第38話 真実は深い森の中
どれくらい時間がったか分からないが、再び俺が目を覚ました時は空は真っ暗だった。
「へっくちゅ」
大量の水を浴びたせいか、今体はすごく冷たい。
(そういえばスズ達は?)
周囲を見渡す。しかしそこには誰もいない。むしろ俺が今いるこの場所が泉から流されてしまったのか、どこにいるのか分からない。
(はぐれたか、よりによってこの森で)
俺は濡れた体を乾かす為にも歩き出す。周囲は木ばかりが生い茂っていて、同じ場所を歩いているような錯覚に陥りそうになるが、先程判明した事実のおかげでもう惑わされることはないが、どこかにここを抜け出せる道があるはずだ。
(あの時は腹が減っていて、それどころじゃなかったけど……)
こうしてこの森を歩くと、どこにでもある普通の森に見える。一体どうしてこの森が輪廻の森だなんて呼ばれるようになったのかいまだに疑問だ。
「スズさん、どこにいますかー」
声を出してみるが返事はない。水の勢いがあったとはいえ、そんなに遠くには流されていないと思うが、うまく合流できないだろうか。
「ユウさーん! どこですかー」
更にしばらくした後、スズが俺を呼ぶ声がした。やはり遠くには流されていなかったらしい。
「スズさん、私はここです」
俺は声を出して答える。だがそれに反応はない。まだ遠くにいるのだろうか。
「あ、ユウさん! よかった、そこにいたんですね」
その直後に近くの草むらからスズがすがたを現した。どうやら反応がなかったのはもうすぐ近くにいたかららしい。俺はホッと一息ついて、声を発した。
「スズさんこそ無事でよかったです」
だがその声に返答はない。むしろスズが見ているのは俺ではなくて、
「スズお姉ちゃん、ごめんなさい! 私……私……」
俺をすり抜けて現れたもう一人のユウに対して向けられたものだった。
(え?)
どうなっているんだこれ。どうしてユウがもう一人いるんだよ。
■□■□■□
俺の目の前に現れたユウは、ユウニと違って声も姿もまるっきり一緒。つまり同一人物だ。それなのに俺の声はまるっきりスズ達に届いていない。
(一体何が起きているんだ)
頭の理解が追い付かない。だけどそんな俺を無視してもう一人のユウとスズは会話を続ける。
「いいのよユウちゃんが無事なら。それより怪我はなかった?」
「うん!」
「あまり遠くへ出かけたりしないでね。あなたのお姉さんに怒られれちゃうんだから」
「嫌だ! だってお姉ちゃん怖いんだもん」
「全くもう……」
俺はそのやり取りを見ながらふと思う。もしかして今俺が見ているのは記憶なのか? ユウ自身、もしくはスズの。でもどうしてスズは過去にユウと関わっているのに、その事を一度も話してくれなかったのだろうか。
(隠している様子もなかったし、単純に忘れているのか?)
過去の映像と思わしきそれは、さらに続く。
「でもどうしてスズお姉ちゃんはこんなに優しいの?」
「うーん、どうしてかな。放っておけないから、とかかな」
「放っておけない?」
「だって二人とも色々大変だったんでしょ? おまけにこんな森にまで迷い込んじゃって」
「大変だったのかなぁ」
まだ本当に小さい頃の話だからなのか、何も理解できていない顔をするユウ。色々とはきっと故郷の事なんだろうと思うけど、恐らくこの時はティナも話していなかったのだろう。
小さな子供が到底理解できないような話。
でもいつしかその現実と向き合わなければならない時だってくる。
「もしかしてティナから話は聞いていないの?」
「話? 何それ」
「そっか、やっぱり何も知らないんだ」
不思議そうな顔を浮かべるユウ。本当に純粋に育てられたんだなと思うと、今の俺と同一人物だなんて考えられない。今のユウは知らなくていいような話ばかり知って、世界を救うために旅に出て、小さな体では抱えあれないようなものばかりを抱えている。
(心が痛むな……)
「ところでユウちゃん、一つ聞いていいかな」
「何?」
「ティナから聞いたんだけどユウちゃんって……をしようとしているの?」
ふとスズが何か重要なことを言ったが、突然ノイズ見たいのが入り、その部分が聞き取りにくくなる。
「うん……。お姉ちゃんには申し訳ないけど、私も……だから」
「そんな、可哀想すぎるよ」
「でも私は救いたいの。……が苦しんでいる姿はもう見たくないから」
段々何を言っているのか分からなくなってくる。だけどその言葉の意味がハッキリ分かるのがたった一言だけ、スズのたった一言だけで理解した。
「カナデはそれで喜ぶと思うの?」
え? カナデ?
「望んではいないと思う……。それによって誰より辛いのがリュウお兄ちゃんだと思うから、カナデお姉ちゃんは望まないんじゃないかな」
「だったらどうしてそんな事を……」
「それしか方法がないから。二人のために、私は頑張るよ」
ノイズが入らないハッキリとした言葉。だけどそのハッキリした言葉達は俺に現実を突きつけた。
到底信じがたい、でも確かな真実。
俺、いや俺と奏はずっとずっと前からこの世界に存在していたという真実。




