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初心渡り

※『瘴気の黒套』の読み方をゲノムクロークに変えました。他の瘴気技に合わせようと理由です。

 僕の固有スキル『初心渡り』の効果、発現したのはかなり前のことだけれど、その詳細の一切はまだ理解出来ていなかった。分かっている事といえば1つだけ。


 ―――レベルを1に戻すことが出来るという事。


 それだけでも、僕にとっては十分大きな力ではあった。固有スキルとしては、破格の能力だ。何せ、ステータスはそのままにレベルを1に戻すんだからね。

 それは、レベル1の初期段階のステータスが、本来レベルが10、20、と成った時点のステータスとなることを意味する。そう、それはつまり生まれた瞬間から大人と同等のステータスを得ている様なものだ。


 また、その成長率も、初期能力が高ければ高いほど向上する。

 僕の元々のステータスにおける耐性値の資質の高さからして、最近僕の耐性値の伸びが異常に伸びていたのは、初期能力値が高くなったことで、ステータスには見えない成長能力的なモノが大幅に上がったからだと見ている。

 しかも、レベル1ということはレベル2へ上がる経験値量も少ない故に、その成長の速度も格段に向上する。


 例えるのなら、『初心渡り』というスキルは、



 ―――どんなスライム(弱者)でもドラゴン(強者)に成長させてしまうスキルなのだ。



 でも、これは僕が今現在知り得る『初心渡り』の力の一端でしかなかった。

 このスキルの本質は、何かを『戻す』という部分にある。


 レベルを最初の1に戻す。


 ドランさんの足の傷を、負う前に戻す。


 つまり、『初心渡り』というスキルは、『対象の状態を巻き戻すスキル』だということ。その力の一端として、レベルを1に巻き戻したり、ドランさんの足の怪我を巻き戻したり出来た訳だ。


「……つまり、きつねのスキルがドランさんの怪我を巻き戻したということか?」

「そう、でもどうやら足だけという訳にはいかないみたい」

「どういうことだ?」

「ドランさんの足の怪我は、ドランさんの身体『全部』が巻き戻された結果『直った』んだ」


 この力は治癒じゃない。

 僕のスキルがどういうわけか発動して、ドランさんの身体を戦闘が始まる直前の状態に巻き戻したんだろう。その結果、足の怪我は『直った』。

 多分、この力は身体の1部分だけを巻き戻すことは出来ないんだろう。対象はあくまで1つの対象、足を巻き戻した場合、そこから繋がっている身体全体が巻き戻されることになるんだろう。


 それに、この場合ドランさんが魔王に操られていたり、何らかの魔法が掛かった状態というわけじゃなかったことが、逆に功を為している。

 『初心渡り』は、1度の発動で巻き戻せるのは1つの対象のみらしいからね。もしも魔法によって暴走していたとすれば、『ドランさんの肉体』と『魔王の魔法』、2つの対象を巻き戻さなければならなかった。


 ある意味、今回はドランさんの精神が破壊された状態で暴走していたことは、運が良かったと言える。


「とりあえず、ステータス」


 ◇ステータス◇


 名前:ドラン・グレスフィールド

 性別:男 Lv72 《精神崩壊》

 筋力:18920

 体力:23040

 耐性:210:STOP!

 敏捷:12030

 魔力:8910


 【称号】

 『冒険者』


 【スキル】

 『剣術Lv6』

 『俊足』

 『高速機動Lv4』

 『身体強化Lv5』

 『威圧』

 『見切りLv3』

 『直感Lv4』

 『索敵Lv3』

 『隠蔽Lv4』

 

 【固有スキル】

  ???


 ◇


 なるほど、これが今のドランさんのステータス。前回視た時、スキルが見えなかったけれど、これは多分スキルに『隠蔽』があったからだろう。今は精神崩壊でスキルを発動出来ていないようだけど、レベルも能力値も上がってる。バルドゥルとの戦いでレベルが上がったのかな?

