表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十章 亡霊と不気味な屋敷
188/388

屋敷迷宮攻略その2

 ◇地下4階◇


 地下3階にはゴーレムとアンデッドしか出なかったので、僕とフィニアちゃんがサラッと瞬殺することで突破する事が出来た。ちなみに、此処のゴーレムは魔道具である故にレベルアップしない。道具を破壊した所で、レベルは上がらないのだ。とはいえ、魔法を使っているからフィニアちゃんの魔力値は軽くだけど上がっている。僕の瘴気量が微々たる向上ではあるけれど、増えているのと同じことだ。

 地下4階へ降りる階段を下りた時、感じられる悪意が更に濃くなった。道の暗さも階数を重ねるごとに段々暗くなっていくけれど、僕とルルちゃんは夜目が利くし、今はフィニアちゃんの出す灯りもあるから問題ない。


 地下4階では、アンデッドとゴーレムに加えて更なる敵が居るようだ。瘴気の空間把握を展開した所、シルエットだけだがアンデッド、ゴーレムに加えて、獣の様な敵が影があるのを感知したから分かったんだけどね。

 地下4階に下りたことで、地下5階の空間把握も出来てるんだけど……様子がおかしい。地下5階の広さは今までよりも格段に狭いし、敵も見当たらない。どういうことだろう? まぁ、下りてみれば分かるんだろうけどさ。


 と、そこで進行方向に獣型の敵がいるのを感知する。もうすぐ接敵するだろう。それをフィニアちゃんとルルちゃんに教えた。


「気を付けてね、外の獣型魔獣とは何かが違うかもしれない」

「はい……!」

「嫌な気配がするね……!」


 僕の言葉に、ルルちゃんもフィニアちゃんも嫌な気配を感じているらしく、進行方向に視線を送りながらいつでも動き出せる様に体勢を整えている。アンデッドやゴーレムとは……毛色が違う。生きているのか? それとも死んでいるのか……そして、どんな戦い方をするのか。この普通とは違った気配を感じさせる相手に、僕も少し警戒心を高めていた。


 そして、その敵が僕達の目の前に現れる―――!


「あ、なんだ生物じゃん」


 その敵は僕達を見つけたと同時に飛び掛かってきた。容姿は、顔が焼け爛れた巨大な狼……ゾンビ犬とでも言うべきだろうか? 毛皮も剥がれ、剥き出しの肉体のまま血を振り乱している。

 でも、僕は逆にその凶悪な実験動物のなれの果てとも言える姿を見て安心した。だって、生物だったからだ。生物ならば、細胞が生きている。ゾンビだろうとアンデッドだろうと、それが変わらないのなら変えられるんだ。


 という訳で、僕は飛び掛かってきたゾンビ犬を瘴気に変換した。何処の細菌兵器で作られたんだあの犬は。

 実験魔獣とでも言うべきゾンビ犬だけど……どうやらこの地下施設で行われていたのは、生物に対する実験だったみたいだね。あのゾンビ犬といいアンデッドといい、死者蘇生の研究でもしてたのかな? ゴーレムは警備兵としても……実験失敗の痕だろうゾンビ犬とアンデッドを放逐なんて……この場所にはもう誰もいないってことなのかな?


「うぷっ……!」

「ルルちゃん、大丈夫!?」

「すいま、せん……気分が……」


 すると、ルルちゃんは吐き気を堪える様に口を手で押さえて、青褪めた表情をしていた。

 まぁ、魔獣とかアンデッドみたいな死体を見るのは耐えられたようだけど、毛皮が剥がれて筋肉や神経、血管が剥き出しになっている上に、そんな状態でも襲い掛かってくるゾンビ犬は、同じ犬の獣人としてかどうかは分からないけれど、見ていて気分の良い物ではなかったのだろう。

 普通の人なら吐き気をもよおしてもおかしくはない。寧ろ、吐いてしまっても責められることではないだろう。死臭も酷いしね……瘴気化して早々に姿を消し去ったのは、正解だったかもしれない。

 きっと、元々は雑魚魔獣である狼か何かだったのだろう。そこに人工的な手を加えられ、あんな醜い姿に変えられてしまったのだろう。速度だけでいえばFランク程度にまで強化されていたから、もう普通の魔獣とは言えないね。


 名前を付けるとしたら、『検体魔獣(コードアンデッド)』。


 人間の手によって強制的に強化された、最悪の実験動物(モルモット)だ。これほどの代物を生み出そうと思う研究者なんて……良い感じに頭の調子がおかしいみたいだ。動物だけでなく、人間にも手を加えているようだしね。人を人とも思わない、命を軽んじる様なマッドサイエンティストなんだろう。


「大丈夫? 休憩しようか?」

「だい……じょうぶです……すぅ……はぁ……進みましょう」


 休憩を提案するも、ルルちゃんは気丈に振る舞う。しかし、繋がれた手は震えているし、顔も蒼白に染まってる。確実に、大丈夫ではないだろう。

 だから僕は、ルルちゃんを抱き抱えて壁に凭れる様に座った。フィニアちゃんも、同じ様に壁に凭れ掛かって座る。考えている事は同じの様だ。


「んー、駄目だね。休憩しよう」

「きつね様……!?」

「ルルちゃん、僕は最初に言った筈だよ。君は奴隷だけど家族だ……君が嫌だと言うなら、強制はしない。此処の探索でお荷物にならない様に無理するっていうなら、それは間違ってる」


 渋るルルちゃんに、僕は叱る様にそう言った。

 図星だったのか言葉を呑んだルルちゃんの頭を、僕は優しく撫でた。全く、大分消えてきたかなぁとは思っていたけれど、大した奴隷根性だ。勇者に引き離されていたからかな? 家族と奴隷の境界線が曖昧に戻ってしまってる。


