です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