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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第七章 蠢く魔の頂点

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翻弄の結末

連投です!
読んでない方は前回からお読みくださいね! いきなり色々飛んだ!? と思うこと必至なので!
 3度対峙する、桔音と魔王。

 1度目は、宿の前で邂逅した時。
 2度目は、レイラがやられている所にやって来た時。

 ―――そして、これが3度目。

 魔王に敵対する全員を揃えて、桔音は魔王に対峙していた。
 桔音を筆頭に、レイラ、リーシェ、そして精神崩壊から回復したドラン。4人の冒険者が、勇者でもないというのに魔王に対峙している。さながら勇者の様に、対峙している。
 だが、桔音は勇者ではない。勇者にはなれない。自分がそんなキャラではないことは、桔音自身が自覚しているし、また勇者になりたいとも思わないからだ。

 人々を救う等、性に合わないし、自分の身に余る所業なのだ。自分の身の回りだけで精一杯の桔音には、無理だろう。

「本当に、面白い……その獣をどうやって元に戻した? 私の知り得る限りの手段では、ソレを元に戻すことは不可能だったはずだ」
「壊れた物を直す方法は昔から決まってるんだよ。叩いて直した」
「フハハッ! 此方の思惑を悉く裏切ってくれる奴よ」

 魔王は嗤う。高らかに嗤う。
 本当に楽しそうに嗤っている。対して、レイラ達よりも1歩前に出た桔音もまた、薄ら笑いを浮かべている。
 再び、魔王の押し潰す様な威圧感と桔音の『不気味体質』から生み出される死神の恐怖感が衝突し、火花を散らす。どちらも地獄の様な不気味さと恐怖を撒き散らす気配を放ち、ドランやリーシェといった普通の人間からは一瞬、この場が荒廃した世界に見えた。

 思わず身震いしてしまう。

「そろそろ、時計塔の崩壊から時間も経つんだ。この街の冒険者や騎士達も集まって来る訳だけど……そうなったらちょっと厄介なんじゃないの?」
「ふむ……確かに数が増えると面倒だな……ならばこうしよう、先程の逆だ」
「逆?」

 桔音の言葉に魔王は少し考えた後、面白いことを思い付いたとばかりに人差し指を立てた。そして、不敵な笑みを浮かべて、首を傾げた桔音に告げた。

「次の攻防で決着を付けよう。きつね……お前1人で私に1撃入れてみろ。私はそれを全力で回避する……お前が私に1撃入れられた場合、私は大人しく退こうではないか」
「ふーん……入れられなかったら?」
「ここに来る冒険者達も含めて、この街を破壊し尽くす」

 その言葉が嘘では無いと、桔音は魔王の瞳を見て理解した。
 もしも、攻撃を入れられなかったら……この街は魔王によって壊滅する。人は全員死に絶え、建造物は1つ残らず瓦礫の山と化すだろう。

 その重圧が、桔音の背中に圧し掛かる。
 レイラや、ドラン、リーシェは桔音の背中を見て、心配げな表情を浮かべる。大丈夫かと、押し潰されはしないかと、桔音の心を案じていた。

 だが、

「よし、それ乗った」

 桔音は変わらず薄ら笑いでそう言った。軽快な口調で、魔王の提案に乗った。その口調にはなんの重圧も感じられず、まるでどんな提案に乗ったのか理解していないかのような軽さだった。
 しかし、桔音にしてみればこんな提案はプレッシャー以前に同じことだ。どちらにせよ、同じこと。ここでどちらかが死ぬまで戦ったとして、自分が負ければ魔王はこの街を滅ぼすだろう。
 ならば、この提案に乗ろうが乗るまいが、自分が負けたら街は壊滅する訳で、だったらこの提案に乗って少しでも魔王を退ける可能性を取った方が良い。

 考えてみれば単純で、なんの意味もない提案だと桔音は判断しただけのこと。

「ん? なんだい3人とも、そんな素っ頓狂な顔をして。これは絶好の機会だよ、さくっと1撃入れて魔王とおさらばしよう」
「……あはっ♪ やっぱり、きつね君はきつね君だねっ♡」
「魔王を相手にそんなことを言えるのはお前だけだと思うぞ……全く」
「え? あれ魔王なのか? ちょっと、俺全然状況に付いていけてないんだけど。誰か説明してくれない?」
「じゃあ行ってくる」
「無視か? 泣くぞ俺、なんか知らないけど脇腹痛いし……」