「家族なら無理って言って良い。気兼ねしなくても良い関係を家族って言うんだ」


 何処かの本に書いてあったから、多分間違いない。僕は僕の家庭環境が普通とは大きく掛け離れている事をちゃんと自覚していたからね。僕は出来るだけ、僕と同じ家庭環境を作りたくはない。だってほら、被るの嫌じゃない。流行っていた人気のカードゲームのカードを拾った事があるけれど、2枚あったら1枚は虐めで書かされたラブレターに入れて送っていた人だからね僕。

 すると、僕の言葉を聞いてルルちゃんはしゅんと肩を落とした。どうやら納得はしてくれたらしい。


「はい……」

「うん、じゃあ少し休憩しよう。なんなら寝てても良いよ、瘴気の空間把握は使い様によっては……超広範囲の殲滅技にも成り得るからね」

「?」


 首を傾げるルルちゃんとフィニアちゃん。

 彼女達は気が付かない。今この時、この地下4階のフロアに居るアンデッド及びゾンビ犬が全て瘴気に変換されていることに。地下5階に回していた分の瘴気を、地下4階のフロアに充満している瘴気と合わせて使うことで、このフロアのアンデッドとゾンビ犬を一掃しているんだ。姿は見えなくとも、空間把握で場所は分かるし、生物で瘴気変換が可能だと分かっている以上、殲滅は簡単だ。


 ゾンビ犬をルルちゃんの前に出現させるのは、避けたいからね。正直、平気だけどあまり見ていたい物でもないからね。そう思いながら、僕は最大瘴気量を更に増やした。残るはゴーレムだけだけど、階段までなら遭わずに進む事も可能だろう。



 ◇ ◇ ◇



 それからしばらく休んだ後、ルルちゃんの顔色も大分良くなってきたので、進行を再開した。

 地下5階に下りる階段までゴーレムに遭わずに辿り着くのは、そう難しい事ではなかった。ただ、階段には仕掛けがしてあった。簡単に下りられない様にする為か、それともこの先は関係者か権力的に上位の者しか入ってはいけない空間なのかは分からないが、階段を下りる為には少々こなさなければならないあれやこれやがあるらしい。


 その仕掛けとは、設置型の魔道具による罠だ。フィニアちゃんの慧眼によると、魔法陣が設置されているらしい。その魔法陣の効果は恐らく、転移系のもの。屋敷の外に放り出されるか、それとももっと遠い場所へと飛ばされるか、と言った感じだろう。

 この仕掛けをどうにかしない以上、この先には生物が簡単に入れないようになっている。とんでもなく嫌らしい罠だ。思わず笑っちゃうね。多分コレの正しい突破法は、この先に入れる人間だけが知っていたんだろう。


「どうするの? きつねさん」

「うん? あはは、まぁこういう双六のスタートに戻る、みたいな人の嫌がる仕掛けは中々センスが良い。今までの努力全部が台無しにされる感覚は、いつだって気分悪くしてくれるからね―――でも」

「でも?」

「人の嫌がることを考えるのは得意なんだ」


 そう言って、僕は階段を下りていく。何もせず、ただその階段を下りていく。魔法陣があろうと、止まる事はない、止まる必要も無い。


「きつねさん!?」

「大丈夫だよ」


 後ろから呼び掛けるフィニアちゃんの声にそう返事をしながら、僕は光る魔法陣を踏んだ。

 でも、魔法陣は発動しない。何故か? 無論、コレはただの光であって魔法陣ではないからだ。この魔法陣はダミー、目に見える魔法陣という罠を仕掛けるだけなんて、頭の悪そうな仕掛けだ。此処の研究員はもっと頭が良かった筈だ。でなければ、ゴーレムの作成や生物実験なんて思い付かないだろうし、まして実行する為に此処までの施設を作り出す事も出来ないのだから。


 つまりこの魔法陣は視覚的心理を衝いた罠であり、この魔法陣を解除する為の仕掛けを探させようという意図があるんだ。

 実際、階段の奥の壁に探さないと分からないだろう隠されたスイッチがあった。恐らくアレを押すことで偽物の階段が現れるとか、多分そんな仕掛けがあるんだとおもう。そっちを進めば、本当に転移魔法陣でも敷かれてるんじゃないかな?

 だから正解は、罠を気にせず直進って訳だ。


「さ、フィニアちゃん達も下りておいでよ」

「……きつねさんって詐欺に遭いそうにないタイプだよね」

「寧ろ詐欺をするタイプだって言われた事はあるよ」


 しおりちゃんにね。あの時は割とマジで凹んだ。僕そういう風に見られてるんだなぁって思ったね。まぁしおりちゃんもフィニアちゃん同様悪意なく悪態を吐く事があったから、あまり気にしなかったけど。

 さて、それじゃあ今までとは少し性質の違う地下5階へと降りるとしよう。フロアとしては今までより桁違いに狭く、そして生物の気配も無い……魔法的な反応があればフィニアちゃんが気付くだろうけど、どうしたものかな。何も無いと良いけれど。


 ただ、地下5階には地下6階へ降りる階段がない。密閉された空間、ということは此処が最下層? まぁ研究所となれば、無駄に階層を増やす必要はないだろうけれど……此処までなにも無かった。アンデッドはいたけれど、孤児の死体とか実験を行ったであろう実験室なんかも見つかっていない。

 なのに此処で最下層なのは少し違和感がある。もしかしたら、この地下5階……地下4階までとは違って、ボス的な物が出てくるかもしれないね。切り良いし。


 そんなことを思いながら僕達は偽物の魔法陣を踏み越えて、地下5階へと下りて行った。



地下4階まで踏破。次は今までとは何か違う地下5階……どうなる?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