挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第九章 勇者と桔音

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

151/361

巫女は動き出す

 この世界にゃあ多くは無いが、所謂『怪物』と呼ばれる存在(まぞく)や、所謂『人外』と呼ばれる存在(ぼうけんしゃ)がいる。どっちも、Sランクって肩書きを手に入れた奴の事をいう。
 世間を騒がせる『赤い夜』や、人類の敵『魔王』は、怪物って呼ばれる本当に手に負えない化け物だ。それに対して、唯一対抗出来る人類がSランクの冒険者。奴らは人数こそ少ねぇものの、その実力は超一流。Aランクの魔族に対しても互角以上に戦う事の出来る、人間という範疇を超えた人外共だ。
 能力値でいえば、Aランクの冒険者と比べても天と地の差があるし、戦闘技術も戦闘センスも、突然変異としか言えねぇ程の天賦の才。

 だから、滅多にお目に掛かれねぇ存在な訳だ。もっと言えば、Sランクの奴らには必ず通り名が付いてて、更に『序列』が付いている。
 『序列』とは、Sランクになった冒険者のみに適用されるギルド公式の特別なシステム。Sランクの冒険者は、その実力故にギルドから特殊な依頼を受ける事がある。簡単に言えば、国や別のギルドといったデカイ組織や権力からの応援依頼を受ける訳だ。
 その代わり、Sランク冒険者にはある種の優遇制度が設けられる。依頼達成による活躍に応じた『序列』を付けることにより、その『序列』に応じた別途報酬を貰う事が出来るって訳だ。

 例えば、多額の報酬を別に貰う事が出来たり、国の重要文献の閲覧権利、特殊施設の使用許可、そして国王や王女達との謁見等、まぁ様々だ。実際、その優遇制度で王族に関わって女王にまで上り詰めた奴がいる。ルークスハイド王国初代女王がそうだしな。
 まぁこんな説明をしながら何が言いてぇかっつーと、今回俺達はジグヴェリア共和国の危機に所属国家から依頼されたSランク冒険者によって集められた戦力だってことだ。各国から集められた冒険者や騎士達、全員がAランク以上の猛者達で、俺も少しは腕に自信がある。
 そして、偶然にも俺と同じ国に居たSランク冒険者だが、今回招集された面々の中で唯一のSランク。故に、俺達のリーダーになるのは極自然なことだった。

 序列第12位、通り名は『絶剣』のゼス・ヒュメリ。

 奴は俺が見ても人外だと言える実力者だ。奴がいれば、どんな魔族であろうとも並の魔族なら瞬殺されるだろう。それほどの冒険者。序列が第12位であるにも拘らず、その実力は流石と言える程のモンだ。
 なのに、なのにだ。

「なんだ……こりゃあ……?」

 目の前の光景に付いていけねぇ。目が付いていけない訳じゃねぇ、戦闘の規模に付いていけねぇんだ。警戒対象として知らされていた黒い悪魔と白い悪魔が戦ってやがる。いや、戦いというにはちょっと違うな。
 攻戦一方、防戦一方という戦闘だ。白い悪魔の振るう青白い稲妻と、黒い悪魔の漆黒の瘴気がぶつかり、火花を散らす。黒い悪魔―――いや、巷で噂の『きつね』が、白い悪魔の攻撃を躱すと、地面が轟音を立てて爆散していく。地形が変わる程の一方的且つ、そして拮抗した戦いだ。
 しかもSランク冒険者、『絶剣』のゼスが立ち尽くしている。いや、そう見えるだけで、本当は戦闘に参加する気が無いのかもしれないが。
 にしたって、奴はHランクの冒険者だった筈だ。レイラ・ヴァーミリオンやドラン・グレスフィールドっていう才能ある冒険者達を仲間にしたってのは聞いた。それによって、パーティの総合力は上がったんだろう。だが奴はHランク、故にその強みは戦闘能力とは別の魅力なんだと思っていた。

