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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第十二章 人類の敵を名乗る

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凶悪な存在

感想ありがとうございます! 返す時間がないのですが、いつも励みにさせていただいております!
「魔王の城は、此処から大分歩いた所にある。ほら、あそこに塔が見えるだろ?」

 その後、僕達はとりあえずあの夜を引き起こす存在については一旦置いておいて、さっさと魔王を倒して帰ろうということになった。何はともあれ、とりあえずこの暗黒大陸から去ってしまえばあの夜からも逃げられるだろうしね。
 すると、姐さん達は魔王の居場所を知っていた様で、その居場所を教えてくれた。彼女が指差した方向には、大分遠くではあるけれど確かに黒い塔が小さいシルエットで存在していた。聞く所によると、あの塔が魔王の存在している魔王城の傍に建っているらしく、あの塔を目指して進めば魔王城に辿りつけるとのこと。但し、あの塔については全く知らないんだそうだ。まぁ多分魔王の趣味的な物だと思う。特に用がある訳でもないし、放置しておこう。

 まぁそれはそうとして、クロエちゃん達はどうするのかだけど……どうやら彼女達はこの暗黒大陸に迷い込んでしまったらしい。船も壊れてしまっていて、帰る方法がないんだそうだ。まぁ、僕達の乗ってきた船に乗せて帰っても良いんだけど……僕達は魔王を倒しに行く途中だから、今すぐ帰る訳にはいかないんだよね。
 そうなると、彼女達にも魔王討伐まで付き合って貰うことになる訳だけど……大丈夫かな?

「んー……まぁ贅沢は言えねぇよ。流石に戦闘じゃ役に立たないだろうが、どの道この大陸じゃアタシ達も生き辛いしな。付き合うぜ……てか本当に魔王倒せるのか?」
「んー、まぁ大丈夫じゃない? 正直向こうの実力は未知数だけど……なんとかなるよ多分」
「適当だなぁ……」

 大丈夫そうだ。まぁいざとなれば2人は演奏して逃げれば良い。Sランク魔族のレイラちゃんも聞き惚れる演奏だし、よっぽど心無い奴でない限りはきっと逃げられる筈だ。まぁでも、万が一ってこともあるし、2人にも『瘴気の黒套(ゲノムクローク)』を着せておくことにした。
 マフラーをしているクロエちゃんには厚いかも知れないけれど、そこは我慢して貰おう。この大陸じゃ人間の大陸と違って何が起こるか分からないしね。

 さて、2人に外套の説明を簡単に済ませて、僕は瘴気で4畳程の黒い板を作った。全員をそこに乗せて、空中に浮かばせた。そして、そのまま魔法の絨毯よろしく空を飛んで進ませた。

『便利だねー、ふひひひっ♪ これなら海も渡れるんじゃないの?』

 ノエルちゃんが話し掛けて来た。
 まぁ確かにこの瘴気を使えば海も渡れるだろうけれど、でも流石に2週間ぶっ続けで飛ばし続けるのは体力的にキツイし、海に浮かばせた所で眠っている間にふとした拍子で消えてしまう可能性だってある。泳げる泳げないに関わらず、海にいる魔獣達に対して餌になりに行く様なものだ。

 だから無理だね。

『ふーん……まぁそれなら仕方ないかー……名案だと思ったんだけどなー』
「ねぇきつね君♪ 魔王を倒したら、それからどうするの?」
「ん?」

 ノエルちゃんがふいーと離れていくと、未だに背中でがじがじと噛み付き続けていたレイラちゃんが話し掛けて来た。どうやら大分空腹が紛れた様だ。今回はかなり時間が掛かったなぁ……少し前なら数分でなんとかなっていたんだけどね。

 それにしても……魔王を倒した後かぁ、あんまり考えていなかったね。最初の方針から言えば元の世界に帰る為の情報集めだけど、もしかしたら魔王を倒してしまえば元の世界に帰れるかもしれないんだよね。そうかそうなったら……僕達は魔王を倒した時点でお別れってことになるのか。考えていなかったなぁ……いつもみたいに厄介事を1つ片付ける感覚だったから、あまりそんな実感は湧かなかった。

