第62話 一冊から一人へ 前編
イルナに助けられてから二日が経ち、俺は怪我の回復とともに今の状況を理解し始めていた。まず今俺がいるかの場所は、サラスティア城内の地下施設である事。
この場所は危険なのではないかとイルナに尋ねたところ、灯台下暗しの方法であえてこの場所にしたらしい。ちなみに食料なども、こっそり蓄えていてそれらを用いてここで暮らしていたとのこと。
次にアーニスさん達の行方。これは丁度今日解決した。
「ティナさんが教えてくれたんです。隠し通路からこの場所に来れると」
アーニスさんがティナの情報を元にこの場所はやって来たのだ。その手にはしっかりと預言書が握られていて、俺は無事に再会できた事を喜んだ。
「ユウは時に無茶をしすぎ。アーニスがすごく心配してた」
「ごめん……。でもそうするしかなかったから」
「それで怪我したら元も子もないですよ」
「本当にごめんなさい」
何はともあれ無事俺達は合流を果たす事ができた。イルナ曰く、後二日ほど休めば大丈夫だという事なので、二日後に俺達はユウニをあの場所へ戻しに行く事を決めた。
「問題はその後どうするかですけど」
「それなら私に行くあてがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「アーニスさんに?」
「はい。私達の国がこうなってしまった以上、他の国の方に協力を仰ぐしかないので、サラスティアと同盟国のユドリシアを訪ねようと思っているんですが、よろしいですか?」
「勿論いいですよ。私もまだすぐにスービニアには戻れませんので」
そしてそれを終えた後の行先も決まり、あとは行動していくだけになった。ただ、その中で俺は少しだけ不安があった。
それは勿論ユウニの事だ。彼女は預言書としての役目を終え、元の場所に戻るという。その後の指示はちゃんとすると言っていたが、この先のたびに彼女がいなくなる事を俺は不安に感じていた。
(でもそれがこの先の世界に必要な事なんだよな……)
分かってはいるけど、それでもユウニが居なくなるのは少しだけ寂しい。
「ユウ」
そんな事を考えていると、ユウニが俺に声をかけてきた。とは言っても、本から声がしただけなので、少しだけ違和感はあるが。
「何?」
「大丈夫」
「え?」
「必ず戻ってくるから」
「戻ってくる?」
どういう意味だそれ。
■□■□■□
二日後。俺達は徘徊する騎士達の目をうまく誤魔化しながら、久しぶりにあの大図書館へとやって来た。
「流石にここは警備が手薄ですね」
「ここは入口が一つしかないですから、囲まれたら逃げ場がありませんからね」
「なら、早く済ませないと」
俺とアーニスさんは、なるべく物音を立てないように目的の場所へと向かう。とは言っても、ユウニを最初に見つけた場所は、偶然落ちた穴の中だったので、見つける事自体はすごく簡単だった。
「えっと確か、この本棚のこの場所だよね、ユウニ」
「うん」
「本当にこの場所でいいの? 預言書ならあの遺跡とかじゃないと駄目とかないの?」
「大丈夫。その辺りはちゃんとなっているから」
ユウニの言葉の意味がイマイチ分からないまま、俺は預言書を元の本棚に戻そうとする。けど何故だか、俺の手は止まってしまった。
「どうさしたのユウ、早くしないと」
「本当にこれでいいの? ユウニ」
「余計な心配はしないで。私は役目を終えて預言書ではなくこの世界の歴史書としてこの場所に眠るだけだから」
「そしたらユウニはどうなるの?」
「この場所に眠り続ける事になる」
「この前言っていたことと違うじゃん! やっぱりこんな所で別れるのは」
「ユウさん、あまり大きな声を出すと」
「分かっていますアーニスさん。でもこのまま彼女をこの場所に戻すのは」
「それをユウニさんは望んでいるんですから、そうしてあげましょうよ。それに、彼女は信じてほしいと言っているのですから」
「っ! この前の言葉に嘘はないんだよねユウニ」
「大丈夫、約束は守るから」
「絶対に戻って来てね」
「約束する」
俺は込み上げてくる感情を何とか堪えながら、ユウニを、預言書を、元の場所に戻す。そして……。
「絶対に戻ってきてね、ユウニ」
最後にそう言葉を残して俺とアーニスさんはその場を去る。
「ありがとう、ユウ」
ユウニは最後の最後にそう言葉を残す。俺はそれに思わず振り返りそうになるが、それも堪えて地下から地上へと上がっていった。
「どうしてユウニさんは、あの場所に戻してほしい事を望んだんでしょうか」
大図書館を出る直前、アーニスさんはふとそんな言葉を漏らした。
「え?」
「もうご存知かと思いますが、三冊の預言書は一つの遺跡から生み出されたものです。本来役目を終えたなら、その場所に戻すべきです」
「それはさっき私もユウニに聞きました。でも彼女はここでいいと答えました」
「つまりそれは、世界の歴史をこの場所に残したいという彼女の意思なのではないでしょうか。そしてその場所に本を残すという事はきっとユウニさんは」
アーニスさんは扉を開く。だが外で待ち受けていたのは、
「姿が見当たらないと思ったら、こんな場所にいたんですね、元王女様」
あの騎士団長のクスハ、数人の騎士、そしてそれに捕らわれたイルナの姿だった。
「貴方もしつこいですね、クスハ」
「元王女は捕らえるように言われているんですよ、そうですよね? リル」
そしてその騎士の群れを掻き分けて現れたのは、あの時俺を刺したリルだった。
「リルさん、やっぱりあなたがどうして」
「ごめんなさいユウちゃん」