 だが、こりゃなんだ? あの『きつね』は、やべぇくらい強かった。あの白い悪魔の振るう攻撃の威力は、恐らくこの場の誰もが敵わないだろう。それを受け止め、躱す『きつね』の実力……桁が違う。防戦一方なのは、攻撃手段を持たねぇからじゃねぇだろう。動きを見れば分かる、奴は戦闘の素人だ。動きは効率が悪いし、素人臭ぇ動きをしやがる。

 ―――もしも、奴がマトモな戦闘技術を身につけたら……

 背筋に悪寒が走る。もしもそうなったら、奴はきっとSランクまで直ぐに駆けあがることだろう。ソレが少しだけ、怖かった。

 だが、『きつね』の身体には幾つも傷が出来ている。あの稲妻の槍が、戦闘技術の差で当たるからだ。追い詰められ、逃げられない状況で確実に『きつね』の身体を穿っている。今の所はそれほど致命的ではねぇものの、このままじゃいずれ『きつね』が負けるだろう。
 それはきっと奴だって分かってる筈だ……でもなんだ、なんで奴は笑ってやがる……? 死ぬのが怖くねぇのか? それとも死んでも良いとか思ってんのか? どちらにせよ……思考が狂ってやがるのは確かだ。マジで人間なのかよ?

 自然と、無意識に、俺の足が1歩後ろに下がっていた。Aランクの冒険者としてそこそこ腕には自信があったってぇのに……臆してんのか、俺は……!

「くそっ……」

 なんだか無性に、悔しいじゃねぇか。畜生が。
 そう思いながら、俺は変わらず……『きつね』と白い悪魔の戦いを見つめることしか出来なかった。



 ◇ ◇ ◇



 一方その頃……ルルとフィニアは、その足を止めていた。今すぐにでも桔音の下へと駆け付けたかった彼女達だが、とある存在に足を止めざるを得ない状況にされたのだ。
 ルルもフィニアも、その足を止めて、立ち塞がってきた存在を睨みつけている。その存在は、魔獣ではない。まして魔族でもない。背丈でいえば、ルルよりも頭半分程高い位の身長、黒い髪を伸ばし、紅白の巫女服を着た、一見清楚で、見た目も大和撫子といった少女。
 だが、その瞳はルルとフィニアに対して敵対するように睨みつけており、此処から先へと行かせないとばかりに道のど真ん中に佇んでいた。

「……何かな?」
「此処から先へは行かせません」
「通して下さい……私は、きつね様の下へと行かなきゃならないんです」

 ルルの言葉に、巫女はゆっくりと首を横に振った。

「正直、貴女方には悪いとは思います。あの少年から引き離し、ここまで連れて来てしまったのは私ですからね。しかし、私はナギ様を導く役目を担っています……勇者に対して、害になる要素を排除するのも私の役目です」
「……それで?」
「心苦しいですが、貴女方をあの少年の下へ返す訳にはいきません……あの少年は、ナギ様にとって現在最も危険な存在です。故に、貴女方を……特に思想種の妖精である貴女を少年の下へ返して、戦力を向上させる訳にはいかないのです」
「心苦しい、ね……」

 そんなこと、思ってもいない癖に。とフィニアは内心で悪態を吐いた。
 目の前に現れたのは、勇者のパートナー……巫女、セシル・ディミエッタだ。彼女は、勇者ナギの下を離れてフィニア達の目の前に現れたのだ。そして言った、お前達を桔音に返す訳にはいかない、と。

 彼女にとって、勇者という存在はとても重要なのだ。小さい頃から将来勇者の道標になるべく、様々な事を学んできたし、様々な事を身に付けてきた。それだって、将来現れる勇者という存在に憧れていたからだ。小さな頃は、勇者を王子様の様に思っていたし、そんな王子様と結ばれるような想像をしていたこともある。
 だが、成長するにつれて現実を知り、王子様なんてものじゃないと知り、自分の役割を知り、その為には非情にならなければならないこともあると知り、そしてその時が来るのを待ちながら黒く汚い事だってやってきた。勇者に出会った時、こんな自分を果たして信じてくれるだろうかと悩んだ事もあった。

