第16話 異なる未来が示すもの
一夜明けて
「え? 追わない方がいいってどういう事ですか?」
いつも通り朝からやって来たアーニスさんに昨日のそのあtのことを説明すると、ティナのことは追わない方がいいと告げられた。
「昨日も言いましたが、これは彼女自身の問題なんです。ここは一度彼女を一人にさせてあげませんか?」
「でも……」
「ユウさん、不安な気持ちは分かりますが、今は彼女を信じましょう。どちらにしても今から追っても間に合いません」
不安
そう俺は不安だった。助けたいとかそういう感情より不安の気持ちの方が大きかった。今何とかしないともう会えないようなそんな気がして。まるで大切なものを失ってしまうようなそんな感覚だった。
(なんだろうこの気持ち、前にもあったような……)
俺と彼女が出会ったのはたった八日前の話。その筈なのに、どうして俺はこんなにも彼女の事を……。
「それよりも今は他にすべきことがあるのではないのですか? 昨日見つかったんですよね、預言書」
「あ、もう聞いているんですか? サシャル達が見つけてくれたんですよ」
俺は昨日受け取った本をアーニスさんに見せる。実は昨日あの後少しだけ読んでみたのだが、そこに記されていたのは今まで言われてきた内容には程遠い内容だった。
「もう読まれたのですか?」
「昨晩に少しだけ。でも書いてあった内容が……」
「何か不穏な未来でも書いてあったのですか?」
「むしろその逆だったんです」
「逆?」
「この預言書には少し前の内容も含まれているんですが、全然違うんですよ」
預言が百パーセント当たるわけではないが、そこに記されていたのは、真逆の未来が書かれていた。まるで争いなんて最初から起きない事が決まっていたかのように。
「それって最早」
「預言が全く外れているんですよ。強いて言うなら、この預言書は望まれた未来が示されているのかもしれません」
「望まれた未来、ですか」
ただ全部は読み終わっていなので、それが全てだとは一概には言えないから確信はできないけど、この世界での預言書の役割は……。
「おはようユウ、アーニスさん」
そんな会話をしていると寝ていたサシャルが欠伸をしながら起きてくる。昨日は夜遅くまで起きていたのかすごく眠たそうだ。
「おはようサシャル。眠そうだね」
「昨日遅くまでラーヤと話をしていたからちょっと眠い。それより預言書は読んだ?」
「あ、うん。今丁度その話をしていたんだけど」
サシャルに同じことを説明する。
「今とは異なる預言書の今……。どういう事なんだろう」
「まあ預言なので必ず当たるとは限りませんから」
「だったら争いが起きているの?」
「それは……」
サシャルの疑問はもっともだが、それを王女が答えるのは非常に難しい話だ。彼女だって沢山悩んでいるのだろう。けどその答えは決して辿り着くことはできない。
何故なら争いが起きない世界なんて存在しないのだから。
「とにかくこの預言書は私がもう少し読み進めてみます。それまでにサシャルとアーニスさんには少し頼まれてほしいことがあるのですが」
「何でしょうか」
「簡単な話ではないと思うのですが、少々王室にある本を読んでみたいんです。ですので、サシャルとラーヤを起こして持ってくることは不可能ですか?」
「大丈夫だとは思いますが、どうして王室にある本を? 図書館にある本でも十分だとは思うのですが」
「少々知りたいことがあるんです」
上手に話を逸らしたように思えるが、俺の中でやはりティナの事を諦めることはできなかった。もし彼女達の故郷が一つの国として成り立っている可能性があるなら、もしかしたらその記録がこの国の王室のどこかに残っているかもしれない。
それともう一つ。
俺は昨日例の預言書から気になる内容を一つ見つけた。それはサスティア王国に関するある一つの預言。
『かの王国はいずれこの地に転生者となる者を呼び寄せる』
どこか都合のいい話に聞こえるが、もしかしたら俺がここに来るのは預言されていたのかもしれない。そしてそれが預言されていたならば、もしかしたらこの国に何かしらの情報があるかもしれない、そう感じずにはいられなかった。
(もしこれが全てあらかじめ決まっていた事ならば……)
俺が死んだ理由にも何かしらの理由が絡んでいる。
■□■□■□
ラーヤを起こした後、アーニス達が城へ向かうのを見届けたと俺は、一度誰もいない家へと帰宅していた。
八日前、俺はこの場所でユウという名のエルフとして転生した。
あの時目を覚ました俺を見て、ティナは心の底から喜んでいたのをはっきりと覚えている。その後投げ飛ばされたり色々あったけど、誰もいないよりは家族がいるという安心感があった。
でもそれは一瞬で崩壊してしまった。
(言葉にはしていないけど、ティナはやっぱり……)
大切な妹が亡くなった事を誰よりも後悔している。一体何が原因でユウという少女が亡くなったのかは分からないが、きっとそこには何かしらの理由が眠っている。
(そういえばあの本は……)
二日目に見つけたこの世界にあってはならない本を俺は探す。しかしあの時あった場所にあの本はなかった。誰かが持ち出すような物ではないし、もしかしたら見間違いだったのかもしれない。
(いや、そんな事は)
あれを見間違えるわけがない。何故ならあの本は、
(どこに行ったんだ)
ある大切な人から奪ってしまったとても大切なものなのだから。