 桔音の言葉に、レイラもリーシェも呆れたように笑ったが、ドランは状況に付いていけていないのか困惑してきょろきょろと視線を彷徨わせている。桔音達は取り敢えず無視する事にした。正直、連れて来たのは間違いだったかな、と今更ながらに思う桔音である。

 そして、桔音は魔王に3歩程歩み寄って止まる。その手に生み出すのは、瘴気のナイフ。桔音が好んで使う、今の桔音の武器だ。
 だが、今はちょっと違う。桔音はレイラの使った『瘴気の黒套(ゲノムクローク)』を見て、性質付与を学んだ。今回生み出した瘴気のナイフは、普段とは違って禍々しく黒い刃になっている。

「名付けるなら、『瘴気の黒刃(ゲノムスティレト)』……といった所かな?」

 瘴気変換の性質を持った瘴気の刃。今の桔音の操作能力でいえば、この『瘴気の黒刃(ゲノムスティレト)』の形を保っていられるのは持って数分。
 だが、それで十分。何せ、戦いはたったの1回の衝突のみで終わるのだから。

「ふ、それに触れるのは止めておいた方が良さそうだな」
「触れるとちょっと痛いかもね?」
「ッハハハ! 上等、それ位の得物でないと面白くない」

 桔音は黒い刃を手の中で弄びながら、不気味に嗤う。まるで、自身の勝利を確信しているかのような大胆不敵かつ余裕綽々な表情だ。
 魔王は、そんな桔音に対して何か奥の手でもあるのかと内心で警戒を高めるものの、未知への恐怖より未知への興味で高揚していた。

「それじゃ、始めようか……リーシェちゃん、開始の合図頼んで良い?」
「……ああ」

 桔音の頼みに、リーシェは2人と三角形になる立ち位置で立った。騎士見習いとして暮らしていたからこそ、決闘にはある程度の心得がある彼女だからこそ、桔音も開戦の旗振りを頼んだのだろう。

 そして、魔王、桔音、と視線を交互に向けたリーシェは、その手を天に掲げた。

 この手の指先が、地に向いた瞬間が開戦の合図。その瞬間、この戦いが始まり、そして一瞬で終わる。

「覚悟は決まったか、きつね」
「覚悟なんていらないさ、魔王に1撃入れるのに、覚悟なんて必要ない」
「ッハハハ……言ってくれる!」

 軽口を叩く両者。

 すると次の瞬間

 リーシェの手が勢いよく地面へと振りおろされた。

「始め―――!」

 彼女の言葉は、桔音の地面を蹴る音で掻き消された。
 桔音の速度は、筋力値が低い事もあってその敏捷値を10分の1ですら引き出せていない。速度でいえば、魔王には到底及ばない。事実、魔王には桔音の全力の踏み込みが見えていた。

(直線……何か手があるかと思えば気のせいか……)

 そう思いながら、魔王は桔音の手に握られた『瘴気の黒刃(ゲノムスティレト)』に注視する。アレは、触れただけで問答無用に身体を瘴気へと変換するだろうということは、なんとなく直感で察していた。
 しかも刃である以上、レイラのグローブと違って服で防ぐ事も出来ない。これは触れずに、躱すしかないだろうと判断する。

 そして、桔音が魔王まであと数歩というところまで踏み込んで来た時には、魔王の中で桔音の攻撃に対する対処のイメージが出来ていた。このまま踏み込んできたら、魔王には桔音を返り討ちにする体勢が出来ていた。


 ―――しかし、魔王が勝利を確信したその時だ。


「僕の勝ちだね」


 そんな短い言葉と共に、魔王の右腕が……切り落とされた。

「………ッ……!?」

 悲鳴を上げることはなかった。
 だが、魔王は目を見開いて背後へ振り向く。そこには、先程まで目の前で自分に迫って来ていた筈の桔音が、空気に溶けて行くナイフを手放しながら、不気味に笑みを浮かべていた。

 何より驚いたのは、右腕が斬り落とされた感触がなかったこと。そして、桔音の姿が一瞬で背後に移動したこと。

 魔王からしてみれば、気が付けば桔音が背後に移動していて、気が付けば右腕が地面に落ちていたのだ。困惑するしか無かった。

「な、にを……した……!?」
「え? 教える訳ないじゃん。ちょっと考えれば分かるでしょ、自分の手札をわざわざ敵に晒す間抜けはいないんだよ、ばーか」
「くっ……ハハハハッ……確かにそうだな、今回は私の負けだ! 約束通り、今回は一時撤退するとしよう」
「また来るのかよ」

