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再開された戦い

「……やぁ、久しぶりだね使徒ちゃん」

「ええ、息災の様ですね少年……異世界からの来訪者だとは思いませんでしたが」


 背後にやって来たのは、真っ白いドレスを着た、露草色の瞳と輝く白髪を持った少女。以前僕とレイラちゃんの前に対峙した強者、神を殺すと大言豪語した白い脅威。

 その名はステラ。自他共に認める使徒の如き存在だ。振るう稲妻はマグマの様に熱く、その光は触れた物を灰燼へと変え、彗星の様な必殺の閃光は確実にその命を喰らいに来る。まさしく神を殺すことを目的とした力を持った存在だった。


 あの時はレイラちゃんが魔族であることを見抜かれたから、僕とレイラちゃんが『浄化』の対象になってしまった。でも、僕が彼女の目的である『浄化すべき異世界人であること』は見抜かれなかった。

 故に僕はあの時見逃される余地があったし、僕は生き延びる事が出来た。もしもあの時僕が異世界人であることを見抜かれていたのなら、僕は今こうして此処に立ってはいないだろう。


「正直な所、私は少年に少し期待していました……が、ソレはどうやら無意味だったようです」

「おいおい勝手に期待外れにするなよ、人間は可能性の塊だよ?」


 使徒ちゃんは無表情に僕を見ながら、少し落胆した様な雰囲気でそう言うけれど、僕は物怖じすることなく言い返した。

 昔ならまだしも、今の僕は魔王の攻撃ですらも防げる防御力を手に入れている。如何に使徒ちゃんであろうと、この防御力はそうそう抜けない筈だ。


 今は取り敢えず、この状況をどう切り抜けるかだけど……前には大量の実力者ある冒険者や騎士達、後ろには神様ぶっ殺したいヴァイオレンスクールビューティー使徒ちゃん。

 なんなの? なんで僕こんな前門の虎、後門の狼みたいな状況に陥ってんの? 前も後ろも敵しかいない感じ止めてくれない? いやまぁ前の冒険者達は僕の敵ではないんだろうけどさ、僕の味方って訳でもなさそうだもんなぁ……僕にも仲間が欲しい。せめてこう……1人が2人位さぁ、この苦難を分かち合える様な仲間を派遣してくれないかな。


「で、何しに来た訳? 君またあの物騒な武器振りまわしてたでしょ? おかげで白い悪魔なんて呼ばれちゃってるよ? ぷふー、使徒なのに悪魔とか笑える」

「言わなくとも分かっているでしょうが……貴方を浄化しに来ました」

「へぇ……世界の均衡を保つ為とかそういう意味で?」

「はい」


 やっべー、マジ逃げたくなってきた。なんでこうも僕が何かしようとする度にSランク並の邪魔が入るんだ。ミニエラに辿り着こうとしただけでレイラちゃん登場してきたし、勇者に会って情報を得ようとしたら当の勇者にボコボコにされたし、ルークスハイド王国目指して移動してたら魔王出てくるし……なんなの? 実はSランクの化け物達で僕の邪魔しよう的な会議でもしたの? 打ち合わせで僕を集中リンチか?

 にしても、正直この子を相手にするのは僕としては避けたい所だ。左眼を治して貰ったのは感謝しているけれど、正直あの時は僕もかなり限界超えてたからね。正直、あの『彗星の一撃』を躱せる気がしない。もっと言えば、当たりたくないよね。あの攻撃に関しては……というか、あの武器に関しては防御力が通用するか分からないからね。


