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十数分で、強くなる

ステータスの表示をちょっと見やすくして見ました。過去の改稿します。

 ―――今よりもずっと、強くならなければならない。

 

 そう思った僕は、まずギルドで依頼を受けた。今の僕は、この辺の魔獣や下級魔族程度なら特に危険にならない。

 だから、レベル1の僕が強くなる方法はシンプルだ。何度も何度も戦えば良い。戦って戦って、戦った回数の分だけ、倍増する様に僕のステータスは増大する。

 ついでに言えば、魔王は僕のステータスでも確実に負ける。攻撃力だけでいえば、僕の防御力を2倍、3倍

にした所で勝てないだろう。勇者に会う前に魔王が立ち塞がって来たんだ、死ぬ前に此処をやり過ごさないとね。


 そして、僕の受けた依頼は、『薬草の採集依頼』。Hランクだからまだ討伐依頼は受けられないからね。一応もう薬草は採集している。


 でも、本当の目的は別にある。予備事項であった、とある魔獣が大量発生しているので注意、というものだ。

 対象の魔獣は『甲殻土竜(モールロック)』。甲殻に包まれた身体の土竜(もぐら)の魔獣だ。サイズは普通のもぐらと同じくらいだけど、かなり堅い身体をしている。防御力の高い魔獣だ。ランクでいえば、Eランク魔獣。

 攻撃力は大したことがないけれど、その防御力故に、大体の目安としてEランク以上の冒険者でなければ討伐する事が出来ないのだ。


 でも、いまや攻撃力でも大きく向上した僕なら、討伐出来る。なんなら瘴気に変換して殺す。

 というか、僕にはこの魔獣に対する必勝法がある。簡単で、安全で、大量に、一網打尽に出来る討伐法がある。だから、採集依頼のついでで討伐することにした。


「この辺で良いかなっと……」


 街を出て、かなり歩いた所にある平原のど真ん中。僕は立ち止まる。


 そして、瘴気を生み出して――――地面に『染み込ませた』。


 僕の考えた必勝法は、生み出した瘴気を地面の中へと浸食させて、空間把握を地上じゃなく『地中』に展開するんだ。

 地面の中には、空間が無い訳じゃない。そこには、空気の通る僅かな隙間が無数に存在する。更に言えば、地中にいる魔獣の通った道は、必ず空間になっている。それを捉える事が出来れば、空間把握でもぐら達の居場所を完全に把握する事が出来る。


 喰らい手も何体かいるけど、手の形をしているから分かり易いね。全力で手を出さない様にしよう。


「……! 見つけた」


 そして、僕は見つけた。

 大量のもぐら達の通り道、そしてその中で動き回る数十体のもぐら達を。


「……じゃ、1体ずついきますか」


 そう呟いて、僕はまず1体のもぐらに照準を合わせる。瘴気で包み込み、瘴気に変換する。

 地上では、僕が唯立っている様にしか見えないだろう。でも、この瞬間僕のレベルは大きく向上した。そして、またレベルを1に戻す。


 次。


 瘴気に変換し、レベルアップ。1に戻す。


 次、


 次、


 次、


 次、


 次、次、次次、次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次―――……

 

 立っているだけで、僕は数十体のもぐら達を次々に仕留めて行く。瘴気に変換し、糧にし、レベルを戻し、また変換し、糧にし、レベルを戻す。


 その繰り返し。


 これだけで僕のレベルはぐんぐん上がる。ステータスも上がる。倒した数だけ、僕のステータスが何倍にも増大していく。


 そして―――たったの十数分で、僕は最強の領域に足を踏み入れる。


「……ふぅ……瘴気をコントロールするのも一苦労だなぁ……頭痛くなってきたよ。さて、ステータス」


 ◇ステータス◇


 名前:薙刀桔音

 性別:男 Lv1

 筋力:25000

 体力:3228000

 耐性:13410000

 敏捷:3283500

 魔力:1445000


 【称号】

 『異世界人』

 『魔族に愛された者』

 『魔眼保有者』


 【スキル】

 『痛覚無効Lv7(↑2UP)』

 『直感Lv6』

 『不気味体質』

 『異世界言語翻訳』

 『ステータス鑑定』

 『不屈』

 『威圧』

 『臨死体験』

 『先見の魔眼Lv6』

 『瘴気耐性Lv8(↑2UP)』

 『瘴気適性Lv6』

 『瘴気操作Lv7(↑1UP)』

 『回避術Lv5』

 『見切りLv5』

 『城塞殺し(フォートレスブロウ)Lv5』


 【固有スキル】

 『先見の魔眼』

 『瘴気操作』

 『初心渡り』


 【PTメンバー】

 トリシェ(人間)

