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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十二章 人類の敵を名乗る
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八つ当たり

皆様感想ありがとうございます! 時間がなく返せていないのですが、いつも励みにさせていただいております!

 音楽姉妹の2人が言った通りしばらく待っていると、いきなりパッと空が青空へと変わった。一気に真っ暗な夜からお昼時の空に変わったことで、急激な光の変化に目が少しだけ眩んだけれど、すぐに慣れる。

 クロエちゃん達がふぅと溜め息を吐いて、何かしらの現象が終わったことを理解した。僕達は周囲に警戒しながらも、空が明るくなったことで少しだけほっと安堵の息を吐いた。


 それから試しに、レイラちゃんとリーシェちゃんに近づいて揺すり起こしてみる。僕の『痛神(タナトス)』で痛みを感じない様になっているから、表情は普通に眠っている様にしか見えないけれど、何か痛みを感じる要因は夜が明けると同時に消えてくれてるのかな?


「レイラちゃん、起きてー」

「ん……? すんすん……ッ……がぶっ!」

「えー……」

「んぐッ? ハッ……あ……き、きつね君! ごめんね!」


 レイラちゃんは起きると同時に僕の肩に噛み付いて来た。学ランを噛み千切って、僕の肉に直接歯を立てている。まぁ耐性値が高いから歯型が付く程度でそれほど痛くも無いんだけど、寝起きで近くにいた僕に噛み付くなんて……今までは無かったんだけど。やっぱり、お腹が空いているのかもしれない……寝起きで理性があまり利いていない時であれば、簡単に人を喰らおうとしてしまうんだから。

 レイラちゃんは自分が噛みついたことに気が付くと、慌てて口を放し、わたわたと手を振って謝ってきた。うーん、なんというか僕も慣れちゃったからなぁ……自分が餌になるの。人は味や食感を感じると満腹中枢が刺激されて空腹が紛らわせる事が出来ると聞く。これはこのまま噛み付かせておく方がレイラちゃんの為になるのかもしれない。


 僕はレイラちゃんに背中を向けて座った。すると、レイラちゃんは首を傾げて疑問顔だ。


「ほら、おんぶしながらなら噛み付いてて良いよ」

「え……い、いや良いよ♪ 別にお腹空いてないもん……♡」

「……僕の厚意を無駄にするつもりかい? 二度とないよ?」

「好意? ……あはっ♪ やった♡ じゃあ受け取る♡」


 レイラちゃんは1回遠慮した後、僕の言葉で嬉しそうに背に乗ってきた。そしておんぶの状態になってから、僕の首にがぶりと噛み付いてくる。何度も何度も噛み付いていることから、やっぱりお腹が空いていたんだろう。とはいえ、これはガムを噛んでいる様な物でその場凌ぎでしかないからなぁ……今度適当に盗賊とかを喰わせた方が良いかもしれないね。って言っても此処は暗黒大陸だしな……魔族同士で喰い合ったらどうなるんだろう? やっぱり人間が人間を喰わない様に、共食いは不味いのだろうか?

 まぁ、今はこのまま放置しておこう。レイラちゃんの場合はこうして噛み付かせておけば空腹も紛れる筈だから。


 レイラちゃんを背負ったまま、僕はリーシェちゃんに近づき揺すり起こす。漆黒の棒を使えば背負ったままでも突くことくらいは出来るからね。


「リーシェちゃん、起きてー」

「ふわ……ああ、起きてる……起きてるから……ぐぅ……」

「寝てんじゃん」

「うぐー……起きる、分かった起きるから……おはよう、きつね」


 リーシェちゃんは吸血鬼になってから朝が極端に弱い。しつこく起こしてやらないと中々起きてくれないんだよね。流石は夜行性の魔族だね、まぁ仕方ないか。とりあえず、リーシェちゃんはちゃんと起きてくれたから良いとしよう。

 さて、それじゃあ手っ取り早く話を聞くとしよう。2人が起きたのは良い事だとして、2度目がないとは限らない。もっと言えば、2度目もこの程度で済むかは分からないんだ。瘴気の家、瘴気の外套を用いて尚、あの有様……もしもあの事象がまた起これば、今度こそ2人は死ぬかもしれない。


 何せ、この集落の魔族達は皆……体中から血を噴き出して死んでいたのだから。


 同じ魔族である彼女達が生き残れたのは、ほぼ偶然でしかない。出来れば今すぐに、この事象の原因を消しておきたい。

 とはいえ話せないと言っていたんだし、聞き方にも色々と気を使わないといけないか……面倒臭いけど。


「クロエちゃん達に聞きたいんだけど……今の現象は今後まだ起きるのかな?」

「がぶがぶ……♡ ッはぁ……ん……♡ ……クロエ? あ、本当だ♪」

「……分かりません、正直あの現象は本当にいつ起こるか分からないんです……ただ、最近は短い間隔で頻発しています……」


 クロエちゃんの言葉に、僕は眉間に皺を寄せた。いつ起こるのか分からない現象、でも最近では短い間隔で起こっている現象……か。となると、やっぱりこの現象の原因を探りたい所だね。どうしたものかなぁ……2人には2人で話せない事情があるみたいだし、無理に聞き出そうとしても生半可なことじゃきっと口を割ってはくれないだろう。

 そうなると力づくってことになるんだろうけれど……クロエちゃん達の目を見る限り、彼女達自身に都合が悪いから話せない訳では無く、話したら不味い事が起こってしまう様な空気を感じる。好きで話したくない訳ではないんだろう。


