八話 叱責と目標
今回はすごい悩んで書きました。もしかしたら、後で色々と訂正するかもしれません。
※お知らせ
10/25までリアルの方が忙しいので、更新が途絶えます。すみません……
六人が丘の上でジョブについて話し合ってから時が経ち、『ジョブ診断』の前日となった。
アルヒ村での数少ない、イベントである『ジョブ診断』が翌日に行われることから、村は何処となく浮き上がっていて、村人たちは皆口を揃えて、『ジョブ診断』について話をしている。そして、村長の家では、村の女性陣が集まり『ジョブ診断』をしに来る神官たちや、ジョブを授かる六人のために、そして宴のためにごちそうを作る準備をしている。
そんなお祭りムードなアルヒ村の端にある、最も森と近い場所にある家の中で、白髪の少年と赤髪の双子の姉妹が朝食をとっていた。
「とうとう明日はジョブ診断だねぇ~。僕はラン達に会いに行くつもりだけど、リナとカノアは今日はどうするの?」
パンをもしゃもしゃと頬張りながら、アルカは前に座っている妹たちに今日の予定を聞く。
「私は村長さんの家に行って料理の手伝いをしに行こうと思います。勿論、カノアにも付いて来てもらいます。」
カノアはうんざりした表情でリナの方を向くが、リナに睨まれると顔を背け、ため息を吐く。
「仕方ないからついて行ってやるよ…どうせ断っても無理やり行かせる気だろうし…」
「分かってるじゃないですか、カノア♪あ、それと兄さんには今日やってほしいことがあるので、泉に行くのはお預けです。」
「そんなぁ!?」
アルカはこの世の終わりのような表情を浮かべ、リナの方を向くがリナは反応を示すことがない。
しかし、リナの横で不貞腐れているカノアは見てしまう。彼女の口角が少し上がっていることを。
(そういえば、こいつはドSだったな…)
カノアはそんなことをぼんやりと思い出しながら、二人の会話に耳を傾ける。
「私たちは村長さんの家に行く用事があるので、兄さんには今日、おつかいに行ってもらいます。買ってきてほしいものはメモに書いた置いたので、お願いしますね?」
「…今日行かないと駄目なのかい?」
「ええ。明日はジョブ診断がありますし、ジョブを貰えば忙しくなるかもしれないのでお願いしますね?あ、兄さんの好きな『チキチキ』を買ってきていいですから。」
『チキチキ』とは、この世界のどこでも売られ、全ての種族に愛されている食べ物である。味は数種類に及び、熱狂的なファンも数多く存在する。唐揚げのような食べ物である。
「…分かったよ。リナ達が村の手伝いをしてるのに、遊ぶのは兄として情けないからね。(何味の『チキチキ』を買おうかな~♪)」
「ありがとうございます、兄さん。では、メモとお金です。おつりは返して下さいね?」
「分かったよ。じゃあ僕は行くとするよ!」
アルカは朝食を食べ終え、リナから貰ったメモとお金を持って立ち上がる。
「分かりました。兄さんも気を付けてくださいね?片付けは私がやっておきますから。」
「行ってらっしゃい兄貴~。『チキチキ』は普通の味を買ってきてくれよ~」
「分かったよっ!それじゃあ行ってくるよ!」
アルカは二人にそう告げ、玄関を出る。リナは朝食を食べ終え、自分の分とアルカの分の食器を洗う。
「カノアもさっさと食べてください!片づけたら私たちも村長さんの家に向かいますよ。」
「了解~」
カノアは眠たそうに返事をし、パンをもぐもぐと頬張っている。リナはため息をつきながら、村長の家へと行く準備をする。
▽▽▽
「そういえば、久しぶりに買い物に行くなぁ…買い物はずっとリナ達に任せてたからな~」
