第17話 私はあなた
ティナの家から再び図書館に戻ってきた俺は、預言書の続きを読み進めることにした。
(やっぱり内容は全然違うよな……)
この世界の争いを生むことになった預言書の一冊。それが示すのは現実とは違う未来。ここに記されているのは誰もがきっと望んでいたもの。
預言書はまさにその望みによってできたみたいな本だった。
(ん?)
預言が全く違う事を知り、深く読む理由がなくなったのでパラパラと預言書を読み続けていく中で、俺はある事に気が付いた。
(どういう事だこれ)
俺が気が付いたのはこの預言書に記されている物の中に俺はある共通点だった。ここに描かれているのは確かにブリンディアの仮の未来なんだけど、そこには一貫して何故か名も無き少女が登場している。まるで少女を中心にこれが書かれているようなそんな感じがした。
(預言書ってこういう物じゃないよな……)
これだとまるで一冊の小説だ。もしこれを巡って争いが起きているのなら、もしかしたら真の原因はこの少女にあったりして……。
「うわっ!」
そんな事を考えていると突然預言書が発光しだした。何事かと思いその光に触れると、先程まであった本の感触はそこにはなく、柔らかい何かが手に触れた。
(な、何だ)
その柔らかい何かから手を放す事ができず、そのまま光が収まる。光が消えた先、俺が確かに持っていた本は何故か少女になっていた。そして俺が今掴んでいる柔らかいものは、少女の少し膨らんだ胸。
「……え?」
「ただいま戻りましたユウ……さん?」
そしてそれとほぼ同時にアーニス達一行が戻ってくる。何とも非常に悪いタイミングでの帰還だ。
「な、何をやっているの?」
「あんたってそういう趣味があったのね」
「ち、違うこれは」
そういう訳じゃないと説明がしたい。
だが……。
少女のエルフが眠っている謎の少女の胸を掴んでいるこの状況を、一体どうやって説明すればいい。
「私達が真面目に探している間にまさかこんな事をしているだなんて」
「ち、違うんですアーニスさん。これにはちゃんとした理由があるんです!」
「言い訳無用!」
この後俺は三人が納得する説明をするのに、約一時間の時間を費やすことになったのであった。
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「ではつまりこの女の子が、あの預言の書だと言うのですか?」
「どうしてこうなったかは私には分からないんですけど、どうやらそのようなんです。現に預言書はどこにもありませんから」
「にわかには信じ難いのですが」
眠ったままの少女を見ながらアーニスは言う。どうしてこうなったのかはさっぱり分からないが、俺はこの少女については心当たりがある。
先程も言った預言書に出てきた例の少女だ。
名前もなく、特に特徴も書かれていなかったが、預言書と関係がある人物で考えるとそう考えられるのが自然だと思われる。ただ、何故その預言書もとい小説の中で出てきた少女がこうして形になったのか、それが分からない。まるであの預言書が少女であったかのようだった。
「あ、目を覚ました」
サシャルの声で俺とアーニスが少女を見る。すると少女は薄い目を開きながらこちらを見ていた。
「……誰?」
本当に聞き取れないくらいの声で少女は声を発する。本当にその声はとても弱弱しくて、今にも消えそうなくらいだった。
「私はアーニスと言います。あなたは預言書ですか?」
「預言書……? 私が……?」
「違うんですか?」
「違う……のかな。私は分からない」
記憶喪失だろうか? 少女は現状を認識できていないらしく、俺達の顔をひたすら見回すだけで、それ以外には何もしない。アーニスに代わって今度は俺が彼女に質問してみる。
「一応あなたは預言書という本から出てきたんだけど、本当に何も分からない?」
「何も分からないわけじゃない……。預言書という本は知らないけど、他は分かる」
「じゃあ名前を聞いてもいい?」
「私の名前? 私は……」
そこからしばらく黙る少女。名前から聞いてみるのがいいと思い聞いてみたのだが、失敗だったか?
「私は……ユウ」
「え?」
「私はユウ……。あなたと一緒」
こちらを見ながらそういうもう一人のユウ。その答えにここにいた誰もが言葉を失った。
同姓同名なのは別に珍しい話ではない。
だけど彼女はこの預言書が形になった少女。
その彼女が名乗ったのだ。ユウという名前を。
しかも目の前にいる俺が同じ名前のユウであると知っていて。
「どういう事? どうしてユウが二人いるの?」
「ほ、本当にあなたはユウなんですか?」
「うん。自分の名前はしっかりと覚えている。そこのエルフの人も一緒なんでしょ?」
「そ、そうだけど。どうしてそれを」
「あなたと私は一緒だから。たとえ中身が違くてもあなたは私で、私はあなた」
おまけに転生したことまで全て知っているうえで彼女は話している。
「中身が違う? どういう事ですか?」
そしてその言葉に誰よりも反応したのはアーニスだった。どうやら秘密を隠し通すのはここまでなのかもしれない。
「えっと、それはですねアーニスさん」
と自分のことを説明しようとしたとき、突然謎の頭痛に襲われた。
「うっ」
「ユウさん?」
「頭が……」
頭が割れそうな痛みに俺はその場にしゃがみこんでしまう。
(何だこの痛み……)
何が俺に起きている。
「……私はあなただけど、あなたは私ではない」




