第12話 名も無き墓に祈りを添えて
その日俺はティナと会話をすることがなかった。話すことが怖かったし、何より彼女が俺を避けていた。
(でも黙ったままで済ませられないよな、これ)
話すことはちゃんと話さないとと決めて、その話を切り上げたのは二日後。
「どうしてお姉ちゃんはあんなことをしたの? あんなの絶対のおかしいよ」
言い出したキッカケになったのは、この二日間何事もなかったように会話をし続けてきたティナに対して、俺の我慢が限界に来たからだった。
「あんな事って何?」
「それ本気で言っているの? あれからリルお姉ちゃんも姿を見せないし、そんなのおかしいよ」
その影響もあってか、俺は本を読むことにすら集中できなかった。あの日以来ラーヤも様子がおかしいし、あの五日間が平和だったのが不思議なくらい何もかもが狂い始めていた。
今まともにか話ができるのがアーニスとサシャルくらいしかいない。
「おかしいのはどっちよ。私の妹を奪っておいて」
「それは……。でもお姉ちゃんがやろうとしたことは人殺しなんだよ? それは紛れもない事実なんだから」
「うるさい! 余所者のあなたに何が分かるのよリュウノスケ!」
「確かに余所者かもしれない。だけど同じ人間だよ!」
「違う! 私は……私は……」
また先日のように様子が急変しだすティナ。まるで何かに取り憑かれているかのように、彼女はなにかを呟いている。
「私はもう、あの日から人として、エルフとしての存在を全て捨てているの!」
ティナの言葉に反応するかのように、地面が揺れだす。
(地震? いや揺れているのは……)
彼女の周辺だけか。
「だからこれ以上苦しめないで! 私達を! そして……」
違う。大きく揺れていたのは俺の足元。そしてその足元は崩れ……。
「……を……」
俺はそのまま暗闇の中へと落下していた。
(あ、これもしかして)
次こそ死んじゃう奴ですか?
どれくらいそのあと落下したかは分からないが、どこかの地面に俺は体を強打しながら着陸した。
「痛てて」
起き上がろうとする辺りが暗い上に、全身が痛くてすぐには動けない。どうしたものかと困っていると、
「だ、誰?」
突然俺の体が小さな光で照らされた。照らした主は……。
「ラーヤ? どうしてここに」
「ゆ、ユウ?! あんたこそどうして」
二日ぶりに会うラーヤだった。
■□■□■□
「じゃあここが本当のラーヤの家なの?」
「うん、まあ、こんな地下深くだけどそうだよ」
「それで私はその天井を突き破って落ちて来たってこと?」
「迷惑な事にね」
ティナによって落とされた先で俺を待っていたのはラーヤの家だった。地下深くとは言っても、そこまで深くはないらしく俺の体がこんなに痛むのは単に打ち所が悪いだけだった。
「それよりあんたこそどうしたの? まさかこんな形で入ってこられるなんて思っていなかったけど」
「ちょっと地上で色々なことがあってね」
「もしかしてティナと何かあったの?」
「あったも何も、色々ありすぎたというか……」
あやうく殺されかけただなんて言えなかった。でももし何か彼女について分かることがあるなら、調べておきたい。
そして、俺は彼女をあの狂気的な何かから救いたい。
「ラーヤ」
「何よ」
「私に力を貸してほしいの」
「力をって、どういう事よ。今貸しているじゃない」
「違う。そうじゃないの。お姉ちゃんを助けたいの」
「ちょっと待って、益々意味が分からない」
細かいことを話せない以上は、そう頼むしかなかった。無茶は承知だし、彼女が協力的じゃないのも分かっている。
でも俺一人じゃ何もできない。
「お願い!」
だが二人、いや三人、四人なら何だってできる。
「事情が分からないから何ができるかは分からないけど、とりあえず力は貸すわよ。ここまで頼まれっちゃったし。でもその代わりにこっちの頼みごとも聞いてほしいの」
「頼みごと?」
「今すぐにじゃなくていい。いつかこの世界じゃなくて、私を救ってほしい」
「え?」
ラーヤを俺が? それはいったいどういう意味があって言っているのだろうか。
「いつかはこの言葉の意味が分かる。だからその時でいい。その時にはあんたも分かっていると思うから」
「分かっている?」
もっと意味が分からないけど、とりあえず協力してもらえるなら今はそれでいいか。
「それでどうするの? 救いたいってもこっちに説明がないから、何をするのかさっぱりなんだけど」
「あ、まずそれなんだけど、今からまず行きたいところがあるから、そこに行こう」
「行きたいところ?」
その場所は偶然俺が先日見つけた場所。もしティナにまた何かあったらと思い覚えていた場所。
「お墓? どうしてこんな場所に墓があるのよ」
そこは王都の一角にポツンと置かれた名もない墓。そこは本来この体が眠るべき場所。
そう、ユウの墓だった。
「誰のお墓なの? 名前はないみたいだけど」
「この墓には名前はないよ、まだ」
「まだって、急に怖いこと言わないでよ」
だってそこに名前が刻まれるときは、この世界に平和が戻った時だから。せめてその時までせめて安らかに……。




