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死神の始動

 翌日、僕達は依頼を受けることにした。無論、最初の予定通りアリシアちゃんに会いに行ったんだけれど、やっぱり彼女も第3王女にして次期王女ということで忙しいらしく、夜に改めて来いと追い返されてしまった。

 そんな僕達がやれることと言えば、冒険者らしく依頼を受けることだ。僕は現在Hランクだから、1人で討伐依頼を受けることが出来ない。勇者への復讐も終わったし、パーティが全員揃ったということで、僕はまず―――僕のランクを引き上げることにした。


 という訳で、ギルドの受付嬢にランク引き上げの話を持ちかけたことで、僕はHランクからFランク候補生であるGランクへと、ランクを上げることが出来た。それと、丁度今日が試験日ということで、お昼に試験を開始するらしい。そこで合格すれば、晴れて僕もFランクという訳だ。

 なので、お昼までの時間潰しにと依頼を1つ受けることにしたんだよ。フィニアちゃん達が居れば僕もパーティメンバーとして討伐依頼を受けられるからね。


 ああそうだ。ちなみにだけど、僕達のパーティ名として『死神狐(デスフェイバー)』を登録しておいた。『きつね』として僕はかなり有名だ。ランクを上げれば二つ名が付くのはそう遠くない話だろうと受付嬢の子が言っていた。二つ名とか付いたら、ますます僕の名前が悪評によって広がっちゃうじゃん。ランク上げるのに若干の躊躇を覚えた情報だった。

 さて、それで僕達が受けた依頼だけれど。


 ◇Cランク討伐依頼◇


 依頼内容:Cランク魔獣ワイバーンの討伐

 報酬  :金貨15枚

 詳細  :最近ヴォルフ火山に推定10m程のワイバーンが住み付いている。火口付近に住んでいることから、恐らく成体で『火焔子龍(フレイムワイバーン)』だと思われる。特徴として、口から火を吹き、動体速度が普通のワイバーンよりも速い。Bランクの冒険者並の実力がない場合は、受注をお勧めしない。

 

 ◇


 ワイバーンの討伐依頼。正確には、火を吹くワイバーンの討伐。恐らくは火耐性の強い種族だろうから、フィニアちゃんの火焔魔法は相性が悪いだろう。

 でも、僕達のパーティは基本的に物理的な攻撃力の高いパーティだ。それに、壁役で僕がいるからね、大抵の攻撃は僕1人居れば受け止めることが出来る。余裕綽々、所詮はCランクの魔獣だから、大したことはない。

 また、その生息場所も比較的近い場所にある。100年に1度の頻度で噴火する火山、ヴォルフ火山だ。ルークスハイド王国のすぐ近くにあり、例え噴火したとしてもルークスハイド王国には優秀な国家魔導師が居て、かなり盤石な対策を練ってあるらしい。国家魔導師か、ちょっと会ってみたいな。


 そして、僕達はその火山へとやって来ていた。


「ワイバーンって何処に居るのかなっ?」

「ん? あっち」

「うん♪ あっちだね♡」


 フィニアちゃんの疑問に、僕とレイラちゃんが簡単に答えを出した。

 やっぱり『瘴気索敵(ゲノムサーチ)』は便利だ。火口近くまで瘴気を伸ばして見たら、巨大な生物のシルエットを見つけた。どうやら何かしている訳ではないようだけど、確かに大きいね。今まで相手した敵の中でも、特に大きい。

 火山ということで、かなり暑いんだけど、耐性値の高さはどうやら火傷にも効くらしい。まぁ暑さを軽減してくれないのは不便だけど、学ラン姿で高温地帯を歩けるのは便利だね。


「ワイバーンってどれくらい強いんだろうか?」

「ワイバーンなぁ……そうだな、この面子なら負けることはないだろうが、俺なら1人で相手するのは避けたいな」

「Bランクのドランさんでもか?」

「ああ、ワイバーンってのはCランク魔獣だが他のCランク魔獣とは一線を画す実力を持ってんだ。そのデカさと鱗の堅さも厄介だが、その巨体でありながら速度も異常に速いんだ。体勢が崩れれば、立て直すのも一苦労なんだよ」


 後ろの方でリーシェちゃんとドランさんが話をしているのが聞こえて来た。どうやらワイバーンとはかなり強い部類の魔獣らしい。ドラゴンには及ばないにしても、小さい街なら1体で簡単に潰せる程の脅威となるのだろう。ドランさんも、1人なら絶対に相手にしたくない敵と言っているし、あまり油断はしない方が良いのかもしれない。

 まぁそれにしたって、僕やレイラちゃんもいるし、いざとなったら逃げれば良い。依頼達成率100%のパーティ『死神狐(デスフェイバー)』、なんて言われたい訳じゃないしね。


 そう思いながら、僕達は火山を登る。

 標高はそれほど高くはないし、傾斜も緩やかだから、登山自体はあまり辛くはない。まぁ、大きな岩石がゴロゴロ転がっているから、頂上は見えないんだけどね。


『暑そうだねーきつねちゃん! ふひひひっ……!』

(ノエルちゃんは暑いと感じる身体がないから良いねぇ)

『ふひひひっ♪ 涼しくしてあげよっか?』

(は?)


 ノエルちゃんの言葉に、僕は思わずノエルちゃんの方を見てしまう。

 すると、ノエルちゃんが僕の背中におんぶされる形で引っ付いて来た。途端に背筋へ悪寒が走る。涼しくはなったけど、こういう涼しさはいらないんだけど! というわけで、振り払うことにした。


 まぁ、触れようとしても透けることは分かってるんだけどね―――って、え?