アルカはそんな呑気なことを呟きながら八百屋を目指して歩いて行く。アルカの場合、普段は村にいる時よりも森の中で、スイ達と遊んでいることの方が多いため、こうして一人で買い物に行くことが滅多にないのだ。アルカ家では、リナが買い物や家の管理、カノアが力仕事と掃除、アルカが洗濯と昼と夜御飯を担当しているためだということもある。
アルカは農作を担当している村人たちが管理する畑に添って歩いていると、遠くで素振りをする人影を見つける。
「ん?もしかしてカリオス?」
アルカは遠目ではあるが、親友であるカリオスを見つけると、小走りでカリオスに会いに行く。
カリオスもアルカに気づいたのか、素振りをやめ木刀を右肩に乗せアルカの方へ歩き出す。
「おはようカリオス!朝の鍛錬かい?」
「おう、おはようだ!アルカも一緒にやるか?木刀が余ってあるから貸してやるぞ?」
「ごめんね、ボク用事があるから今日は遠慮しておくよ。」
「…そうか、なら仕方がないな。」
カリオスは少し残念そうな顔をしながらアルカを見る。
アルカは少し慌てて、場を明るくしようと声を出す。
「そ、そういえばカリオスは何で毎朝鍛錬をしているんだい?」
「おう、よくぞ聞いてくれたな!鍛錬をする理由は男を磨くためだ!」
「…男を磨くため?」
「ああ、真の男という者は、どんな場所でも仲間を守れる力を持っているものだと俺は考えている!即ち、力があれば有る程、俺様の理想は近くなっていく!だからこそ、俺様は毎日欠かさず、鍛錬を行い力を、技術を、精神を鍛えているのだ!俺様には守るべき者、守りたいものがたくさんあるからな!」
「カリオスはすごいね!さすがだよっ!」
「はっはっは!そうだろ!俺様は『有言実行』する男だからな!必ず、守る力を手に入れるぞぉ!!」
「ボクも応援してるよ!」
カリオスはガハガハと笑いながら決めポーズのようなものをしている。アルカはそんなカリオスのことを、尊敬の眼差しで見ている。
リナかレイアがいればきっとこう言うだろう、「朝っぱらから、何を馬鹿なことをしているのか」と。
異様にテンションの高い二人は、カリオスが鍛錬していた近くにあるベンチに腰掛ける。すると、カリオスは笑うのをやめ、真剣な表情になり、アルカの方へと向く。
「実はアルカに話しておきたいことがあるんだが…聞いてくれるか?」
「…う、うん」
いつもの自信満々な雰囲気がなく、どこか悩んでいるようなカリオスにアルカは少し心配しながら話を聞く。
「実は…俺様はジョブを貰ったら村を出て王都に行こうと思っている。例えジョブが戦闘系でなくとも行くつもりなんだ。」
「どっどうしてだいっ!?」
ずっと村で今と変わらない生活が続いていくと思っていたアルカは、盛大に動揺する。そんなアルカを覚悟を決めた表情でカリオスは見る。
「俺様には兄弟が多い。今年また一人生まれて、六人兄弟だ。アルカも知っているだろう?俺様は長男として妹や弟たちに不自由な生活をしてほしくない。出来たら、好きなことを好きなだけできる裕福な人生を歩んで欲しいんだ。親父たちの給料でも生きていけると思うが、成長すれば金がかかる。親父たちにも無理をして欲しくない。だから俺様は王都に行く。戦闘系のジョブなら騎士に志願する、非戦闘系ならどこかで雇ってもらう。それで、金を稼いで家族に金を送る。勿論、漢の目標である、世界に名を轟かせることも諦めた訳じゃねぇけどな。」
自分の思いを伝え終えたカリオスは、空を眺める。そんなカリオスの隣に座るアルカは、地面を見つめながらカリオスに話しかける。
「カリオスは目標が決まっていてすごいね…このことは僕以外にも話したのかい…?」
「親父たちと弟たち、村長には話をした。」
「どうして、ソーレンやレイア達には話をしていないの…?」
「俺様の周りにはお人よしが多いからな、きっとあいつ等に話せば手伝おうとしてくれると思ってな…。俺様のせいで、あいつ等の道を狭くしたくねぇから話せてないんだ。」
