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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第十一章 妖精の心

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戦いは終わる

「グルァァァアアアアアア!!!!!」

 その咆哮は、声の振動だけでも身体中にビリビリと響く迫力があった。大きな口の中には鋭く尖った牙が生え並び、人間なんて容易に丸呑み出来てしまう程に開かれている。恐ろしいねぇ、でも……龍と死神じゃ死神の方が格上だろう。
 だから、僕が『不気味体質』を発動した瞬間、ワイバーンと僕の間に覇気とも言える威圧感の衝突が巻き起こった。ピリピリと肌に突き刺さる威圧感と、それによって生み出された空気の動きが、僕達を中心に外側へと強風を撒き散らす。

 ワイバーンは僕に視線を向けて、警戒の色を見せた。多分僕を格下だと判断していた認識を改めたのだろう。そうだよ、僕は他人曰く死神だからね―――ワイバーン程度じゃこの命は喰らえない。

「さて……それじゃリーシェちゃん、頑張ってね」
「ああ」

 リーシェちゃんが前に出る。今回僕達はリーシェちゃんのサポート役だ。ワイバーンと戦うのはリーシェちゃんだし、倒すのもリーシェちゃんだ。僕達はリーシェちゃんがワイバーンを倒せる様に、最高の補助をしてあげれば良い。
 つまりはあのワイバーンの堅そうな鱗を全て剥ぎ取る訳だけど……コレに関しては瘴気変換を使えば余裕だ。鱗も細胞、細胞なら分解してしまえば簡単に剥ぎ取れる。でも、それじゃ意味がない……スキルが通じない相手に瘴気だけで対抗しようとすれば、結局僕は負けないだけで勝てないままだ。

 戦闘技術はちょっとずつでも向上させておかないとね。

「グルァッッ!!!」
「きつね! あぶない!」
「おっと」
「!?」

 そんなことを考えていると、ワイバーンがその大木よりも丸く太く長い尻尾を振り回して僕達を攻撃してきた。リーシェちゃん達はちゃんと躱したようだけど、僕は考え事に耽っていたから一足遅れてしまったらしい。
 でも、僕には圧倒的耐性値がある。尻尾でも物理攻撃、確かに普通の人間じゃあミンチになってお陀仏だろう。僕を除いてね。

「残念だったね、トカゲくん」

 結論、ワイバーンの尻尾は僕の顔の横で止まっていた。楯の様に準備していた腕に当たって、ぴたりと静止している。僕の身体はその場から少しも動いていないし、ワイバーンの尻尾は僕の身体に一切傷を付けられずにいた。
 ワイバーンは、この結果に驚愕の色を瞳に浮かべていた。当然だろう、ただの人間がその何十倍もの巨体から放たれた一撃を生身で防いだのだから。

 しかし、相手は僕だけではない。その驚愕から生まれる一瞬の隙は戦いにおいて命取りだ。

「えいっ♪」
「うらっ!!」
「ガァァア!!?」

 ワイバーンの背中に飛び乗ったドランさんとレイラちゃんが、勢いよく振り下ろされた剣と瘴気変換性質を持った手袋で攻撃を加えた。鱗が赤い血と共に数枚斬り飛ばされ、黒い瘴気と共に変換された。
 その痛みに、ワイバーンが短い悲鳴を上げた。

「まだまだ」

 僕はワイバーンの尻尾の根元に向かって、拳を振り抜いた。
 尻尾という攻撃を受け止めた直後の拳……つまりはカウンターだ。この場合、僕の必殺技が発動する。『城塞殺し(フォートレスブロウ)』が―――直撃した。

 瞬間、ワイバーンの尻尾が根元から消し飛んだ。真っ赤な血を破裂音と共に周囲に撒き散らし、肉塊はとても細かくなってボトボトと地面に落ちていく。

「カッ………!?」

 ワイバーンは一瞬の事過ぎて尻尾の破裂による痛みを感じる暇もなかったらしく、悲鳴を上げなかった。寧ろ、後から痛みが付いて来たらしく、行動自体はそれほど鈍くならなかった。
 まぁそのおかげで、ワイバーンの身体には幾つものウィークポイントが出来あがった。鱗もレイラちゃんとドランさんのおかげで所々剥がれ落ちたし、尻尾を失ったことで幾らか体力を持って行く事が出来た。
 多分、それでもまだワイバーンは手強い相手だろうけど、リーシェちゃんだって此処まで何もして来なかった訳じゃないし、ちゃんと自分を磨く為に努力を重ねて来た筈だ。如何に戦闘能力に差があろうと、それを僕達『死神狐(デスフェイバー)』は何度も覆してきた。

