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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第九章 勇者と桔音

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桔音の見た涙

連投連投
 使徒ちゃんとの勝負は、熾烈を極めた。『城塞殺し(フォートレスブロウ)』を当てる事も出来ず、反撃の糸口も見つけられないまま、僕は使徒ちゃんの攻撃を躱し続けるしかなかった。といっても、所々で彼女の槍が僕の身体を傷付ける事も少なくはなかったけれど。
 どうやら、彼女の武器は僕の防御力を持ってしても容易に貫いて来るらしい。流石は神殺しの槍、人間の防御力じゃ紙同然か。でも、『先見の魔眼』のおかげで掠り傷で済んでいるから、戦えない事は無い。
 『先見の魔眼』でもってしても躱せないのは、僕が知っている使徒ちゃんの攻撃の中で、最も速く、最も威力のある攻撃―――『彗星の一撃』のみ。しかし、これは『初心渡り』の時間回帰を使えば回避出来る。
 戦いながら思い出したけれど、以前の使徒ちゃんとの戦いの中で、僕は無意識に時間回帰で彼女の攻撃を躱していたらしい。
 止めていられるのは3秒という短い時間が限界である僕だけど、ほんの一瞬止めるだけならそれほど負荷は掛からない。『彗星の一撃』が出される直前に一瞬止めて、その一瞬のタイムラグで『彗星の一撃』の矛先から逃れる、そうすることで躱す事が出来た。

「……以前よりも強くなっていますね、少年」
「あの時と同じじゃ、また何かを失う破目になるからね」
「そういえば……少年の家族らしき妖精と獣人の少女を見ましたね」
「!」

 戦いの最中で、僕と使徒ちゃんは言葉を交わす。相変わらず無感情で無表情な使徒ちゃんだけど、話は通じるから機械的でも無い。でも、何故だろうね……彼女からは自分の意思というものが感じられない。まるで、何者かの指示に則って行動しているだけのアンドロイドか何かみたいだ。それに、使徒ちゃんの顔……誰かに似てる様な気がする。
 でも、そんなことを考えていると、彼女はフィニアちゃん達に出会ったという話を出してきた。思考が一気に切り変わる。使徒ちゃんんの正体や、バックの組織とか気になる事は多いけれど……フィニアちゃん達以上に気になる事はない。

「……どこで?」
「勇者の少年と一緒に居たのを見ました……近くの街ですね」
「ふーん……なら、さっさと迎えにいかないとね」

 瘴気で作り出したナイフを―――いや、少し変形させた。瘴気で作り上げた『長剣』を構えた。どうやらあの稲妻の槍、普通の武器なら容易に電熱で融解してしまうようだけど、瘴気で作った武器なら受け止められる様だ。この分じゃ、瘴気で魔法とかも防げそうだね。
 それにしても、あの武器は本当に厄介だ。躱そうとしても即時変形可能、自然の力を押し固めたような武器だし、躱しても曲がったりするんだよね。

 それにしてもそっか、近くに居るのかフィニアちゃん達。ソレは良い事を聞いた。

「見逃してくれない?」
「それは出来ません。そろそろこの件にもけりを付けたいので」
「あ、結構面倒臭くなって来てるな?」

 とはいえ、この子相手に僕が勝とうとした場合、本当に時間回帰を限界まで使わないとならないだろう。リスクも高いけれど、正直それ以外に何か方法があるとも思えない。

「ん?」

 とその時、僕の視界に集まっていた冒険者達が入ってきた。そういえばこの冒険者達って、僕と使徒ちゃんからジグヴェリア共和国防衛の為に来たんだよね? ってことは、使徒ちゃんを任せても良いってことじゃないの? というかなに見てんだよ、お前らも戦えよ。ギャラリー気取ってんなよこの野郎。
 試しに、戦闘を合間を縫って代表で出て来た男のステータスを覗いてみた。

 ◇ステータス◇

 名前:ゼス・ヒュメリ
 性別:男 Lv186
 筋力:3400240
 体力:3325700
 耐性:20000:STOP!
 敏捷:3452300
 魔力:1203900

 【称号】
 『絶剣』
 『冒険者』

 【スキル】
  ???

 【固有スキル】
  ???

