挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第十章 亡霊と不気味な屋敷

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

187/361

屋敷迷宮攻略その1

 ◇地下2階◇

 地下1階のフロアには、対して人影も無く情報も無さそうだった故に、桔音達はすぐさま瘴気の空間把握で見つけた階段の下へと向かい、地下2階へと下りた。
 普通、『迷宮(ダンジョン)』という場所は危険な場所だ。一般的な攻略法としては、1度ではなく、何度も出入りしながら、中の構造をマッピングし、魔獣や罠の情報を集め、安全を確保しながらの攻略となる。必要資材の確保や、適性ランク等々、様々な情報戦が鍵となるのが『迷宮(ダンジョン)』踏破の最も重要で必ず気を付けなければならない要素なのだ。

 しかし、今回桔音はその常識を知らなかったことと、ガスという有毒性の危険が屋敷内に入ってきてしまった事の緊急性から、早々に屋敷攻略へと動き出したのだ。食糧などなく、十分な準備もなく、この場所の情報も碌にない。そんな状況で。
 しかも桔音はたった1回の攻略で最下層まで踏破するつもりでいる。無論休憩は挟むつもりではあるが、ソレは確実に普通の冒険者の常識を大きく逸脱した行為だった。

「ルルちゃん、見える?」
「はい」

 そんな中で、桔音達は確実に進んでいる。地下3階へ続く階段の場所は分かっている、その場所へと最短距離で向かっていた。
 地下2階はそれほど灯りも無く、かなり薄暗い。しかしルルは獣人の夜目が利き、桔音はレイラの赤い瞳が暗い廊下でも視界を確保してくれている。フィニアも桔音の肩に乗っている故に、進行にそれほど影響はなかったのだが、流石に薄暗い視界は咄嗟の判断が遅れてしまうということでフィニアが光魔法を行使する事にした。

「『妖精の聖歌(フェアリートーチ)』」

 真っ白で小さな炎が、廊下を照らす。この魔法は基本的に高火力の攻撃魔法なのだが、それ故に強い光源にもなる。桔音達を中心に、廊下がかなり広い範囲で照らされていた。しかも、魔獣が襲い掛かってくれば、その白い火で攻撃する事も出来るので、一石二鳥だ。

 何とも物騒な灯りである。

「ん、次の道を曲がった所、何か居るね」

 すると、桔音の空間把握が動く存在を捉えた。形としては人の姿をしているのを感知しているのだが、どうも動きが人間らしくない。魔獣ではないが、知性ある魔族でもないようだと思った。
 3人がそれぞれ警戒しながら、続いていた廊下の突き当たり、角を曲がる。すると、そこに居たのは真っ白な肌の人間だった。白目を剥いて、だらしなく開いた口からは涎がぼたぼたと流れ出ており、そして何より、ガリガリの身体には無数の傷があった。明らかに致命傷、動きも人間とは思えないふらふらと不気味なものだ。完全に普通の人間とは思えない。

 瞬間、桔音は思い浮かぶ。もしかしたら、コレが『食屍鬼(アンデッド)』と呼ばれる魔族なのではないかと。人が死に、何らかの要因で生まれる生きた死体。光魔法や聖水などを喰らえば子供でも倒せる、Hランクの特殊な魔族。
 特徴としては、人間がセーブしている脳のリミッターを死んだことで全解除しており、凄まじい怪力となんでも食べようとする旺盛過ぎる食欲。埋まらない飢餓心を、どうにか埋めようと足掻く存在。

 ならば、と桔音は動き出す。

「瘴気に変換出来るかな? どうせ細胞だし」

 以前オーガの死体を瘴気に変換しようとした桔音だが、死体には瘴気変換が出来なかった。生きようとしている細胞が機能を停止してしまったからだ。
 だが、この『食屍鬼(グール)』は動いている。動いているということは、細胞が少なからず生きているということ。脳のリミッターが解除されているということは、ある程度機能停止していても、動いている脳があるということ。脳が動いているということは、血液が流す心臓が動いているということ。
 どのようにして動いているのか、それは分からない。どうやって停止してしまった心臓が動いているのか、脳が機能しているのか、そういった疑問は別として、強制的に生かされているにしろ細胞が動いているのなら瘴気に変えることが出来る筈だ。桔音はそう考えたのだ。

 試しに瘴気で包み込み、瘴気に変換してみた。すると、多少眼球や髪の毛など、変換出来なかった部分はあれど、大部分が瘴気に変換する事が出来た。これは良い発見だ。

「うん、『食屍鬼(アンデッド)』も大したことはないね」

 但し、ステータスを見る限り死んでいるからかレベルは一切上がらなかった。瘴気が増えるだけで十分な収穫ではあるが、レベルが上がらないというのは少しだけ不満を感じる桔音である。

「進もうか」

 桔音の言葉で、フィニアとルルはまた歩き出す。アンデッドには驚きを隠せなかったが、桔音がアレはもう死んだ人なんだと教えると少し悲哀の表情を見せたが、直ぐに切り替えた。死んだ人間は可哀想だと思うけれど、それでも死んだ人間を思って行動する事は出来ない。そんな余裕も力も、ルルやフィニア、そして桔音にもないのだから。

 そして数体のアンデッドを瘴気に変えた後、また階段まで辿り着き、地下3階へと下りていく。


 ◇ ◇ ◇


 ◇地下3階◇

 地下3階は、背筋がゾッとするほどの悪意を感じた。桔音は平気そうだが、ルルは少し表情が歪んでいる。気味の悪い物に対面している様な感覚だ。桔音の手を握る手に、少しだけ力が込められた。
 実は、桔音が瘴気変換で戦っている理由として、ルルが手を握っているからというのがあったりする。まぁ生物である以上、瘴気変換は幅広く有効なのだから、支障はないのだが。