『んにー……!』


 なんと、ノエルちゃんに触ることが出来た。いや体温とかは感じないんだけど、僕の手は完全にノエルちゃんの顔を押し退けている。ノエルちゃんは僕の両肩をその手で掴んではいるものの、頬の肉にむにーっと僕の手が沈んでいて、身体も僕の腕の長さの分だけ離れていた。

 これはアレかな? 契約者は契約した幽霊に触れるとかそういう奴? まぁ、契約したとしても幽霊側が悪意ある行動に走ったら、契約者にそれを止める方法がないと駄目だもんね。そうなれば、幽霊に触れられる方が対抗手段が分かりやすいか。


 まぁなんにせよ、ノエルちゃんに触れられるというのはくっついて来た時に引き剥がせるから良いね。

 あれ? これって透けさせることも出来るのかな? と思ったら、すいっと僕の手がノエルちゃんの顔を通り抜けた。どうやら僕の意志で触れるか触れないかの判断は変えられるらしい。


『ふひひっ♪ 新しい発見だねー……あ、私からも触れる!』

「痛い……ん?」


 ノエルちゃんが僕の後頭部を小突いた。すると、普通に痛みが走る。あれ? ノエルちゃん僕の耐性値無視? それとも『痛覚無効』を無視ってるの? なにそれ、ノエルちゃん僕の天敵じゃん……うわー絶対怒らせないでおこう。


「きつねさん!」

「ん? ……ああ、アレか」


 フィニアちゃんの言葉で、僕は目の前に意識を戻す。すると、1つ大きな岩の向こう側に赤いワイバーンの頭がちらりと見えた。向こうはまだ僕達に気が付いていないようだけれど、肉眼で見るとやっぱり想像より大きい。頭だけなのに随分と迫力があるね。流石はワイバーンという名前だけある。

 瘴気の足場に乗って大きな岩石を超えると、ワイバーンの全体像が一望出来た。火山に住んでいるからか、普通のワイバーンと違って翼はない。身体中真っ赤な鱗に包まれた、体長およそ10m程のドラゴン。恐竜とは違って腕にも立派な筋肉が付いている。多分四つん這いでも動く事が出来るのだろう。


 地面に小さな魔獣の死体がかなり転がっている。全部喰い散らかされた後だ。ワイバーンの口元がより深い赤に染まっていることから、全てあのワイバーンが喰ったんだろう。


「……どうしようか?」

「俺はきつねに任せる。正直、不意打ちなら確実にやれる方法もいくつかあるだろうしな」

「んー……じゃリーシェちゃん」

「なんだ?」


 ドランさんの言葉は、他のメンバーも同意の様で、僕の判断を仰いでいた。成程、それじゃあ少しばかり遠回りな方法を取ろうかな。瘴気に変換するのもいいし、レイラちゃんに任せても良いし、僕ら全員で連携して倒しても良いけれど、折角パーティなんだし、皆の実力を上げていかないとね。


 というわけで、リーシェちゃんに行って貰うことにする。


「サポートするから、ワイバーンを討伐出来る?」

「きつねは出来ると思うか?」

「リーシェちゃんなら出来るさ」

「なら出来る」


 僕が出来ると言うと、リーシェちゃんは自信満々に剣を抜いた。闘志が伝わって来るほど、瞳が燃えている。うんうん、良い感じだ。リーシェちゃんは僕達の中ではステータス的に弱い部分があるからね。技術で補ってはいるけれど、ステータスは高いに越したことはない。リーシェちゃんの場合、ちょっとステータスが上がるだけでかなり違う筈だ。基本相手の力を利用したカウンター技だから、自分の身体を支えられるだけのステータスが身に付けば、ほんのちょっとの能力値アップで爆発的に強くなれる筈だ。

 だから、ワイバーンだって倒せると思ってる。リーシェちゃんの場合、相手の動きを先読みする能力が高いから速度が速くともある程度対応出来るし、ワイバーンの身体が大きくとも関係ない。


 ただちょっと不安があるとすれば、リーシェちゃんの能力値でワイバーンの鱗を貫けるかってことだ。


 ステータスを見てみた所、ワイバーンの能力値はかなり高い。


 ◇ステータス◇


 名前:火焔子龍(フレイムワイバーン)

 種族:ワイバーン

 筋力:567000

 体力:890500

 耐性:78900

 敏捷:980400

 魔力:459870


 ◇


 凄まじいね。耐性だけ取っても、全ての能力値においても、リーシェちゃんのステータスを大きく凌駕している。

 リーシェちゃんの攻撃力じゃワイバーンの身体に傷を付けることが出来ないだろう。だから、そこは僕達がサポートすればいい。あの鱗を、剥いでやろう。


「それじゃあまぁ……リーシェちゃん中心にあのトカゲを、殺すとしよう」


 僕は黒い棒をくるりと回し、肩に掛ける。そして、瘴気でナイフを作り出し―――まずは1発ワイバーンへと飛ばした。


 ―――ワイバーンが、僕達に気が付いた。


 ぎょろりと、獣の瞳が僕達の方へと向かう。これで、僕達とトカゲの戦いが避けられないモノへと変わる。さてさて、それじゃあトカゲ退治と行こう。あのバカでかい身体に張り付いた鱗を全部剥ぎ取って、リーシェちゃんの剣で切り刻んでやろう。


「あのトカゲの命を狩り取って、精々僕らの糧にしようか」


 あ、今の死神っぽいかも?


パーティ名『死神狐』が、第一歩としてワイバーンを葬る様です。

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