「……きつね君?」
「んー……そうだね、とりあえずは人間の大陸に帰って……普通に寛ぎたいなぁ」
「あはっ♪ そっか♡」

 実感は湧かない、考えないようにしていたから。でも、もしかしたらお別れの時に大きく近づいているのかもしれないと考えると―――僕はそう言わざるを得なかった。

 思考を振り払い、僕の中に生まれた別れの可能性から目を背けて、逃げる様にそう言わざるを、得なかったんだ。


 ◇ ◇ ◇


 魔王は少しだけ、表情を歪めていた。桔音が暗黒大陸に上陸した事は知っている、知っているからこそ、不機嫌なのだ。その理由は――桔音の周りに、少し厄介な存在が現れ出したからだ。
 その存在は、魔王にとっても少しばかり厄介な存在だ。当然、魔王が厄介とするだけあって強く、そして魔族にとっては……天敵とも呼べる相手なのだ。しかも、ここ百数十年はこの暗黒大陸にも姿を現さなかった存在だった筈なのに、今になっていきなりこの暗黒大陸に姿を現したのだ。桔音が上陸するとなった瞬間に、まるで桔音を阻む様なタイミングで。

 魔王は不愉快に眼光を鋭く尖らせ、チッと舌打ちをした。なんという訳でもなく、苛立ちを隠せずにいる。

「此処できつねを殺されでもしたら……実につまらないな、ソレはつまらない……」
「では、排除しますか?」

 魔王の言葉に、側近の魔族がそう言う。
 だが、魔王は首を横に振った。その返答は、側近からしてみれば意外な『否』。首を傾げる側近に、魔王は不敵に笑みを浮かべた。つまらない、桔音があの天敵に殺されてしまう展開は実につまらない。しかし、魔王にとって桔音とはそんなに簡単に終わってしまう様な価値を持っているわけではないのだ。

「あの厄介者をきつねが排除してくれるのなら、それはそれで此方にとっては得なことだ……それに、もしもそうなったのなら……面白いではないか」
「面白い、ですか?」
「うむ……あの厄介者は、私もかなり梃子摺る相手だ。奴との相性を考えれば此方が敗北する事もあり得るだろう……奴の力はそういう類のモノだからな。だが、それをきつねの奴が倒してくれるというのなら、得だろう? そして、きつねがそれほどに強くなっているとなれば……もっと楽しみになるだろう! この飢えた心は更なる満足感に満たされると思わないか?」

 魔王はそう言った。
 桔音がもしも天敵を倒してくれるのなら、魔族にとっては万々歳。そして、相性が悪いとはいえ魔王にとっても脅威の相手……それを倒した桔音は、魔王と同等にやりあえる程に強いという何よりの証明だ。強者との相対を望んでいる魔王にとっては、これ以上ない愉悦となるだろう。だから笑っている。
 もしかしたら桔音と戦って敗北するという可能性も否めないというのに、魔王にはそんな未来は頭にないようだ。

 桔音が如何に強かろうが叩き潰し、完膚無きにまで打ち壊すのみ。それしか頭にないのだ。

「……そうですか」
「うむ、今回ばかりはお前にも動いて貰うぞ。奴らが此処へ辿り着いたら……きつね以外の存在を、私の下へ通すな。生死は問わない」
「はっ……仰せのままに」

 魔王の命令を聞き、側近の魔族は執事の様に深々と頭を下げた。
 そして直ぐに頭をあげると、今度は話を変える様に魔王へと進言する。彼は魔王が目覚めるまでの間、ずっとこの魔王城を護り、魔族達を取り纏めていた存在だ。今やこの魔王城については魔王よりも詳しい。魔王もそれを分かっている故に、この側近に魔王城の管理を任せている。
 4代目勇者に魔王城を消し飛ばされた後、再建された魔王城。過去に存在した魔王城と同じ作りではあるが、そんな過去を持っている故に何処に何があるのかは、流石の魔王も把握出来ていない。

「魔王様……"牢獄"のあのお方についてですが……如何いたしましょうか」
「……アレか……"牢獄"はもう駄目か?」
「ええ……あのお方は生まれ付き凄まじい才能をお持ちですから、いずれは自力で破られてしまうでしょう」
「……そうか、仕方あるまい。拘束具を使ってもうしばらく時間を稼げ、きつねが来るのだ……邪魔をされては敵わない」

