↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘告の功罪 ~「本当は好きだった」は免罪符にならない  作者: 紡里
第一章 嘘告

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/45

勘違い発覚

「あの魔術師の人を振っちゃったんだって? ほんわか系でお似合いだったのに」

 仕事帰り、同僚の女性に食事に誘われた。向かい合って料理が来るのを待っているところだ。


「何を言っているの? 私を好きだなんて、あり得ないでしょう。

 そんな不名誉な噂は、あちらの方の迷惑になってしまうから、やめてね」

 見かけほどいい人じゃなかったなんて、わざわざ言う必要はない。


「え、だって、本人から……」

 同僚は首を四十五度くらいかしげた。まるで首の筋をストレッチしているかのようだ。


「なんであり得ないとか言ってるの? あなたは優しいし、いい人だし、人から好かれるタイプだよ」

 同僚の前に皿が置かれた。


「それは、優しいと思われるように振る舞っているだけ。私の場合は、いい人じゃなくて、『都合のいい人』だと思うわ」

 こんな深い話は、あまり他の人にはしない。この同僚はするりと人の懐に入ってくるから、ついしゃべってしまうのだ。


「ええ~。なんで、そんな悲しいことを言うの?」

 サラダを突きながら、眉をひそめた。


「あなたこそ優しいわ。ちゃんと相手と向き合って、その人のために意見を言ってあげるじゃない。

 私は、違うと思っても訂正しないの。そういう考え方もあるのかって放置しちゃう。ちっとも優しくないでしょ」

 ただの日和見主義だし、他人の人生に責任なんて持てないし。


「ねえ、おかしくない?

 もしかして、自分は人から好かれるはずがないとか思ってるの?」


 ああ、なんて鋭いのだろう。今まで誰も気がつかなかったことを、指摘された。

「……そうね。思っているというか、事実だわ」


「なんで?」

「見ててわかるでしょう? 愛嬌もないし、冗談も通じないし、服のセンスもないし」

「それ、誰に言われたの?」


 ――誰に?

「……主に、母だわ」


「愛されるはずないっていうのも?」


 あ、これはちょっと腹を立てているのね。母を弁護しないと。

「それは……子どもの頃に思い知らされたのよ」


「詳しく話しなさいよ」

「つまらない話だわ」

「いいから」


 追求する体勢に入られてしまった。こうなったら白状するしかない。


「昔の話よ?

『告白したいと言っている人がいる』と呼び出されて、ついていったの。そうしたら、嘘だったのよ」

「騙されたってこと?」

「そうね。そんな意地悪をするくらい嫌われていたんだわ」

「そんなの、そいつだけでしょ?」

 彼女は私の代わりに怒ってくれている。ほら、やっぱり優しい。


「その場に何人もいたのに、誰も反論しなかったもの」

 苦笑いで、胸の痛みを誤魔化した。



 この数日後、実家に呼び出されてお見合いをしろと言われた。

「無駄だからしません。私が結婚できるなんて、見当違いな期待はしないで」

 と、言ってしまった。

 母親にすら愛されない私を、他人に押しつけるなんて迷惑でしょう。無責任だわ。

 家族はぽかんとしていたけれど、なぜそんなことを言うのか訊いてくれる人はいなかった。人並みに結婚させたら安心できるって、それだけなのよね……。

 しばらく実家に寄りつくのはやめておこうと思う。



 私の知らないところで、同僚と兄と……魔術師の彼が密談をしていたらしい。


「結婚できるはずないって言うんだ。何か、聞いてないか?」

 兄は先日の様子を不審に思い、妹と仲のいい同僚に話を聞こうとした。その同僚は魔術師を誘って、三人で酒場に来た。


「その前に、あの子は『自分が好かれるわけない』って思い込んでる。あなたのことを振ったと思ってないわよ」


「え? だって、返事もしてくれなくて……嫌われたのかな」

「いい人って言ってたわよ。あなた『好き』って言ってないでしょ」

 同僚は串焼きを魔術師に突きつけた。


「そんな、好きだから付き合いたいんだし……」

 もごもごと言い訳めいたことを口にする。


「それに、あの子はお酒を飲まないでしょ? 酔っ払いにからかわれたと思ってたわよ」


「ええ~、酒の勢いは借りたけど、本心なのに……」

 魔術師は頭を抱えた。


「酒飲みじゃない子は、酒飲みの生態なんか知らないからね。

 素面じゃなかったことは、反省したら? 意気地無しさん」


「ついに告白したのか。でも、それを告白と認識していない?

 それはともかく、好かれるはずがないって、理論が飛躍していないか?」

 兄は魔術師を応援していた。先日のお見合いの話では、用意した釣書の中にこの魔術師のものも入っていた。妹は見もしないで帰ってしまったが。


「お兄さん、ちょっと待ってください。それ以前の話です。

 彼女は告白されると、自動的に『からかわれている』と解釈しているんです。子どもの頃に傷ついたのが、まだ癒えてないみたいで」


 二人の男が、ぽかんと口を開けた。

「なんだ、それ?」

「お兄さんも知りませんでしたか? 嘘告されて笑われたんですって。『お前なんか好きになる奴はいない』みたいな……?」

 母親から愛されていないという話はしづらかったので、少し脚色してしまった。


「誰だ、そんなことをしたのは」

 兄は声を荒げないように、声を小さくした。それが逆に恐ろしい。


「頑なに言わなかったですね。彼女の性格だったら、言わないと思います。自分が耐えればいいと考えて、愚痴もこぼさないんだから」

 同僚はため息を隠すように、酒を飲んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
もう手遅れかもだけど母親の事もちゃんと説明しといた方が良かったのでは……。
あらすじで彼女も人を傷つけるようになっていくとあるが、結局のところ家族が悪意の原石を削り出しバカが磨き上げた結果がコレだしな。 「終わったこと。そんな勘違いするほうが悪い」と世間は言うだろうが、勘違い…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。