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【書籍化】異世界来ちゃったけど帰り道何処?  作者: こいし
第十章 亡霊と不気味な屋敷
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不穏因子の同時多発

 懐かしの―――という程時間は経っていないけれど、およそ1週間ぶりのルークスハイド王国は少し、活気が無いように見えた。

 まぁ、錯覚かもしれないけれど……なんとなく、戸惑いというか、困惑といった感情が渦巻いている様な雰囲気だ。特に、街を歩いている冒険者達の表情が少し浮かない感じがする。まぁ僕を見た冒険者達は違う意味で驚愕というか、厄介事が増えた様な嫌な顔をしてきたから、多分この国で何かあったんだろう。それも、冒険者中心に。


 どうやら僕の名前、というか『きつね』という通り名は冒険者の間で広まっているらしいことは、ジグヴェリアにいた冒険者達の様子からなんとなく察している。恐らく僕の容姿やその特徴も広まっているんだろうね、自分で言うのもなんだけど……僕って結構目立つ格好してるよね。

 学ランはこの世界じゃあまり見ないだろうし、両眼で色も違う虹彩異色(オッドアイ)、加えて魔族の力で戦う人間と来たもんだ。おおよそ普通からは大きく外れちゃってるねー。


 とはいえ、何かが起こったこの国に、冒険者の異端児とも呼べる僕がやってきたんだから、少なくとも碌な事にはなりそうにないだろうと思うのも仕方が無いのかもしれない。でもちょっと不満だ、勇者がやってきた訳じゃないんだから、そんなあからさまに嫌な顔をしなくてもいいと思うんだけど。


「なにかあったのかな?」

「さぁね、とりあえずソレを聞きに行こうか」

「? ……どこにですか?」


 ルルちゃんの言葉に、僕は直接答えずある方向を見た。ルルちゃんとフィニアちゃんが僕の視線を追って、それを見た。

 そう、この国で最も大きな建造物―――城である。


 1週間ぶりに会う王女姉妹達なら、この国の現状に最も詳しい筈だ。再会の挨拶がてら聞きに行くとしよう。ああ、第2王女のアイリスちゃんには会わないようにしないとね。好かれても嫌われても、あの拷問趣味の対象にされるのは御免だからね。

 ルルちゃんとフィニアちゃんにも、城に行く途中でソレを説明しとくとしよう。



 ◇ ◇ ◇



 さて、しばらく歩いて城の門までやってきた。門番の人は僕の見たこと無い兵士だ。僕は冒険者としてはHランクだからなぁ、入れて貰えるか不安だ。前回門番をぶっ飛ばして強行突破したもんだから、余計警戒されてそうなんだよねぇ。まぁその辺はアリシアちゃん達がなんとかしてくれていると思っておこう。

 とりあえず、話し掛けてみる。


「あの、ちょっと良い?」

「む……貴様、何者だ?」

「アリシアちゃ……えーと、第3王女の知り合いなんだけど、通してくれないかな?」

「何? ……確認を取る、名前は?」

「きつね」


 名前を聞かれたので答えると、門番の兵士は他の兵士を呼んで、代理を頼んだ後城の中へと去って行った。どうやら僕が本当にアリシアちゃんの知り合いかどうかを確認しに行ったようだ。しばらく待っていないといけないのかー、その間ちょっと暇だなぁ。


 と、そんなことを思っていると、ルルちゃんとフィニアちゃんが何やら驚いた様な表情で僕を見ていた。どうしたんだろうと思って、首を傾げながら聞いてみる。


「何?」

「きつねさん、今第3王女って言った? 王女と知り合っちゃったの?」


 ああ、その表情の原因はそれ? ルルちゃんも同じ様で、視線を向けると勢い良く首を縦に振った。とりあえず、僕はその問いに視線をやや上方へと向けながら答えた。視界に映る城が、以前と同様に華々しく聳え立っていた。


「ああ……うん、一応第1王女と第2王女とも顔見知りではあるよ。第2王女とは良好な関係を築けている訳じゃないけど」

「ふーん……あははっ! この女っ誑し~♪」

「いつもとテイストの違う悪態ありがとう」


 どうやら、王女と知り合いであることに驚いたらしいけれど、フィニアちゃんは未だに驚きを隠せずにいるルルちゃんと違って、あまり大したことではないと判断したようだ。まぁ、彼女は半分異世界人みたいなものだから、そういった権力や地位みたいな事には無頓着なのかもしれない。


