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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第七章 蠢く魔の頂点

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動き出した連鎖

もうそろそろ『初心渡り』の詳細がはっきりしますよー!
 ドランさんの復讐話を一蹴した翌日。
 レイラちゃんがニコちゃんの家から宿に帰って来た。朝帰り、そこはかとなくエロい雰囲気を匂わせる様な言葉の響きだけれど、帰ってきたレイラちゃんの表情は何処か浮かないもので、そんな雰囲気ではなかった。
 どちらかと言えば、憂鬱そうな表情をしている。

 お帰りと声を掛けたけれど、レイラちゃんはびくっと身体を震わせて、慌てた様子でリーシェちゃんとの2人部屋へと階段を駆け上って行った。何があったんだろう? 顔が真っ赤だったけれど、ニコちゃんの家に泊まったのも何か理由があるのかな?
 嫌な予感はしないから特に気にしないけれど、ドランさんの復讐の話を聞いた後だと、このままだと不味い気もしてくる。人間、何処でどう拗れて壊れるか分からないからね。

「……それを踏まえて総合的に見てみれば……やっぱりいやーな予感がするねぇ……」

 不穏な気配。ドランさんと話していた時と、一晩経った今、僕は決定的に何かが変わった様な気配を感じていた。
 一応、瘴気の空間把握を展開。周囲への警戒を高めておくことにする。防御力が上がったから、大抵の事は全部防ぎ切ることが出来るけど、かといってそれは確実じゃない。

「……なんだろう……まるで、常にナイフを首筋に添えられている気分、かな?」

 得体の知れない何かに追い詰められる様な、奇妙な焦燥感。
 食堂にいた冒険者や、一般の人達、彼らは僕の様な違和感には気が付いていないのか、いつも通りの喧騒を賑わせている。それを見ていると、僕の違和感は勘違いで、特に危険なんてないのかもしれないと思える。

 でも、だからこそだ。いつも通りの喧騒がそこにあるからこそ、その光景がガラス1枚を隔てた向こう側にある様な感覚。僕の存在が、日常から非日常の領域に立たされている感覚。
 僕の立っているこの場所が、全く別世界の様に感じられた。

「面倒臭そうだ……とりあえず、ギルドへ行こう。レイラちゃん達は……いいか、リーシェちゃんもいるし、必要ならギルドへ来るでしょ」

 僕は取り敢えず、ギルドへ向かうことにする。何か危険な奴が近くに居たとして、戦える冒険者が少しでも近くに居ればちょっとは安全度も増すだろう。

 そう考えて、僕は宿の外へ出る。

 すると、


「―――ああ、そこの人間。ちょっと待て」


 宿の出入り口から1歩出た所で、真正面から声が掛かった。
 その言葉は、僕の足を嫌でも止める圧力があり、たった一言だというのにその場の空気をピシリと凍らせた。まるで、氷点下の世界にでもやって来たのかと思ってしまう程の寒気。

 錯覚ではあるものの、一瞬心臓を鷲掴みにされた様な感覚を覚えた。

「……誰かな?」
「そう身構えるなよ、話がしたいだけだぞ? なぁ勇者殿?」
「勇者?」

 僕は目の前に佇む人の形をしたナニカは、僕に対して勇者と言った。
 勇者、勇者、また勇者、このナニカも勇者目当てで僕の所に来たのか。といっても、この寒気がする様な気配。凶悪な存在感。人間じゃないだろう、このナニカは。

 なんとなく分かる。これはレイラちゃんと同じだ。

「……魔族かお前」
「フハッ……! 流石は勇者といった所か、私の正体を一目見ただけで看破するとはな……一応気配の類は全て偽装した筈なのだがな……ッハハハ、中々どうして楽しませてくれる」
「確かに君は見た目は人間だし、気配も人間のソレと遜色ない……でも、僕は見た目に騙されないタイプの人間なんだよ。君からは魔族の匂いがぷんぷんする」
「ふ、匂いか……それは見落としていたなぁ」

