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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第九章 勇者と桔音

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再会を果たす

日は跨いだが、更に連投!3連投?いや、感覚的には4連投!
 セシルは、目の前に現れた桔音に対し、内心焦っていた。『不気味体質』がトラウマである事は勿論、桔音という人間自体が彼女にとって苦手意識の対象だからだ。
 しかし、依然としてまだ手の中にお面がある。このお面はフィニアの命、桔音だってそれを理解している筈……感情的に動くことは無い筈だ、命が掛かっているのだから。

「きつねさん……あのお面には巫女の意志で爆発させることが出来る結界が張られてるの」
「へぇ……本当かな?」

 肩にフィニアを乗せた桔音は、薄ら笑いのままセシルを睨む。両の瞳が蒼く煌めいている彼は、その不気味な威圧感も相まって、かなり恐怖心を誘ってくる。
 見た事も無い蒼い瞳は、心を見透かしてくるようだ。セシルは嫌な汗が滲むのを感じながら、爆発する結界という嘘を見抜かれるのではないかと不安になる。

「ええ、私の意思で何時でも爆破出来ます」
「声が震えてるぞ?」
「ッ……!?」

 フィニアの言葉に同意し、緊張と不安を悟られない様にポーカーフェイスのままそう言ったセシル。しかし、桔音の指摘で息を詰まらせた。不気味に笑う彼の言葉は、セシルの動悸を速める。
 まさか、まさか、本当に……?

 ―――見抜かれている……!?

 だが、桔音の指摘は桔音のハッタリだ。本当は、セシルの声は震えてなどいなかったし、本当に見事な程のポーカーフェイス、演技力だった。
 しかし、それでもだ。桔音はこと騙し合い、嘘を見抜く力において、右に出る者はいない。故にセシルの嘘も、軽々と見破ってみせた。ハッタリ? 嘘? そんなもの、桔音の前では何の効果も無い。

「ま、いいや。爆発する結界か、厄介厄介、これはまいったねぇ」
「っ……そうです、妙な動きをすれば破壊します」
「それは困るね。ソレは僕の宝物なんだ……破壊されたら勢い余って殺しちゃうだろ」
「構いませんよ、そこの妖精を道連れに出来るのなら」

 桔音は、嘘と見破った上でその嘘に乗った。そうすることで、巫女を気付かれずに心理戦に引きずり込んだのだ。
 巫女がどんな力を持っているのか、それは桔音も良く分かっていない。ただし、魔王が攻撃しても壊れる事のない結界を展開する事が出来、その他にも性質の違う結界を展開出来ることは知っている。下手に攻撃して防がれれば、まず不利になるだろう。
 だからこそ、桔音は巫女を心理戦に引きずり込んだのだ。
 小さな頃から交渉事や国の汚い部分に関わってきたセシルは、無論そういった交渉術にも長けているし、相手を言動で丸め込むといった技術でいえば高いレベルに達している。それを理解した上での心理戦。

 桔音は生まれた頃から、世界の理不尽と共に生きて来た。屁理屈と嘘とハッタリを織り交ぜた舌戦なら、幼い頃からお勉強してきた様なセシルに負ける気などしない。

 だから、セシルの言葉に桔音はこう返した。

「いやいや、お前じゃねぇよ。ほら、僕って女の子を殴ったりしない紳士だからさ、勢い余ってその辺を歩いてる勇者気取りとか殺しちゃうかもしれないじゃん?」
「ッ!? それは―――!」
「あれ、どうしたの? ああ、大丈夫大丈夫、勇者気取りが死んだら責任もって魔王は僕が倒しとくから。まぁもしもそのお面を壊されたらだけどね」
「……そうですね」

 桔音は、セシルの護りたい物を見抜いている。
 正直に言えば、見抜いているというよりは、推測が立つのだ。桔音はある程度勇者達の行動と自分への認識に対する予想を立てている。

 恐らく、ルルとフィニアは攫われた後勇者に言っただろう。自分は桔音に虐げられてはいない、家族の様に暮らしていたと。つまり、かなり時間が経っている今、勇者達の誤解は恐らく解けていると予想する。
 にも拘らず、巫女がルルを刺すという行動に出たということ。そして自分がある程度勇者達のトラウマになっている予想から、桔音は巫女の行動の根幹には『勇者』がいるのだと確信していた。

 となれば、巫女に対する最も有効な手段は、勇者を引き合いに出すことだ。

 それ以前に、『不気味体質』が発動している以上、桔音は巫女よりも精神的優位に立っているのだ。最初の時点でこの心理戦は桔音が勝利している様なものなのだ。それに加えて、相手がされて嫌なことを意地悪く見抜ける桔音だ、巫女に勝ち目は無い。

