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♯30 ガーデンパーティー当日


 それから十日後の事。

 マルタ達はメアリー王妃主催のガーデンパーティーに出席するため、再び王都へとやって来た。

 滞在場所はこの間と同じくエスタンテ家だ。

 そこで一泊して、着替えて、マルタ達は王城へ向かう。


 ガーデンパーティー用にマルタが着たのは、ダグから贈られた例のドレスである。

 色もデザインも手触りも良い。マルタは大好きだ。

 そして何よりもダグから贈られたという事がマルタは嬉しい。

 ついつい顔がにやけてしまって、着替えた時からずっとにこにこしていると、


「マルタ、似合ってる。かわいいよ」


 ひょいと隣に並んだダグに、耳元でそう囁かれてしまった。

 至近距離で聞こえて来た好きな人からの誉め言葉に、思わずマルタの顔がボンッと音が出るような勢いで赤くなる。

 マルタの旦那様はいったいどこでこんな技術を身に着けたのだ。

 そう思ってダグを見上げれば、彼は悪戯が成功した子供のような笑顔を浮かべていた。


「やりましたね、ダグ!」

「アハ。やっちゃった。だってかわいいんだもん」

「うぐう……」


 そしてダグは機嫌よく笑った。

 さて、そんな彼も、マルタの母エルダが見立てたモーニングコートを身に着けている。一緒に帽子や手袋もしており、どれもダグによく似合っていた。


「ダグもとても格好良いですよ」


 お返し――というわけでもないが。

 本当にそう思ったのでマルタが褒めれば、今度はダグが「えっ」と短く声を漏らし、照れたように顔を赤くした。

 あ、こっちはかわいい。フフ、とマルタが微笑んでいると、


「父さんと母さんを思い出すなぁ」

「親子って奴ですよねぇ。うちでもあんな感じでしたよ」

「なるほどなるほど。困ったら言ってね。良い方法を教えるから」


 なんてマルタの兄ジャンとラズが話していた。二人はガッチリと握手まで交わしている。

 ちなみにジャンもマルタの両親と共にガーデンパーティーに参加するため、同じく正装をしている。

 が、それはともかくとして。

 何故か二人の中ではマルタとダグの関係は、両親のいちゃいちゃと同じカテゴリーにされているらしい。

 解せぬ。

 そう思ったが、何となく言い返せるタイミングが見つからない。

 そんな事を思いながらマルタはダグやラズと共に馬車へと乗り込んだ。ジャンや両親はもう一台の方である。

 全員がそれぞれ乗り込むと、エスタンテ家の紋章が飾られた馬車は、ゆっくりと王城目指して走り出した。


 魔導列車という便利なものはあるが、街中や、魔導列車が通っていない近隣の町村に向かうには、まだまだ馬車は現役である。

 一応、魔導車という馬車や魔導列車を小型化したような乗り物も開発されてはいるが、だいぶ値が張る。エスタンテ家くらいの貴族では気軽に手が出せない金額だ。

 量産体制が整えぱ価格も多少下がり安定するだろうが、それもまだまだ先の話だ。

 ただ、それでも法の整備だけはしっかりされているので、その辺りは安全だが――そんな事を思いながら窓の外を眺めていると、遠くに、一台の魔導車が走っているのが見えた。


「あ、珍しい」

「どうしたの?」

「ほらあそこ、魔導車です」


 マルタが指さすと、ひょいとダグとラズがその方向を見る。


「あの色は……ギブソン・ローレルのじゃないか?」

「ああ、たぶんそうだ。この間も見たよ」


 すると二人からはそんな言葉が返って来た。

 おや、とマルタは目を瞬く。


「ずいぶん儲けているんですねぇ」

「だなぁ」

「腹立つなぁ」


 そしてそんなやり取りをしている内に、魔導車は先へ進んで行って見えなくなり。

 しばらくしてマルタ達は王城に到着するのだった。