「なら、どうして僕に話したの…?僕にとってカリオスは大切な親友だよ!僕が君の思いを知って、手伝わないとでも思ったのかいっ!?」
アルカは拳を強く握りながらカリオスに向かって叫ぶ。その眼には、怒りと戸惑い、そして不安が見て取れた。カリオスはいつもと違い、豪快に笑わず、困ったように笑いながらアルカの頭を力強く撫でる。
「馬鹿野郎、俺様がそんなこと思うはずがないだろ?寧ろ俺様は、お前が一番手伝ってきそうだと思ってるぜ?まったく困った親友だぜ。」
カリオスはそう告げるとアルカの頭を撫でるのをやめ、立ち上がる。そんな、カリオスの背中をアルカは戸惑った表情で見る。
「…どうして僕に話したんだい?尚更わからないよ…。」
「お前は他の奴らと違って、村に絶対残ると確信できるからな。」
「どうしてだい…?」
「お前は仲の良い動物達を放っては置けないだろ?なんせ、動物たちのために、使役系のジョブになりたいだなんて言うぐらいだしな!」
「…確かにそうだね。僕は村を出ていくことができないと思う…」
「だろ?お前は変なところで面倒見がいいからなっ」
「変なところは余計だよ!カリオスが村に出ていくことは分かった。他の皆にもカリオスが言わないでほしいと思うなら言わない。僕はカリオスのことを応援するよ。何か僕に手伝えることがあれば言ってほしいなっ。」
二人の間にピリピリとした空気がなくなる。アルカは寂しい気持ちを表に出さないように、必死に笑顔を作ってカリオスの方を見る。どこか、蝕まれるような心の痛さも笑顔の仮面で隠そうとする。
だが、カリオスはアルカに背を向けたまま呟く。
「…またか。」
「何か言った?カリオス?」
アルカはカリオスの言葉が聞き取れず、そう問うが、カリオスは何も言わずアルカに背を向けるのをやめ、正面に立つ。
「アルカ、お前に前から言いたいこと、いや、聞きたいことがあった。」
「なんだい?」
「お前は本当にアルヒ村を自分の居場所だと、故郷だと帰るべき場所だと思ってるか?いや、思えているか?」
「あっ当たり前だよ!僕はこの村を──」
「嘘だな。」
カリオスはアルカの言葉を遮りそう断言する。アルカは自分の心が見透かされているように感じ、顔が恐怖で引き攣ってしまう。カリオスは少し怒った顔をする。
「嘘をつくなっ。お前がアルヒ村を本当に自分の居場所だと思っているなら、なんで親父さんたちが亡くなってからいつも、迷子の子供みたいな表情をしてるんだ?最初の頃は俺様達も、両親が亡くなった寂しさがそうさせてるんだと思っていたが、違った。お前は両親が亡くなったことを認めてもその表情をやめず、何でか、村の皆と必要以上に関わろうとせず、泉に行くことが多くなった。まるで、この村の一員であろうとしないようにな。何故なんだ?どうして、村の皆と関わらないようにするんだ?村の皆はお前のことを大事に思ってるし、心配もしているぞ?」
アルカは俯きながら、下唇を噛み締める。そして、自嘲するような悲しげな笑みを浮かべる。
「はは…そんな顔してたなんて自分ではわからなかったよ…。だって、仕方ないじゃないか…僕はこの村の誰とも血の繋がりがない、どこから来たかも分からない”異物”だよ…?そんな僕がみんなと仲良くしても困らせてしまうだけだし、僕自身ですら自分のことが分からない、そんな奴がこんな素敵な所を居場所にしたらいけないんだよ…」
アルカは吐き捨てるようにそう呟く。すると急に胸ぐらを掴まれて、体が前に引っ張られ、怒った顔のカリオスの顔が眼前に迫る。
「馬鹿野郎ッッ!!誰がお前のことをそんなふうに思うと思ってんだ!自分の勝手な思い込みで、人を避けて引きこもってるだけじゃねぇか!」
「だって、僕は誰とも血の繋がりがない、本当の親も分からない”異物”で…」