 ―――いざという時には、私がこの手で対処する。

 魔王はそう言って、パキッと手を鳴らした。


 ◇ ◇ ◇


 カツン

 カツン

 カツン―――

 真っ暗な箱の様な空間で、一定間隔を空けながらそんな音が響いていた。
 まるで壁を小石か何かで叩く様な音。その音を生み出しているのは、その空間に居るたった1人の人影だ。カツン、カツン、と音を立てているのは、その人影の手に握られたスプーン。人影はスプーンを地面に何度も何度もぶつけては、それを繰り返している。
 その行為に、何か意味がある訳ではない。だが、その人影は延々その行為だけを続けていた。それこそ、何十年という長い間。

 スプーンは既に丸みを帯びた部分は無く、銀色の持ち手の部分しかない。しかも、その持ち手の部分も擦り減っており、既に小さな欠片程度のものだ。

「…………」

 その人影は、ふいにその振り下ろす手を止めた。そして、その手に残った小さな欠片を投げ捨てる。カツンと音を立ててその破片は壁にぶつかり、床に転がる。
 すると、その人影は新たなスプーンを手に取った。何十年という間続けていたといったが、それはたった1本のスプーンで続けられる程短くはない。もうすでに何十本ものスプーンが同じ様にただの欠片へ変貌しているのだ。

 じゃらじゃらと、食事の度に回収し続けたスプーンからなんとなく良い感じのスプーンを探す。

「……――」

 すると、そのスプーンを探す手が止まった。そして、ふいに天井を見上げた。何か気になることがあるかの様に、その視線を上へと向けた。
 そしてそのまましばらく上へと視線を向け続け……スーッと口端を吊り上げた。凶悪に歪んだその笑みは、その人影がこの数十年で初めて浮かべた表情。面白いモノを見つけたとばかりに、人影は立ち上がり、もう興味は無いとばかりに地面を転がるスプーンを蹴飛ばした。じゃらじゃらと音を立ててスプーンが床へ散らばっていく。

 その真っ暗な箱の様な空間を歩き、人影はその壁に両手を付く。するとバチバチと両手を焼く様な電撃が走り、そこから出るのを阻む様な仕掛けが発動する。人影の両手はじりじりと焼かれていくが、人影はその進行を止めるつもりはないらしく、ぐぐぐ、と壁に付いた手に力を込めていく。
 ビキ、と小さな罅が入るが、すぐにその罅も修復されてしまう。壊そうとしても、すぐに直って仕舞う様だ。

「……壊すか」

 ぽつり、呟いたその人影は、その手に魔力を込めた。すると、その空間から赤い鎖が現れて人影を縛り上げた。拳に込めた魔力に反応して、その動きを拘束する為に仕掛けが発動したらしい。
 しかし、人影は鎖を意にも介さず拳に魔力を込め続ける。どうやらその鎖は魔力を吸い取るらしく、込めれば込めるだけ魔力が吸い取られていくが、吸収速度を上回る速度で魔力を練り上げていた。

「こんなトコに何十年も籠ってやったんだ……そろそろ外に出たいんだよ、クソ魔王が……!」

 ギシリ、と鎖が悲鳴をあげている。
 そして―――その魔力の籠った拳を、箱の壁に叩き付けた。轟音が鳴り響き、空間に大きな振動が伝わる。その威力は、ビキビキと亀裂を走らせる程に壁にダメージを与えた。

 しかし、

「……チッ」

 ガコン、と殴った壁が倒れていき―――そして床になった。箱の様な空間は、正立方体故に損傷レベルの高いダメージを負えばサイコロの様に転がる様に出来ていたのだ。故に殴った瞬間空間は転がり、壁は床になり、そして床となった壁は直ぐに修復してしまった。

 しかし、それはこの人影も分かっている仕掛けだ。舌打ちをしながらも、ぐいっと身体を伸ばす。壊せないと思っていたら、出ようとはしないだろう。

「やっぱ駄目か……じゃ、こうしよう―――」

 人影はそう呟きながら、楽しそうに脱出の為の行動を開始する。
 そして脱出が成功したのならば……おそらくそれは――

 ―――この暗黒大陸が大きく変わる程に大きな出来事になるだろう。
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