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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第九章 勇者と桔音

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桔音に近づく勇者

 使徒ちゃんに連れられてやってきたのは、先日一戦交えた場所―――つまりは国の外門前だ。彼女は元々周囲にいる人間達に配慮が出来る故に、これは所謂、彼女の言う所の『浄化』の対象である僕を除いた、ジグヴェリアの人々の命までも脅かすつもりは無いという意思表示なのだろう。
 この場に居るのは、僕と、フィニアちゃんと、ルルちゃん。門の前に放置しておいた冒険者達は全員姿を消していた。それぞれの国に帰ったのか、それともジグヴェリアの中に居るのかはさておき、これは僕にとっても使徒ちゃんにとっても良い状況だろう。

 そして使徒ちゃんのその意思表示はつまり―――僕と一緒に居るルルちゃんとフィニアちゃんの命を奪うつもりはないということにもなる。これは僕にとって得な事実だね。
 最悪、僕が死んだらフィニアちゃん達は見逃して貰える筈だ。彼女は合理的で効率的だから、例え僕が死んで復讐にルルちゃんとフィニアちゃんが襲い掛かったとしても、殺さずやり過ごすだろうしね。死ぬつもりは無いけどさ。

 すると、使徒ちゃんがその白い手にもう3度目になるだろうか、青白い雷の槍を生み出した。相変わらず、神殺しに相応しい迫力と威圧感だ。僕なんて瞬きの間に消し飛ばされそうだ。怖い怖い、怖すぎておしっこ漏らしちゃいそうだよ。
 でもまぁ、漏らすのは嫌だから……抵抗させて貰おう。

 ―――『不気味体質』、発動。

 そろそろ、この子ともケリを付けたいからね。また狙われるのも面倒だし、適当に相手して、適当に叩きのめすとしよう。
 と、その前に……

「ルルちゃん、壊れた首輪はまだ持ってる?」
「え? あ、はい……これです―――え!?」
「今度は壊さない様にね?」

 僕はルルちゃんが大事に布袋に包んで持ち歩いていた首輪の残骸を、『初心渡り』で元通りに戻した。そして、またルルちゃんの首に付けてあげる。これでルルちゃんはまた僕の奴隷(かぞく)になった。
 まぁ嫌なようなら後で取ってあげるさ。もしかしたら此処で死ぬかもしれないし、戦闘が始まる前にこれを直してあげたかったんだ。忘れるところだったよ。

「……はいっ」

 ルルちゃんは泣き虫だ。よっぽど大事にしていたのか、宝物の様に首に付けられた首輪を撫でながらじんわりと涙を浮かべていた。まぁ、嬉しそうで何よりだよ。勇者に壊された全てを取り戻すって誓ったしね、首輪もその内の1つだ。
 さて、それじゃあ結構待たせてしまった訳だし――使徒ちゃんとの戦いを始めよう。露草色の瞳が、僕の視線と交差する。何処までも無機質で機械の様に無感情な瞳、使徒とは何か、彼女はどんな存在なのか、人間とは違うのか、そんな疑問の答えは見えないけれど……それでもただ、彼女がその名前程神聖な存在ではないのだろうという事は、確信出来るね。

 使徒なんて名前の存在が、こんなにも機械の様な存在である筈が無い。

「待たせたね」
「いえ……もうよろしいですか?」
「うん、ただ1つ約束して欲しい事があるんだ。僕も君の目的の為に何度も何度もこうして戦う破目になるのは正直嫌でね……この戦いで僕が勝ったら、もう金輪際僕の命を狙わないと約束して欲しいな」
「……なるほど、分かりました。ならば―――今此処で浄化するしかなさそうですね」