「そのお面、どうしたら返してくれる?」
「……私達に今後一切危害を加えないと約束してくれるのなら」
「あ、そう? 良いよ良いよ、約束する」

 セシルも自分が劣勢である事を理解している。だからこそ、このお面という残された手札を最大限に有効活用する。返す代わりに、今後一切危害を加えないことを誓わせる。凪が桔音に謝りたいと言っている以上、関わるなということは出来ないが、危害を加えられないというのなら会うのは構わないと考えたのだ。
 そして、意外にも桔音はその案を簡単に受け入れた。拍子抜けするが、約束してくれるというのならセシルはそれで良いと思った。

 それなら、とセシルは桔音に近づく。警戒は薄めない、寧ろ警戒心は強くしながらちょっとずつ近づいた。

「……手を出して下さい」
「手? はい」
「―――破魔の巫女たる我が名の下、契約を結ぶ……『呪詛契約(カーズコントラクト)』」

 差し出された桔音の手に、セシルが何か魔法を掛けた。それは、約束事を魔法的契約にする為の魔法であり、約束を破った者には重い呪いが掛かる魔法だ。
 セシルが桔音と結んだ約束は、『勇者、及びその仲間に危害を加える行為の禁止、代わりにお面を返還する』だ。
 これを破った場合―――つまりセシルはお面を返さなかった場合、桔音は勇者達に危害を加えた場合だが……約束を破ったその時は、重い呪いが掛かる。例えば重い呪いは様々だが……最も重い呪いは、即死の呪い等がある。
 ちなみに、これは『付与魔法』の類で、約束を破った場合の呪いに関しては、セシルの管理化ではない。ランダムに重い呪いが掛かるのだ。

 桔音とセシルの右手の甲に、何やら魔法陣の様な印が出て、身体の中に消える。そして、セシルはこの魔法の効果を桔音に説明した。

「ふーん……呪いねぇ」
「はい」
「分かった、じゃお面返して」

 桔音はさも大したことではないとばかりに、右手の甲から視線を移し、代わりに左手を差し出してお面の返還を求めた。しかし、セシルは軽く後ろに下がってお面を返さない。
 怪訝に思う桔音だが、呪いがある以上はセシルもお面を返さざるを得ない筈だ。そう考えていた。

 しかし、これはセシルの策略だった。

「ふふふ―――いえ、お面を渡す訳には行きませんね」

 不敵に笑みを浮かべ、そう言うセシル。瞬間、セシルの周囲に紫色の魔法陣が現れた。これが呪いが掛けられる現象―――しかし、セシルが手を横薙ぎに振るった瞬間……その魔法陣は掻き消えた。

 『解呪』

 セシルはこのスキルがある限り、呪いの影響を受けないのだ。正確には呪いを解呪する事が出来るというわけだが。つまりこれは……『桔音のみが契約を護らざるを得ない状況』を作りあげたということに他ならない。
 セシルはお面を返さずとも良く、桔音は勇者一行に危害を加えられない。

「形勢逆転、ですね?」
「……はぁ、此処で素直に返せば許してあげなかったのに……こんなことされちゃうとねぇ?」
「なんと言おうが、貴方はもう私に何も出来ません」
「それはどうかな?」

 勝利を確信したセシルが、桔音に不敵な笑みを浮かべながらそう言うが、桔音は薄ら笑いを浮かべたままセシルに近づいて行く。じりじり、じりじりと。

「なんですか? 私に手を出せば呪いが掛かりますよ? 死ぬことだってあり得ます」
「ふーん……で?」
「で? って……怖くないんですか? 妖精1匹、獣人1人の為に命を棒に振るなんて馬鹿げてます」
「言いたい事はそれだけ?」

 桔音は巫女の目の前まで近づくと、優しく巫女の頭に手を乗せた。まるで頭を撫でる様に、手を乗せた。そして、薄ら笑いのまま巫女を見下ろす。そのまま視線を巫女の視線に合わせた。鼻と鼻がくっつくほどの距離。桔音の『不気味体質』が、セシルの心を酷くざわつかせ、不安と恐怖心を煽っていた。

「な、なんですか」
「お前、頭悪いだろう? そんな呪いで良ければ幾らでも掛ければ良いよ、それで止まるほど……僕は優しくは無い。それに……お前、本気で怒った事ないだろう? 本気で笑ったことないだろう? 誰かに優しくとか、誰かの為とか、そんなこと本気で考えたことないだろう?」
「あ、ありますよ。今だってこうしてナギ様の為に……」

 桔音の言葉に、何がという訳でもなく心がざわつく。頭の上に乗った手が、まるで心臓を鷲掴みにしているようで、気持ち悪い。なのに、身体が動いてくれない。『不気味体質』によって囚われた心は、肉体を動かしてはくれなかった。
 反論するも、上手く言葉が出て来てくれない。だが、桔音はセシルの言葉を察して、それに対する言葉を返す。薄ら笑いが、益々不気味さを増す。