 レイラ(魔族)


 ◇


 あれ? 思ったより筋力が伸びない。もしかして、本来の限界値を超えた過度な成長は一定以上になると伸びが悪いのかな? まぁどっちにしても筋力はこれ以上の伸びを期待出来そうにないなぁ……仕方ない、伸びないものに期待しても意味はないんだ。

 それに、攻撃力だけなら耐性値が上昇すればそれだけ向上する。今の僕の攻撃力、カウンターだけなら半端じゃないよ。『筋力値+(耐性値×5)』だから、『城塞殺し』が決まれば僕の攻撃力は『6700万』だ。



 あはは――――負ける気がしねぇ!!

 


 技術がまだまだ素人な上、カウンターを決めるだけの技量も知識も全然足りていないから、結局堅いだけで勝てないんだけどね。ただ負ける気はしないだけで。


 改めて規格外だねぇ、『初心渡り』。しかも、レベル1に戻すだけのスキルではない気がするし、詳細が分かればもっと別の事が出来る気がするしね。


「よし、帰ろう。依頼の事もあるし、とりあえず……よっと!」

「ギシャァアア!?」


 地中から瘴気でもぐらを3体ほど引き摺りだす。そして宙に投げ出されたもぐら達を、瘴気で作った棘で貫き、殺す。レベルがまた上がったけれど、1体ずつレベルを戻していないから、それほどステータスの上昇は認められなかった。まぁ、そこそこ上がったけどね。母数が大きいから大した向上に思えないだけで、かなり大きい上昇率だけどね。


 さて、街に戻ろう。今なら魔王にだって負ける気はしないよ。


「まぁでも、勝てる気もしないけどね」




 ◇ ◇ ◇




「あ、きつねさん! 助けて下さい!」

「あれ? クロエちゃん、何してるの?」

「アン? おいおい、誰だよテメェ。邪魔すんじゃねぇよ」


 街に帰ると、クロエちゃんを壁ドンしているチャラついた軽薄そうな男と、クロエちゃんに遭遇した。

 これまたテンプレな男だと思う。金髪はきっと地なんだろうけど、こうしてみると元の世界の髪を染めた不良にしか見えない。

 でもまぁ分かるよ。クロエちゃん可愛いもんね、ナンパしたくなる気持ちは分からないでもない。でも鏡見た方がいいと思うなぁ……良く考えなよ、君とクロエちゃんが並んで立った時、君完全に犯罪者だぜ? それに、そんなやり方で成功すると思ってるのかな? ナンパするならもっとスマートに、紳士に、そしてカッコ良くやらないと駄目だよ。


「その子、僕の知り合いなんだ。放してあげてくれる?」

「うるせぇよクソガキ……今良いトコなんだからとっとと消えろ」

「良いトコ? ハハ片腹痛いね、頭空っぽなの?」

「殺すぞテメェ!」


 言葉遣いが悪いなぁ、僕は人を傷付ける様な事は人生で1度だって言ったことないんだよ? 僕みたいな優しくて真面目でイケメンの青少年になれば、きっとナンパだって上手く行くんだ。


「助けてくれって言われたんだよ僕。目の前に居るんだから聞こえてたでしょ? 君にとっては良いトコなのかもしれないけど、その子にとっては完全に最悪の展開だと思うな。気付かないの? 今お前完全にアウェーだぜ?」

「あうぇ……何意味分かんねぇこと言ってやがる! 正義の味方気取りか? お前さては経験ねぇだろ? ハハハ! これだから童貞君は……まずは女の1人でも作ってから出直してきな!」


 コイツ本当に頭おかしいんじゃないのかな?