◇ ◇ ◇




 王城に到着すると、マルタ達はにこやかな笑顔で迎え入れられ、会場へと案内された。

 庭園はこの季節に咲く青色の花が満開だった。

 まるで空の中を歩いているような気持ちになる。

 ふわぁ、と思いながら庭園を歩いていると、すでに到着している参加者達の姿が見えた。

 人数はなかなか多い。これがほぼ全員、カルプフェン家に功績を横取りされた家の者達なのかと思うと、驚きの方が先に来る。

 そんなカルプフェン家の人間――主に家長とヨルダンは居心地が悪そうな顔をしていた。カルプフェン夫人の方は大体を理解しているらしく、落ち着いた様子ではあったが。

 そしてその傍らには、にこにこ笑顔を顔に張り付けた糸目の男が立っていた。


「あれがギブソン・ローレルだよ」


 ダグがそう教えてくれた。

 艶のある黒髪を後ろで縛り、眼鏡をかけた痩躯の男。

 歳は三十代後半か、四十代前半か。マルタが想像していたよりもずいぶん若かった。


「ちなみにどんな感じで脅したんです?」

「魔導銃の模造品。あれを売ると足がつくと言われたぞ、どうしてくれる。お前から受け取っただけなのに……って感じで。ダグが考えたんだよ」

「あはは。ま、ラズ兄の演技力もかなり効いてたんじゃない? 練習の時だいぶ良い感じだったし。あとはその流れでガーデンパーティーの話をうまーく混ぜておいた」

「へぇー!」


 あくまで声が聞こえないように、口の動きがなるべく見えないように、マルタ達はそう話す。


「だけど一番はカルプフェン家に泣きつかれたのが効いたんじゃないか?」

「なるべく早く逃げたいが、そうも出来ない状況に、たぶんヴルツェル家がしたんだろうなぁ」


 さすが騎士団の副団長の家、とダグは笑う。

 どういう手段を取ったのかはマルタは想像がつかないが、何かえげつない感じの事なんだろうなぁと察する。

 まぁどんな事をされていたとしても、今までの事から同情をする余地などないが。


 そんな事を考えながら参加者を見ていると、アガーテと目が合った。彼女はひらひらとマルタ達に向かって手を振ってくれている。

 相変わらず凛々しくて、格好良い美人だ。

 マルタもいつか、ああいう風になってみたいものだ。手を振り返しながらそう思っていると、


「マルタ、私達も他の方にご挨拶をしてくるわね」

「ダグ君達がいるから大丈夫だと思うが、くれぐれも気を付けるんだよ」

「何かあったら直ぐに戻るから」


 マルタの両親とジャンはそう言って離れて行った。

 ちなみにこれも作戦の一部である。

 ギブソンに何かしらの行動を起させるためには、ダグの周囲はなるべく人がいない方が良い。

 そういうわけで一度、エスタンテ家の家族には離れて貰う事になっていたのだ。


 そうしていると、ちらちらと、ギブソンの方から視線を感じた。

 見ている、見ている。よしよしと思いながらマルタがダグを見上げると、彼もニッと笑い返してくれた。


 そうしている内にメアリー王妃がやって来る。

 王妃の護衛も一緒だ。

 カルム王はいないのだなとマルタが思ったら「わあ」と小さい声がダグとラズから聞こえた。


「またうまーく変装しているなぁ……」


 ついでにそんな事も呟いている。

 言葉から意味を察してマルタは護衛を二度見した。


(もしかして、あの護衛さんは陛下の変装……?)


 その容姿から、カルム王らしさは欠片も感じられない。合っているのは身長くらいだ。

 上手く化けたものである。

 これならマルタとダグの結婚式に混ざっていても気が付かないのは当然だ。

 マルタが軽く慄いていると、メアリー王妃の挨拶が始まり、そして。

 ガーデンパーティーが始まったのだった。

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