 そもそも妖精だしね。


 すると、先程の兵士が戻ってきた。ついさっきの仕事に真面目な様子とは裏腹に、少し慌てた様子が表情に浮かんでいる。アリシアちゃんに何か言われたのかどうかは分からないけれど、どうやら僕が知り合いではないと言われた訳ではなさそうだ。


「っはぁ……はぁ……す、すいませんでした! アリシア第3王女がお待ちです! 此方へどうぞ!」


 うん、どうやらその通りの様だ。アリシアちゃん僕のこと忘れてなかった様だね、良かった良かった。じゃ、会いに行くとしよう。あの子も一応王女だし、冒険者とはいえ平民である僕が待たせるのは忍びないからね。僕は前を先導する兵士の後ろに付いて行く。

 すると少し気が引けるのか、兵士の大声に後ろに下がってしまったルルちゃん。だから僕は手を握り、最初に出会った頃の様に引っ張る。すると、彼女は少しだけ安心したようで、前と同じように付いて来てくれた。

 フィニアちゃんは元々気落ちしている訳じゃない。僕の肩の上で、機嫌良さそうに鼻歌を歌っている。

 ただ、ぷらぷらと足を上下させているから、僕の肩に微妙な踵落としが微妙にダメージを与えて来てる。まぁ耐性値が高いからダメージと言っても精神的な意味で、なんだけどさ。


 城の中に入り、見覚えのあるレッドカーペットの上を歩く。絢爛豪華な廊下は相変わらずで、居心地を悪くする。庶民の生活に慣れた僕みたいな一般人が気後れしちゃうのって、こういう世界の違う感じがあるからだろう。

 もしかしたら、この豪華な世界観を見せつけて、交渉前に牽制しているのかもしれないね。そういう意図があるんだとすれば、流石としか言いようがないね……初代王女も、中々頭が良い。


「ねぇ門番さん、この国に何かあった? なんか全体的に困惑してるような雰囲気があるんだけど」

「え、ええ……まぁ、何かあったというか……この国に、最近ある冒険者が現れたようです。なんでも、滅法強いらしく……ここ1週間程で、たちまちSランクまで駆け上がったとか」


 おそらく、近い内にSランクの序列にも数えられるでしょう。門番さんはそう言った。ある冒険者、ねぇ……しかも1週間でSランクの実力を得たっていうのは、正直凄まじい成長ぶりだ。

 というより、元々Sランクの実力を持った存在が冒険者になったという感じかな?


 冒険者ギルドでは、Fランクにさえなれば、魔獣の討伐依頼を受けられるから、そこでランク的格上の魔獣でも倒しまくったのかな? Aランク魔獣やSランク魔獣とか、はたまた魔族の1体の首でも落としたのか……まぁそれは別としても、凄まじい強さなのは明らかだ。

 とはいえ、Sランクの実力を持った奴……ね。ステラちゃんといい、魔王といい、レイラちゃんといい、Sランクの化け物は皆僕に関わってきたからなぁ……正直、フラグにならないといいけど。


「だから冒険者達が困惑してるのかぁ……」

「おそらくは……詳しくは知りませんが、冒険者とも一般人とも違った、異質な風貌をしている様なので、見れば直ぐに分かると思います」

「ふーん」


 異質な風貌ってオイ。また変な奴じゃないの? あーあ、冒険者ギルドに行くの止めておこう。絶対会いたくない、関わりたくない、知り合いたくないの三拍子で拒否するね。


 と、そんな会話を繰り広げながら歩いていると、大きな門の前に辿り着いた。一際煌びやかで、お金が掛かっていそうな扉だ。

 門番さんは僕達に一旦お待ちください、と言ったけれど、どうせアリシアちゃんのことだから入れとか言うに決まってる。そんな無駄なやりとりをするだけ無駄だと思うなぁ。あの子も頭良いんだし、そういった効率とかもちゃんと理解している筈だ。


 という訳で、門番さんがノックして扉を少しあけ、身体を滑り込ませる様に中へ入り、扉を閉じようとした所で足を入れた。ガコン、という音と共に扉が閉まるのを阻止した。


「なっ……」

「お邪魔するよ、無駄な時間は省く主義なんだ」


 驚きの声を上げる門番さんに対して、僕はそう言って扉を手で開けた。門番さんは多少抵抗したものの、筋力的には僕の方が上らしい……扉は力比べの結果、僕の力に沿って扉は開かれた。