 ◇

 どうやら隠蔽スキルを持ってるようでスキルは見えなかったけれど……ステータスでいえば以前見た使徒ちゃんのステータスを大きく超えてる。これなら使徒ちゃんにも勝てるんじゃないの? 僕1人にやらせるとかどんな鬼畜だよ。おい、そこのお前だぞイケメン。
 ああでもそういえば、使徒ちゃんのステータスって今どうなってんだろう? 見てみよう。

 ◇ステータス◇

 名前:ステラ
 性別:女
 筋力:4028740
 体力:4239500
 耐性:200:STOP!
 敏捷:3406800
 魔力:12052600

 【称号】
 『使徒』

 【スキル】
  ???

 【固有スキル】
  ???

 ◇

 はい終わった。
 僕良く戦えてなぁ、ちょっと褒めてやりたくなった。『先見の魔眼』と『初心渡り』で完全な先読みが出来たから戦えてたんだろうね。
 でも恐らくはそれだけじゃない。この子、多分相手を殺せる最低限の力で戦ってるんだ。ほんのちょっとだけだけど、この子の事が分かってきたよ……この子結構な面倒臭がりか、効率重視の性格をしてる。
 最低限の力で、最大限の結果を残そうとしているのか……それともただの面倒臭がりか、だ。だからこそ、この子は必要じゃない限り本気で戦おうとしない。それが、ある意味この子の弱点でもある。

 何せ、格下に対しても意図的にしろ無視意識的にしろ、手加減して最低限勝てる力で戦ってしまうんだから。効率的で、無駄な力を使わず、それでいて目的は必ず達成する―――!
 ある意味助かったかもしれない。本気で戦われていたら、正直勝てる気がしなかったからね。
 とりあえず、僕のレベルを1に戻しておく。ごめんねリーシェちゃん。

「―――ッ!? あっぶな……」
「……良く躱しますね」

 考え事してたら、いきなり青白い刃先が顔に迫ってきた。反射的に顔を横に反らすことで躱せた。

「ふぅ……ちょっと危なかった」
「どうやら、少年はこの程度では倒せないようですね」
「じゃあ見逃してくれる?」
「ソレは駄目です」

 強情な。可愛い顔して頑固だよ本当に。生意気な。

「全く――――……ッ!」


 頭を掻きながら、僕は使徒ちゃんの方へと視線を移し……そこで見た。

 使徒ちゃんの後方、少し大きな山の麓に、太陽の様に輝く小さな光があった。

 それは、少しづつ山を降りていき、そして此方に向かっている様な気がした。

 アレは、あの光は、見間違える筈も無い。

「……フィニアちゃん」

 あれは、フィニアちゃんの羽の煌めきだ。太陽に反射して、淡いオレンジ色に煌めく優しい光。本当にもう……懐かし過ぎて笑っちゃうね。
 こりゃ使徒ちゃんに構ってる暇はなさそうだ。あそこに、フィニアちゃんとルルちゃんがいるんだ。迎えに行かないといけないよね、そう約束したんだから。

「使徒ちゃん」
「なんでしょう?」
「悪いけど、もう戦いは終わりだ。ちょっと行くところが出来た」

 僕はもう、こんな所で戦ってる訳にはいかない。使徒ちゃんが立ち塞がっても、行かなきゃならない場所がある。あの2人を、これ以上待たせる訳にはいかないからね。

「――――……本当なら逃がす訳には行きません、が…………あの時と同じ、綺麗な意志を感じます……良いですよ、少しだけ見逃しましょう……そうですね、其方に居る方々と戦っている間だけは」

 すると、使徒ちゃんが思いがけずそう言ってくれた。僕の意志がどうとか言っているけれど、この場を見逃してくれるのなら是非も無い。なら行かせて貰おうか、フィニアちゃん達の所へ。

 でもまぁ、後ろの冒険者達には少しばかり同情しよう。

 内心で苦笑しつつ、僕は使徒ちゃんの横を走り抜け、あの光の下へと駆けだした。


 ◇ ◇ ◇


 そして、あの光を目印に走って……フィニアちゃんの姿を見つけた時……僕は少しだけ安堵した。
 安堵して、また気を引き締めた。何故なら、そこにはあの巫女がいたから。お面を手に持って、後ろ姿から冷たい刃の様なひんやりとした威圧感を放つあの巫女が。