 目の前のこれは、魔族だ。
 しかも、バルドゥルの様な下級魔族じゃない。完全に格上、Aランク以上であることは確実だろう。レイラちゃんよりも危険な匂いがする。
 これは……僕の防御力を持ってしても――――死ぬかもしれないなぁ。

「まぁ見抜かれては仕方ない。真面目に自己紹介をしよう」
「いや、いいよ。僕は君とお知り合いになりたくないし」
「そう言うなよ勇者、いずれは知り合う運命なのだ……ソレが早いか遅いかの違いだ」

 大体察しは付いている。僕の事を勇者と言い、かつその勇者と知り合いになる運命とまで言うんだ。勇者関係の魔族。
 となれば、大体答えは察せる。魔王だろ、どうせ。魔王さんと知り合いになったら厄介極まりないよ。帰れ馬鹿が。

「まず言っておくけど、僕は勇者じゃない。あんなカスと僕を一緒にするなよ」
「誤魔化さずとも良い。貴様の魂の質は、この世界の人間とは大きく異なる。異世界の魂なのだ、勇者ではないという虚言は通用しないぞ?」
「うるせぇ死ね」
「喧嘩っ早いな貴様は……まぁ勇者である貴様と魔王である私が出会えば、対立するのは当然と言えば当然か」

 うわやっぱり魔王だよ。
 勇者同様迷惑な存在だなぁ。まぁ早々に手を出して来ない分、勇者よりマシだけどね。

 とはいえ、異世界人とこの世界の人の魂ってのは質が違うのか……だからステータスにも特殊な変化が出るのかな? 僕の耐性しかり、勇者気取りの固有スキルしかり。
 まぁそんなことよりも、今の問題はこの魔王が僕を勇者だと思っていることだ。本当に迷惑過ぎる。

「あのね、僕は勇者じゃない。確かに異世界人だけど、僕は勇者じゃない……勇者は他にちゃんといるよ」
「何? ……ソレが本当だとすれば、貴様の存在に謎が生ずるな……2人目の異世界人、か」
「だから僕に構ってないでとっとと帰って頂戴。出来れば本物の勇者を殺してくれても構わないからさ」

 全く。僕だって忙しいんだから、魔王なんか相手にしてられないんだよ。
 嫌な予感がしたかと思えばこれだよ。本当勇者関係の事柄には碌な事がない。魔王も勇者も、巫女も魔族も、僕の邪魔しかしない。僕の関係無い所であれこれやっとけばいいんだ。

 僕は自分の事でいっぱいいっぱいなんだからさ。

「ッハハハ……! 成程な、面白いぞ―――2人目……ある意味、貴様にも興味が湧いた」
「ああそう、僕は興味ない」
「ふ……まぁ今はこの辺で退こう。だが、また来る……楽しみにしておけ」
「2度と来なくても良いよ、魔王の城で引き籠ってろ」

 魔王は、愉快愉快と笑いながら踵を返し、まばたきで眼を閉じ、開いた時にはその姿を消していた。瘴気の空間把握を展開していたから分かる。そこから動くことなく消えたんだ。
 つまり、瞬間移動。ワープやテレポートとも言って良い。あの魔王は、空間転移の力を持っているんだろう。

 チート臭いなぁ、勇者も魔王も。

 まぁ、勇者に関してはどうでも良いさ。結局、仕返しは利息も含めてきっちりやらせて貰う。

「……でも、厄介なのに目を付けられたみたいだ」

 魔王、ステータスは見ていないけれど、おそらく僕よりも遥かに強く、高い能力値を持ち、スキルや固有スキルも規格外な代物を持っているんだろう。
 戦闘になったら、十中八九負ける。死ぬこと間違いなしだ。

