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鬼神

 剣戟の音が響く。それは、鋼と鋼がぶつかる甲高い金属音とは違う、ちょっと奇妙な剣戟の音だった。

 ソレがぶつかり合う度に、雷が弾け、瘴気が蠢く。青白い光が、昼間であるにも拘らず地面を白く照らし、漆黒の瘴気が空気を黒く染め上げる。


 白い雷を振るうのは、白い髪を翻し、まるで踊る様に舞う使徒と呼ばれる少女。


 黒い刃を振るうのは、薄ら笑いを受かべ、まるで遊んでいる様に飄々とした少年。


 2人の戦いは、およそ普通の冒険者と呼ばれる人間達から見れば、規模が違っていた。自然で構成された武器同士がぶつかる度に、その余波が周囲に振りまかれ、介入することすら許さないとばかりに連続して衝突していた。

 少女が踏み込めば少年が躱し、少年が刃を投げれば雷が撃ち落とす。お互いが一進一退、けれどお互い全力は出していないようだった。優勢なのは少女、少年の攻撃を悉く受け流し、確実に少年にその刃を突き立てるべく迫っている。

 少年はその瞳を翠色に変えており、その瞳に宿る先見の力を行使することで、どうにか少女の攻撃を躱す事が出来ている。ならば必然、少年がその先見の力を行使出来なくなったその時、少女の攻撃は少年の身体を穿つだろう。


 しかし、それは少年も少女も理解している。その上で、少女は少年がその通りにやられてくれるとは思っていないし、少年も少女にやすやすとやられない手段を用意はしていた。

 とはいえ、その手段も多大なリスクを伴う。下手したら、数秒でその身が持たなくなる可能性があった。


「きつね様……!」

「きつねさん!」


 少年の後方、そこでは戦闘の余波に耐えながらも少年――桔音を心配して、でも戦闘に介入出来ずにいるルルとフィニアがいた。戦う力を失ったルルと、そんなルルを護る為にルルの下を動けないフィニア。

 桔音が戦っている所を見ているしかないということには、多少歯痒い部分はあるけれど、だが自分達が思っている以上に桔音が強くなっていることに驚愕を隠せない。


 桔音はそんな2人の声に、更に不敵な笑みを浮かべた。


「……仕方ない―――危険を顧みる意味は無いよね」

「?」


 危険を顧みる必要は、桔音にはなかった。

 大事な存在の命が、桔音に掛かっている。ならば生き残る為に多少の危険を冒すことを恐れている意味は無い。それに、上手くいけばノーリスクで終わる事も可能だ。


 スキル『鬼神(リスク)


 鬼神の名をスキルの名前にしておきながら、その読み方に危険そのものを当て嵌めた、『臨死体験』同様桔音だけが保有している、人類史上でも最も強力で危険なスキルである。

 その効果は―――


「さ……行くぞ、使徒ちゃん」


 ―――潜在能力の解放。


 桔音の両の瞳が蒼く煌めき、そしてステータスが爆発的に跳ね上がる。

 人間が普段使っている脳の割合は、10%から40%。残りの60%から90%は人間が無意識に制限してしまっているのだ。

 そしてその残りの90%も全て使う事が出来たのなら、人間は全員もれなく世界を変えられるだけの超人的な力を手に入れる事が出来るとされている。

 とはいえ、それは1度に使用している使用量が10から40%というだけで、基本的には100%、普段どの部分も等しく使われているらしい。

 しかし、やはり100%を全てを1度に使用した場合……人間の身体はその負荷に耐えられない。肉体は崩壊するばかりで、最悪死んでしまうし、仮に生き残ったとしても寿命は2、3時間程に縮んでしまう程のリスクを秘めている。


 ―――だがこの『鬼神(リスク)』というスキルは、その100%を全て、戦闘という用途で一気に解放するスキルなのだ。


 ステータスは爆発的に跳ね上がり、耐性以外の全ステータスが人間の限界値を超えてくる。しかしその代償として、普通なら肉体は数秒で肉塊となり、生き残ったとしても廃人確定となる超ハイリスクの力だ。まさしく、鬼神の如き力。