 中に広がっていたのは、大広間。図書室の方が広かったけれど、あっちには本棚がいっぱいあったからね。こっちの大広間の方が感覚的には広く見える。


 そして、僕が開けた扉の対面にある階段の上、設置された玉座の上にアリシアちゃんが不敵な笑みを浮かべて座っていた。

 7歳児の癖に、妙に風格があるのは相変わらずの様だ。足を組んで、肘掛けに肘を置いている姿はかなり貫録があり、見た目よりも彼女を大きく見せていた。


「やぁ久しぶりだね、アリシアちゃん」

「き、貴様! 王女様になんて口を……」


 僕が手を挙げて挨拶すると、門番さんが剣に手を掛けてそう言ってくる。

 でも。


「良い、下がれ」

「な……王女様!」

「私が許しているのだ。それに、そこの男は私の友人……今更丁寧な態度を取られても気味が悪いだけだ」

「は、はっ!」


 アリシアちゃんがそう言って、門番さんを下がらせる。こんなにも広い大広間には、僕達の他にアリシアちゃんしかいなくなった。


「……無事だったかきつね、少し前に何やら巨大な光の柱が見えた故に、身を案じていた所だ」

「ああうん、あの光の柱ね。直撃喰らったけど、まぁなんとか生きてるよ」

「ッハハハ! ……で、そこの妖精と獣人の娘が、お前が勇者に会いに行った理由か?」

「そうだよ、フィニアちゃんとルルちゃん。僕の大事な家族だ」


 そうか。とアリシアちゃんは言った。不敵な笑みが、優しい微笑みに変わる。なんだろう、この幼女……僕より大人に見えるなぁ……どんだけ天才なんだよ。

 まぁでも、この様子じゃ僕との約束は守ってくれたようだね。あの屋敷に、誰も近づけさせないっていう約束を。といっても、あの屋敷に近づこうとする奴なんて、そうはいないだろうけどね。


「それで……これからあの屋敷に行くのか?」

「うん。さっさとリーシェちゃん達を助けないといけないし……あの屋敷の問題も解決するつもりだからね」


 アリシアちゃんが約束を守ってくれた以上、僕も約束を守らないといけないよね。この国に帰ってきたら、アリシアちゃんの懸念事項は全部僕が解決するって言っちゃったし。

 此処に来たのは帰って来た事の報告と、門番さんに聞いちゃったけどこの国のちょっと困惑した雰囲気について聞きたかったからだからね。ソレが終わればさっさと屋敷に行って、リーシェちゃん達を助けに行くつもりだ。


 すると、アリシアちゃんの表情が少し曇った。


「きつね……その屋敷なんだが、1つ不確定要素がある」


 天才アリシアちゃんにしては、珍しく声のトーンが芳しくない。不確定要素か……一体何があったのかな?


「……最近この国にSランクまで瞬く間に駆け上がった冒険者がいるのは知っているか?」

「ああ……うん、門番さんに聞いたよ」

「その冒険者なんだがな……近々その屋敷へ行くつもりらしい。最近頭角を現してきた実力者故に、この国の危害にならないかどうか間諜を出して調べさせたのだが、その結果屋敷に近づこうとしているのが分かった」


 はぁ……となると、やっぱり関わらずには居られないのかもしれないなぁ。つくづくSランクに好かれるねぇ僕も。あの幽霊もレイラちゃんを軽々手中に収めた手際から、実力的にはSランクかもしれない。どんだけSランクに塗れた人生送ってんだろう僕。ちょっとハードモード過ぎる気がするよ。

 『初心渡り』が無かったら僕もう死んでたんじゃないの? 今マジで良かったと思ったよ僕。


 まぁ、敵では無い事を祈るとしよう。アリシアちゃんから先に聞けたことを良かったと思おうか。


 とはいえそのSランク、なんで今、ルークスハイド王国(ここ)で現れたのか、疑問だな。

 偶然と言えばそれまでだろうけれど……何かあるかもしれないと考えてしまうのは、魔王とか使徒とか色々とあったからかな? 考え過ぎかもしれないけど、なんだか少し―――



「うーん、いやーな予感がするなぁ……」



 肩の上に乗っていたフィニアちゃんが僕の方を見たけれど、僕の呟きはこの広い空間の中では簡単に掻き消えてしまった。


幽霊に別のSランク……桔音の中で嫌な予感が、加速する。

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