閑話一話 孤高の光
時間があったので、今日は二話投稿!閑話なので、読まなくても別に大丈夫です。
真っ白な世界の中でただ一人、金髪の少女が立っていた。
その姿は儚げなく、触れれば壊れ、風が吹けば消えてしまいそうな、そんな存在に見えた。
真っ白なキャンパスに誤って落としてしまった絵の具のように、少女は誰にも求められず、何をすることもなく佇んでいるだけの時間が過ぎた。いや、時間という概念がその世界にあるかもわからない。
やがて、少女は閉じていた目を開け、空をいや、ただ上を見る。
ただ、その動作だけで世界が動き出す。真っ白な世界はあるべき姿に戻り、目まぐるしく変化していく。草原、荒野、海原、城、村、街、何もかもがない場所。様々な場所を映しては消えていく。
まるで過去に、原初へ還るように、逆再生の動画のように。
無音の世界に、男の声が響く。
「嗚呼、この物語も失敗したか…。いったいどこから狂い始めたんだろうね?え、最初から?確かに、そうかもしれないなぁ。まあいいさ。僕たちが紡ぐ物語は何度でもやり直すことができる。所詮はゲームだ。え?何時まで付き合わせるのかだって?それは僕たちが目的を達成するまでさ。安心しなよ、どうせ今までの物語を覚えているのは僕と彼女しかいない。君はいつも最後の最後で思い出すだけだしねっ。」
その言葉に、少女が怒り、世界が呼応するように嵐が起き、世界が揺れ、壊れていく。
「おお、怖い怖い。まあまあ、そんなに怒らなくてもいいだろう?終わりがない訳ではないんだから。いつかは必ず終わるよ。それじゃあ、あんまり長い間いると、もっと君を怒らせそうだし僕はこの辺でお暇させて頂くよ。次の物語では期待しているよ?また、楽しませてくれよ?」
男がそう言うと、嵐が収まり、再び世界を静寂が包む。
だが、依然として少女の周りは目まぐるしく変化していく。
戻り行き、同時に生み出される世界の中で、少女の瞳に白髪の少年と金髪の少女が目に入った。今まで佇んでいただけの少女は動き出し、必死に何かを伝えようと二人を目指して走るが、世界がそれを嘲笑うかのように、無情にも、徐々に差が開いていき、終いには世界に飲み込まれて見えなくなってしまった。
少女の目にはうっすらと涙が浮かぶ。もう、物語が始まっているのだと知って。止められないのだと理解して。
少女の体はうっすらと光を放ちながら消えていく。そして世界に完全に溶け込み、空白の世界からいなくなる。
物語に振り回し続けられる、哀れな少女の名は──
▽▽▽
「本当に大丈夫?レイア?」
「…アルカ?」
「う、うん僕だよレイア。ボーっとしてたけど大丈夫?」
「本当にアルカなの?」
「えっえ?僕は僕だよ?」
意識がはっきりすると目の前には、中性的な顔立ちの白い髪を持った、幼馴染のアルカが私の顔をのぞき込んでいた。なんだが、昨日も見たはずのアルカが懐かしく感じちゃって変なこと聞いちゃったな…。
あれ…なんだろ?さっきまで、重要なことがあったはずなのに思い出せないや…。すると、ボクの頬を何かが濡らす。
(あれ、ボク泣いてる…?)
「えっえ!?ど、どうしたのレイア!?」
「あれ、ボクなんで泣いてるんだろ?」
(本当に、なんで急に涙なんか出たんだろ…?)
目の前ではアルカが困った顔をしながら、あたふたしている。
そんなアルカを見つめながら、レイアは考える。
(なんだか頭がふわふわしてて、不安定だなボク…。やっぱり何かあった気がするんだけど…。まあ、思い出せないものはしょうがないかな。今はアルカを愛でますか!)
レイアは思い出すことを辞め、目の前の獲物に意識を向ける。
それが正解だったのかは、誰も分からない。結局──が始まっていることには変わりがないからだ。
丘の上では、白髪頭の少年が必死に金髪の少女を泣き止まそうとしていた。