 まず前提が間違ってるよね。童貞と非童貞がいたとして、非童貞が童貞よりも優れているという考えは、経験を経て、ちょっと大人になった気分でいるだけの馬鹿の考えだ。

 童貞も非童貞も、結局の所同じ男でしかないし、女と性交したからといって、何か考え方まで変わる訳でもない。特に、コイツみたいな性交だけしたい男なんて、本当に子供を作ろうとしている人達に比べれば、童貞以下だよ。


 僕は童貞であることを恥だと思っていない。


 童貞を捨てるだけなら、娼婦にでも相手して貰えば良いんだから。


「まぁ、そんなことはどうでもいいか……」

「あ?」

「お前はクロエちゃんにつりあってないんだよ。生まれ変わって真人間になってから出直してこい」


 どちらにせよ、そんなことを言ってもこの男には通じない。

 相手するのも面倒臭いし、適当にはぐらかすか……。


「こ、このやろ―――」

「はい、それじゃ僕が見本を見せてあげる」

「ッ―――は、はぁ?」


 まずは出鼻を挫く。


「ほら、どいて」

「え、あ……え?」


 男の身体を押し退けて、茫然としているクロエちゃんの前に立った。そして、クロエちゃんの手を両手で包み込み、優しく微笑みながらクロエちゃんの夜空の様な瞳をじっと見つめる。

 戸惑う様なクロエちゃんの視線が、きょろきょろと戸惑いの色を見せながら、あちらこちらへと彷徨い動く。


「クロエちゃん……僕は君の歌声が好きだ。クロエちゃんのことが知りたいな」

「き、きつねさん……?」

「一緒にお茶でもしようよ、2人でゆっくりのんびり時間を過ごしながら、雑談でもしてさ」

「えと、あの……え、その……は、はい」


 僕は、クロエちゃんの眼をじっと見つめながら、出来るだけ優しく、出来ればどうですかね? というちょっと気軽な感じでそう言う。こういう時に、相手に対して強制するような口調で誘うのは、失敗する原因になる。あくまで相手に対して紳士的に、そして相手にも選択する権利を与えないといけない。

 そして、嫌がるようなら強引に迫ってはいけない。素直に諦めるのが、紳士な男の模範的行動だ。


 その証拠に、クロエちゃんは少し戸惑いながらも、頷いた。


「はいそこの金髪君、分かった? こうやるんだよ」

「ッ……だ、だからなんだってんだよ!」

「童貞に先越されてちゃ世話ないね、非童貞君♪ それじゃ」

「あっ……き、きつねさん!?」


 唖然としている金髪君を前に、僕は薄ら笑いでそう吐き捨てた。そして、クロエちゃんの手を取って、悠々とその場を去る。

 さて、ここで世の童貞を馬鹿にする奴らに言ってやりたい。


 ―――童貞舐めるな。


 これもある意味下剋上かな? なんてね。



 ◇



 それからクロエちゃんを連れて、しばらく歩き続け、ちょっとした喫茶店に入った。

 姐さんに会ってクロエちゃんの話をした時、ナンパしよう的な話をしたけど、思わぬ形でそれが現実になっちゃったね。

 まぁ、ナンパされたクロエちゃんはテーブルを挟んだ対面にそわそわしながら座っているわけだけど、自分の前に置かれた紅茶の入ったカップを、触ったり回したりしている。落ちつかないんだろう。


「あの、きつねさん……さっきはありがとうございます。ちょっと絡まれてしまって」

「気にしなくても良いよ、僕は優しいからね」

「自分で言っちゃうんですね…………えと、それで……ですね。きつねさん、さっき……ど、童貞って……」

「……僕が童貞だと何か不味いことでもあるの?」


 クロエちゃんは、僕がさっき言った童貞、非童貞的な発言を気にしているらしい。本当に童貞だったとするなら、悪いことを聞いてしまったとでも思っているのだろうか? 気にしなくても良いのに。

 

 気にしなくても良いのに。


「い、いえ……そういう訳ではなく、本当にそうだったら悪いことを聞いてしまったかなと……」

「あはは、だったらその発言が僕の心を抉ってることに気付いてほしいなぁ」

「す、すいません」

「まぁ気にしないけどね。お礼は今度歌で返してくれれば良いよ」


 僕はそう言って、紅茶を口に含む。


 特にやりたい事もないし、クロエちゃんは暴漢に襲われた後なんだ。助けたとはいえ、僕の事を気に掛ける余裕があるとはいえ、精神的にはまだ落ちついていない筈だ。


 だからクロエちゃんが普段通りに落ちついて会話出来る様になるまでは、もう少しこの時間を楽しむことにした。


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