 そう、普通なら。


 桔音であるからこそ、このスキルが使いこなせる。桔音には高い防御力……つまり高い自己治癒能力がある訳だが、これは『鬼神(リスク)』を発動した場合逆に大きく下がる。逆に、肉体が崩壊していくのだから、当然だろう。

 しかし、桔音にはそれを補うスキル――『臨死体験』がある。『鬼神(リスク)』が発動すると同時に、死の気配を感じた『臨死体験』が発動するのだ。0に限りなく近づくほど減少した耐性値は、このスキルによって爆発的且つ強制的に向上する―――!


 すると、桔音のステータスはこうなる。


 ◇ステータス◇


 名前:薙刀桔音

 性別:男 Lv1

 筋力:5600000

 体力:45257020

 耐性:88920100

 敏捷:84134500

 魔力:67023190


 【称号】

 『異世界人』

 『魔族に愛された者』

 『魔眼保有者』


 【スキル】

 『痛覚無効Lv7』

 『直感Lv7』

 『不気味体質』

 『異世界言語翻訳』

 『ステータス鑑定』

 『不屈』

 『威圧』

 『臨死体験』

 『先見の魔眼Lv7』

 『瘴気耐性Lv8』

 『瘴気適性Lv6』

 『瘴気操作Lv8』

 『回避術Lv5』

 『見切りLv5』

 『城塞殺し(フォートレスブロウ)Lv5』

 『鬼神(リスク)


 【固有スキル】

 『先見の魔眼』

 『瘴気操作』

 『初心渡り』


 【PTメンバー】

 フィニア(妖精)

 ルル(獣人)


 ◇


 この場合、桔音を殺す要因は『鬼神(リスク)』というスキルであり、耐性値の基準となる攻撃力が存在しない。故に、このスキルが発動している間、桔音が死なないでいられるだけの耐性値になるのだ。

 その結果、桔音の耐性値は『約9000万』にまで跳ね上がった。その他のステータスも当然跳ねあがっている。あの筋力値でさえも、人外の領域に足を踏み入れていた。


 ここで更に、『城塞殺し(フォートレスブロウ)』を組み合わせると、その攻撃力は人外の領域すらも飛び越える。

 『(耐性値×5)+筋力値』、つまり今の桔音のカウンターの威力は数値にして『約4億5000万』となるのだ。それは、拳の1発で周囲を消し飛ばすことが出来る程の威力。当然、何かに当たればありとあらゆる物を破壊する事が可能だろう。


 つまり、桔音は『鬼神(リスク)』というハイリスクなスキルを、実質のノーリスクで行使する事が可能なのだ。

 とはいえ、その代償の高さ故に、桔音はその寿命を若干縮めることになる。そう何度もほいほいと使える様な力ではない。


「―――ッ!?」


 瞬間、桔音の速度が跳ねあがる。踏み出したと思ったその時には移動を終えていて、使徒の目の前にまで踏み込んでいた。

 驚愕に目を見開く使徒。反応出来ない速度ではない、使徒の能力値だって桔音に匹敵するだけのステータスとなっているのだから。しかし、でも、これは、幾らなんでも先程と違い過ぎた。


 先程までの桔音と、何かが違うことは分かっていた。だが、先程と全く動きが違い過ぎる。その差が、使徒に決定的な隙を作り出した。


「フッ……!!」


 桔音が息を吐く音が聞こえた瞬間、使徒が防御の為に構えた稲妻の槍が―――その衝撃で曲がった。


「なっ……!?」


 その余波で使徒の身体が宙に浮き、大きく後方へと吹き飛ばされる。なんとか体勢を立て直して着地する使徒だが、その手に握られていた神を殺す槍が一瞬とはいえ大きく反り返った事に、驚きを隠せない。

