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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十章 亡霊と不気味な屋敷
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迷宮の如き屋敷

この辺から、背景をブラックモードにすると雰囲気出るかもしれませんねー。パソコンのみの様ですけど。

「フィニアちゃん! ルルちゃん!」

「きつねさん? どうかしたの?」

「きつね様……?」


 戻ってきた桔音は、すぐさまフィニアとルルの下へと駆けよって『初心渡り』を施した。戻すのは、この屋敷に向かう直前。メアリーと街を歩いていた時の状態だ。ステータス的にも、それほど変化はない。ルルは戦闘中能力値が不明となっていたけれど、アレは強化の結果故に元のステータスに戻っただけと言える。

 屋敷内には霧――もしかすれば有毒ガスかもしれないが、ソレが多少入り込んでいる。長居するのは得策ではない。どうやら天井の大穴を塞いだ以上、この屋敷の中にはガスは入って来ないようで、昏睡したレイラ達も屋敷の中に居た故にガスによる影響はない様だ。


 桔音はその耐性値と瘴気に適性のある肉体が、ガスの有毒性を無効化しているのだろう。寧ろ、桔音はおおよそほとんどの毒物が効かない耐性を手に入れているので、行動に支障はない。


 桔音はとりあえず、フィニアとルルにオリヴィアとアリシアから聞いた屋敷の歴史を伝えた後、恐らくこの屋敷の地下に続く入口がある筈だと話を締めた。


「……とりあえず、地下に続く入り口を探すってことだね?」

「うん、多分あると思うんだ」

「それなら……多分此処ですね」

「え?」


 すると、その説明を聞いたフィニアとルルは、その事ならこれだよ、みたいに探すまでも無く私は知っているというような口ぶりで、ある一点を指差した。階段の踊り場であるこの場所の、リーシェの座っている椅子の真下、そこに何かがあるとばかりに指差した。

 桔音は、首を傾げながらもリーシェを椅子ごと持ち上げて少し横にどかす。物の様に扱っているものの、リーシェは昏睡状態なのだから仕方が無い。しゃがみ込んで、その椅子があった床に触れる。椅子の四脚が地面を掴んでいた場所を除いて、埃が満遍なく溜まっており、指がなぞった所の色が変わった。


 だが、この屋敷の中にガスが入ってきたからだろう。よく分かる。


「……ガスが、此処に集中してる……?」


 そう、椅子の真下の床に向かって、入ってきたガスがゆっくりと移動しているのだ。空気の流れが、この床に集中していたということだ。ガスが入ってきていなかった時は分からなかったことである。

 すると、桔音はその辺りを中心に床をコンコンと叩く。


 ―――ゴン……ゴン……ゴン……コォン。


 叩いて行くとある一点で空気に反響する音。その床の下には空間がある事が予測される。此処が地下への入り口なのだろう。だが、その床はタイルではなく一面に広がる石の床だ。入り口となる様な床の切れ目も無ければ、開く様な仕掛けも見当たらない。スイッチか何かがあれば良いのだが、そういった仕掛けを探す手間を桔音は省く。

 寧ろ、そういう仕掛けでは無く転移魔法陣か何かを発動して下に行くのかもしれないと考えても良い。ここはファンタジーの世界なのだから。

 もしもそうだとするならば、そういう魔法を桔音達が使えない以上、強行突破が望ましい。


「破壊しよう」


 桔音はそう言って、ガスが入り込んでいるであろう場所に瘴気を流し込む。そして、一気に膨張させた。薄い床にビシッと罅が入るのを確認して、桔音は立ち上がって軽く罅割れた床を蹴った。

 すると、床は簡単に崩れ落ちる。薄暗い屋敷の中に、若干の灯りが漏れてきた。地下空間、ビンゴだった。


 桔音は再度しゃがみ込み、その中を覗きこむと―――桔音の眉間に、矢が突き刺さった。


「……危ないなぁ」


 だが、ぽろっと矢は床の穴に落ちて行った。普通の矢が桔音の耐性を突き破れる筈が無い。正規の方法以外で入り口を入ろうとした者への罠だったのだろう。一応耐性値が500前後程が限界の人間であれば、難なく眉間を貫ける速度ではあったのだが、そこは流石桔音の耐性値だった。


「じゃ、下りよう」

「はい」

「うん!」


 桔音が先導して地下に下り、続くようにフィニアとルルが下りてくる。


『……こんな場所があったのかー、びっくりびっくり……ふひひひっ……!』


 そして、ノエルが再度入ろうとしたのだが……穴の直前でピタッと動きを止めた。入れない訳ではない。入ろうとしたのだが、入りたくないという様な感覚だった。

 桔音は下からノエルを見上げる。すると、そこにはノエルの固まった笑顔があった。口端が戸惑う様に引き攣って、死んだ瞳が揺れている。幽霊の身体ではあるけれど、その肩は多少震えていた。


「……ノエルちゃんは此処で待っててよ、とりあえず……この中を調べてくるから」

『……ふひひっ……そうしてくれるかな? なんでか分からないけど……悪寒が止まらないんだよねー』


 桔音の言葉に、ノエルはそうしておくとばかりに身を引いた。ダボダボの袖を振って、桔音達を見送る。悪寒が止まらないなんて、幽霊の身体でもあり得る事なのだろうか。そんなことを考える桔音。

 だが、幽霊の身に走るこれほどの悪寒。死ぬよりも恐ろしい恐怖を感じていたのだ、ノエルは。自分の死んだ時に、何かがあったのだ。


 ―――恐らく、死ぬよりも恐ろしい……絶望が。


 恐ろしくて、恐ろしくて、堪らない。桔音達が姿を消した後、ノエルは独り……自分の身体を抱き締めた。肉体はないのに、心臓が動悸している感覚が鮮明に感じられる。既に死んでいるのに、死に纏わり付かれている様な感覚。