 稲妻ってことは感電する可能性もあるし、神を殺す為の武器だから防御力も大して効果を見せない可能性もある。

 だからこの子とは極力戦いたくない。例えそうでなくとも勝てないもん。戦闘技術の差からしてもう違い過ぎるしね。


「……きつね、だったな……その少女は知り合いか?」


 すると、使徒ちゃんと対峙する僕の隣に、代表で前に出て来た男が並んできた。そして、使徒ちゃんに剣先を向けながら僕に彼女の事を聞いてくる。

 恐らく、会話の内容から僕と彼女が仲間ではないことは察しているのだろうが、彼女の情報を引き出そうとしてきた。まぁ隠す様な事でもない、僕もその問い掛けに応える。


「彼女はまぁ……魔王クラスの化け物と思ってくれれば良いよ。まぁ方向性は魔王と真反対だけどね」

「真反対……ということは人間の敵という訳ではないのか?」

「いや、魔王とは真反対に人間の敵やってるんだよ」

「厄介だな……」


 本当にね、凄い厄介な存在だよね。

 異世界人だからって僕の方に来ないで欲しいんだけど。というか、勇者の方はどうしたの? 殺した? ちゃんと死体まで抹消しないとしぶとく生き残るんだぞ。アレはゴキブリ並のウザさと気持ち悪さとしぶとさと醜悪さを兼ね備えてるからね。

 まぁ殺したなら殺したで良いんだけど、そうなるとフィニアちゃん達が今どうしてるのかちょっと気になるところだ。


 とはいえ、そんな考えは対峙する彼女の手に見た事のある稲妻が生み出された瞬間、頭の片隅へと追いやられる。後ろの冒険者達の息を飲む音が聞こえる。警戒心を高めたようだけど、それ以上に恐怖と困惑の方が大きい様だ。

 まず魔族とは思えない澄み切った魔力、自分たちよりも若い少女の姿、そして何より恐ろしい程の迫力と威圧感を持った青白い稲妻の槍……見た事のない存在の登場と、未知なる存在故の情報の少なさが、彼らの内心に迷いを生んだ。

 僕はある程度知っているから、その稲妻の槍が生み出された瞬間『先見の魔眼』を発動させた。僕の左眼が赤から翠色へと変化する。


「……その瞳、魔眼の類ですか」

「まぁ、そんな所だよ。んで……!」

「―――!」


 『不気味体質』を発動。対象は使徒ちゃんのみだ。

 1度体験したからか、使徒ちゃんは少し表情を歪めたものの大した変化は見せなかった。でも、このスキルは長期戦になればなるほど、後に響いてくるスキルだ。恐怖の対象と長時間向き合うというのは、どんな存在でも精神的な負担が掛かるからね。


 すると、僕の気配が変わったのを感じたのか、隣に居た男の視線が勢いよく僕へと向いた。まぁこのスキルが発動した時、効果の対象外に居たとしても若干影響を受けるんだろう。


「とはいえ構ってる暇は無いね……せめてフィニアちゃんがいれば心強いんだけどね」

「今度は最初から本気で行きます……ああ、これを言うのは2度目ですね」

「ま、察しは付くよ。じゃ、僕もそれに対してこう言わせて貰うよ」


 使徒ちゃんの言葉に、僕は薄ら笑いを浮かべて返す。


「貴方を、浄化します」

「返り討ちだ、あまり舐めて掛かるなよ? 僕はとびきり弱いぞ」



 ◇ ◇ ◇



 桔音と使徒ステラの戦いが始まったその時……ルルとフィニアは、依頼に出ていた。ジグヴェリア共和国の外、昨日と同じでロックゴーレムの討伐も含んでいるが、依頼内容はもう少し難易度が上のもの。


 『Dランク魔獣 アイアンゴーレムの討伐』


 岩よりも更に堅い鉄鋼の表皮を持った魔獣、アイアンゴーレムの討伐だ。この魔獣は、同じDランク魔獣ではあるものの、ロックゴーレムよりも強い。もう少しランクを細分化したとしたら、ロックゴーレムはD-、アイアンゴーレムはD+といったところか。

