第60話 再会 後編
本当に何事もなく突然やって来たユウの姉、ティナ。俺はその予想外の再会にただ驚いていた。
(まさかこんな場所で再会する事になるなんて)
しかもこの騎士の女性とも顔見知りみたいだし、もしかしたらこの状況を切り抜けられる事が出来るかもしれない。
「久しいなティナ。こうしてお前と会うのはいつぶりだろうな」
「思い出話に花を咲かせるの悪くないけど、まずこれはどういう状況なのか説明してくれないかしら」
「そんなの一目瞭然だろ。そこの少女が持っているのは、預言書だ。我々はそれを奪いにきた」
「どうしてユウ、貴方がそれを」
「お姉ちゃんが居なくなってから、色々あったんだよ」
言葉にできないくらいの沢山の出来事が。
「その本をお前の妹が大人しく渡してさえくれれば、我々はすぐに王女を解放してこの場を去る。どうだティナの妹よ」
「勿論そんなのお断りに決まっているでしょ」
「ユウ、どうして」
「お姉ちゃんには関係ないよ。今の私は、私の意志で動いているから」
それは同時に俺自身の意志でもある。ユウニがその役目を果たし終えるまでは、これは誰かの手に渡すわけにはいかない。
「だ、そうだぞ。そうなれば力づくで奪うしかないようだが」
「ねえユウ、いえ、リュウノスケ。その預言書を貴方達が集めているのは知っているの。でもそれを持っていたら、貴方はきっと」
「何を言っても私の意志は変わらないよ。これは私の為じゃなくて、世界の為だから」
俺はそう言うと騎士の群れへと突っ込んでいった。
「何のつもりだ」
「見てれば分かるよ」
俺は一度かなり危険な状態な目にあったことがある。俺はその時ユウニの為に動き、そして無意識で時間を止めた。
あれがどんな力によって起きて、そもそもどうして起きたのかも分からない。でももしかしたら、今この一瞬だけ、それが可能なのかもしれない。
(確証はない。けど信じてみる価値はある)
俺は少しだけ祈った。もう一度あの時の力を貸してほしいと。
「ユウ!」
「愚かな」
突進してきた俺に対して、剣を振るおうとするクスハという女性。しかしその動きは、まるで俺の気持ちに応えたかのように止まった。
止まった時間はほんの一握りの時間。けどそれだけでも十分。俺は軽い体を生かして飛び、そして彼女を踏み台にした。
「なっ。何故貴様がそこに」
「残念だけど、ここは突破させてもらうよ!」
時間が動き出したのは丁度その時。クスハは自分が踏み台にされた事も気づかないまま、俺は騎士達の群れを飛び越えてサラスティア城の前へと到着する。
ただそこで止まっている暇はない。まずはアーニスさんを助けださなければ。
「ユウニ、アーニスさんがどこにいるかは分かる?」
「地下の牢屋」
「地下?」
「場所は今伝える。ただ時間がないから急いで」
「うん!」
俺はユウニの指示に従って城の中に入り、アーニスさんが捕らわれている地下牢へと向かう。その間、俺が逃げ出した事に動転して動きが遅れたのか、追っ手がすぐにはやって来なかった。
そしてユウニの指示もあって、すぐに捕らわれていたアーニスさんを見つける。
「アーニスさん!」
「え? ユウさんどうしてここに」
「詳しい話は後です。今すぐここから逃げましょう」
「……はい!」
俺はユウニの指示で予め見つけておいた地下牢の鍵を開け、アーニスさんを無事救出する。ここまでは順当。
「見つけたぞ、ティナの妹」
「っ! クスハ……」
ただここからが脱出の本番だ。
■□■□■□
「まずは先程の無礼な行為について、貴様には謝罪してもらわなければならない。よくも私を踏み台にしてくれたな」
俺とアーニスさんがいる地下牢にやって来たのは、クスハ一人だった。だがその威圧感に俺は動き出せない。
「どうして謝らなければいけないの? 私はただ、あの場所から逃げただけなのに」
「そもそもどうして大人しく言うことを聞かない。貴様の姉も、その預言書は大人しく渡せた言っていただろ」
「確かにお姉ちゃんはそう言っていた。けど、私は違う。私はこの預言書を誰かに渡すつもりはない」
「そうか、なら」
鞘から剣を抜き俺に突きつけるクスハ。
「クスハ! 王国騎士団長のあなたがどうしてこんな事を」
「この国を変えるためです、王女、いえ元王女様」
「なっ!」
それを見て止めに入ろうとするアーニスさんに対して、クスハは表情一つ変えずにそう告げる。
「もうすぐこの国は大きな変革を迎えます。その場所にはあなたが立つ場所はないんですよ」
「どうして……そんな事」
「もうこの国は既に終わっているんですよ。住む人もいなければ、あなたの王女の威厳もない。だからこの国にはもうあなたという存在も、騎士団長としての私も必要ないんです。ですから、このエルフと共に死んでください」
俺とアーニスさん二人に対して刃を向けるクスハ。どう見ても絶体絶命な状況に、俺はどうすればいいか考える。
(預言書も、アーニスさんもここで失うわけにはいかない。なら、今ここで危険を犯すべきなのは……)
「アーニスさん、これを」
「え?」
俺はアーニスさんに預言書を渡す。そしてクスハへと突進していく。
「貴様、何のつもりだ」
俺に向けて刀を振るクスハ。俺はそれを避けると、振り下ろされた剣を持つ腕を踏み台にして、
「また私を踏み台に」
唯一鎧が纏われていない頭に向けて飛び込んだ。俺はクスハの顔面に抱きつき、彼女の視界を塞ぐ。
「しまった、視界が」
「アーニスさん、今の内に」
「ユウさんは?!」
「いいから!」
何かを言いたげな顔をするものの、アーニスさんは預言者を持って、地下牢から出て行く。俺はそれを確認すると、クスハの顔面から離れて、地面に着地する。
「よくも……やってくれたな」
今この状況で逃げ出すべき人は逃がせた。ただ、すぐに追わせない為にも、ここで更に時間を稼がなければならない。
「許さないぞ、ユウ!」
「許されなくてもいい。私は….…自分達の未来の為なら、どんな事でもする」
「なら死になさい」
「え?」
突然背後から声がしたかと思うと、俺の腹部を何かが貫いた。
「な……」
「随分と遅い到着じゃないか」
「すいません、ちょっとある人に会ってしまいまして」
「おかげで重要人物を逃してしまったぞ」
「なら私が責任を持って捕まえますよ、クスハさん」
(この……声……)
俺は貫かれた事よりもその声の主に驚きを隠せない。どうして彼女がここに、と思った頃には既に槍は引き抜かれ俺は血の池に倒れこんだ。
「こうなってしまった事はとても悲しいです、ユウちゃん。でも許してください」
「行くぞ」
「はい」
俺を放置して二人は牢を出て行く。残された俺は、もはや体を動かすことも出来ずに、そのまま静かに目を閉じるのであった。
「……すごい出血。早く助けてあげないと……」




