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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十二章 人類の敵を名乗る
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星の夜

 それから半日程飛び続けて、魔王城にも大きく近づいた辺りで僕達は野営の準備をしていた。魔王城は余程大きいらしく、シルエットが見えていたし大分早く着くかと思ったんだけど……あれはその巨大さゆえのシルエットだったようだね。恐らく、東京タワーよりも大きい高さを誇るんじゃないかな? 隣の塔は高層ビル並の高さを誇っていそうだ。魔王サイドには地球と同じ様な大きさの建造物を建てるだけの技術力があるみたいだね。

 そしてそんな中、僕は広い範囲で瘴気の空間把握をしてみたのだけれど……一定範囲から外側には大量の魔族が闊歩していた。何故か僕達を中心に半径1kmの範囲では魔族が1人も居ない。何故だろうか? まるで魔族側がそれより内側に入ろうとしていないような感じだ。

 僕の称号の運命力を考えれば、魔族達は寧ろ近寄って来るのが普通の筈なんだけど、こうも近づいて来ない所を見ると……恐らくコレはあの夜関係の力が働いていると考えるべきだろう。クロエちゃんと姐さんが一緒になってからの事態だ、原因はきっと彼女達にあるんだろうね。まぁ得だから別にいいんだけどさ。


 2人が魔獣や魔族に襲われない理由として、こういう事象が挙がるんだろう。あの『星の夜』の事といい、この2人には何かあるね。あの夜が起こったのも、彼女達が居たから暗黒大陸で起こったんじゃないだろうか。まぁそれについて責めるつもりは全くないけれど、ただ1つだけ。


 面倒くせぇ……。


「きつね君♪ ご飯まだー?」

「うん、そろそろ出来るよ」


 僕は今、皆の分のご飯を作っていた。食糧はまだある。まぁ帰りの分の食糧も必要だから節約はしないといけないけど、魔王城に食糧とかあれば掻っ攫っていくのも良いだろうと思っている。

 レイラちゃんが急かす中で、僕は野菜炒めと大量の豆を使ったソイミートで作ったハンバーグを持っていく。お肉はお腹に溜まるからそう使えないし、こんな感じで工夫していかないとね。肉は帰り道で使っていこう。

 とはいえ、レイラちゃんの分はせめてお肉を使った。彼女の空腹は彼女にとっては死活問題……少しでもお腹を満たさないと本来の力を出すことが出来ずに死んでしまう可能性だってある。此処から先は、戦いの世界だからね。


 明日もこうして料理を食べてられるかは分からない。明日も全員無事でいられるかは分からない。そういう世界なんだ。


「はい、どうぞ」

「うふふっ♪ いっただきまーす♡」


 レイラちゃんの前にお肉を持っていって、他のソイミートハンバーグも皆の前に行き渡らせる。腹が減っては戦は出来ぬ、皆には常に万全の状態でいて貰わないとならない。全力で戦う為に、戦って勝つ為に。


 全員が料理を食べ始めたのを確認して、僕は周囲に気を配る。瘴気の空間把握もそうだけれど、この2週間の間で覚えた五感の使い方と気配の感じ方を騒動員すれば、更に広い範囲で気配を感じることが出来る。

 如何にクロエちゃん達の周囲に魔族が寄って来ないと言っても、流石にSランクの魔族やAランクの魔族までがそうという訳ではないだろう。あの夜だって、Bランク以上の魔族は殺せないんだし、あり得ない話じゃない。


「……」


 くるりと、『死神の手(デスサイズ)』を回して空を見る。あの夜の影は微塵も残っていない、夕焼け色……でも、夕月が出ていた。昨晩は満月だったから、今日は―――!


 これは、どういうことだ? 満月は昨日だった筈だ。なのに、今日も満月? この世界だからそうなのかもしれないけど、でも少なくとも僕にとっては異常な事態だ。どうする……このままじゃまた、あの夜が来るんじゃないのか? そうしたら、レイラちゃんとリーシェちゃんはまた苦痛に苛まれることになる。


 すると―――満月がキラリと輝いた。


 瞬間、背筋に走る悪寒。僕はすぐに動き出す。

 『死神の手(デスサイズ)』に『痛神(タナトス)』を付与してスピアを作り出し、レイラちゃんとリーシェちゃんの下へと振り向いた。視界が露光度を下げた様に暗くなる。訪れたのだ。また、あの夜が。