 言葉には出していないけれど、使徒ちゃんは僕の言葉を承諾してくれた。此処で浄化する事が出来なければ、金輪際僕の命を狙ってくることは無いだろう。巫女の様に何か呪い的な契約を結ぶ必要もない、合理的で無駄な選択をしない彼女は、約束を破れる様な人格を持っている訳ではないからね。約束をしたということは、それをきちんと守る。出来ないのならそもそも彼女は約束自体しないだろうし。
 とはいえ、ここで彼女に勝つにしても彼女は色々と不確定要素が多過ぎる。あの槍の解放状態にしてもそうだ……手加減していたようだし、可能性としては今以上に速くなり、今以上に威力が上がる可能性がある。攻撃力だけで言えば、あの魔王も容易に上回ってくるだろう。

 瘴気変換の性質を持ったナイフ、『瘴気の黒刃(ゲノムスティレト)』を生成し、僕は構える。

 正直彼女の神殺しの武器を受け止められるのは、瘴気の武器だけだ。どうやらこの瘴気、攻撃力において使用者のステータスが反映されるとはいったけれど、防御力においても使用者のステータスが反映されるらしい。更に言えば、瘴気の防御力は物理と魔法どちらも使用者の耐性値が反映される。
 つまり、僕の使用する瘴気の防御力は、物理においても魔法的にも世界最硬だということだ。あの武器は彼女の魔力によって顕現された武器故に、物理的にもそうだが、魔法的な攻撃力が高いんだと思う。
 だから僕の防御力を抜いてくる……つまり僕の防御力は魔法にはそれほど効果を及ぼさない可能性があるね。これには多分魔力値が関わって来るんだろうけれど……どんだけ攻撃力高いんだあの武器。

「それじゃ始めようか……さっさと終わらせよう」

 無い物強請りをしても仕方ない。僕の持てる力全てで、生き残る為に戦えば良い。最悪、『鬼神(リスク)』を使う可能性も考慮しておこう。

 あれは僕との相性が抜群に良いけれど―――……危険すぎるからね。


 ◇ ◇ ◇


 一方その頃、勇者達はというと……ベッドで昏睡したまま目覚めない巫女セシルの看病しながら、ジークを除いて全員が1つの部屋に集まっていた。
 昨日上半身裸で倒れていた巫女を見つけたのは、勇者凪。
 彼は昨日、巫女セシルと共に少し遠くにある洞窟に住まう魔獣、『鉱山醜鬼(マウンテンオーガ)』の討伐を受けていた。この魔獣はDランク魔獣であり、あのジェネラルオーガと強さを同じくする強力な魔獣だ。ジェネラルオーガが平地に住まうオーガの大将だとすれば、マウンテンオーガは山岳地帯に住まうオーガの大将だ。身体の色が緑色で、鉱山に住んでいるからか鉄の棍棒を持っている。立体的な動きが得意で、山での戦いではその巨体に似合わぬ器用さを持った個体である。

 しかし、巫女は洞窟のある山へ行く途中で見えた外門前に、桔音の姿を見た。故に勇者に具合が悪いから宿に戻っている、依頼に失敗すれば勇者の名誉に関わるので、出来れば依頼を達成して下さい。危険ならすぐに退いて下さいね、と口から出まかせで別れたのだ。
 その後ルルとフィニアの依頼の先に先回りし、後は桔音と一悶着、という訳だ。

 それで、無事にマウンテンオーガを討伐して意気揚々と帰ってきた勇者は、倒れた巫女を直ぐにベッドに寝かせた。一応上半身が裸で背中には踏まれた跡があったが、慌てていて気が付かなかったようだ。上半身が裸だと気が付いたのは寝かせた後だったが、すぐに掛け布団を掛けて隠したのだ。
 そしてその後帰ってきたジークとシルフィを加えて、看病している。ルルとフィニアが帰って来ないことも心配ではあったので、凪とシルフィが巫女の看病、ジークがフィニア達の捜索へと出掛けている。

「……なんでこんなことに」
「ナギさん……それ21回目、です」
「でも……セシルは体調が悪いって言ってたんだ。でも、そんなに具合が悪い様には見えなかった……! 心配掛けない様に強がってたんだ……それを見抜けないなんて、何が仲間だ……!」
「それ、17回目、です」