 それを乗り越えて、彼女は凪と共に在ろうとしている。自分みたいな存在を、1人の女の子の様に対応してくれる凪の態度が嬉しかった。最も信じているという彼の言葉が自分に向けられた時、嬉しかった。様々なことで尽くそうとして、失敗しても笑って許してくれる彼の優しさが、嬉しかった。
 だからセシルは凪の為なら何でもやる。汚い事も、真っ黒な事も、犯罪的な事も、その気になれば他者を蹴落とすことだってやって見せる。そんな覚悟を持っている。

 故に、桔音を危険と判断した彼女は、彼の戦力になるフィニアとルルを自分の手元に置いておくことにしたのだ。けして、桔音の所へは行かせない。最悪の場合、此処でこの2人を殺す。

「私達はきつねさんの所へと行く」
「邪魔をするなら、容赦はしません」

 だが、ルルとフィニアは当然ながらそう言った。なんと言われようと、自分達は桔音の下へと戻るのだ。フィニアは魔力を練り、ルルは小剣を構えた。
 そしてそんな2人を見て、セシルは大きく溜め息を吐いた。そして、視線を上げて2人を敵意を持って睨み付ける。最早、話は通用しない。堂々巡りなのだから、後はもう行動に移すしかない。

「行かせないと言った筈です。言う通りにしないのなら―――此処で死んでもらいます」

 そしてセシルがそう言った瞬間、唐突だった。

 ルルの頭の上にあった狐のお面が勢いよく宙に浮き―――手を伸ばすも届かない速度でセシルの手に渡ったのだ。

「なっ……!?」
「動かないでください」

 いきなりセシルの手に奪われたお面。ルルもフィニアも、驚愕に目を見開いた。何故、誰も触れていないのにお面が自分からセシルの下へと飛んで行ったのだ。驚愕は免れない。
 しかし、フィニアは直ぐにハッとなる。あのお面には、セシルによって1つの細工がされていた。そう、『盗難・破壊防止の結界』が張られていたのだ。2人はそれを、自分達にとっての結界だと思い込んでいた。だが、その結界の使用者は他でもない……セシルだ。

 つまり、『盗難防止』の効果を発動させたのだ。故に、お面は結界の使用者であるセシルの下へと戻って行った。

 取り戻したと思っていた生殺与奪権は今までずっと……セシルの手に握られたままだったのだ。

「動けばこのお面を破壊します。そうすれば、思想種の貴女は消滅するでしょう?」
「ッ……!」
「それでは……そちらの獣人の貴女」
「!」

 そしてセシルは、手に入れた生殺与奪権の象徴をふらふらと揺らしながら、息を飲んだフィニアを尻目に……ルルへと視線を向けた。ルルは、セシルの冷酷な視線に身構えながらも、フィニアの命が握られているという事実に歯噛みする。

 どうすればいい、どうすればこの窮地を脱する事が出来る……!

 そう思いながらも、まだ幼い彼女は拙い知恵を絞ろうとする。しかし、奴隷として過ごし、この世界についてもまだ何も知らず、戦いにおいても経験の少ない彼女だ。まして、交渉戦など全く経験が無い。寧ろそっちの方面で修羅場を潜り抜けて来たセシル相手に、敵う筈も無い。
 そして、何も知恵が出て来ないルルに対して―――セシルは冷酷な宣告をする。


「―――隣に居るそこの妖精(むし)を……貴女の手で殺して下さい」


 ルルは、目を見開いて凍りついた。
集団の冒険者視点で桔音を見た話でした。アリス女王がどうやって王家に接触したのかも、ちょっと触れてみました。
で、まだ再会出来そうにないですね。巫女ェ……! とことん邪魔してくれる……。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