「親ならいただろっ!グレンさんたちがお前をここまで立派に育ててくれたんじゃねぇか!血の繋がりはなくとも、お前には、お前を好きでいてくれる家族がいる!お前には、お前のことを認める友がいる!血の繋がりなんか関係ねぇ!誰もそんなところは気にしてねぇ、俺様は、村の奴等皆は『アルヒ村に住むアルカ・ネフス』のことを言ってんだ!この村に来る前のことが分からなくても、この村に来てからのお前を知っている。血の繋がりがなくとも、それ以上の絆で結ばれてる家族と友がいる!お前は立派なアルヒ村の一員だ!”異物”なんかじゃねえっ!!」
カリオスはアルカの眼前でそう叫ぶと、胸ぐらを掴んでいた手を放す。アルカはそのままベンチに座り込む。
「すまねぇ、少し熱くなり過ぎた…」
カリオスは頭を掻きながら謝罪をし、アルカの方へ顔を向ける。そして、言葉を続ける。
「だが、覚えておいて欲しい。明日の『ジョブ診断』はお前がアルヒ村の一員だから受けれるんだ。お前には、そんな半端な気持ちを持ったまま『ジョブ診断』を受けてほしくなかったんだ…。お前には、俺様の親友として、胸張って堂々とこの村の一員としての自覚をもって『ジョブ診断』に受けてほしいんだ。結局は、俺様の我が儘だ。」
そう告げると、カリオスは木刀を持ち、アルカに背を向けて歩き出す。
だが数歩、歩いたところで後ろから声をかけられる。
「まって…本当に、本当に僕はアルヒ村の一員でいいのかな…」
アルカは俯きながら絞り出すように声を発する。
それを聞いたカリオスはズンズンとアルカに向かって大股で近づく。そして、手をアルカに向かって伸ばす。アルカは体を縮こませて、ギュッと目を閉じるが、直後頭の上に優しく手が置かれる。
「お前のことを否定する奴はアルヒ村にはいねぇよ。この村は、皆が家族みたいなもんだしな。」
アルカの頬に一筋の涙が流れ落ちる。
「僕はここにいていいんだよね…?僕はこの村の一員でいいんだよね…?」
「馬っ鹿。さっきからそう言ってるだろ?」
カリオスは呆れながらもどこか安心したような声色で、答える。アルカは今までの不安などが溢れ出したのか、涙が止まらない。
「僕、間違ってたんだね…ただの思い込みだったんだね…けど、それが嬉しくてたまらないよ…。ここが僕の居場所だったんだねっ!」
「気づくのが遅いんだよっ」
アルカは泣きながらも笑顔で、嬉しそうにそう言う。カリオスは笑顔でアルカの頭を軽くはたく。
「それじゃあ、俺様はそろそろ良くわ。朝飯まだだしな」
そう告げ、歩き出そうとしたカリオスに、アルカは涙をぬぐい、声を出す。
「カリオス!僕にも目標ができたよっ!」
「なんだ?」
カリオスは背を向け歩きながら、返事をする。アルカはそんなカリオスに聞こえるように大声を出す。
「僕はっ!このアルヒ村を、自分の居場所をっ!親友が帰ってくる場所を守ってみせるよ!」
「ハハッこれは大きく出たなぁ!ならしっかりそれを貫けよアルカ!『一念通天』、お前ならきっとできるさ!」
カリオスは歩みを止めないままアルカにそう告げる。アルカは胸の前で拳を作り、覚悟を固める。
(アルヒ村が僕の居場所なんだ!一度は見失ったけど、アルヒ村こそが僕の居場所、守るべきものなんだ!絶対に僕はこの村を、守って見せる!
少年は決意をする。自分の居場所を、もう失くさないと。”また”奪われてたまるものかと。”少しだけ”塞がった心の傷をなめながら、その痛みを繰り返さないために決意をする。
「あっ買い物に行かなくちゃ!」
アルカはどこか、いつもより明るい顔をしながら走りだす。すると、後ろから声をかけられる。
レイア「普通、カリオスの言葉はヒロインが言うものでしょ!?どうなってるの!?」
カノア「抑えて抑えて…」
カリオス「HAHAHA!男の友情に勝るものはなし!」