 とはいえ、僕はドランさんがいつ精神崩壊を受けたのか分からない。何処まで巻き戻せば良いのか正確な時間が分からない訳だ。


 だから、かなり大雑把に大きく巻き戻すけど、このステータスに何らかの変化が起こる可能性があるんだよね。


「さて……それじゃ巻き戻すとしよう。リーシェちゃん、僕の合図で剣を抜いてくれる?」

「……ああ、分かった」


 手を地面に縫い付けている剣が刺さったままだと、巻き戻った肉体の中でそこだけ傷を負ったままになっちゃうからね。

 でも、そうなると僕のスキルが発動して巻き戻す前にドランさんが襲い掛かってくるだろう。そこはリーシェちゃんを信じよう。ほんの一瞬が勝負だ。


「頼むよ、リーシェちゃん」

「どうせドランさんの攻撃効かないじゃないかお前」

「あははっ、流石にスキル発動時の無防備な状態で攻撃を受けたいとは思わないよ」


 そんな軽口を叩きながら、両手を揺らしてドランさんの頭を掴む。それと同時に、リーシェちゃんがドランさんの両手を地面に縫い付けている2本の剣を掴んだ。

 視線を合わせて、頷き合う。アイコンタクトで、お互いの準備が整ったことをお互いが理解した。


 そして、僕は目を閉じてイメージする。頭を掴んでいる手から伝わる、ドランさんの肉体を、僕の宿にやってきた時まで巻き戻すイメージ。1番イメージしやすいのは、時計かなぁ……まぁなんとかなるでしょ。


「すぅー……ふぅー……よし、リーシェちゃん」

「ああ」

「―――抜いて」


 その言葉と同時、リーシェちゃんが勢いよくドランさんの両手を開放する。



 瞬間、僕のイメージが両手を伝わり、ドランさんの身体に作用する。



「―――ぁああああああああ゛あ゛あ゛!!!」



 ドランさんが、僕に襲い掛かってくる。固く握りしめられた拳が迫ってくるのが見える。でも、僕は防御の姿勢を取らずにドランさんの頭から手を放さない。


 信じたからね。仲間(リーシェちゃん)を。


「はぁッ!!」

「ああぁぁあがぁあ!!?」


 僕に当たる直前で、ドランさんの拳がリーシェちゃんに蹴り飛ばされた。軌道が逸れて、僕の顔の横を通り抜ける。

 そして、『初心渡り』がその力を発揮する―――!



「―――戻れ!!」



 思わず、大きな声でそう言った。

 すると、ドランさんの動きが止まる。いや、動こうとしているんだろうけれど、動いた傍から戻ってるんだ。そして、戻る速度がぐんぐんと加速していく。


 そして、


「ぁ……あ………ぅ……!」


 ドランさんは、意識を失って倒れた。

 『初心渡り』が停止し、巻き戻りが終わる。無事に巻き戻った結果だろう、ドランさんの防具の下の服装が変わっている。でも、昨日はこんな服だったっけ? そう思って、僕は取り敢えず確認の意味も含めてドランさんのステータスを覗く。


 ◇ステータス◇


 名前:ドラン・グレスフィールド

 性別:男 Lv72

 筋力:10800

 体力:10000

 耐性:210:STOP!

 敏捷:8650

 魔力:5460


 

 【称号】

 『冒険者』


 【スキル】

 『剣術Lv6』

 『俊足』

 『高速機動Lv4』

 『身体強化Lv5』

 『威圧』

 『見切りLv3』

 『直感Lv4』

 『索敵Lv3』

 『隠蔽Lv4』

 

 【固有スキル】

  ???