 そして良く見ると、あの巫女の身体に隠れた向こう側に……ルルちゃんが居た。

 足下に、びちゃびちゃと水音を立てて赤い液体が落ちていくのが見えた。

 かろうじて見えるルルちゃんの足が、ガクガクと痙攣しているのが見えた。

 ルルちゃんの、獣の様な悲鳴が聞こえた。

 ―――ルルちゃんの心臓を穿つ、巫女の手に握られた小剣が、見えた。

 僕の中で、何かが切れる音がした。そう、何かを閉じていた蓋が勢いよく開いた様な感覚。その中から、溢れる様に何かが出てくる。
 ああ、僕は怒ってるんだな。そう理解して、何故か心中は穏やかだった。頭は冷静だった。
 ただ、その溢れてくる何かが身体中を包み込んだ時、僕の視界が広がった。具体的にいえば、背後も見えている様な感覚だった。瘴気の空間把握をしているわけでもないのに、周囲が見えている様な感覚。

 なんだろう? 何処かで体験したことがある気がする感覚だ。

 でもまぁそれはどうでも良い、今は……あの巫女をどうにかすることが最優先だ。心の奥底で、どす黒い怒りの感情がマグマの様に煮え滾っているを感じる。
 気付けば巫女の横を通り過ぎて、倒れたルルちゃんのすぐ傍に立っていた。自分でも、いつのまに巫女の横を通り過ぎたのか分からなかった。
 でもルルちゃんが死に掛けているのを理解し、直ぐにその小さな手を握った。『初心渡り』が発動する。
 肉体の時間回帰、僕が知っているのは勇者に連れ去られた直後まで……此処まで何か成長しているかもしれないけれど、命には代えられない。躊躇いなく、僕はあの頃の時間まで肉体を回帰させた。その結果、傷は無くなり、失われた血液も元に戻る。消えそうになっていたルルちゃんの命が、元に戻った。

「死なせないよ、フィニアちゃんも―――ルルちゃんも」

 そう言って、僕はフィニアちゃんを見た。彼女は、茫然と僕を見上げていた。涙の跡が残っていて、顔がぐしゃぐしゃだ。久しぶりに会ったのに……フィニアちゃんを泣かせたのか、あの巫女。フィニアちゃんの笑顔を消したのは……許せないな。

「きつね……さん」
「大丈夫、ルルちゃんは生きてる……迎えに来たよ、フィニアちゃん」
「きつね……さ、ん……きづねさぁぁあああん!!!」

 僕に向かって抱き付いてくるフィニアちゃんを、僕は抱きとめる。今まで、フィニアちゃんはルルちゃんを護ろうと必死に頑張ってくれたんだろう。勇者の下で、たった1人でルルちゃんを護りながら、僕の迎えを待っててくれたんだろう。
 きっと、泣きごとなんか言わなかった。弱音なんて吐かなかった。涙なんて流さなかった。フィニアちゃんはそういう子だ、辛い気持ちは全部抑えつけて、頑張って来た筈だ。

 だから、泣きたい彼女に涙を流させるのは僕の役目だ。

 元気な彼女を泣かさせないのは、僕の役目だ。

 辛い思いをして待っててくれた彼女を護るのは……僕の役目だ。

 立ち上がり、僕は巫女を睨みつける。
 フィニアちゃんを肩に乗せる。うん、やっぱりこの重さがないと寂しいね。フィニアちゃん以外に、僕のパートナーはあり得ない。

「きつねさん……眼が……?」
「ああ……左眼治ったんだ」
「ううん、そうじゃなくて……両眼が蒼くなってる……?」

 フィニアちゃんはそう言った。両眼が蒼くなってる? 赤と黒じゃなく、蒼くなってる?

 うん……でもまぁそれでもおかしくはないかもしれない。今の僕はちょっといつもと違って、少し全能感というべきか、いつもより何でも出来る様な感覚だから、何か変化が起こっているのかもしれない。

「……きつね、でしたね。来てしまいましたか」
「やぁ……久しぶりだね、勇者気取りはどうした従者失格巫女」
「ッ……相変わらず……不気味な人ですね……!」

 『不気味体質』を発動させ、僕は巫女を威圧する。
 すると、嫌な汗を滲ませながら、彼女は僕を睨みつけた。冷たい刃の様な威圧感と、僕の『不気味体質』が衝突し、火花を散らす。


 ―――さて、フィニアちゃんを泣かせた罪は重いぞ。

使徒ちゃん、結構空気読めますね。
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