「あはは、それは勘違いって奴だよ。お前の『ソレ』は、巫女っていう立場からくる『義務』であって『心』じゃない。勇者様? 凪様? 成程あのカスの為にこうして危険を排除しようとする君は、それはそれはとてもお優しい『巫女』なんだろうね? ところでお前の名前なんだっけ? 聞くまでも無いよね、お前の名前は『巫女』なんだから」
「なっ……」
「だってそうだろう? 君は小さい頃から国によって養育された『巫女』という道具であって、『セシル・ディミエッタ』なんて名前は、人間ではなく道具に付けられた名前だ。つくづく立派な道具に成長したんだろうねぇ。だからこそこうして僕の前に立ち塞がっているんだから」

 ―――勇者の為に尽くし

 ―――勇者の為に身を差し出し

 ―――勇者の為に心を削り

 ―――勇者の為に行動する

 献身的な『巫女』というお助け道具(キャラ)。それが今のセシル・ディミエッタという『道具』の存在理由だ。桔音は、そう言った。


「何もかも勇者の為って、道具としては立派な戯言だけど―――人間としては中身が無い」


 セシルは、その言葉に揺れた。
 思い返せば、小さい頃から勇者の為に行動してきた。勇者の為に様々な事を学び、様々な経験を詰んできた。勇者が来てからも、朝も昼も夜も、夢の中でさえも勇者の為にどう行動するかを考えていた。いつだってどんな時だって、勇者の為、勇者の為。

 ―――自分の事を考えた事は、あったか?

 容姿を綺麗にする様に努力した。女として? 違う、勇者の視界に入っても不快にさせないようにだ。

 料理がしたいと言って努力した。趣味だから? 違う、勇者に不味い料理を食べさせない為にだ。

 様々な本を読むのが日課だった。好きだから? 違う、勇者に退屈させない話が出来る様に様々な本を読んだのだ。

 あれもこれもどれもそれも、全部元を辿れば勇者がいた。ならば、本当に自分が自分の為に始めたことはあったか? そうでなくとも、勇者が関わらない『自分』が何処かにあったか?

 セシルは、自分が分からなくなる。

 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、怖い、不気味だ、吐き気がする、止めて、壊れる、このままじゃ、私が壊れてしまう―――!

「お前、誰だ?」
「わた、し……は……」
「勇者の便利な道具の巫女、セシル・ディミエッタじゃないよ? お前は誰だ? 勇者っていう存在がもしもいなかった時……お前は空っぽだ。それなら、お前って別に必要ないよね? 勇者を助けるだけなら、人間じゃなくてもアイテムとか魔道具とかで良いもんね?」
「あ……」
「そういう意味で、お前誰?」

 桔音は、セシルを責め立てる。精神を壊そうとしている。
 人間じゃない、機械の様なお前は、ただの人形で、道具で、特に必要ではない他愛のない存在なのだと、そう言って。

「自分が無い奴は引っ込んでろよ、使い捨ての道具なんて唯のゴミだぜ?」
「―――!」

 そう言うと、セシルは眼を見開いて茫然と脱力して立ち尽くした。それこそ、桔音が頭に乗せた手にちょっと力を入れるだけで、すとんと座り込んでしまう程に。
 女の子座りをして、何処を見ている訳でもなくセシルは茫然としている。

「これは返して貰うよ、大事な宝物なんだ。君みたいな道具と違って」

 そして桔音は、座った拍子にセシルの手から転がり落ちたお面を拾い、頭に掛けた。ようやく欠けていた物が返ってきた気がして、桔音も肩の荷が下りた気がした。
 でも、目の前に座りこんだセシルの呪いで勇者達に危害を加えられない事実は変わらない。だがまぁ、精神口撃に関しては適用されないことは確認出来たので、まぁいいかと考える桔音。

「さて……まだまだ付き合って貰うぜ? 道具(セシル)ちゃん?」
「ぁ……っ……」

 茫然としているセシルの頭をぽんぽんと叩き、桔音は薄ら笑いを浮かべた。そして、そんな桔音に対して肩の上に乗っていたフィニアは、にぱっと向日葵の様に笑ってこう言った。

「あははっ! びっくりする程外道だね! 流石きつねさん、意地悪さじゃ負け無しだね!」
「悪態は変わってないようで何よりだよ、フィニアちゃん」

 こうして、離れ離れになっていた妖精と不気味な少年が、再会を果たした。
はぁい巫女虐め第一段階終了。すかっとした? まだあるんですよ(ドヤ
とはいえ、桔音とフィニアが再会してなんだか嬉しい作者です。
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