 クロエちゃんと姐さんがガタッと音を立てて立ち上がるのを感じながら、僕はレイラちゃんとリーシェちゃんを順々にそのスピアで突き刺した。一瞬苦悶の表情を浮かべた彼女達は、間一髪『痛覚無効』のおかげですぐに持ち直す。


 しかし、ほっと一息入れる間もなく夜は次なる行動を起こした。音も無く、満月からまっ直ぐ落とされた光の柱が、僕達を直撃する。殺傷性は無いのか、痛みも無ければ傷も無い。


「そんなっ……なんでだッ!!」

「まだ"刻限"は先の筈……なのに……!」


 でも、クロエちゃん達の様子がおかしい。だからこの事態は良いモノではないのだという事だけは理解出来た。嫌な予感に従って全員をこの光の外へと押し出そうとした瞬間、左眼にズキッと激痛が走った。

 『痛覚無効』を超えてくる痛みということは、かなりのダメージだということだ。

 それを理解すると同時、僕はすぐにレイラちゃんとリーシェちゃんにも同じことが起こっているという可能性を考え、2人を引っ張り寄せて光の外へと駆け出す。


 ヤバい、この光が何なのか分からないけれど――コレはヤバい……!


「ガフッ……!!」

「ごぶっ……ッ……!」


 レイラちゃんとリーシェちゃんが勢いよく血を吹いた。ガクンと膝が折れ、2人共同時に地面に倒れ込む。『痛覚無効』のおかげで叫び声をあげる程の痛みは抑えられているようだけど、この光は魔族の身体を蝕むモノなのだろう……彼女達の身体は今も尚悲鳴をあげている。

 左眼がズキズキと痛むけれど、それを我慢して2人を抱きあげた。今はこの2人だ、このままここに居たら死んでしまう。『星の夜』によるBランク以下の魔族を殺す力の、更に格上の力……しかも、この状況を知っているクロエちゃん達が恐れ慄く事態……Sランクの魔族であっても、流石に死ぬ可能性がある。


「ッ……!」


 光の外へ出た。痛みが引いていくけれど、左眼が少しだけ見えにくい。でも、コレは『初心渡り』で直せなかった。どうやらこの光の力が蝕んだ部分が、まだこの光の力を残しているみたいだ。レイラちゃん達も、立ち上がれないほどダメージが深刻だ。瘴気の外套も意味を為さない力、魔族の天敵の様な力だな。


 すぐに光の中へと意識を戻す。ドランさん達も僕と同じ様に光の外へと出ていた。でも、クロエちゃんと姐さんは光の中に留まっている。驚愕と動揺で動く事が頭にない様だった。

 すると、次から次へ別の事象が起こる。光の上から、更に神々しく強い光が現れた。アレはもっと嫌な予感がする。


「く……っそ!!」

「きつね!」


 光の中に飛び込むと、ドランさんも同じ様に光の中へと飛び込んでいた。アイコンタクトで頷き合い、僕はクロエちゃんを、ドランさんは姐さんを抱えてそのまま光の外へと駆ける。ドランさんに教えて貰った歩法で、地面を蹴る一瞬に全力の力を集中させる。タタン、と軽快な音を立てて前へと進む。ドランさんと擦れ違い、僕はルルちゃんとフィニアちゃんがいる方へ、逆にドランさんはレイラちゃん達が倒れている方へ出る。

 そして光の外へと飛び出した瞬間、強い光が先程まで僕達が居た場所を直撃した。目を焼く程の光が周囲を明るく照らす。空は夜へと変わっているにも拘らず、昼間の様な明るさだ。


『う、ぐ……!』

「ノエルちゃん……!?」

『大丈、夫……!』


 すると、その光は幽霊であるノエルちゃんにもダメージを与え始めた。魔族殺しの力、これほどか……!


「逃げて下さい……きつねさん……!」

「クロエちゃん! これは一体何!?」

「……終わらせに来たんです……私達を……!」


 終わらせに来た? くそ、動揺してクロエちゃんがまともに頭を回せていない。状況の説明が付かない、何が来たって言うんだ。

 とにかくヤバい、このままここに居れば不味いのは確かだ。急いで此処を離れないと……!