 となると、少し事情が複雑化してくるなぁ。


「……とりあえず、話せるだけでも良いからあの現象の情報をくれない?」


 情報は貴重だ。特に、こんな辺境の地で右も左も分からないんだ……情報の価値は大きく跳ね上がる。なんでもいいから、僕達のパーティに悪影響を与えるモノの情報は欲しい。


「……一応、直接的な影響はないですが……私達はあの夜を『星の夜』と呼んでます。詳しい事は話せません……けれど、あの夜の間は弱い魔族であれば簡単に命を落とします。でも、それはあの夜の副産物みたいなもので……あの夜にはもっと別の意味があります」

「別の意味?」

「それは……」

「悪いなきつね、これ以上は言えない。ただ、あの夜の力は魔法やスキルとは別の力だ。本当にこれ以上は言えないが……強いて言うのなら、あの夜の魔族を殺す力は―――とある存在そのものってことだな」


 とある存在そのものが、あの夜の引き起こす魔族殺しの力。そしてその魔族殺しの力自体があの夜の目的というわけではなく、もっと違う意味がある……か。

 あの夜自体は何か別の存在が引き起こした現象であり、その目的は分からないけれど副作用で下級の魔族程度なら簡単に殺してしまうという訳か。となるとその存在を僕達の手で消し飛ばしてしまえば、もう今後一切あの夜は起こらないんだね。


 でも、その存在はどんなものか分からないから手の出し様がない。それにこれ以上の事は教えてくれないと来たもんだ。


「……はぁ、仕方ない……この話は終わりにしよう。一応対処法とかってある?」

「アタシ達は魔族じゃないからなぁ……悪いが分からない。Bランク以上の魔族であれば死にはしないと思うけどな。ただ、Sランクの魔族でも大分苦痛を感じると思う……そういう存在だから」

「ふーん……そっか」


 副作用だからBランク以上の魔族であれば死なない程度の力ではあるけれど、それでもSランクの魔族をも苦痛を感じさせる相手か。確実にSランク以上の相手だってことだよね? これ確実に僕の運命力が引き寄せてない? 戦う破目になったらそうだな……なんとか逃げることを選ぼう。今回は戦わなくちゃいけない理由とかも無いしね。

 それにしても、そんな存在のことをなんでクロエちゃん達が知っているのかっていうのは少し疑問だけどね。何か理由や事情があるんだろうけれど、ただの音楽好きな姉妹というわけではないらしい。初めて出会ったあの時点で、この『星の夜』とかいう現象を引き起こす存在を引き寄せるフラグが立っていたってことか。どこまで伏線張って来るんだこの称号は。

 こんな調子じゃ出会う人全員疑って掛からなきゃいけなくなるじゃないか。軽く人間不信に陥る事態だよこんちくしょうめ。

 

 まぁいいや。ステータスはともかく、レイラちゃん達は既に存在としての格だけならSランクの領域に足を踏み入れている訳だし、死にはしないというのならそれで良い。また来たら夜が明けるまでまた『痛神(タナトス)』を掛けて待つしかない。


「そういえば、きつね達はなんで暗黒大陸に?」

「うん! きつねさんが魔王をぶっ殺しに行くって言うから来たの!」

「へー……え!?」

「き、きつねさんって勇者か何かでしたっけ?」

「まぁ……違うな」


 姐さんの問いに、フィニアちゃんが簡単に答えた。驚く姐さんとクロエちゃん。そうではないことを分かっているけれど、思わずといった風にクロエちゃんが聞いた問いに、ドランさんが苦笑して答えた。

 なんだよ、別に勇者じゃなくても魔王倒しても良いじゃん。魔王を倒すのは勇者だけの特権というわけじゃないだろう。良いじゃん別に。


「なんでまた?」

「え? 何? そっちは何も教えてくれないのに僕には聞くの? それは違うと思うなぁ」

「流石きつねさん最低だね! 話せない理由があるって分かってるのに小者感がぷんぷんする!」

「なんで僕そんなアウェーなの?」


 というか、僕としても世界中から虐められるようになっちゃったから魔王を殺しに行こうと思いますなんて言えなくない? この理由の時点でそこそこ小者感があるじゃん。流石の僕も言えないって、男のプライドというモノがあってだね。


『それでも言い方ってモノがあると思うけどね! ふひひひっ♪』


 ちぃ、聞いていたか幽霊。

 というかさっきから首が凄いぬるぬるする。ちょっとレイラちゃん!? レイラちゃんの唾液がシャツの内側に垂れて来てる垂れて来てる! うわー……凄い嫌な感触だよ。シャツがびしょ濡れなんだけど、背中の部分めっちゃ濡れてるんですけど。まぁ空腹を紛らわせる為に我慢するけれど、凄いぬるぬるしてるんですけど。


「……」

「……」

「ん? なに?」


 すると、クロエちゃん達がこっちを見ていた。クロエちゃんはなんというか、視線をこっちに向けずに恥ずかしそうな表情をしながらチラチラ見ており、姐さんの方はうわーっという感じでこっちを見ている。

 なんだよ。僕の顔に何か付いてる? あ、首にはレイラちゃんが付いているんだった。これが原因か。


「……その、なんだ……仲が良いのはよろしい事だが、時と場合を選んだほうが良いと思うんだが」

「仕方ないじゃん、こうしないとレイラちゃんに禁断症状が出るんだし」

「えー……」


 あれ? そういえば彼女達ってレイラちゃんが魔族ってこと知らないんだっけ? それとも知ってるんだっけ? んー、この様子じゃ多分知らないな?

 まぁ良いや。レイラちゃん達が眠っていたのは僕達から遠く離れていた場所だし、Bランク以上の存在だから死んでないし、安易に魔族と結び付け無いのも分かる。


 バラす意味も無いし、さっき全然話してくれなかったから内緒にしとこ。八つ当たりだって? 知るかよそんなこと。


話が進まないなぁ……

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