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嘘告の功罪 ~「本当は好きだった」は免罪符にならない  作者: 紡里
第一章 嘘告

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19/45

襲撃

 まず、煙で目と喉をやられた。煙の中で、悲鳴や怒号が飛び交っている。

「送風魔導具のところ……ごほっ……行ってくる」

 同僚に声をかけて、公園の中心部に急いだ。魔導具の弱風を強風に変えたら、煙を薄くできるはず。両手を前に出して、人がいたらそっと押して避けてもらえるように進んだ。

 気をつけていたが、斜め後ろからぶつかられた。不意を突かれて、転んでしまう。膝と手のひらに砂利がついた。ヒリヒリと痛むが、動けないほどではない。

「すみません。大丈夫ですか」

 と手を差し出された。この声は赤バラ男だ。

「送風魔導具で……けほっ……煙を散らしたいの」

「わかった。護衛する」

 私の背中に手を回し、低い姿勢を取らされた。足元は見えないけれど、空を見るとうっすらとシルエットがわかる。周辺の建物を見て、進む方向を決めるしかない。

 手のひらに丸いものが押しつけられた。

「屋台で買った飴だ。喉が楽になるぞ」

「あ、ありがと」

 口に含むと酸っぱくて、背筋がぞわっとした。

「あははは」

 こんな時でも意地悪を忘れないのかしら。いいえ、それは穿った見方だわ。彼は自分のために買ったものを分けてくれただけだもの。


 王女たちがいる辺りから争う音が聞こえる。エスコートの騎士も護衛もいるのだから……そう、信じるしかない。


 ようやく送風魔導具に辿り着いた。上部にある操作盤の蓋を開けようと手を伸ばす。

「ここか?」

 彼がさっと開けてくれた。

「そこのボタンを押して、つまみを強にして」


 ごうんと音がして、風が強くなった。煙が吹き飛ばされ、徐々に視界が開けていく。

「きゃー」

 と誰かの悲鳴を皮切りに、公園は狂乱状態に陥った。倒れている人、赤い血……。

 煙で見えていなかった惨状が、目に飛び込んできた。


「私は大丈夫だから、王女の加勢に行って!」

「おう!」

 非情なようだが、この場における最優先事項は王女たちだ。襲撃者の狙いも王女だろう。

 邪魔をしなければ、庶民まで狙われることはないと思う。……そう、思いたい。

 では、どこかに避難させるか? いや、この公園が避難場所の一つだ。みんなで固まっていたら安全かというと、そうとも言い切れない。バラバラに逃げた方がいい場合もある。


 ああ、どうしよう。

 とにかく、加勢がほしい。誰かが本部に報告しただろうか。それもわからない。

 公園内も時計台が立っている。屋根の下には鐘があった。

 指輪をはめた指を鐘に向け、風魔法を放った。


 カラーン、カラーン。予定にない鐘の音が響く。

 神経質になっている警備の誰かが、気付いてくれますように。


 私は戦闘に加われない。火を使う屋台を回り、消すように伝えなければ。

 駆け寄ると、すでに同僚の姿があった。

「火は消してもらったわよ。……けほっ」

「そう、よかった」

 頼もしい同僚だ。


 王女たちの方を見ると、襲撃犯を押さえることに成功したようだ。この公園に兵士たちの休憩所があったのは、襲撃犯にとって誤算だっただろう。

 王女は侍女に世話をされて馬車に戻っていく。ドレスが土煙ですすけ、赤茶色い汚れもついていた。だが、自分の足で歩いている。

 無事で良かったと思う一方で、これが政治にどんな影響を与えるのか不安になった。


「生徒会長と孤児院の子は?」

 王女たちに近い場所にいたはずだ。言いながら、周囲を見回す。兵士たちは、生きている容疑者たちを縛り上げている。

 倒れている人たちの中に、子どもはいるだろうか。恐怖を飲み込んで、激戦だった場所に近づいていく。


 そのときベンチの下から、這い出してくる人影があった。

「ああ、よかった。無事だったのね」

 なんという判断力だろう。感心してしまった。

「さすが、優等生たちね」

 同僚はそう言って、「彼女たちからも話を訊かないと。すぐ側で見ていた証人だもの」と肩をすくめた。


 バタバタと足音が聞こえ、増援の兵士たちが公園に入ってきた。戦って疲弊していた兵士たちは、安堵の表情を浮かべた。


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― 新着の感想 ―
 「ヤツ」が関わったのは業腹だが犠牲者や負傷者はどれくらい出たのだろうか。  おそらくかなり少ないのではと思うが。  今回の話だけ見るなら一番巻き込まれ易い位置にいた子供が上手く安全確保出来ていたから…
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