 そんなことを考えていると、それが有効ではない敵が出てくるものである。

「うわー、ゴーレムだ」
「ゴーレムだね!」
「ゴーレム、です」

 現れたのは、道を塞ぐ程の大きさのゴーレムだった。しかも、生きていない機械のタイプ。恐らくは魔道具で作られた『魔導機兵(マジックゴーレム)』だ。瘴気変換は、恐らく効かない。
 ステータスを見てみるが、やはり道具は道具。ステータスは見えなかった。桔音はとりあえずこのマジックゴーレムのことを、『油性ペン』と呼ぶことにした。

「油性ペンは機械だから、ある意味生物相手よりやりやすく、やりにくいと思う。決められた動きしか出来ないけれど、ダメージで怯む事も無ければ動きが鈍る事も無いから厄介だろうね」
「でもあれって魔道具でしょ?」
「ん、まぁそうだろうね」

 桔音が真面目に分析していると、フィニアが首をこてっと傾げながら言うので、桔音は肯定した。
 すると、少しの間腕を組んでうんうんと考えたフィニアは、何か思い付いた様にゴーレムに向かって飛んで行く。

「フィニアちゃん?」
「大丈夫! 見てて!」

 フィニアが自信満々にそう言うので、桔音はとりあえず大人しく見ておくことにした。
 勢いよく飛んで行くフィニアだが、ゴーレムの目の前まで辿り着くと灯りにしていた『妖精の聖歌(フェアリートーチ)』を胸部にいきなり叩き込んだ。轟音と共に、ゴーレムの胸部装甲が破壊され、内部が露出する。
 桔音が、うわぁ早速か、と思っていると、フィニアは驚くべきことにその露出した部分からゴーレムの内部へと小さな身体を滑り込ませた。流石に桔音も驚きを隠せない。

 そして、フィニアが入り込んでから数十秒後――

『―――ュ―――ン……』

 スイッチが切れる様にゴーレムは停止した。バランスを崩し、その巨体が倒れた。
 何が何だか分からないという風な桔音達だが、倒れたゴーレムが内側から白い焔と共に爆発した。無論、その白い焔の出火元は中に入り込んだフィニアだ。それを証明する様に、弾け飛んだ背中から小さな妖精が飛び出してくる。フィニアだ。

 フィニアは桔音の下まで飛んでくると、指を2本立ててぶいっと勝利のサインを示した。

「勝利! いぇい!」
「……何をしたの?」
「んー? 魔道具だから、それを動かしてる魔力コアに出鱈目に魔力を流し込んで、強制的に機能停止に追い込んだの!」

 魔法使いであれば恐らく誰にでも出来ることだろうが、魔力コアは基本的に魔道具の中心に内臓されている。ゴーレムの様な相手だと魔力コアはそうそう露出しないので、普通は出来ない方法なのだが、フィニアの身体は妖精故に小さい。ゴーレムの内部に入る為に少々装甲を破壊すれば、後は中から強制機能停止が可能なのだろう。
 ちなみにフィニアがやったことは、電子機器に許容量以上の電力を一気に注ぎ込むのと同じこと。大電流で回路を焼き切るのと同じことをやったのだ。

「んー……まぁいいや。つまり魔道具のゴーレムはフィニアちゃんがいれば簡単に倒せるって訳だね?」
「そういうことだね! あんでっどは桔音さんの独壇場だったから、ゴーレムは美少女妖精フィニアちゃんに任せてよ!」

 フィニアはどんとそのぺたんこな胸を張る。魔力操作に関しては、思想種の妖精として凄まじい能力を持っているフィニアだ。魔道具の生成や操作はともかく、破壊に関してはこの場の誰よりも向いているのだろう。とりあえず、現れるゴーレムはフィニアに任せることにした。
 更に先へ進む。

「んー……まだ下に進む階段があるみたいだね」
「まだあるんですか……」
「うん、地下5階もあるみたい」

 瘴気の空間操作で、桔音は地下4階に続く階段を既に見つけており、更に地下4階のフロアに地下5階に続く階段を見つけている。
 この瘴気の空間把握、限界ギリギリまで広げて大体2フロアに展開出来るのだが、『迷宮(ダンジョン)』攻略の大事な要素であるマッピングが出来るという点では、大きなアドバンテージとなる。更に魔獣の動向も把握出来るのだから、正直普通に頑張っている冒険者泣かせのスキルである。
 とはいえ、この迷宮の難易度は迷宮としてはかなり低い方だ。本来ならばこのように道が人工的に整然と整えられてはいないし、魔獣達ももっと多く出てくる。

 ちなみにこの世界の最も危険な迷宮として有名なのは、『地獄(ヘルゲート)』と呼ばれる迷宮である。ランク不明(EX)、入り口に入る事も出来ないSランクを遥かに超えた地獄の世界だ。
 それに比べれば、この屋敷など現時点で判断するとしたら、ランクにして精々E、Dランク程度だ。そこに桔音のスキルが加われば、最早この迷宮の踏破など簡単過ぎる。

「さ、どんどん行こう」

 桔音は不気味な薄ら笑いを浮かべながら、倒れ伏したゴーレムの上を踏み越えた。
 もしかすれば、最下層までノンストップで行けるかもしれない。未だメンバーが揃っていないにも拘らず、見る者全員にそう感じさせるほどの圧倒的戦力が、今の桔音のパーティなのであった。
あれ? 意外と簡単?
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