 自分の中にあった筈の何かが、失われてしまっている感覚。


『……っ……何があったの? 私が死んだ時に―――……!』


 ノエルはぽつり、誰にも聞こえない声を漏らした。




 ◇ ◇ ◇




 下り立った地下空間は、上の屋敷とは違って綺麗に整えられていた。地球の映画である様な研究所然とした廊下というわけではないけれど、それに似た様な廊下が伸びていて、扉がいくつも存在している。

 瘴気の空間把握を展開して、その全ての部屋の内部を調べたけれど……人の気配はない。動くものの気配も無い。本棚やちょっとした機材なんかはあるようだけど、恐らくは魔道具だろう。


 問題は、更に地下へと続く階段があることだ。

 僕達は今、その階段へと向かっているのだけど……更に地下へと伸びる階段があるなんて、まるで『迷宮(ダンジョン)』のようじゃないか。しかも、その階段よりも下の階には、動くものの気配がある。人間の大きさではないから、恐らくは魔物か……それとも別の何かか、だ。

 警戒の必要は、大いにあるだろう。


 それに、僕の瘴気を全開で使って空間把握したら、地下2階の空間も大体把握出来る。地下3階に続く階段も、やはりあった。空間把握が続くのは、そこまでだ。何分、この地下空間は1フロアがかなり広いからね。


「……なんだか、嫌な感じがする」

「そうだねぇ……悪意の塊みたいな場所だ」


 フィニアちゃんの言葉に、僕はそう返す。

 この場所は何とも言えない、悪意を感じる。狂気と言っても良いかもしれないね……そんな感覚だ。誰が、何の目的で、何をしていたのか……なんにせよ、マトモな事はしていないだろう。


「そうだね……とりあえず、この場所は『迷宮(ダンジョン)』に類する場所と認識しておこうか。最低でも、戦闘は免れないだろうから」

「うん」

「はい」


 フィニアちゃんとルルちゃんが、同時に返事を返した。

 ともかく……進むとしよう。この地下空間、恐らく人1人の死じゃ説明が付かない何かがあるぞ。あの幽霊……ノエルちゃんはきっと、何か恐ろしい企みに巻き込まれた恐れがある。


「怖いねぇ……正体不明って」

「きつねさん」

「うん、分かってる」


 フィニアちゃんの声で、僕は目の前に見えた階段を見る。一瞬、真っ黒な悪意がオーラになって見えた様な錯覚すら覚える。地下2階でこれほどなんだ……最下層はどんな怪物が待ってるんだか。

 そう考えながら、僕は階段を近づいて行く。すると、ルルちゃんが僕の手を握ってきた。ルルちゃん自身は僕の手を握っている自覚はない様で、この悪意を前に無意識で僕の手を掴んだ様だ。握り返すと、ルルちゃんはそこで初めて僕と手を繋いでいる事に気が付いたらしく、少しびっくりしたような顔を浮かべた。

 でも、少しだけ安心した様な表情を浮かべた後、今度は固く僕の手を握り返した。


「さ、いこっか!」

「うん、大丈夫? ルルちゃん」

「大丈夫です、きつね様と一緒ですから」


 フィニアちゃんが肩に座り、ルルちゃんは手を繋いでいる。3人一緒なら、怖くないさ。


 僕達は立ちこめる悪意になんの恐怖も無く、階段を下りて行った。



 ◇ ◇ ◇



 薄暗く、魔道具の放つ蒼い光が目立つ空間に、動く者がいた。

 切るのを忘れた様に伸ばしただけの長い黒髪を揺らしながら、これまた伸びた前髪に隠れた瞳で天井を見る。

 すると、何かに気が付いた様に大きな魔道具を動かし始めた。魔力を送って動かす魔道具だが、その人物は苦痛の表情を浮かべながら魔道具を動かしている。

 すると、大分ノイズが走っているが、空中に大きなスクリーンが浮かび上がる。そこには、地下2階への階段を下りる少年と獣人の少女、そして妖精が映っていた。その人物は、少しだけ驚いたように口を開けると、すぐさま魔道具を停止させて、走りだす。その空間の出口である扉を蹴り破る様に体当たりで開き、全力で暗闇の中を走っていく。


 辿り着いた場所は、更に暗く小さな部屋だった。そこには、大量の死体が転がっている。人間の死体だ。その人物はその死体の山を一瞥して目的の物を探す。

 部屋の隅にあるテーブルの上に幾つか置いてあった魔道具の中から、選ぶ様に小さな魔道具を手に取ると、ふと笑みを浮かべた。


「侵入者は……『コレ』で殺すか」


 その人物は、先程の少年たちの姿を思い浮かべながら、手の中の小さな魔道具を見て笑う。何をしているのか、それは分からないが……この人物は、少年たちを侵入者と呼び、そして殺すと言った。

 やましくない事をしている、というわけではないのだろう。それこそ、あの少年たちはこの場所を悪意の塊だと呼んでおり、そしてこの場には多くの死体が転がっているのだから。


 その人物は、死体の横を通り抜けながら部屋を出る。薄暗い廊下を歩き、また別の場所へと移動していく。侵入してきたあの少年たちを排除する為に、屋敷の地下――最下層に居た存在が……不気味な笑みと共に動き出した。


屋敷の地下の迷宮……最下層の存在……桔音達は、この悪意の巣窟を踏破し、全ての謎を解明出来るのか―――?

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