 僕はクロエちゃんを抱えながら、光の外に居たルルちゃんとフィニアちゃんに声を掛ける。


「フィニアちゃん! ルルちゃん! とりあえず此処から離れる! クロエちゃんをお願い!」

「分かった!」

「はい……!」


 クロエちゃんをルルちゃんに引き渡し、僕はレイラちゃん達の方へと向かう。ドランさんも流石に3人背負って移動するのはキツイ筈だ。大きい身体で持ち上げる事は出来るだろうが、移動するとなるとやはり速度が落ちる。

 ドランさんが向かってくる僕に気が付いた。すぐに僕の意図に気が付いて、レイラちゃんとリーシェちゃんも抱えた。僕にすぐに引き渡せる様にという気遣いだろう。そっちの方が効率が良いだろうしね。そうなると早く向かわないといけない。


 全力で駆けていく中でも、輝く光には警戒を怠らずにいた。


 しかし、怠らずにいた筈なのに―――


 ―――その光から伸びて来た何かが、僕の胸を刺し貫いた。


「……ッ……な……!」

「きつねッ!!」

「きつねさん!!」


 ドランさんとフィニアちゃんの声が聞こえた。

 耐性値を超えてくる速度と威力……見下ろすと、そこにはクラゲの様な半透明の棒のようなものが突き刺さっていた。見た目は凄く綺麗だけれど、なんとなく嫌な気配を感じる。

 『痛覚無効』のおかげで痛みは感じなかったけれど、コレは不味い。下手すれば心臓を貫かれていた……!


 後退してずるりと棒から逃れると、すぐに『初心渡り』を発動して傷を直す。今度は直すことが出来た。力による浸食ではなく、今度はただの物理攻撃だったようだ。

 視線を光の中へと移す。未だに光は強かったけれど……だんだんと光が収束していき、形を為して行く。ズズズズズ、と光が集まって―――そして現れたのは、先程の棒と同じ半透明の人型。魔族とは違う、何か別の存在だった。宇宙人、といえば良いのだろうか……そんな姿をしている。グレイのようなシンプルな形ではなく、髪や服のようなものもあるシルエットをしている。見た目的には……男だろうか。


「なんだ……アレ」


 ぎょろり、と目が開いた。光彩も無く、白目も無い、ただ目と分かるような部分だ。瞳はグレイのように大きい。背は小さいけれど、浮かんでいるからその瞳は僕達を見下ろしていた。


『―――』


 何かを言った、でも何を言ったのかは分からない。全く別の言語であっても、異世界の言葉であるのなら僕の『異世界言語翻訳』が翻訳してくれる筈だから、きっと言葉ではないのだろう。鳴き声とか、そういう類のモノなのかもしれない。

 得体の知れない存在。でも急に攻撃してきたのだから、敵性は大いに感じられる。戦うか? でも、相手の手が分からないし……戦っても攻撃が通用するような相手なのかも分からない。ここで下手に動けば、魔王討伐の前に全滅だ。何せ相手は魔族殺しの力を持っているのだから。


 すると、その存在はクロエちゃんの方を見ると、その手を振りあげた。


「不味い……!」


 先程の棒の攻撃を喰らったから、咄嗟に判断出来た。同じ攻撃をするつもりなのかもしれないと。地面を蹴り、その存在とクロエちゃんの間に身体を滑り込ませた。『死神の手(デスサイズ)』に『病神(ドロシー)』を付与して、『先見の魔眼』で視界に映った棒の軌道に、刃を合わせた。


 ガチン、という音と共に伸びてきた半透明な棒と漆黒の薙刀が衝突し、威力が相殺される。固いし、重い……問答無用で戦闘開始って訳か。しかも強い。

 なんでクロエちゃんを狙うのかは分からないけれど、きっとこいつがクロエちゃん達に関わる問題の原因なのだろう。

 放っておけばレイラちゃんとリーシェちゃんの命にも関わるだろうし―――仕方ない、魔王討伐の前にこいつを此処で消しておこう。


「ルルちゃん、クロエちゃんを護って……フィニアちゃんは僕の援護」

「りょーかい!」

「はい!」


 ドランさんも3人を下ろして剣を構えており、姐さんは焦りの籠った瞳でクロエちゃんを見ていた。隙あらばこっちへ来ようとしている。


「さて……どうしたものかな……」


 冷や汗が頬を伝うのを感じながらも、僕はそう呟いた。


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