 今更ワイバーン程度、魔王に比べれば大したことはない。

「ッッッバァ!!!!」

 すると、ワイバーンはその大きな口から火を吹いた。超灼熱であり、口を開いた瞬間に周囲一帯の気温が一気に急上昇した。火口近くだからか、凄まじい暑さだ……肌がじりじりと焼けてしまう様な感覚。フィニアちゃん達の方を見ると、フィニアちゃんがルルちゃんを中心に以前の楯と同質の物かは分からないけれど、透明なドーム状の楯を作っていた。ルルちゃんの様子が気温の上昇を感じている様子はないから、多分あれは空間的なシールドなんだろう。安心した。
 僕は素で効かない。まぁ火焔放射だから服は燃えるんだけどね。学ランがどんどん燃えていく……しかしまぁ、『初心渡り』で戻せば良いか。

「レイラちゃんとドランさんは……ああ、無事みたいだね」

 見るとレイラちゃんがドランさんを抱えて空高くに瘴気の足場で浮いていた。レイラちゃん良く助けたね、ドランさんなんて放って自分だけ逃げるかと思ってたのに。仲間に対する絆とかそういう感じの気持ちもあるってことなのかな?

 ああ、違うみたいだ。レイラちゃんが僕に向かって自分の頭に触れて見せている。後で頭撫でろというサインだアレ。さては撫でて貰う為にドランさんを助けたな? あの発情魔め、だがよくやった。

「リーシェちゃん」
「ああ、分かってる」

 僕がリーシェちゃんを呼ぶと、真っ黒い瘴気の中からリーシェちゃんが飛び出してきた。咄嗟に『瘴気の黒套(ゲノムクローク)』を着せたんだけど、咄嗟の事過ぎて服の形にはなっていなかったね。瘴気の塊みたいになっちゃった。
 まぁ、無事ならなにより。リーシェちゃんが剣を下段に構えてワイバーンに向かっていく。

「きつね!」
「はいよっ!」

 リーシェちゃんが跳躍し、僕はその先に瘴気の足場を作る。そしてその足場に片足を掛けたリーシェちゃんが再度跳躍した。ワイバーンの上を取る。翼の無いワイバーンだからこそ、上を取ることが出来る。
 ワイバーンの視線が上に跳躍したリーシェちゃんの方へと向かった。すると、再度その口から炎がちらつくのが見えた。上空に向かってあの火焔放射をするつもりなのだろう。

 でも、まだまだだね。知能のある魔族の方がステータスが低かったけれど……それを使うだけの知性がある分厄介だったよ。

 ―――上に居るのは、リーシェちゃんだけじゃない。

「いくよ、リーシェ♪」
「頼む、レイラ」
「ちょっと俺落ちてるんだけどぉぉぉぉぉぉおおお!?」

 上にいたレイラちゃんが、跳躍したリーシェちゃんを受け止めて、ワイバーンの火焔放射を躱す。ドランさんがあらぬ方向へと落ちて行ったけれど、ルルちゃんが受け止めていた。幼女にお姫様だっこされてるドランさんの図が出来あがっている……気持ち悪いな。

 ソレは置いておいて、火焔放射を躱したレイラちゃんは、瘴気の足場を作って別方向からワイバーンへとリーシェちゃんを運ぶ。その速度は、落下による重力と足場を蹴ったレイラちゃんの脚力を合わせた結果、凄まじい速度になっている。