 あり得ない程の威力、もしも神殺しのこの槍で受け止めていなかったら……そう考えるだけで背筋がぞっとする。


 しかも、もっと驚愕な事実がある。桔音の動きに、無駄が無くなっている。先程まであった素人臭さが全く消えているのだ。正真正銘、今の桔音の動きは戦闘において全くと言って良い程無駄が無かった。流れるように、音もなく、且つ最短距離を最速で踏み込んできたのだ。

 何があったというのか、使徒には分からない。


「……これは一体……?」

「―――分かる、なんとなくだけど」


 蒼い瞳を煌めかせて、桔音はそう呟いた。

 今の桔音は脳の100%を解放し、その全てを戦闘の為に使用している。それはステータスの向上だけで収まるほど生易しい領域ではない。ステータス向上は、ある意味『鬼神(リスク)』というスキルで解放された100%が齎す前提的な効果なのだ。

 その本領は、人間の100%の中に秘められた全ての可能性の解放である。


 遺伝子に刻まれた人類の歴史が解放され、桔音は今一時的に……人類の刻んできた戦いの記憶を遺伝子から覚醒させていたのだ。


 故に、本能で分かる、身体の動かし方が。


 自分の身体の、最適な動かし方と、戦闘における最高のパフォーマンスが。


 どう動けばどうなるのか、どう動く事が出来てどう戦う事が出来るのか。


 それが今の桔音には感覚で理解出来るのだ。


 人間の可能性を全て網羅した気分だった。身体中を満たす全能感、本当になんでも出来るのではないかと思う程だ。

 また、他にも色々と出来る様ではあるけれど、桔音にとってはこれから少しずつ試して行く段階だ。


「……恐ろしい才能、ですね」

「すー……ふー……僕としても、この状態でいるのは避けたい……さっさと済ませようか」


 使徒は考えていた。目の前に佇む不気味な少年の、他の人間にはない希少な才能について。初めに出会った時から、思えばその才能は姿を見せていた。何かを奪わせない為に、自分自身を奮い立たせ、敢えて前線に立とうとするその姿こそが、桔音の才能だったのだ。


 ―――自分の命を何の躊躇いもなく賭ける事が出来る才能


 だがそれは、誰かの為に自分を犠牲出来るというわけではない。誰かの為、何かの為でなくとも、桔音は自分の身を簡単に、まるで自殺を望んでいるかのように捨てられるだろう。

 今でこそ彼は元の世界に帰る為死なない様にしているけれど、もしもそれが無かったのなら……桔音は恐らく誰もが恐怖する程に、自分自身の為に自分を投げ捨てただろう。


 それが理解出来るからこそ、使徒は背筋がゾッとするのを感じた。無感情、無表情、まるで機械の様だった使徒が、初めて目を見開いて驚愕の表情を見せた。人間らしい感情を見せた。


「……ええ、私も少しだけ本気で行きましょう」


 蒼い瞳を煌めかせる桔音に、使徒もまたその力を開放する。あのSランク冒険者、ゼスに使っていた力―――神を葬る武器の、リミッターを開放する―――!


「―――『神殺しの稲妻(ブリューナク)』、聖痕解放(オーバードライブ)


 それは、使徒の振るう武装に秘められた力の解放。しかも、今回は前回の様な抑えた解放ではない。正真正銘、全開だ。雷の槍は、より一層シャープになり、世界の自然の1つを内包した真価を発揮する。降り注ぐような威圧感が、桔音の放つ『不気味体質』と衝突し、拮抗する。


「昇華―――『神葬ノ雷(ブリューナク)』……お互いに短期決戦を望む様ですし、始めましょう」


 使徒が槍を構え、桔音はそれに対して漆黒の刃を構えた。


 怪物同士の戦いは、更に熾烈を極める―――……


桔音は強化系のスキルでガンガン強くなっていきますね。鬼神にはまだ秘められた力がありそうです。勇者来たら死ぬんじゃね?欠けていた戦闘技術の差が埋まっちゃったよ?

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