 現在看病中の凪とシルフィだが、ベッドを挟んでセシルに付いている。ずっと目を覚まさない彼女を心配して、凪は先程から自分の注意不足を後悔していた。シルフィは何度も同じことを呟く凪に、少し溜め息を付いている。
 凪が嫌いという訳ではないが、少し心配し過ぎだと思う。傷も無く、倒れていただけならすぐに目覚めるだろうし、熱もないのだからそれほど心配する事でもないのだから、重苦しい空気を作られると居心地が悪いのだ。

「……はぁ……ごめん、ちょっと動揺してる……ルルちゃん達は大丈夫だろうか?」
「ジークが探しに行った、ので……きっと帰ってきますよ」
「ジークって呼び捨てにしてるんだな」
「べ、別に……堅苦しいからさん付けを止めろって言われただけです、から……深い意味は無い、です」

 空気を変えようと話題を変える凪。すると、思わぬ恋話要素が出て来て、顔を赤くするシルフィを凪は温かい瞳で優しく見つめた。確実にシルフィはジークに惹かれているな、と思いながら少しだけ気持ちが落ち着くのを感じた。

 すると、その時だ。

 部屋の扉が勢いよく音を立てて開けられた。びっくりして2人は扉の方を見る。すると、そこには息を切らしたジークが居た。ただならぬ様子で、凪もシルフィも先程までの緩い雰囲気を掻き消し、すぐに思考を切り替えた。
 その辺は中々経験を詰めたようで、凪も直ぐに真剣な思考にスイッチを切り替える事が出来るようになったらしい。

「どうしたんだ? ジーク」
「はぁ……はぁ……大変だ、あの白い奴……使徒って名乗ってた奴が国の外門前まで来てやがる!」
「なッ!?」
「今は1人の冒険者が足止めで戦ってるようだが、並の冒険者じゃすぐにやられちまうぞ……そしたら次に狙われるのは……この国……!」

 ジークの言葉に、凪もシルフィも目を見開いて驚愕する。まさか、あの使徒がこんな所に来るなんて思わなかったのだ。ただでさえほんの少し前に一戦交えたばかりだというのに、こんなに早く再会するなど思いもしない。
 しかも、現在相手をしているのはたった1人の冒険者。だが凪達は知っている、冒険者1人で相手が出来るほど、あの使徒は甘い存在ではない。自分達が束になっても敵わなかったのだから。

 凪は考える前に立て掛けていた剣を掴み、部屋を飛び出そうとした。その冒険者を助けに行かないと、と思ったのだ。
 しかし、それはジークによって止められた。何故止める、という疑問を込めて凪はジークを見る。

「行ってどうなる……前回から劇的に強くなった訳じゃねぇ、今行っても前の二の舞だぞ」
「……それでも、俺は勇者だ。その冒険者が倒されればこの国の人々が危険に晒される……それを身過ごせるほど、俺は非情にはなれない」

 ジークの言葉は御尤も。今の勇者が行った所で、使徒には勝てないし、今度こそ死ぬかもしれない。
 でも、凪はそれでも行かずにはいられなかった。勇者がどういう存在なのか、桔音からも使徒からも否定された勇者としての自分。そして今もなおその答えは見つかっていない。
 しかし、みすみす殺される命を身過ごす事が出来ないのも事実。ならば、その為に戦うのは自分の役目だと思ったのだ。凪は勇者であろうとなかろうと、そうした筈だから。

「この国の人を助けたい……俺に力を貸して欲しい」
「…………んな目すんじゃねぇよ、ったく……仕方ねぇな」
「ははっ……ありがとう、ジーク」

 すると、ジークは頭を掻いて凪の腕を放した。困った様にそう言うジークに、凪は苦笑した。

 勇者凪と、冒険者桔音―――同じく異世界からやってきた2人の再会は、すぐそこまで迫っている。
桔音と勇者が再会したら―――どうなるかな?
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