 堅さは勿論ロックゴーレムよりも上だが、その代わり重量も重い故に攻撃力も高くなっているし、もっといえば機動速度もより速いのだ。


「ふぅ……でもルルちゃんと私の敵じゃないね!」


 が、既にそのアイアンゴーレムはルルとフィニアの連携によって、昨日のロックゴーレムと同じ末路を辿っていた。

 ちなみに、このゴーレムは頭に宝石はない。普通に人間と同じ心臓や頭を潰すことで殺す事が出来る。ルルの場合、首を切り落として殺すに至った。まぁこのアイアンゴーレムの場合は、フィニアの『火魔法』が役立った結果と言えるだろう。鉄の性質は熱や電気を通しやすいこと故に、火力の高いフィニアの『火魔法』は効果が高かった。鉄の装甲がその火力で溶けたりして、この2人にとってはロックゴーレムよりやり易い相手だった。


「討伐証拠の部位も採取しましたよ」

「そっか! じゃあ帰ろっか」

「はい―――あれは……?」


 それで国へと帰ろうとフィニアが言った時、ルルが気が付いた。

 此処は山岳地帯のかなり高い場所。そこからはジグヴェリア共和国を含めて広い光景を見渡す事が出来る。ルルが見ていたのは、ジグヴェリア共和国の入り口だ。何故かそこには人が多く居て、もっと言えば戦いが起こっているようだった。


 そして、



「―――ッ!!?」



 ルルの獣人として発達した五感……遠くまで良く見える視力が、『彼』を捉えた。白い少女と戦っている、黒い服の少年。これほど遠くに居ても、懐かしい彼の匂いが感じられる様な気がした。肌にひしひしと伝わってくる不気味な気配。

 目を見開いて、ルルは口を手で覆う。そして、勇者達に攫われてからもう泣かないと決めていたのに、じんわりと目尻に涙が滲んだ。


「ルルちゃん……?」

「きつね……様……!」

「え……」


 そしてそんなルルの様子に気が付いたフィニアだが、ルルが漏らした小さな呟きに、ハッと何かを察した。その視線の先を追って、ジグヴェリア共和国の入り口前を見る。そこに多くの人が集まっているのを見て、もしかしてと思った。


 そして、自分が感じたあの懐かしい感覚は偽物ではなかったと確信する。あそこに、桔音がいるのだ。自分達を迎えに来てくれた……以前と何ら変わりない不気味な気配が、フィニアの心を震わせる。


 ―――やっと、やっとだ……!


「ようやく……迎えに来てくれた……!」

「行きましょう、フィニア様」

「うん!」


 かくして、フィニア達は走り出す。普段はルルの肩に乗っているフィニアも、逸る気持ちを抑え切れないのか、自分で飛行して進む。己の羽を限界まではばたかせて、自分に出せる最高速で風を斬って進んでいく。

 そしてルルはそれに後れを取らない様に、軽快に地面を蹴って駆けていく。途中に遭遇する魔獣を全て一瞬のうちに斬り伏せ、魔法で吹き飛ばし、何者にも止められないという勢いでぐんぐん加速していく。


 もう彼女達の頭の中には、桔音とまた会えるという喜びのみで占められていた。笑顔の消えていたルルとフィニアだが、しかしこうして桔音に向かって駆けている彼女達の表情は、紛れも無く笑顔だった。


 年相応に、子供らしく、まるで遊びに行く無邪気な子供の様に笑顔を浮かべるルルは、桔音に心を開いて日々を過ごしていた頃に戻った様だった。


 陰りの見せていた笑顔浮かべるようになったフィニアは、今この時……向日葵の様に温かく、朗らかな笑顔を見せている。


 向かう先はただ1つ、体感的にはもうずっと長い時間を待ち続けていた気がする。でももうソレは終わりだ。やっと、ようやっと、この日が来た。

 桔音が迎えに来てくれたのだ。家族が、パートナーが、散々辛酸を舐めさせられてきたであろうあの不気味な少年が、ようやく自分達を迎えに来てくれたのだ。


 ―――これほど嬉しいことは無い。


 駆けるルルの足取りは軽い。そしてフィニアの羽が桔音と一緒に居た頃と同じく……太陽の様に煌めいた。


さぁ……再会も近い。

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