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エピローグ


 その後、ひとまず事情を聞くという事で、ギブソン・ローレルは騎士に連行されて行った。

 今のところはダグへの暗殺未遂だが、取り調べで色々と出て来る事だろう。

 メアリー王妃と護衛に扮していたカルム王がとても良い笑顔を浮かべていたのを思い出しながら、マルタは小さく笑った。


(それにても、諦めてくれて良かった)


 先ほどの事を思い出しながら、マルタはそんな事を心の中で呟いた。

 一応、ギブソンがもっと粘る想定はしていたのだ。

 その時はマルタの天恵(ギフト)の事も話に出す予定だった。

 特に隠しているわけでもないが、言わない方が役立つ場面も多いので、まぁ良かったなとマルタは思う。


 とにもかくにも、これで今回の作戦は完了である。

 無事済んだとマルタが安堵していると、


「それではパーティーの仕切り直しをしましょうか」


 とメアリー王妃が言った。

 お開きになるかと思っていたマルタは目を瞬く。


「ふふ、皆、緊張したでしょう? ですから今度は、ゆっくり楽しんで欲しいのですよ」


 メアリー王妃はそう続けた。どうやら労いの意味もあるようだ。

 料理は美味しそうだし、先ほどのぶどうジュースも飲んでみたかったのでありがたい。

 マルタは嬉しく思いながら、それならまずはとダグを見上げる。


「ダグ、着替えましょうか。上着、濡れちゃっていますし」

「そうしたいけれど、着替えを持って来ていないんだよな」

「大丈夫ですよ、準備万端です」

「準備万端?」

「はい。母に頼んで持って来て貰っています」


 マルタがそう言うと、ダグは「えっ」と驚いた顔になる。


「一番似合う――かどうかは分からないんですけれど。着て欲しいなって思ったので、この間、こっそり頼んでおりまして」

「……マルタが?」

「はい」

「気付かなかった……」

「内緒でしたもん」


 ふふ、と笑って見ていると、ダグはちょっと照れたように指でぽりぽりと顔をかいた。

 本当は誕生日とか記念日とか、そういう時に渡そうかなと思っていたので、少し早めのそれだったが。

 持って来て貰って良かったとマルタは思う。


「それじゃ、ダグ、行きましょうか」


 マルタが手を差し出すと、ダグは「うん」と笑う。

 そしてモーニングコートを脱いで片腕に持ってから、マルタの手を握ってくれる。


「王妃様、それでは一度、失礼します」

「ええ、うふふ。行ってらっしゃい、ダグさん、マルタさん」


 そしてメアリー王妃に断りを入れると、二人は手を繋いで庭園を後にした。

 微笑ましい眼差しが二人の背中に注がれる。

 そこでマルタはハッとして、


(エスコートな感じの方が良かったのでは……!?)


 なんて気づいて顔が赤くなった。

 手を繋ぎたいなとこの間から思っていたせいで、するりと自然に右手が出てしまった。

 だが今更変える事はできない。それにせっかく繋いだのだからもうしばらくこのままでいたい。

 そう思ったので「あらあら~」という視線は甘んじて受ける事にした。


「マルタ、マルタ。顔が赤いよ」

「ですよね! そんな感じです、今の私の心の中も! ですが良いんです、繋いでみたかったので!」

「アハ。俺も」


 歩きながらダグも楽しそうに笑う。ぎゅ、とちょっとだけ、手を握る力が強くなった。

 おや、と思ってマルタが見上げると、ダグの身体の回りにキラキラと小さな光の粒が現れ始めたのが見えた。

 その光は次の瞬間、

 パチン、

 と同時に弾け、


「ダグ」

「うん?」


 ガイコツ姿のダグのそれが、マルタと同じ、生身のそれになっていた。

 黒髪が揺れ、綺麗な青い瞳がマルタを見下ろしている。

 マルタは目を瞬いて「身体が」と言うと、ダグが目を瞬く。それから彼は空いていた手を持ち上げて、口で手袋を外し。現れた生身の手を見つめた彼は、


「……タイミングってもんがあるでしょうよ~~~~」


 なんて言って、その手で顔を覆い天を仰いだ。

 思わずマルタは噴き出す。

 まぁつまり、ラズが天恵(ギフト)を解いたのだ。

 ちゃんと周りに人がいない時だったので、マルタがダグにしたお願い(・・・)を覚えてくれていたらしい。

 お礼を言えば良いのか、もうちょっと、それこそタイミングがあっただろうと呆れれば良いのか。

 たは、とマルタは笑った。


「……マルタ、その、どう? がっかりしてない?」

「しませんねぇ。あ、でも、髪とか髭とか、ちゃんとお手入れされていたんですね」

「あー、ラズ兄がカイ叔父さんの姿になった時に、ちょっとね。……まぁ、その、マルタにいつでも見せて良いようにしたいしさぁ。格好良いって思われたいし」

「えっ」


 マルタがそう言えば、ダグからはそんな言葉が返って来た。

 どうやらマルタのためだったらしい。

 マルタはピシリとかたまり、先ほど以上に顔が赤くなった。


「本当に、マルタはどちらの俺でも気にしないんだなぁ」

「不意打ちはどちらでも気にしますけれどね!」

「服のお返しお返し」

「うぐう、倍返し……!」

「いや~、等倍じゃない?」


 いつかと同じやり取りをすると、二人揃って、ふは、と噴き出す。

 そして笑い合った後で、


「ダグの姿がどちらでも、最期は私もお揃いですし」


 とマルタは言った。ダグは僅かに首を傾げる。


「お揃い?」

「同じお墓に入りますし。その時はお揃いですよ」

「…………」


 マルタがそう言えば、今度はダグの顔がみるみる赤くなる。

 おお、とマルタが思っていると、ダグはそっとマルタを抱きしめた。


「ダグ?」

「俺、マルタの旦那さんになれて良かったよ」

「私も、ダグの奥さんになれて良かったです」


 抱きしめられながら、マルタはダグの顔を見上げる。

 目が合う。

 そのまま、すう、とお互いの顔が近付いて、唇が重なる。

 結婚式の時に感じた、同じ熱と柔らかさがそこにあった。

 少しして、離れた後も二人はお互いを見つめたまま。


「これからもよろしくお願いします」

「はい。末永くよろしくお願いします」


 なんて言って、微笑み合ったのだった。


これにて『ガイコツ辺境伯の奥様』完結となります。

お読みいただき、ありがとうございました!



ちなみに王様以外は知りませんが、クロエちゃんの作者はメアリー王妃です。


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