五章 顛末
すべて手のひらの上だった。家に戻り、お茶を淹れて、リビングでまだニヤニヤしている姉と向き合う。少し落ち着いたところで、姉はすっと真面目な顔になった。
「あんたが一番よく分かってると思うけど、母さんも父さんも心配してたのよ。もちろん私も。」
分かっている。そしてそれが今回の一件をもたらしたことも。
「あんたには言ってなかったけど、私は今日旅で働いてるの。本来は旅行のツアーを考えたり、お客様にオススメの旅行プランを紹介したりしているんだけど、ちょっと緊急で人事部を手伝っていたのよ。偶然ってのは起きるときには起きるのね。まさかあんたがうちに応募してくるなんて。正直驚いたわ。あんたの生活は母さんから詳しく聞いてた。だから、一計を案じることにしたの。一歩を踏み出すきっかけにしてくれればと思ってね。その過程と結果はあんたの知ってる通りよ。あ、母さんは普通の風邪よ。もう治ってきてるんだけど、まだ調子が悪いふりをしてもらったの。分類するとショック療法なのかしら。仕事の合間にメールをするのは大変だったんだから。まあ、これからどうするかはあんた次第だけどね、光一。」
本当に焦った。姉さんには敵わないな、と光一は思う。
「分かった、ちゃんと考えてみるよ。」
光一はまだ胸の鼓動を早くしたまま、真摯に家族の思いと自分自身に向き合ってみる。そして、そう、姉の言う通り、これからどうするかは自分次第だ、と言い聞かせる。その日はもう遅かったので、二人は休むことにした。
次の日、光一が目を覚まし、リビングに来たときには、もう姉はいなかった。光一は朝食を終え、新聞の電子版やインターネットでニュースを確認した。それからインターネットで企業研究のための情報を収集し始める。姉ゆずりの綿密さと根気をもって。光一には分かっている。こういった地道な積み重ねが勝利を生むことを。おそろしく現実的な知略と粘り強さのその先に、成功の可能性があることを。
ふとメールを確認すると、恐怖と希望の魔術師、杏からメールが来ていた。
「今度は光一の名前が呼ばれる番ね。あんたなら大丈夫。」
光一はふふ、と少し笑い、暑い夏を控える6月の空気の中へと戻った。