 ◇


「あ、やっべやっちゃった」

「どうした? まさか、失敗……?」

「ああいや、成功はしたんだけどね」


 ちょっと巻き戻し過ぎたらしい。バルドゥルと戦う前まで巻き戻しちゃった。ステータスが、その時の状態に戻ってる。

 でもなるほど、肉体の状態を巻き戻せば、その巻き戻した分に含まれる成長も巻き戻されるのか。1度に巻き戻される対象が1つだけな訳だけど、肉体とステータスは1つの対象として纏められるのか……まぁ筋力とか体力とか、そういうものも含んでの肉体だもんね。


 しかし、そうなると傷を負った際に『初心渡り』を使うのは避けた方が良さそうだ。


 どうやら、『レベル』と『能力値(ステータス)』は、別物のようだからね。怪我を負って、巻き戻した場合、その分の成長が巻き戻るのに、レベルは成長した時のまま。

 それは今後の成長に支障をきたす。今ドランさんに試してみたけれど、どうやら『レベル』に関しては、他人への干渉が出来ないようだしね。


「うん、まぁ大丈夫だと思う」

「……それならいいが」

「ドランさんの精神崩壊はどうにかなったし、眼を覚ませば元通りだよ」


 このスキルには色々と制限がありそうだけど、今は置いておこう。ドランさんは無事に元に戻せたってことで。


「でも、まだ終わりじゃない」

「……そうだな、魔王とレイラが戦ってるんだろう?」

「うん、さっさと向かわないとね」


 ドランさんを放置しておくのもなんだし、起こすか。いつまでもぐーすか寝てられるのはちょっと癇に障るし、せめて戦力になって貰おう。

 まぁ、魔王相手に戦力になりそうにはないけどさ。


「ほら、起きてドランさん」

「げふっ!?」

「きつね、流石に起こすのに蹴る必要はないと思う」


 知らないよ。こんな道端に寝られるのは迷惑だ。

 それに、レイラちゃん達の戦いの音が段々近づいて来てる。寝かせておいたらそれこそ死ぬしね。



 ◇ ◇ ◇



 その頃、レイラと魔王の戦いは、傍目からはレイラの優勢に見えた。


 でも、レイラ本人はそう思っていない。寧ろ、表情は少し難しい。

 レイラの身体には、『瘴気の黒套(ゲノムクローク)』のおかげもあって掠り傷すらない。だが、一方的に攻勢を保っているというのに、魔王に何度も攻撃を直撃させているというのに、魔王の表情はずっと不敵な笑みを浮かべたままなのだ。まるで、何のダメージも負っていないのかと思う程、行動速度は減速せず、攻撃の威力もキレも一向に下がる気配を見せない。


 底知れない何かを、感じ取っていた。


「……ッ!」

「クッハハハハハ! どうしたレイラ・ヴァーミリオン、表情が固いぞ? 最初の威勢はどうした」

「……さっきから攻撃してるのに、随分と余裕だね?」

「ん? ああ、すまないな。攻撃していたのか、気が付かなかったぞ」

「ッ!?」


 レイラの言葉に、魔王は馬鹿にする様に嗤いながらそう言う。


 ―――お前の攻撃は毛ほども効いていない、と。


 レイラは、魔王のその挑発に歯噛みする。自身の攻撃が一切効いていないなど、あり得ないとは思う。しかし、魔王の余裕の佇まいと不敵な笑みが、本当に効いていないのではないかと思わせる。

 

 そして、同時にこのままだと不味いとも思っていた。


 その理由は、瘴気の力が長期戦に向いていないからだ。瘴気は使用者が操作して動かすモノ、故に『並列思考』を使っていたとしても、その操作にはかなりの神経を擦り減らすことになる。

 レイラは、『瘴気の黒套(ゲノムクローク)』やグローブ……命名『瘴気の手袋(ゲノムグローブ)』等、同時に性質の違う操作を行っている。その形を保ち続けるのはかなり神経を使う。


 故に、長期戦になると外套も手袋も時間と共に崩壊してしまう。そうなれば、魔王に対して戦えている要因である、防御力も攻撃力も失うことになってしまうのだ。


「さて……もう手詰まりか?」

「ッ……」


 魔王がどんな手を使っているにしろ、攻撃が一切通らないのだ。服の上からなら瘴気化されないことを知った魔王は、先程からずっとレイラの攻撃を服のある部分で防いでいる。これでは決定的なダメージにならない。