「グルァァァァア!!」
「はぁぁあああああ!!!」

 互いに咆哮するリーシェちゃんとワイバーン。リーシェちゃんの剣が煌めき、ワイバーンの顎が迫り、衝突する。

 そして―――


「はぁぁぁああああああああああああああああああ!!!!!!」


 リーシェちゃんは、雄叫びと共にワイバーンの口の中に吸い込まれていき―――我武者羅にワイバーンの体内を蹂躙した。斬って斬って、斬りまくって、肉も骨も血管も神経も内臓も、全てその速度によって発生する斬撃の威力を持って斬り刻んでいった。ぶしゅぶしゃと大きく開いたワイバーンの口から大量の血が吐き出されていく。

 そうして最後には、ワイバーンの背中からリーシェちゃんが飛び出してきた。身体中をその髪と同じ深紅に染め上げて、ワイバーンの身体を一直線に貫いた訳だ。だが同時に、リーシェちゃんの剣がパキンと音を立てて砕けた。ワイバーンの骨や肉、そして内側からとはいえ鱗に、リーシェちゃんの剣は耐えられなかったのだろう。まぁ、ワイバーンの骨でリーシェちゃんの剣を作り直せばいいよね。軽い物になればリーシェちゃんももっと動きやすいだろうし。

「はぁ……はぁ……はぁ……!」
「おつかれ、リーシェちゃん」

 呼吸の荒いリーシェちゃんに近づいて、僕はリーシェちゃんの衣服に『初心渡り』を掛けた。ワイバーンの血でぐっしょりだったからね。リーシェちゃん自体に掛けると今上がったレベルが戻っちゃうから止めておいた。

「気分はどう?」
「はぁ……はぁ……ああ、悪くない」
「お疲れ」

 リーシェちゃんは多分その戦い方から、自分の身体に付いては人一倍詳しいだろう。だから、レベルアップによる能力値の向上も敏感に感じ取っている筈だ。とりあえず、レベルだけは元に戻しておいた。1に戻してあげられないのは心苦しいけどね。

 そこへ、落ちて来たドランさんがルルちゃん達と共に近づいてきた。ドランさんが顔を両手で覆っている。耳が赤い。

「どうしたのドランさん」
「……さっきの見たか? 俺こんな小さい女の子にお姫様だっこだぞ……恥ずかしい」
「いやいや、ドランさんの羞恥心とかどうでもいいから。誰も得しないから」
「そ、そんなに重くなかったです……よ?」
「ルルちゃん、そういうことじゃない」

 女性はそういうことも気にするかもしれないけれど、ドランさんが恥ずかしがってるのはそういうことじゃないからね? まぁドランさんの巨体を抱えて重くなかったというルルちゃんもルルちゃんだけどね。筋力値だけで言えばパーティ内でも3位だからね。ちなみに1、2位はレイラちゃんとフィニアちゃん……順位はどっちがどっちかは知らない。
 というか、フィニアちゃん何気に筋力あるよね。妖精なのに……僕にその筋力ちょっと分けてよ。ノエルちゃんを除けば僕このパーティ内で筋力値最下位なんだけど。

「きつねくーん♪ あの男の人助けたよ? 褒めて♡」
『きつねちゃーん! ワイバーンの心臓ってすっごいおっきいよ! ふひひひっ!』

 するとそこにレイラちゃんといつのまにやら姿を消していたノエルちゃんが寄ってきた。レイラちゃんは予想通りだけど、ノエルちゃんワイバーンの身体の中にいたの? 10m位しか離れていないとはいえ、身体の中に入って心臓見てくるって相当頭おかしいことやってるね? 流石幽霊にして死神のパーティの一員……グロテスクなことはお手の物だね。

『でも鼓動はかなり速かったなー……こう、なんていうの? ドドドドドドドドド……!! って感じ?』

 なにその背景の効果音みたいな音。あの巨体なのにそんな心臓の鼓動速度速いの? 生物の不思議だね、まぁあの巨体で動けること自体凄まじいんだけどねー……火を吹く器官とかどんななってんだろ? ちょっと興味あるよ。

「まぁ何はともあれ……ワイバーン討伐完了、かな?」

 お腹に抱き付いてくるレイラちゃんの白いふわふわした髪を撫でながら、僕はそう言った。
ノエルはどうやら生物の中に入って体内を見れるようです。ワイバーン討伐出来ましたねー。
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