 魔王は落ちた右腕を拾い上げると、遅れて右腕に痛みが走ったのか少し表情を歪めたが、楽しげに笑った。
 そして、言外にまた来ると告げながら、その姿を消す。おそらくは空間転移系のスキルか魔法だろう。最初に出会った時も同様に姿を消していたのを、桔音は思い出す。

 すると、魔王が消えたことに大きく溜め息を吐いた。ようやく面倒事が去ったと安堵したのだろう。
 だが、どっとやって来る疲労感の中、桔音はふと笑みを浮かべた。
 何故なら、今回は圧倒的格上との戦いで……何も奪わせなかったからだ。勇者達の時の様に奪われた訳では無く、使徒の時の様に見逃された訳でもない。

 ちゃんと、自分の力で全部護った。しかも、魔王相手にだ。

 桔音にとって、その事実がなんとなく誇らしく、そして自身が強くなっているという自信になった。まぁ簡潔にいえば、嬉しかったのだ。

「きつね君♪ やったね! 勝ったよ♡」
「ん……ああ、レイラちゃん。そうだね、勝った―――っと……」
「ん?」

 そこへ、レイラが笑顔で抱き付いて来た。そして桔音の首に顔を埋めると、満足気に笑みを浮かべた。
 そんなレイラに対して、桔音は苦笑する。が、そこでレイラの右眼が未だに潰れている事に気が付いた。すると、桔音はレイラに右眼に手を添える。傷はもう塞がっているのか痛みは無いようで、レイラは不意に右眼を触られた事できょとんとした表情を浮かべた。

「ちょっと大人しくしててね」
「ん? うん♪」

 桔音はレイラの身体に『初心渡り』を発動する。そして、右眼を失う直前まで肉体を巻き戻した。今度は正しく思った通りに巻き戻せた様で、レイラの右眼はまた爛々と赤い輝きを取り戻していた。
 ちなみに、この肉体の巻き戻しは精神には作用しないらしい。ドランも、バルドゥル戦の直前に戻されたが、精神や記憶は魔王と路地裏で会話した事を覚えていた。展開に付いていけなかったのは、魔王を魔王だと認識していなかったからだが。

 故に、レイラの恋への理解はそのままな訳だ。つまり、巻き戻しによって一旦目覚めた固有スキルが消えてしまったのだが、再度発現することとなったのだ。固有スキルの発現に関しては、精神的な物故に、消えても精神が元のままなら再発現するという訳だ。

「ん! 見える! 凄い、きつね君何したの!?」

 右眼が直ったレイラはその事実に驚きながらも、桔音を抱き締める腕に力を込めて嬉しそうにきゃいきゃいと笑顔を浮かべた。
 背中に豊満な胸がむにゅむにゅと形を変えて当たっている。桔音は急に真顔で背中に神経を集中させた。

 ―――柔らかい、これが漫画の主人公達が日常の様に味わっている感触か……!

 衝撃だった。魔王との戦いの疲労感など、吹っ飛んでしまうインパクト。桔音の頭の中から、魔王の記憶など最早消し飛んでしまっていた。魔王? なにそれ、おっぱいより良い物? 状態である。

「レイラちゃん、こう……もうちょっと……」
「ん?」
「身体を押し付ける感じで」
「空気を読め」
「あたっ」

 真顔のままレイラに胸を押しつけろと言った桔音の頭を、リーシェは叩いた。別に痛くは無いのだが、なんとなく痛いと言ってしまうのは何でだろう。桔音は叩かれながらもそんなくだらないことを考えたのだった。

 そして、レイラを背中にくっつけながら、桔音は崩壊した時計塔に触れた。

「これも巻き戻しっと……」
「わぁ♪」

 『初心渡り』発動。時計塔が元通りに聳え立った。物の修復には便利過ぎるスキルである。

「す、げぇな……これ、お前の力なのか?」
「うん、まぁ詳しい事の顛末は宿で教えてあげるよ。今はとりあえず、帰ろうか」
「うふふうふふふ♪ きつね君、大好き♡ 超愛してるよっ♡」

 そう言うレイラを背中にくっつけた桔音は、苦笑とも薄ら笑いともいえる笑みを浮かべながら、宿へと歩き出したのだった。
決着。桔音が魔王にやったこと? 内緒です、今はね。
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