 あの勇者気取りに仕返しをする前に殺されちゃ困る。急いで防御力上げないと駄目かなぁ……少なくとも、あの魔王に殺されない程度には防御力を上げないと安心出来ない。

「勇者に仕返しする為には、世界最強の防御力を手に入れないと駄目なのか……全く、厄介な……」

 薄ら笑いを浮かべながら、僕は呟いた。
 そして、軽快な足取りでギルドへと向かう。

 上等じゃないか、世界最強の堅さが必要なら手に入れるさ。そうしないとフィニアちゃんもルルちゃんも取り戻せないんだから。
 下剋上なんだから、敵が厄介なのは当然。

「ままならないねぇ……まぁ、結局やることは変わらないけどね」


 ◇ ◇ ◇


 魔王は、桔音の下を離れた後に、未だその街の中を歩いていた。
 目的ははっきりしていないが、楽しそうに笑みを浮かべて堂々と街中を歩いている。桔音には気付かれたものの、完全に人間に溶け込んでいる故に、周囲の人間達は冒険者であろうと、騎士であろうと、魔王の存在に気が付かない。

 不敵な笑みは異様な魅力を感じさせ、堂々と歩く様は、王の風格と威厳が滲み出ている。己の存在を偽装している今は、その抑えられた魅力が、人の視線を惹き付けていた。

「さてさて……思わぬ収穫であったな。2人目の異世界の人間か……ふふふ、愉快愉快……どうしたものかな」

 魔王はそう呟きながら、口端を凶悪に吊り上げる。

「この街は喧騒が心地良いな……私に話し掛ける魔族など、奴以外にはいないからな。強すぎるというのも、難儀なものだ」

 そんな中、魔王は街の喧騒を聞きながら、歩く。
 思い浮かべたのは、己の右腕である上級魔族。人間達の街と、魔族の領域の違いは、中々に新鮮で、魔王からしても良い物だと思える。

「人間というのは面白い。発想が豊かであるし、お互いに思いやる心を持つ……話し合いとは人間の生み出した究極の戦いにして、最も平和な武器だ」

 サクサクと歩きながら、魔族であるにも拘らず、人間が好きだとばかりに人間の美点を挙げる魔王。人間が好きならば、何故敵対するのか? 何故手を取り合おうとしないのか? 何故魔王という存在であろうとするのか?

 その答えは簡単だ。


「面白いなぁ、思わず壊してしまいたくなる」


 魔王が、魔王だからだ。
 この魔王は、比較的冷静な思考をしているし、むやみやたらと戦いをする訳ではない。力を持っているけれど、その行動は理知的でまずは対話を持って敵と向き合う。

 ある意味温厚な魔族と言えるだろう。しかし、魔王は何処までいっても魔王。

 平和な日々は良い、だから壊したくなる。

 言葉とは素晴らしい発明だ、だから壊したくなる。

 人間は発想の豊かな存在だ、だから壊したくなる。

 理由は関係無い。魔王は、素晴らしい物は素直に尊敬出来、素直に美しいと評価する事が出来る。

 だからこそ、素晴らしい物を、美しい物を、均整の取れた芸術を、何かを生みだす人間という素晴らしい存在を、まっさらに破壊したくなるのだ。
 積み上げられた小石を指先で崩壊させる様に、宙に浮かぶシャボン玉を故意に割る様に、立っている人間の膝裏を小突いて膝かっくんする様に、壊したくなる。台無しにしたくなる。

 冷静で、イカれた嗜虐性。狂った思考に、世界を滅ぼす力。人を魅了する魅力と、魔族を跪かせるカリスマ。

 これこそ魔王。全てを壊し、台無しにする、人間にとっての最悪な脅威なのだ。


「うん?」


 そしてその魔王は、1人の人間を視界に捉え、足を止める。
 その視線の先には、大柄な男がいた。かなり大きな身体に、腰には剣を携え、浮かない表情をしている。明らかに、何かを抱えた人間。

 魔王は、その人間に目を付けて、にたりと凶悪な笑みを浮かべた。


「丁度良い、駒にするには十分だ」


 魔王はそう呟いて、その大きな男に向かって歩を進めた。

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