 それに、レイラは分かっている。


 ―――魔王が、手加減していることを。


 復活後、外套で受け止めた全力の拳も、それ以降の戦闘でも、全力ではあったが本気ではなかった。何処か、手を抜いているような感覚だ。

 確かにレイラの攻撃は魔王に傷を与える事が出来る殺傷力を持っているが、魔王にはやはり届かない。同じ手が通用しないのだ。


「先の弾丸も、どうやら予想に反して威力は低い上に、あの瘴気変換効果もないらしいし、見た所その外套と手袋も長くは保てないのだろう? 崩壊が始まってるぞ?」

「な……!」


 全部見抜かれている。魔王は戦いながらも、レイラの実力と力を分析していた様で、その分析力が大いに発揮していた。その言葉通り、レイラの両手を包んでいた『瘴気の手袋(ゲノムグローブ)』がさらさらと崩壊し、レイラの白い手を露わにする。同時に、『瘴気の黒套(ゲノムクローク)』も裾から空気に溶けて行く。集中力が途切れて来た証拠だ。

 また、新しく発現した固有スキルもこの状況を覆すだけの効果は望めない。思わず苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。


 これはつまり、レイラの思っていた以上に―――魔王は強かったということだ。


「私を相手に此処まで長い間立っていられたのは、お前で2人目だぞ。まぁ、1人目はきつねだが……面白い戦いだった」


 もう決着は付いたとばかりに、両手を広げて魔王は言う。


「私も、人間の姿のまま戦うのは中々骨が折れた」


 その言葉に、レイラはハッとなる。

 そうだ、魔王は自身の姿形を人間に偽装したまま戦っていた。

 本来、魔族は本来の姿で戦った方が戦い易い。レイラも、1度篠崎しおりの顔を偽装した事があるから分かる。偽装したまま戦うのは、おそらく本来の力をかなり制限する。

 にも拘らず、魔王は人間の姿のまま全力のレイラの攻撃を全て捌いていたのだ。本来の姿であったら、そう考えると、思わず背筋に悪寒が走った。


「普段から私自身力をかなり制限しているのだ、この世界の生き物はかなり脆いからな。本気でやるとすぐに壊れてしまう」

「へぇ……でも、きつね君は壊せなかったみたいだけど?」

「確かに、奴は堅かったな、この姿のまま壊すのは恐らく無理であろう。しかし、奴は私には勝てん……そもそも奴は戦闘において素人であろう? 動きを見れば明らかだ」



 ―――素人に負けるほど、魔王という存在は、温くはないぞ。



 魔王はそう言って、不敵に嗤った。そして、完全に外套が消え去ったのを見届けて、レイラに向かって歩を進める。そして、その手に魔力を込めると、地面を蹴ってレイラの目の前まで踏み込んだ。

 振りかぶった拳に、レイラは咄嗟に躱そうとするも、魔王は逃げられない様にレイラの首を掴む。


 これでは逃げられない―――!


「さて、それではこの戦いにも幕を下ろすとしよう!」


 そして、拳は振り抜かれ――――横から伸びて来た手が受け止められた。


「!」

「ごめんごめん、ちょっと遅れた」 

「……遅いよきつね君♪」


 その手を辿った先には、レイラの言った通り、薄ら笑いを浮かべた桔音がいた。


「頑張れ頑張れ! どうしたどうした! そんなもんかぁ!? もっと頑張れよ! 気合だ気合だ! どうしてそこで諦めるんだ! 魔王なんかの言いなりになるなよ! お前はお前の思う通りに生きろ! 頑張れ頑張れ! 頑張ればなんにだってなれる! 気合だ! 根性だ! いいか、お前は頑張れば何にだってなれる! あのデッカイ富士山にだってなれる! いいか、お前は今日から富士山だ!!」

「ゴロぉぉォォぉぉ―――はっ、俺は何を……!?」

「もっと熱くなれよ!!」


なんちゃって(笑)



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